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第二章 やめてー!!俺の屑を連れて行かないでぇ!!!

閑話休題 とある信者の話

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 神様がもしこの世にいるのならば、きっとそれはあの御方である。断言できる。あの御方は神様だ。だから私は、かの御方を信仰する。



「ち、違う、知らない、お、お、俺は悪くない……っ!! 足を、俺の足をあんな風にした奴らが悪い! 俺を追い出したあいつらが……っ!!!!」
「片足でも杖があれば歩けるのに、何をそんなに嘆いているんですか?」
「! ひっ!! お、お、お前は……っ!!」


 恐れ多くも、神様を害した男だ。皇城の地下牢に捕まっており、明日から情報を聞き出す為に拷問を受ける。その過程で死ぬだろう。そして、耐えきれずに、殺されないためにべらべらと知っていることを話すに違いない。

 そうなれば、都合が悪い。

 がんっと鉄格子を蹴ってやると情けなく悲鳴を上げて後ずさった。こんな奴をどうして使おうと思ったのか。本当にあの人の考えは分からない。けどまあ、もうどうでも良いんだけど。


「本当、貴方は不快な存在です。片足だけでそんな安っぽい復讐心を抱くなんて……」
「か、か、片足だけ、だと!? こ、こんな風に、老人のように杖を持たないと歩けなくて、耐えがたい痛みを受けるんだ!! お、お前みたいな奴に分かるはずが……っ!!」
「私は、ただそこにいるだけで両足を骨が砕けるまで叩かれたことがあります。足は紫色に変色して大きく膨れて腫れていました。ずっと痛くて、泣いておりました。この世を恨んで、二度と歩けないと思いこのまま死のうと思ったことがあります」
「な、何を言ってるんだ?」
「でもそんなとき、神様が現れたんです」


 あの日のことはどんなことが起きようとも忘れられない。ただそこにいるだけで石を投げられ、殴られ、馬鹿にされていた私をあの御方は優しく抱き上げてくれた。私は初めてその時ぬくもりというものを知った。鈍痛が嘘のように消えて、車椅子という素晴らしいもので移動手段を得た。

 私は、あの御方から与えられるだけで何も出来なかった。あの御方が死ぬ瞬間まで、私は……っ!!


「あのときは力が無かった。あのとき私は、人を騙す力が無かった。人を殺す、力が無かった!!」
「な、何なんだ! さ、さ、さっきから何を……っ!!」
「お前は今から隠し持っていた武器で自害する」
「……は?」
「死ぬんだ、その手で自ら首を斬る」


 ぐんっと鉄格子までその男を魔法で寄せる。そしてその手に無理矢理短剣を持たせた。


「な、な、何を……っ!! だ、誰か! 誰かぁっ!!」
「無駄だ」


 この城には同士が何人いると思っている。お前を始末するのは決定事項だ。

 きちんと調査すればこの男が自ら命を絶つような者ではなく、ましてやこんな骨と皮しかない細い腕で首を斬ったなんて思わないだろうが、ここではそれが可能になる。

 その細い首に短剣を徐々に徐々に食い込ませる。いやだ、死にたくないと泣きながらそういうが、私は冷めた目で見ていた。


「お前もそういう子供を皆殺してきたくせに」


 そして勢いよくそれを引き抜いた。ぐらりと男の体が倒れ込み、私は適当にそのナイフを中に置く。

 それから彼が残した産物を思い出してため息をついた。

 あの子達ももう少し早く神様に会っていれば助かっただろうに。残念なことに、今のこの世界では彼のかけた魔法を完全に治すことは出来ない。普通の人として生活できず、身元が分かれば家族の元に送り返しているが……。


「あ、殺したの? コイヨン」
「ベイリン」


 にこっと人が良さそうな笑みを浮かべている男がいる。その胸元には皇室が認める魔法研究所所属のマークが刺繍されたローブを纏っていた。

 このベイリンという男は、あの死んだ男をそそのかした人間だ。


「彼は良い子だったんだよ? ちょっとこの禁書に書かれてることを話したら、簡単に使用してくれたんだもの」
「お陰で常に恐怖を感じ、何かに追われるような感覚を覚える」
「錯乱状態だねぇ。元々気も弱かったし、結果は分かりきってたよ」
「悪趣味」
「大義のためといいたまえ」


 そういって高笑いをするベイリン。私はそれを軽く見てすぐさまここを出るために身を翻す。それをベイリンがついていくと、正面から足音が聞こえた。


「コイヨン~。 頼まれてた奴やったよ」


 そういって駆け寄ってきたのは、ウィリだ。彼は今、新聞社で記者をしている男である。最近人気のゴシップ記事を手がけているのは彼だ。


「ご苦労様」
「今度はもっと近くでお仕えできるって、皆張り切ってさ~。……うらやましい。俺も今の仕事辞めてぇ」
「俺もこの立場がなければなー……」
「ねー?」


 立場が分かっているその二人と分かっていない二人を思い出し私はもう一度ため息をついた。


「皆お前らみたいだったら良かったのにな」
「皇室騎士を辞職して、志願した二人の話?」
「しかも選ばれちゃった二人の話ぃ? あいつら俺たちの中じゃ一二を争うぐらい腕が立つもんね」
「むかつく。俺だってペンで人一人は殺せるのに!!」
「俺だって、魔法があれば!!」
「はいはい」


 本当、あの二人のことを考えると頭が痛い。

 ラフィール公爵家で大量解雇が行われた。邸宅内に不審人物をいれたあげくに、その異常事態に公爵様達が帰ってくるまで気付かなかった事が原因だ。主人を守れない使用人なんて要らない。

 その考え方には深く共感できる、しかし、大量解雇してその補填は一体どうするかという問題にさしあたった。

 しばらくは、臨時で人を雇うという話が出たらしいがそんなものは必要ない。あの御方がそこにいるならば、人はいくらでも集まる。ほとんど出自も経歴もバラバラでぱっと見共通点なんて者はないから怪しまれることはない。


「あの人のツテだっていってるし、ほとんどが採用されるだろうな」
「だろうね」


 これであの御方が不意を突かれて殺される事はないだろう。二度と、同じ過ちは繰り返さない。


「私は帰る」
「俺も帰ろ~」
「あ、俺はあの男の偽造をしとくよ一応」
「勝手にしろ」


 ベイリンがそうニヤニヤ笑って言うのでそれだけじゃないと思うが興味ないので好きにしておく。俺はウィリと一緒に城を出た後適当な場所で分かれて私は公爵邸に戻った。

 ゆっくりと窓を開けて入ると、「戻ったか」とあの人の声がした。

 あの御方を腕に囲いながら彼はベッドで横なっている。気付かれないように入ったのにいっつも彼は私の気配気付く。それが悔しい。この人を超えて、もっと役に立ちたいのに!!


「……仕事は終わりました」
「そうか」


 ちらっとあの御方の健やかな寝顔を見て、思わず頬が緩む。するとすかさずその男は布団を引き上げて隠した。早く消えろとばかりに私を睨みつけるので、ちっと舌打ちをしそうになる。

 我慢だ。この御方のためなら私の感情なんて些細なことだ。

 そう、全てはこの世界を正しく導くために必要なことなのだから。


「今度こそ、殺られる前に殺ってやる」
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