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第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆

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 俺が呼ばれたのは家族紹介と今後についてであった。家族紹介が終わって今後についてだが、しばらくは猊下と一緒に屋敷で過ごすということになった。俺の今までの環境を察してあれこれ希望を聞くよりも自由にさせた方が良いだろうと彼らは判断したらしい。そう勘違いして貰った方が、都合が良いので俺は否定せずに話の流れに身を任せた。俺にも色々計画があるんでね!!

 うっかり猊下の屋敷に連れて行かれたけど、原作通りの行いはした方が良いに決まっている。直近でやるべき事は勿論、俺のラスボスとしての才覚を見いだしたあの出来事!

 悪徳魔術師に接触し、実験材料にされることだ!

 今の俺だったらあんな三流で序盤に消えるような悪役の居場所を割り出すのは簡単だ。俺のラスボスになるための華麗な一歩を決めさせて貰おう。お前を踏み台にしてな!!先ほどの出来事を振り切るように心の中で高笑いをして考えないようにする。

 そうだ。俺にはやるべき事がある。他に構っていられない。いや、猊下のことだから最大限気を配りはするけど!!


「屋敷の案内をしよう」
「あ、僕も……!」


 後は大人達で話し合いをするというので俺と猊下、リュネお兄様は一緒に廊下に出た。勿論俺は猊下に抱えられている。猊下がそう俺に提案するとすぐにリュネお兄様が手を上げて主張するが、猊下はじろっと冷たく睨みつけた。


「仕事は?」
「……あとで?」
「お母様に怒られても私は知らないが」
「……」


 リュネお兄様の年齢は分からないが、長男だからきっと色々な仕事を任されているのだろう。恐らく、後を継ぐのはリュネお兄様だろうし。

 猊下にそう言われたリュネお兄様はきゅっと口を閉じた。何かしらその頭で計算をしているのだろう。でも、あのお母様を見るにサボりは許さないのではないだろうか。いくら俺に好意的だとしても、案内ぐらい猊下で事足りる。それも分かっていて色々考えているようだが、不意に「リュネシェーン様」と誰かの声がした。

 驚いて、反射的に自分の髪や瞳を隠そうと手で頭を抱え猊下の胸に顔を埋める。すると、とんとんっと猊下が優しく俺の背を撫でた。


「大丈夫だ」


 猊下はそう柔らかい声を出した。大丈夫。さっきは猊下の家族だったから大丈夫だったけど、今度は使用人、のようだ。それでも本当に大丈夫だろうか?まあ、猊下は貴族だから嫌悪をあからさまに示すことはない、ということだろう多分。

 それならばと恐る恐るそちらを見ると妙齢の男性がいる。雰囲気でこの屋敷を預かっている一番上の執事だという事が分かった。彼はにこっと俺と目が合うと微笑む。


「初めまして。私はエイモンドと申します」
「は、じめまして、アルカルドです……」


 俺はそう言って猊下に抱えられながら自己紹介をする。エイモンドという彼は恭しく一度頭を下げた。


「こいつは、屋敷の管理をしている一番偉い使用人だ。何か不満があればこいつに言えば良い」
「うん。……あ」


 猊下の言葉に雰囲気からそんな気がしてたと頷いて思い出した。もしかして、さっきの御飯のお礼を言うチャンスではないかと。


「あの、御飯、美味しかったです。ありがとうございます」
「お口に合ったようで何よりです。厨房のものが喜びます。もし苦手なものなどございましたら遠慮なくおっしゃって下さい。アルカルド様。それから、差し出がましい事ではありますが、どうか私どもに敬語はおやめくださいますようお願い申し上げます」
「あ、うん。苦手なものはないよ。お兄ちゃんも美味しいって食べてた」
「は……」


 前の時もそうだが、上のものが下々の者に敬語を使うのはあまりよろしくない。その文化をよく分かっているのですぐに敬語はやめた。やめたけど、不自然か?今まで孤児だった俺がいきなりこの環境に慣れるというのは。やば。少し間を空けた方が良かったかも……。

 俺がそんなことを考えていたのだが、そんなことよりも別の事に彼らは気をとられていたようだった。


「た、食べたのカロ。御飯」
「ああ。ルドが食べさせてくれた。エイモンド」
「はい、カロシェーン様」
「ルドは果物や甘いものを好む。間食はそれらを多めに持ってこいと厨房に伝えろ」
「畏まりました」
「え!」


 あの少しの時間でよく分かったな猊下!俺は猊下が何が好きなのかも嫌いなのかも分からなかったのに!!というか、これだと猊下も一緒に食べるのに俺の好きなもので埋め尽くされる恐れがある。そんなのだめだ。猊下も御飯を食べたくなるような物を出して貰わないと!!


「お、お兄ちゃんは!? お兄ちゃんは何が美味しかったの!!」
「お前がくれたものは全部美味しかった」
「え! 俺がお兄ちゃんに食べさせたものなんてそんなに覚えてないよ!! もっと具体的に!!」
「私も覚えてない」
「だめじゃん!!」


 い、いやでも、猊下は俺との約束を守ってくれる、はずだ。猊下が食べなければ俺も食べないというもの。だから、多分、いきなりまた食べなくなることはないと思うけど……。ちらっと不安げに俺は猊下を見上げる。


「つ、次もちゃんと食べる……?」
「ああ、お前が食べさせてくれるなら」
「それ位で食べてくれるならずっとする」


 あーんだけで食べてくれるなら何回でもするよ!!そうか、猊下は今自らの意思で御飯に手は伸びないけど他の人の手によってだったら食べられるんだな!少しは回復している証拠だろう。このまま回復してくれれば嬉しい!


「聞いたか?」
「はい」
「私も食べるから、多めに持ってこい」
「畏まりました。カロシェーン様。それではリュネシェーン様、行きましょうか」
「ぅえ!?」


 なんだか話はまとまり、そろそろと逃げようとしていたリュネお兄様の名前をすかさずエイモンドが呼んだ。するとびくぅっと身体を震わせてリュネお兄様がへらりと力なく笑みを浮かべる。


「み、見逃しては……」
「いけません。仕事がたまっております」
「う、うぐ……。ねー、アル? リュネお兄様も一緒の方が楽しいと思わない?」


 リュネお兄様がこちらに助けを求めている。リュネお兄様は好意的に思ってはいるが、仕事をためると困るのは下のものなのでそれには軽くうなずけない。


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