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紫鶴

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17歳の俺

第4王子17歳 7

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なんだか、胸騒ぎがする時ってあるよね。
竜騒ぎでドキドキしてるのか中々眠れなかったのもあるし、双子の行方も気になったのだろう。多分。そういうことで、俺は未だ寝付くことが出来ずにベッドの上でゴロゴロしていた。
それが功を制した。
音もなく、何かが窓から入ってきた。
其方を見ようとしたときにはもう遅く、ナイフが眼前に迫ってきた。一撃目はどうにか避けられたが、二撃目が頬を掠った。距離を取る為、掛布団をめくりあげ蹴りつける。
その反動で後方に下がりながらその人物を見た。蹴り上げたことによりフードが取れてしまったのだ。暗殺者らしからぬ、失敗だ。

「カ、イル……?」

俺が呆然としてそう言うが、全く気にすることなく俺に飛びかかってくる。
確実に俺を殺すつもりかこの子!?だから顔見られてもいいって!?
組み手苦手なんだけど魔術使ったら一発でバレちゃう!
そんな事を考えていたら首が切られた。勢いよく血が噴き出て、思わず抑えるが、血が止まらない。

「っ!」

動きが鈍った俺にめがけて血濡れのナイフが振り下げられる。片腕をあげて、急所を避けようとするが間に合わない。覚悟を決めてその軌道を読んでいたが、急に彼が飛びのいた。そしてそれと同時扉が蹴破られナイフが飛んでくる。

「アズール!!」
「殿下!」

そこにはアルトとルチアーノがいて、ルチアーノがナイフを投げたようだ。首を抑えている俺に近寄ってアルトが治癒魔術をかける。ルチアーノが容赦なくナイフを投げつけるのでそれを避けながらカイルは窓に向かい、そこから出ようとするがばちっと電撃が走って出られないようだ。アルトの魔術のようでさっきから息苦しい。
そんな事を考えている間に一気にルチアーノが地を蹴って近づいて、一瞬で組み敷かれたカイルが地面に転がる。

「アルト!殺しちゃダメなの!?」
「ダメだ」

ちっと舌打ちをしたルチアーノが手際よくカイルを縛り上げる。カイルは抵抗なく大人しい。よかった。ここで暴れられたら、他の人が来ちゃう。

「殿下、此方の部屋が安全と分かるまで別室でお過ごしください。案内します」
「あ、うん。アルトとルチアーノありがとうね、こんな夜更けに」
「いえ、仕事ですから」

さらっとそう言うアルト。さ、流石です。
俺はちらっとカイルを見た。ルチアーノに後ろ手に縛られて立たされている。その姿を見て心が痛む。君のことは完全にノータッチだったよね。学園にいたのに絡みなかったよね。孤児院の皆と仲良くしてたからてっきり暗殺してこないと安心してたわすまん!

すっと、ルチアーノに捕縛されながらカイルが横を通りがかった。その瞬間、ふっとカイルの口から何かを吹きかけられた。何かの毒だ。

「うっ!?」
「殿下!?」
「アズール!!こいつっ!」

目が見えずらくて息苦しいが死ぬまでに処置は出来るだろう。というか、元々毒耐性が強いので大したダメージじゃないのだ俺は。
何処で仕込まれたのか分からないが、口の中にまだ毒が残っているはず。其方を見ると、ルチアーノによってカイルは腹を蹴られて地面に転がっている。げほげほと咳き込みながらびくんびくんと体が痙攣していた。
まずい!

「どいて!」
「アズール!?」

グイっと適当に吹きかけられた毒を拭いてカイルに駆け寄り、上に乗っているルチアーノを押しのけてグイっと顔を寄せ口をふさぐ。

「んうっ!」
「あ、ああああああっ!!!」

ルチアーノが発狂したような声をあげたが気にしない。カイルの口に中にある毒を舐めとる。ついでに解毒の魔術をかけながらバイタルを確認していたが、グイっと腕を引っ張られてカイルの唇から離れた。それからくるっと体が回転してルチアーノの顔が顔面に広がった。そして、口の中に彼の舌が入ってきてじゅるっと吸い取られる。毒は既に中和しておいたので効果はないがぐちゅぐちゅと口内をかき回され、腰を掴まれているので身動きができない。

あまりにも長くキスされ、舐られるので頭がぼーっとして、力が抜けた。へにゃっと床にへたり込み、息絶え絶えで見上げるとぺろっと唇を舐めながらむすっとした顔でいるルチアーノがいる。がっとカイルの頭を足蹴にしながら、不機嫌そうにしているのが分かる。

「……アズール」
「カイルが死にそうだったから……」
「チューしなくてもいいでしょ?」
「口の中の毒を舐めとらないと」
「……ちっ」

ルチアーノは俺の返答に盛大に大きな舌打ちをした。それからぎろっとカイルを睨みつけ、自分のハンカチを彼の口の中に突っ込む。俺はふらふらと立ち上がって腕をアルトに捕まれた。

「殿下、お加減は大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫」
「そうですか、それは良かったです。ルチアーノ、それを衛兵に……」

次の瞬間、アルトが俺に覆いかぶさるような体制になった。ひゅっと風を切る音がして、ルチアーノがすぐさま魔術で壁を出すがそれをすり抜けてアルトの肩に矢が刺さる。

「アルト!!」

動揺して声をあげるが、アルトは俺の腕を引いて机を立ててその後ろに隠れる。

「い、今治療するから!」
「大丈夫です」

そう言ったアルトがごほっと血を吐き出した。はっとして鑑定をすると矢に毒が塗られている。すぐに矢を取り出して、矢についている毒を舐めとり解毒魔術を構築した。そしてアルトに治癒をかけようとした次の瞬間、視界が白んで爆発音が響き渡った。ビックリして何もできなかった俺に対してルチアーノが魔術で防御をしてくれたのでその範囲は守られている。しかし、範囲外の部分は炎で包まれ燃え上がり壁に大きな穴が開いて外が見えた。

「殿下!ルチアーノの前に出ないように……っ!」
「アルト!動かないで毒回るから!」

俺はそう言いながらアルトの治癒を行う。慌てたが、解毒が出来たので大丈夫だ。毒の効果を優先したのか矢の傷も深く刺さっているわけではなかったので、大したことはない。その事にほっとしながらも俺が狙われているということは分かった。ということは俺がどこかに行けばいいのだろう。アルトの治療が終わったので、すぐさまルチアーノの前に出ていこうとするが、その前にアルトに腕を掴まれた。

「殿下、こちらです!」
「え!?いや、俺が狙われてるのに何でどっかいかないといけないの!?俺が的になる!」

アルトが狙われている俺を早々に避難させようとしているので思わずそう言った。するとアルトが、眉間にしわを寄せて睨んでくる。

「何馬鹿なこと言ってるんですか!ルチアーノ!」
「分かってる!」

次の瞬間、煙幕のようなものが部屋にまき散らされてアルトに腕を引かれて廊下に出る。なんで!?

「ちょっと!カイルを良いように扱っている人かもしれないから捕まえたいんですけど!?」
「今はそれよりも身の安全が大事だよ、アズール!」

ルチアーノがカイルを小脇に抱えながら走る。俺はアルトに引っ張られながらも走っているが納得がいかない。どう考えても捕まえた方がいいに決まっている。

「殿下のそういうところ良くないですよ!自分だからできる、大丈夫といった傲慢な考えはおやめになってください!」
「でも!」

でもだって、このままじゃカイルが死刑になる。
王族暗殺なんてどう考えてもそういう証拠がないと情状酌量の余地なしってことで押し付けられるじゃんか!特に、立場が弱いし人間はそうだ。そうでしょう!?俺のストーカーだけど!そうなっちゃったのは数々の転生によるもので、その上理不尽に死なせるなんてできないじゃんか!

「離して!」
「殿下!」

自覚していないときだったらいい。でも俺の記憶がある今じゃだめだ。死んでしまっても生き返らせることができる。方法は分かる、知っている、可能だ。今までの研究の成果を発揮しよう。しかしそれは一度死ぬことでできる業だ。

痛いだろう、苦しいだろう、理不尽に死んでいき恨むだろう。そんな思いを持たせながら死なせて、こっちの都合で生き返らせる。で、生き返った後は?俺が最大限にフォローするとしても後世では悪評が纏わりつく。耐えられるか?したくなかった、やりたくなかったのに、そんな事を言われ続けるそんな人生に。
だからここでやらされていたという証拠をあげなければならない。傷つきはするが死ぬことは無いだろうし。
無理やりアルトの手を解こうとすると、足音が聞こえる。

「第四王子殿下!」

すると、衛兵たちがやってきた。まあ、あの爆発で来ない方がおかしいか。衛兵を率いているのはフェルトさんだ。やっぱり彼は騎士団に所属していたのだろう。そう思いつつアルトとルチアーノが彼らの元に向かうと、突然剣を抜いた。

「第四王子殿下の世話係であるルチアーノ並びにアルト・ローシェンを第四王子殿下暗殺の疑いで身柄を拘束させてもらう!」
「……え?」

フェルトさんが声をあげてそう言った。その言葉の意味が分からずにぽかんとするのは俺である。それからアルトとルチアーノを見た。
そんなはずはない。少なくとも俺を殺すのに誰かの手を借りるような奴ではないと俺は知っている。
故にそれは完全なるがせねた!であるが、こんな堂々と言うのだ。何か証拠でも何かあるのだろう。ここで俺が下手に言うと立場が悪くなるかもしれない。
それにこのまま黙ってやられるわけではないだろう。その思って動向を伺っていたが不意にアルトとルチアーノが地面に伏した。

「……え?」
「殿下、此方に!」

そのまま拘束されるアルトとルチアーノ。俺はフェルトさんに手を引かれてその場を離れざるを得ない。その間に俺は二人の方を見たが、二人は何もすることなくただ黙って拘束されていた。

「アルト!?ルチアーノ!!」

なんで君達黙ってるの!?絶対違うじゃん!

「ちょっと離して!!」
「いけません殿下!」

い、いやいや!このままじゃ無実の罪に問われちゃうんですけど!?貴方の弟もだよ!?大丈夫じゃないでしょ!?
そんな事を思っていたが、フェルトさんはどんどんどこかに進んでいく。

……え?どこまで行くの?

いつの間にか静まり返り、人の気配がない。

「あの……」
「流石ですね」
「え?」

フェルトさんの言葉が分からずに思わずそんな言葉が出る。ぎちっと俺の手首を掴んだ彼の手に力が入る。その痛みに思わず顔をしかめると無理やり壁に押しやられる。そして、がんっと彼の脚が横の壁を蹴った。

え……?何事……?
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