来世でよろしく

紫鶴

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17歳の俺

第4王子17歳 1

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パーティ会場は賑わっていた。一応俺が主催者なので抜けられずに挨拶を延々と聞かされる。

お誕生日おめでとうございますから始まり、最終的に兄を褒め称える話に。そのたびに兄を見習います。兄は素晴らしいですよね、ははっで乗り切った。

一通り終わると、俺の肩の荷が下りる。アルトは俺の執事兼教育係的立ち位置だが貴族であるので今回のパーティ―にそう言う立ち位置で参加している。兄であるフェルトさんと共に挨拶しに来てた。アルトだからと気が緩みかけたが睨まれてしまい、人一倍丁寧に対応した。怒られないように。ルチアーノは給仕をしている。

驚いたのはティナもいたことだ。

ざわっと会場がざわついたかと思えば、フードを被っていないティナがいたのだ。言わずとも顔は良いので御令嬢の目を引くし、結構有名な貿易商の息子さんらしく、全く社交界に出ていなかったのに今回顔を出したという。近くで話していた御令嬢の話に聞き耳を立てた結果だ。

というか、こんな人込みとか絶対に嫌がってこないだろうにどういう心境?ティナの周りには心配そうなご家族が控えている。だよね。
そんな状況の中、ティナは俺のところに来た。


「殿下、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」


ここで、俺とつながりがあるとおっぴらにしたら彼が困ると思い他人行儀に接する。それが分かっているのかティナが少しだけ悲しそうな顔をするがすぐににっこりと笑ってくれる。そのまま暫く俺を見つめる。俺は何か言いたいことがあるのだろうかっと首を傾げて待っていると、すーっとティナの体が傾いた。ぎょっとして隣に控えていた弟かお兄さんが受け止めて、「申し訳ありません!」っとお父さんが平謝りをする。


「いえ、気にしていませんので。彼に無理に顔を出さなくても大丈夫だとお伝えください」


俺は優しくそう言って近くの給仕係に部屋を用意させるようん伝える。彼らは、俺の評価のことを大袈裟に受け取っているようで顔真っ青であった。ごめんよ。ティナには来るなってきつく言っといて。どうせ庭園で会うんだから。

そうして、俺は適当にグラスを持って飲みながら端っこで逃げ出す機会をうかがう。王子と言う立場はこういう時に邪魔だ。どうにも誰かが俺を見ている。ちっと舌打ちしそうになりながらごくんっと一口ワインを煽る。

アルコール美味しい。

本当、誕生日パーティーって退屈だ。もう一杯貰おうとそこから歩こうとすると、すっと横からワインの入ったグラスが差し出された。


「第4王子殿下よろしければこれをどうぞ」
「あ、ありがとう……」


差し出されたそれを受け取る。空のグラスは丁度来た給仕のトレーに乗せてもらった。
にこっと笑顔で俺に飲み物を渡したのは懐かしのノイン君の保護者、ノルン君だ。暫く、成長してて誰か分かんなかったけど。俺ってばすごいわ。

ただ、どうして俺に近づいたのか分からない。だって、今の俺は我儘無知な第4王子のはず。だよね?


「えーっと……」
「申し訳ありません。私はノルン・クロウディアと申します」
「そう。飲み物ありがとうございます」
「いえいえ。私が少しお話をしたかったのです。お時間よろしいでしょうか?」
「構いませんよ。聞きたいことでも?」
「はい、でも……」


そっと、グラスを持っていた俺の手を彼の手が包み込んだ。思わずグラスを落としそうになった。


「人気のないところでゆっくりと、お話がしたいです……」


耳元で囁かれた。
びくっと体を震わせてそちらを見ると妖艶にノルン君が笑っている。お、おう。自分の顔の価値をわかっている顔だ。俺じゃなかったら勘違いしてたぞ。


「じゃあ、バルコニーでも行きますか」
「……え?」
「ん?」


あれ、しくった?でも、今更発言を撤回するのも、下心があるみたいで……。
ちらっとそちらを見るとノルン君を見ると、一瞬固まったが次には柔らかい声で答える。


「ぜひ」


その言葉にほっとして一緒にバルコニーに向かう。その際に腰に手を置かれたが、気にしない。
バルコニーに行くと小休憩スペースなのかソファが置かれている。俺はそこに座って隣に座るように促す。すると、ありがとうございますっとお礼を言ってからノルン君が隣に座った。すごい近い。


「それで、俺に聞きたいこととは何でしょうか?」
「はい。それが……」


……ん?
ノルン君は何故か恥ずかしそうにしている。俺はこの雰囲気に一抹の不安を覚えた。いや、まさか。第4王子と彼とは全く接点がないはず。だよね?

ごくっとワインを飲み込んで、空になったグラスをテーブルに置く。それからそろっとノルン君を見た。すると彼は意を決したかのように俺を見て、そっと手を重ねてきた。たらっと冷や汗が流れる。


「私、貴方のことが―――っ!」
「うわああああああっ!!」


思わず叫んで彼の口を押えた。それからがくがく震えながらぶるぶると首を振る。


「そ、それは勘違いです!第一、今日初めて……っ!」


……初めて、そうだ、初めて会ったのにこんなことを言うような奴かこいつは。一目ぼれなんて恋多き乙女みたいなこと言う?ノイン君がいるのに。


「……いえ、あの、すみません。お、思わず取り乱してしまって……」
「あ、い、いえ」


変な空気が流れる。とはいえ、俺には考えることがある。

クロウディアは、確か侯爵位で王宮に出入りしている文官にいるはずだ。今日俺に挨拶しに来たのは現当主、多分彼らの父であろう。俺の挨拶に次期当主が来ないのは予想済み、他の兄さまや父には一緒に後継者っぽい若い人もいた。そこではノイン君がいた……かな?多分。あんまりちゃんと見てないから自信ない。来てることすらよく分かんなかったし。声かけられるまでその存在を頭の隅に追いやっていたし。

ともあれ、俺にそんなことを言ってなんの得があるのか。確かにこの前ユアン兄さまと学院には行ったが、それだけで俺とユアン兄さまが仲いいという裏付けにはならない。普段は俺は部屋からほとんど出ないし、ユアン兄さまもユアン兄さまで忙しい。1日だけ今日の服も選んでもらったが、それは王族として恥ずかしくない服装をしろということに他ならない。そんな不確かな可能性に賭けるだろうか。大体にして、聞くところによると眠る前、つまりはティファに変わってもらっていた間は家族たちとは決していいとは言えない関係であったはず。其方の印象の方が強いだろう。

ただ、それでも俺とつながりたいと思うやつも中にはいるということだ。現に、彼は接触してきた。まず、俺を足場に他の兄さまと交流すると言ったところか。王宮にいるとはいえ、王子と話ができる機会なんてほとんどないだろう。そして、弟の友人となれば話は別だ。

なんか、前世では全くなかったからちょっと新鮮だ。こういうの。まあ、あんまり王宮の陰謀とか貴族のマナーとか分からないんだけど。

一先ず、監禁されると思って焦ったわ。それなら別にいいんです。
んんっと咳払いをして俺はノルン君を見る。


「お友達からでも、良いですか……?」
「も、勿論です殿下。末永くお付き合いください」


良かった。良かったよ。うん。大したことなくて。

そのまま世間話程度に話をして、俺とノルン君は中に戻った。ひやひやしたけど終わり良ければ総て良しってことで。

中に入るとノルン君は人込みどころか、パーティー会場を後にした。
そこでノイン君を探してみたが、見つからなかった。代わりにクラウディア当主の傍には見たことの無い少年が居て、少しばかり気になったが漂う果実酒のいい匂いに興味はそちらに移った。
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