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紫鶴

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16歳の俺

第4王子16歳 16

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言うのを忘れたが、キルトはあの変わった人に渡した。数日は顕現できるように沢山の魔力をあげたので暫くは遊んでもらえるだろう。ユアン兄さまに任せたからそれ以降は知らない。ただ、ユアン兄さまが不機嫌なので何かされたのだろう、多分。

さて、そんな事よりも大事なことがある。

それはルチアーノが一緒にいてもアルトがなにも驚かなかったことだ。まさか、何かの魔術にかかっているのではっ!?っと慌てて調べて異常がなく、ならば記憶の改竄でもされているのかと思えばそうでもない。

え……?知り合いだよね、君ら……?

俺がそう思わず聞くと、アルトがその言葉に驚く。


「知っていましたか、殿下。ええ、父が運営していた孤児院の子で多少は話をした仲です」
「殿下、僕のことは既にここで働く方々に通達済みです。ですので、殿下が気にかける心配はございません」
「い、いや……えーっと、仲良し……だよね?」


俺が恐る恐るそう聞くと二人は顔を合わせることなくにっこりと笑った。


「勿論」


その上、声を揃えてそう言うので何となくこの牽制しあうような空気は気のせいだと信じる。あとは、俺が気にしないようにすることとしよう。うん。

話は変わるが、前世と同じで俺はアルトに扱かれている。基本的に社交性のお勉強だ。貴族とは何たるか、王族とは何たるかマナー、ダンス、バイオリンや絵画などの情操教育。

どんっと机の上に置かれた教科書、足元に転がる楽器、道具。

アルトとルチアーノが交互にそれらを続々と運び出す。俺の研究スペースがどんどん狭まっていく……。
二人がいなくなったタイミングを見計らい、窓から飛び出した。

お、俺にそんな教育は、ひ、必要ないから!!

次には殿下が逃げた!探せ!という声が聞こえる。いやだ!絶対に捕まりたくない!!隠れよう!どこか、どこかに隠れさせてっ!!??

体力もないのに走って、奥の方に庭園を見つけた。そこには広いガーデニングハウスもある。ガラス張りでビニールハウス的な役割もあるのかその中でも植物が育っている。休憩スペースもあるようでソファとテーブルが置かれていた。

それらは別にいいのだ。それよりも俺の目を引いたのは、俺が欲しいと思っていた実験器具が所狭しと並べられている。あそこは俺の楽園か?

じいっと張り付いてそれを見ていると「殿下―!」っと背後から俺を探す声が。ひいっと短く悲鳴を上げてその中に入り込んで驚いた。


「え、あ、で、殿下……?」
「あ!え、えーっと……」


背の高い植物が多く、また実験道具の方に目が行ってしまい人がいる事に気が付かなかった。

不味いっとだらだらと冷や汗を流す。しかし、またしても俺を呼ぶ声がした。先ほどよりも近づいている。あわあわと慌てて他の場所に隠れようとしたが、ぐいっと腕を引っ張られた。


「殿下、どうぞこちらに」
「え!?あ、あの……」
「さあ早く!」


人一人入りそうな大きな箱に入れられた。重そうな音を立ててその箱が閉じられる。がちゃんっと厳重に鍵もかけられた。焦るが、それと同時に、ガーデンハウスの扉が開かれた音がした。身動きが取れず、聞き耳を立てる。


「こんにちは」
「こ、こんにちは、ローシェンさん」
「はい。突然ですが、此方に殿下はいらっしゃいませんか?」
「い、いいえ?き、来ていません……」
「……そうですか。作業中に失礼いたしました」
「いえ!お、お気をつけて」


声はアルトだった。ローシェンが彼の苗字なのだろう。苗字呼びということはあまり仲が良いわけではなさそうだ。足音が遠ざかり俺を呼ぶ声も遠ざかっていく。その事にほっとしていると鍵の開く音がした。それから箱が開かれた。

フードを被って顔がよく見えないが、こんな格好で庭に出没している奴を俺は多分知っている。多分。


「殿下、ローシェンさんはいなくなりましたよ」
「あ、ありがとう、ティ、ティナ……」


さん付けはおかしいだろう。立場的に。
俺がそう呼ぶと一瞬ティナが固まった。そしてその顔のままつーっと一筋の涙を流す。
さあっと顔が青くなる。


「なっ!え!ええっ!?」


名前を間違えてしまったかっ!?っと焦るが違うようだ。


「も、申し訳……っ」


そのままティナは涙を袖でごしごし拭うので俺は慌ててハンカチを差し出す。彼はふるふると首を振って受け取らなかった。


「で、殿下が、まだ、俺のことを、お、覚えてくれたことが、う、嬉しくて……」
「お、大げさじゃない……?」
「いいえ!」


俺がそう言うとぐんっとティナが顔を近づけた。その拍子にフードが脱げて、彼の色白の肌と落ち着いた緑の髪、瞳が現れた。えぐえぐっとしゃくりあげながら涙が止まったのを見かねて、俺はハンカチを水で濡らしてから温める。蒸しタオルと言うやつだ。


「はい、ティナ。これ目元に置いて」
「え?い、いえ!受け取れません!!」
「いいから。ほら、上向いて。それとも俺の膝で休む?」


俺はソファに座って膝を叩く。ティナはあわあわと慌てていた。これより自分で顔を上にしてやった方がましだと思うだろう。変なところで頑固だ。

ティナが暫く悩んだ後に意を決したかのように頭を下げる。


「し、失礼します!」
「え?あ、どーぞ」


そして、俺の膝の上に頭をのっけた。悪い、柔らかくない枕で。そして、まさか乗ってくれるとは思わなかったよ。そのまま顔をあげるので目元に蒸しタオルを置く。


「熱くない?」
「だ、ダイジョウブです!!」
「緊張しなくてもいいよ、そんなに」


俺がそう笑うが、ティナはがちがちである。これでは休めない気がするが、俺が提案した手前この頭を落とせない。


「はあ、殿下の膝枕……今日は記念日だ……」


何記念日にするつもりだ君。膝枕記念日か?
というか、俺ティナと接点あったのか?隠すときもかなり手馴れてるし、なんか、隠れる場所みたいな箱あるし……。

もしや、嫌すぎてここに結構隠れてた?そして毎回ティナに匿って貰ってた……?

いやでも、確か騎士団にもいたような……?ケイリーさんって、新人だって言ってたよね?

ちらっとティナを見るとティナはご機嫌そうだ。今聞けばどうにかなりそうだ。


「えーっと、ティナは騎士団……とかに、いたんじゃないの?」
「……ああ、いえ。そのぅ……」


俺がそう聞くと、ティナが困ったような声を出す。しかし、そっと蒸しタオルを外して、俺を見る。


「で、殿下が、魔術系のご興味があるようでしたので……す、少しでも、お役に、たてればと、思ってたんですが……陛下に薬師の方を、薦められて、こちらに……」
「あ、そ、そうなんだ。君、植物の方が合ってたもんね」
「は、はい!植物が好きで、こ、此方で働くことができて嬉しいです」


そもそも、薬師という職業があったことに驚きだよ。まさか食事に毒とか入ってる?まあ、良いんだけどさ。
もう少し目元を抑えなよっとハンカチを置く。嬉しそうに口元がにやけているが見ないふりをした。俺はティナを膝の上に置いている間、実験道具の置いてあるテーブルを見て、フラスコやら抽出機やらを眺める。


「あれって俺の?」
「? そうですよ?お好きにお使いください、殿下。貴方の欲しいものを揃えました!」
「ごめん!買わせたの俺だよね!!」
「あ!いえ!俺が好きで買ったものですので!喜んでくださる殿下を見れて俺は満足です」
「後で返すよ、お金」
「いえ!いえ!殿下!いいのです!そ、それとも、お、俺の事、もう要らない……のでしょうか……?」
「そんな事ないから!!俺の為にありがとう!」
「はい殿下!」


気づかれないようにため息をついてティナの頭を撫でておく。
それからガーデンハウス内の植物を見た。植物は前世の記憶もあるので結構知っている方だと思われる。勿論ティナに教えてもらって、だ。


「良かった……殿下が、起きられて……俺のことも思い出してくれて……」
「う、ああ、ごめんね?」
「いえ!貴方が無事なだけでいいのです、俺は」


ティナのそう言うところは美徳だけど直したほうがいいよ?悪い人に利用されるから。現に、俺みたいに。あそこら辺の実験道具、安いものではないだろう。ティナを財布扱いしている悪女じゃんか俺。

良いと遠慮しているが、俺が申し訳ないのでこれから少しずつ返そうと思う。例えばお菓子とかお茶とか、無くなるもんで。
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