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6歳の俺
孤児6歳 15
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朝になった。眠い。クソ眠い。でも起きなければいけないのだ。
「ルチアーノ、ノイン君、ノルン君、朝だから起きて」
べったりくっついている3人を引き剥がし、起きろとぺしっと頭を叩くと1番に目を覚ましたのはノルン君だった。彼はぱっちりと目を開けて起き上がったあと、ノイン君を揺すって「おきてノイン」っと声をかける。流石、双子兄弟。しっかりしてる。
ノイン君は、ノルン君に任せて俺はルチアーノを叩き起す。
「ルチアーノ起きて」
「ん~、ううーん......」
「ルチアーノ」
「ん~、抱っこぉ」
「あー、はいはい」
身体強化をしてひょいっとルチアーノを抱っこする。ん~っと唸りながら肩口に額を押し付けてグリグリしているルチアーノを起きてねっと揺すりながら2人を見ると、困り顔のノルン君と、ベッドで大の字になっているノイン君がいた。
何してんだ。
「ノイン君、顔洗いに行くよ」
「......アズールが抱っこしてくれなきゃ起きない」
「無理」
「じゃあ、起きない......」
「あっそ。ノルン君行くよ」
「え......あ、えと......」
俺は、そう言ってノルン君に手招きをすると、ガバッとノイン君が起き上がった。
「行っちゃヤダ」
「知らん」
「いや!」
「じゃあこっち来て」
「抱っこぉっ!」
はぁぁっと深いため息をつく。むぅっとノイン君は膨れっ面をしながら、無言で手を伸ばして抱っこを要求してきた。全く。今の俺の状況がわかんないのか君は。
「わがまま言わない」
「わがまま......?」
「そうだよ。俺はルチアーノを抱っこしてて君を抱っこできない。分かる?」
「その子下ろせばいいじゃん」
「先に言ってきたのはルチアーノ。後からの君の要望はきけない。我慢しなさい」
「なんで!後でも皆きいてくれるもん!」
「知らん!俺は俺!他は他!大体、割り込みなんて最低だぞ!お前のせいで嫌な思いしてるぞ、された人は!」
「そ......っ!」
勢い余ってそう言ってしまったが、俺悪いこと言ってない。うん。
本当にそうか分からないけど、思うところがあるのかノイン君が口を閉ざして、ちらりとノルン君を見た。それから恐る恐る口を開く。
「......そうなの?」
「え!あ、いや......」
「......正直に言って」
じいっとノイン君に見つめられ、うっとノルン君が言葉をつまらせながら、やがてぽつりと呟いた。
「す、少しだけ......」
小さい声だったが十分すぎる位には彼のその声が聞こえた。衝撃を受けたのかノルン君は一瞬固まった後、ぽすりと布団に顔をつけた。それからうえええ~っと泣き始めた。その様子にギョッとしてノルン君が慌ててノイン君に近づいて言い訳じみたことを喋り出す。
「あ、あのね、べつに少しだけでそれに僕よりノインの方が凄いから当たり前で......」
「ノルンの方が凄いものぉ......っ!!」
「だから......えっ?」
「ノルンの方がいつも周りのこと見てで、俺の事助けてぐれで、俺より凄いものぉ……」
「んん……っ!」
うええええっと泣いているノイン君の言葉に一瞬嬉しそうに顔をしかめたノルン君だったが我に返って控えめにノイン君の頭を撫でる。
「僕、そんなに気にしてないから大丈夫。ノインが少しでも僕の事気にかけてくれたらそれで嬉しい」
「……でも、俺ノルンの事好きなのに嫌な思いさせた」
「う、あ、でも、もう気にしてないし……」
じいいっと見つめてくるノイン君の視線から逃れるようにノルン君が目を逸らした。その様子をとりあえず眺めていた俺は時間も時間なので二人の会話に割ってはいる。
「悪いことしたならごめんなさい、じゃない?」
ルチアーノがそろそろまた寝そうだから早くしてくれ。くいっと顎を動かして促すと、がばっと顔をあげたノイン君がノルン君を見た。それからぺこっと頭を下げる。
「……ごめんなさい、ノルン」
「……うん、謝ってくれてありがとう」
そういった後にノイン君がぎゅーっとノエル君を抱き締めた。うん、まあ、もう抱っこねだられなさそうだからいいんだけど。それより、早く朝御飯食べにいこうぜ。
「朝御飯行こう?」
「あ、うん。ごめんアズール待たせて」
「……手」
「あ、アズール手は握れる?」
「まあ、それぐらいなら」
身体強化はしてるから片腕でルチアーノを抱っこできるので余った手を差し出すと、ぱっと顔を明るくして握ってきた。そのままベッドを降りて、それからくるっとノイン君がノルン君を見た。そして片方の手を差し出してくる。
「え……」
「……ん!」
「あ、お、ん……っ!」
んうう……っと悶えた顔をしながらノルン君がノイン君の手を握った。
コンプレックスを抱いているが、好きなのだろう。自分の弟、ないしこの兄が。誰かがまだ幼いときに気づいていれば大人になってあんなことにはならなかったのに(俺が)。ただ、これだと完全にぶらこんって言う別のコンプレックスを抱きそうだ。まあ、最終的に俺にベクトルが向かなければいいんだけどね。
そのまま四人で広場に向かうと既に朝食は用意されており、イリーナが呆れ顔で半分寝ているルチアーノの頬をつねった。
「い……っ!!」
「はいはい、起きなさいルチアーノ。いつまでもアズールに抱っこされてないの。もう、アズールも甘やかさない!」
「はーい」
ルチアーノを席に下ろすとイリーナがその前の席に座った。今日はノイン君やノルン君がいるからか、その隣にマイクもいる。お節介ズ。さすがだ。もう様子見は終わったのか。
「うー、痛いぃ……」
「ルチアーノ、ご飯もらいに行くよ」
「うん……」
「ノルン君たちも。並ぼ」
手を離してそう言うとこくんっと二人は頷いて一緒に朝食をもらうために並ぶ。豆のスープといつもの固いパンをもらい、席につく。ノルン君たちもそれらをもらい俺の左にノイン君、その隣にノルン君が座った。皆に配膳された後にいつもの挨拶をした後ガツガツ食べ始める。
俺は固いパンをスープに浸してふやかしてから食べるので少し時間がかかる。こんこんっとスプーンで固いパンを叩きながら待ちながらちらっと二人を見ると、ノルン君とノイン君は固いパンをおもむろにポケットに入れた。
俺は一瞬ポカンとしたが、懐からハンカチを取り出した。魔法で気づかれないように複製したので同じものが二枚。
「はいこれ」
「え……」
「あ……」
二人はそう答えた。それからかあっと顔を赤くする。
「お、お腹そんなにすいてないからだから!!」
「……そう、別に勿体ないとか卑しい思いがあった訳じゃない」
「え、あ、うん。別に皆も同じことしてるから大丈夫。二人は包むものないだろうからと思って俺のをあげようと思ったんだけど、要らなかった?」
「「い、いる!!」」
机の上にハンカチを置くと二人は一枚ずつとってパンを包む。じいっとルチアーノがハンカチを羨ましそうに見ていたが君は持ってるだろ、自分の。俺のハンカチは別に特別なものじゃないから。
そして、皆が食べおわり俺もモソモソと朝食を食べ始めるとアンジェリカさんがこっちに来た。ノイン君とノルン君はマイクとイリーナに連れられて外で遊んでいる。ちらっとルチアーノも見たが彼がぴったりと俺に引っ付いているのを見て誘うのはやめたらしい。一応、ルチアーノも外で遊べることを二人には伝えているので迷ったのだろう。本人が頑固として俺から離れないのを察知してやめたようだが。
ということで、アンジェリカさんは俺かルチアーノのどちらかに用があるということだろう。
「アズール、ちょっといい?」
もぐもぐっと口の中にパンを入れながらこくんと頷くとアンジェリカさんは前の席に座った。
「あの二人はどう?」
「普通に元気だと思いますよ。問題ないと思います」
「本当に?」
「……」
一度咀嚼をしてゴクンと飲み込んだ。じいっとアンジェリカさんが俺を見てくるのではあっとため息をつく。スプーンを置いて俺もアンジェリカさんを見た。
「昨日のノルン君の取り乱しようをみるに今は大丈夫、としか言えません。また昨日みたいに錯乱する可能性は大いにあるし、それはノルン君だけじゃない。貴方も分かるでしょうそれぐらい」
「そりゃそうよね。一応彼らの両親には事情をしたためた手紙を送ったわ。返事はまだだけど」
「へえ、すぐに見つかって良かったですね」
「……手放しに喜べないけどね」
アンジェリカさんがそう呟いた。俺は聞こえないふりをしたがはああっとアンジェリカさんが長くため息をつく。もぐもぐっと無言で朝食を口に突っ込んで早く立ち去ろうとしたがその前にアンジェリカさんが話し出す。
「あの二人、結構有名なお貴族様でね~。家名に傷が~とか、揉み消しにこっちまで迷惑被るようならどうしようと思って……」
「……アンジェリカさん流石に貴族不信すぎでは?」
「そういうもんよ。お貴族様は。民草を食い物にするようなやつばっか。王族なんてもっと嫌い」
「ふうーん?」
まあ、王族だった前世の俺は今では考えられないほどの贅沢をしていたのがよくわかる。アンジェリカさんのような孤児院の院長としては、不幸な子供たちにもっと食べ物や服をあげたいのだろう。とはいえ、孤児院にしては結構裕福な方だと思うがここ。それがどういうわけかわからないし、それが基準なのかわからないけど。三食食べられて、
労働も特になく、何より識字率が高い。それはフェルトさんのおかげだろうけど、そもそも孤児院とフェルトさんの関係はなんだ?というのだ。
軍人であることは確かだし、彼女にとっては教え子のはずだ。他には貴族っぽい。そう、貴族っぽいんだ。確信はないが、軍人だと多分それなりの身分だと思う。だから貴族であろうとは思うが、それならアンジェリカさんがここまで毛嫌いするのが分からない。
だって、教え子なんでしょ?院長先生は、フェルトさんやアルトの。なら嫌う通りが分からない。それともいわゆる例外というやつか?まあ、考えても仕方ないか。
「まあ、様子見てあげて。アズールが助けたんだからアズールが面倒見なさい」
「分かってますよ~」
ごちそうさまでしたっと手を合わせて朝食を食べおわると、アンジェリカさんが頭を撫でた。
「アズール。貴方がすごいのはわかっているけれど、それを過信しちゃダメよ。この世にはどうしようもないことも貴方を陥れようとする悪もいるの。だから……」
「はいはい。わかってますわかってます」
「わかってないわよ、全く」
はあっとため息をついてアンジェリカさんが離れた。
「貴方がまだここの孤児院にいる限りは私が守るわ。それまでにそのどうしようもない危機管理能力のなさをどうにかしないとだめね」
「いや、本当に危なかったらさすがの俺でも逃げますよ」
「はいはい」
アンジェリカさんは席を立って手をヒラヒラさせながらどっかに行った。俺は納得できないが、まあ、気にすることでもないだろう。俺はルチアーノと一緒に食器を洗うために厨房に向かい皿を洗う。ルチアーノの分も一緒に洗いながら今日は何する?っとルチアーノに話しかけた。ルチアーノはんーとねーえーっとねーっと言いながら
「お散歩!」
「そう、ならあの服着てきな。あと俺の部屋から鞄もとってきて」
「うん!」
昼食は、道すがらウサギとか狩ってそれ焼いて食えばいいから要らない。ついでに言われてた安全かどうかの確認もするか。色々あって把握してなかったし。
「探索」
皿を洗い終わった後に一応周りの確認をする。また転移で変なのが来てるかもしれな……。
鏡にここら辺の村人ではないだろう男の集団を捉えた。俺は思わず真顔になってしまいはあああっとため息をつく。昨日の今日でお早いこと。
ルチアーノの散歩に邪魔だな。またここで全滅させてもとかげの尻尾切りだよね。もとを絶たないと。
「ねえ、ジーク。悪魔ネットワークでこの原因どうにか取り除けない?」
「ん?ちょっと待て」
俺がそう言うとジークが誰かと話しているようで「ああ、そうだ。うんうん、友がな……。なるほど」っと会話をしている。従えられる悪魔も多そうだし、ジークに頼んだらどうにかなりそう。
それは彼に任せつつ、俺は男の集団がこっちに来ないようにスタンさせる。びくっと彼らのからだが震えてバタバタと倒れていった。殺してないので大丈夫。やむをえない事情でない限り人殺しは避けているので一応。
ルチアーノのところにいくために来るであろうルートを歩いていると角からイリーナが出てきた。
「あれ、イリーナ。外で遊んでたんじゃないの?」
「あ、アズール……」
「? なんか顔色悪くない?」
「え、えーっと……」
彼女が顔を青くして所在なさげに手をいじったり視線を泳がせる。俺が彼女のその様子に首をかしげると、きらっと彼女の背後で何かが光った。
「いるじゃねーか。中にはいないっていうから焦ったぜ」
「は?誰お前」
イリーナの首にナイフを突きつけながら見知らぬ男がそこにいた。知らない男だったし、イリーナに危ないものをつけているので思わず態度悪く顔をしかめてしまった。
男は、ああ?っといかつい顔をしかめながらはっと鼻で笑った。
「別にお前らに危害を加えようだなんて思っていねえよ。ただ、ここに双子の男の子来てないか?ってだけ聞きてえんだ」
「いない」
「……へえ?」
そう言って男がじいっと俺を見て来た。俺は視線をそらさずに睨み付けていると男がナイフを懐にしまった。それからとんっとイリーナの肩を押した。俺は慌ててイリーナの腕をつかんで後ろに隠す。
「どういうつもり?」
「どうもこうも、召喚士殿には手を出さないのが趣味でな」
「……ああ、そう。じゃあ帰ってくれる?」
しっしっと手で追い払う仕草をすると男は腰を折って俺に目線を合わせてきた。俺は何?っと言って彼を見つめると彼はこう言ってきた。
「お前いくつだ?」
「6歳だけど?」
「ふーん?いつからここにいる?」
「いつから?知らない」
「あ、そうか。それもそうだな、悪かった。双子の男の子がいないならここに用はない。怖い思いさせて悪かったな嬢ちゃん」
男はそう言って窓から出ていった。なんだあいつ。そう思いながらイリーナの方を振り返るとイリーナはへたっと座り込んでいた。俺はぎょっとして彼女を見る。
「イリーナ!?どうした大丈夫!?」
「だ、大丈夫……」
「大丈夫じゃないよね!?ごめん、もう少し俺が早くここ通ってれば……」
「ううん、ありがとうアズール」
そういった彼女はポロっと涙を流した。。俺は顔を青くしておろおろしながらハンカチを彼女に渡す。イリーナはぐすぐすと鼻を鳴らしながら涙を拭いていた。泣き顔はあまり見ないようにして、側に座っていると向こう側からルチアーノが鞄をもって俺のところに来た。ルチアーノはきょとんとしてからだと一緒に首をかしげる。
「イリーナちゃん?どうしたの?」
「なんでもないよ。散歩はもう少し待ってね」
「あ、ごめんなさい。私は大丈夫だから二人で行ってきていいよ」
「……」
ルチアーノが鞄を床に置いてどこかに行ってしまった。俺はその様子にどうしたんだろうっと首をかしげていると暫くしてぱたぱたと何かを持ってこちらに戻ってきた。
「イリーナちゃん、これあげる!赤いお花!!」
「え……」
ルチアーノが持っていたのは赤いスイートピーだ。イリーナはそれを受け取って、一瞬戸惑ったがふわっと笑顔を見せる。
「ありがとう、ルチアーノ」
「ん!」
「アズールも」
「あ、いや……うん……」
イリーナがお花を部屋に飾ってくると言って、廊下を歩いていった。もう大丈夫だろうか、っとそろそろと後ろをついていこうとしたら、ん!っとルチアーノが鞄を俺に押し付けてきたので見失ってしまった。まあ、俺に追いかけられたくないかもしれないし、散歩に行くか。
それにしても、あの男何で俺が召喚士だって分かったんだ?召喚士って普通分かんないんだよね。まあ、いいんだけど。あと歳聞かれたのも謎。
ともあれ考えても仕方ないと思う。何か重要なことを言ったわけでも聞かれたわけでもない。
「散歩行くか」
「うん!」
一応鏡がでないバージョンの探索を使って周りを確認しつつ、気絶させた人をどうしよかと考えながらそろそろ裏から二人で出ていくと何やら表が騒がしい。ルチアーノと俺は顔を見合わせて中を通ってそちらに向かった。
表に行くと、そこにはフェルトさんがいた。馬に乗って来たようで隣に馬がいる。馬に乗ってここに来るのは珍しいのでルチアーノと一緒に扉の隙間から覗いていると、フェルトさんは子供たちを中に入れる。みんな首をかしげつつもフェルトさんのいう通り中に入って遊び出す。よく分からないが、俺たちもここにいた方がいいのか?
「アズール、お散歩ぉ」
「あ、うん、行こうか」
「うん!」
いた方がいいと思うが探索結果脅威となるものはいないのでいいだろう。ルチアーノの手を握って裏から出ようとするとアンジェリカさんにばったり会ってしまった。彼女は鞄を背負い、ルチアーノと手を繋いだ俺を見て腰に手をあてどこにいくの!っと声をあげた。
「アズールと散歩!」
「アズールと散歩!じゃないわ、ルチアーノ!今ね、ここの近くに悪い人がうろうろしてるの。危ないから家にいなさい!」
「や!」
「やじゃないの!アズール、貴方もさっき言ったばっかりなのに全然分かってないじゃない!!」
アンジェリカさんがこつんっと俺を小突いた。俺ははーいっと返事をしてルチアーノに向き直る。
「ルチアーノ、明日にしようか」
「え~。いやー……」
ルチアーノはむうっと唇を尖らせた。その様子のルチアーノにアンジェリカさんがため息混じりに言葉を話す。
「だめ、明日にしなさい」
「いーやー!!!」
「ルチアーノ!わがまま言わない!!」
「う、うぅ……うあぁぁぁん!!やだぁあああああああっ!!行くもんんんんんんんんんっ!!!!」
ルチアーノがびたーんと床に伏して泣き出した。俺はおろおろとしてちらっとアンジェリカさんを見る。
「す、少しだけなら……」
「甘やかさない!!ルチアーノも今日は部屋で本を読むの!」
「アズールぅ……」
じいっとルチアーノに見つめられうっと声を漏らすが、アンジェリカさんがジロッと俺のことをにらむので静かに口を閉じた。それからうーんっと悩んで恐る恐る提案をする。
「えーっと、明日星見に行こう……?」
「ほし……?」
「そう、夜のお散歩」
「夜のお散歩!いいの?」
「いいですよね?」
俺がそう聞くとアンジェリカさんがうーんと唸った後にこう提案する。
「明日はダメ。でももう少し待ってくれたら皆で外でご飯食べながら星を見ましょう」
「だって、ルチアーノ。それじゃだめ?」
「……」
ルチアーノは起き上がって俺の腕をつかんだ後にこくんとうなずいた。納得してくれたらしい。そのまま俺とルチアーノは部屋で本を読んだ。うっかり、怪しい集団を気絶させたことを言うのを忘れてしまい夕飯にアンジェリカさんが般若の顔で詰め寄ってくるまで頭のすみに追いやっていた。
フェルトさんはその調査でここに来て、不自然に気絶している集団を見つけてアンジェリカさんに心当たりはないか聞いたらしい。アンジェリカさんな訳はなく、テレシアもクラウスもしていないというので残るは俺という消去法だった。ついでにイリーナも変な男に襲われたことを報告したら早く言いなさい!っと鉄拳を食らった。てっきりイリーナが言っていたもんだと思っていたので俺悪くない気がする。
調査のためにフェルトさんの知り合いという男たちが近くでキャンプをしているようだ。
まあ、貴族のご子息が拐われたんだもんね。大事件だわ。
その中の何人かはノイン君たちの知り合いだったようで無事で良かった!っと言葉を貰っていたがノイン君たちは大人が苦手になったようで真っ青になって俺の後ろに隠れた。男たちも仕方ないっといったように二人には近づかず、しかし俺のことをじいっと観察するように見てくるので居心地が悪かった。
結構孤児を毛嫌いしている人が多いようだ。不躾に睨んでいたり、こそこそ話したりして感じが悪い。フェルトさんがみつけしだい諌めるがあまり効果がない。早く帰ってくれねえかな、こいつらという心境だ。
「……アズール、一緒に寝よう?」
「いや、今日は昨日の部屋使われてると思うから、ノルン君と二人で寝なよ」
「……やだぁ」
「ええ、あー……」
就寝時間になるとノイン君がそう言ってきたので断るとぐすぐす泣き出した。ルチアーノをちらっと見ると俺の言わんとすることが分かるのかその賭場を聞く前にふるふると首を振った。
俺のベッドじゃ3人は狭いし……。
「ノイン。あの、僕と一緒に寝ない?」
「え……」
悩んでいると隣にいたノルンくんが恐る恐るといったようにそう言ってきた。一瞬呆けたノイン君だったが次にはぱっと顔を明るくしてぎゅっとノルン君の腕に引っ付いた。
「寝る!一緒に寝たい!!」
「ほんと……?」
「うん!あのね、ずっと一緒に寝たかったけどノルンが夜まで勉強してるから言えなかったの」
えへへ、嬉しいっとはにかんだノイン君にノルン君が変な顔してどうにか笑顔を保っていた。良かったね。
そのまま2人はおやすみと言って彼らの部屋に戻った。これで、一緒に寝るぅ!って駄々こねられることはなくなった。万歳。俺とルチアーノも部屋に戻って一緒に寝る布団に入る。
そのままその日は眠りについた。
ーーー
たくさんのお気に入りありがとうございます!!亀更新ですが、6歳編終わらせたい気持ちは大いに有ります(笑)
それから宣伝遅くなりましたがBL大賞に参加してますのでそちらもよろしくお願いします!!
「ルチアーノ、ノイン君、ノルン君、朝だから起きて」
べったりくっついている3人を引き剥がし、起きろとぺしっと頭を叩くと1番に目を覚ましたのはノルン君だった。彼はぱっちりと目を開けて起き上がったあと、ノイン君を揺すって「おきてノイン」っと声をかける。流石、双子兄弟。しっかりしてる。
ノイン君は、ノルン君に任せて俺はルチアーノを叩き起す。
「ルチアーノ起きて」
「ん~、ううーん......」
「ルチアーノ」
「ん~、抱っこぉ」
「あー、はいはい」
身体強化をしてひょいっとルチアーノを抱っこする。ん~っと唸りながら肩口に額を押し付けてグリグリしているルチアーノを起きてねっと揺すりながら2人を見ると、困り顔のノルン君と、ベッドで大の字になっているノイン君がいた。
何してんだ。
「ノイン君、顔洗いに行くよ」
「......アズールが抱っこしてくれなきゃ起きない」
「無理」
「じゃあ、起きない......」
「あっそ。ノルン君行くよ」
「え......あ、えと......」
俺は、そう言ってノルン君に手招きをすると、ガバッとノイン君が起き上がった。
「行っちゃヤダ」
「知らん」
「いや!」
「じゃあこっち来て」
「抱っこぉっ!」
はぁぁっと深いため息をつく。むぅっとノイン君は膨れっ面をしながら、無言で手を伸ばして抱っこを要求してきた。全く。今の俺の状況がわかんないのか君は。
「わがまま言わない」
「わがまま......?」
「そうだよ。俺はルチアーノを抱っこしてて君を抱っこできない。分かる?」
「その子下ろせばいいじゃん」
「先に言ってきたのはルチアーノ。後からの君の要望はきけない。我慢しなさい」
「なんで!後でも皆きいてくれるもん!」
「知らん!俺は俺!他は他!大体、割り込みなんて最低だぞ!お前のせいで嫌な思いしてるぞ、された人は!」
「そ......っ!」
勢い余ってそう言ってしまったが、俺悪いこと言ってない。うん。
本当にそうか分からないけど、思うところがあるのかノイン君が口を閉ざして、ちらりとノルン君を見た。それから恐る恐る口を開く。
「......そうなの?」
「え!あ、いや......」
「......正直に言って」
じいっとノイン君に見つめられ、うっとノルン君が言葉をつまらせながら、やがてぽつりと呟いた。
「す、少しだけ......」
小さい声だったが十分すぎる位には彼のその声が聞こえた。衝撃を受けたのかノルン君は一瞬固まった後、ぽすりと布団に顔をつけた。それからうえええ~っと泣き始めた。その様子にギョッとしてノルン君が慌ててノイン君に近づいて言い訳じみたことを喋り出す。
「あ、あのね、べつに少しだけでそれに僕よりノインの方が凄いから当たり前で......」
「ノルンの方が凄いものぉ......っ!!」
「だから......えっ?」
「ノルンの方がいつも周りのこと見てで、俺の事助けてぐれで、俺より凄いものぉ……」
「んん……っ!」
うええええっと泣いているノイン君の言葉に一瞬嬉しそうに顔をしかめたノルン君だったが我に返って控えめにノイン君の頭を撫でる。
「僕、そんなに気にしてないから大丈夫。ノインが少しでも僕の事気にかけてくれたらそれで嬉しい」
「……でも、俺ノルンの事好きなのに嫌な思いさせた」
「う、あ、でも、もう気にしてないし……」
じいいっと見つめてくるノイン君の視線から逃れるようにノルン君が目を逸らした。その様子をとりあえず眺めていた俺は時間も時間なので二人の会話に割ってはいる。
「悪いことしたならごめんなさい、じゃない?」
ルチアーノがそろそろまた寝そうだから早くしてくれ。くいっと顎を動かして促すと、がばっと顔をあげたノイン君がノルン君を見た。それからぺこっと頭を下げる。
「……ごめんなさい、ノルン」
「……うん、謝ってくれてありがとう」
そういった後にノイン君がぎゅーっとノエル君を抱き締めた。うん、まあ、もう抱っこねだられなさそうだからいいんだけど。それより、早く朝御飯食べにいこうぜ。
「朝御飯行こう?」
「あ、うん。ごめんアズール待たせて」
「……手」
「あ、アズール手は握れる?」
「まあ、それぐらいなら」
身体強化はしてるから片腕でルチアーノを抱っこできるので余った手を差し出すと、ぱっと顔を明るくして握ってきた。そのままベッドを降りて、それからくるっとノイン君がノルン君を見た。そして片方の手を差し出してくる。
「え……」
「……ん!」
「あ、お、ん……っ!」
んうう……っと悶えた顔をしながらノルン君がノイン君の手を握った。
コンプレックスを抱いているが、好きなのだろう。自分の弟、ないしこの兄が。誰かがまだ幼いときに気づいていれば大人になってあんなことにはならなかったのに(俺が)。ただ、これだと完全にぶらこんって言う別のコンプレックスを抱きそうだ。まあ、最終的に俺にベクトルが向かなければいいんだけどね。
そのまま四人で広場に向かうと既に朝食は用意されており、イリーナが呆れ顔で半分寝ているルチアーノの頬をつねった。
「い……っ!!」
「はいはい、起きなさいルチアーノ。いつまでもアズールに抱っこされてないの。もう、アズールも甘やかさない!」
「はーい」
ルチアーノを席に下ろすとイリーナがその前の席に座った。今日はノイン君やノルン君がいるからか、その隣にマイクもいる。お節介ズ。さすがだ。もう様子見は終わったのか。
「うー、痛いぃ……」
「ルチアーノ、ご飯もらいに行くよ」
「うん……」
「ノルン君たちも。並ぼ」
手を離してそう言うとこくんっと二人は頷いて一緒に朝食をもらうために並ぶ。豆のスープといつもの固いパンをもらい、席につく。ノルン君たちもそれらをもらい俺の左にノイン君、その隣にノルン君が座った。皆に配膳された後にいつもの挨拶をした後ガツガツ食べ始める。
俺は固いパンをスープに浸してふやかしてから食べるので少し時間がかかる。こんこんっとスプーンで固いパンを叩きながら待ちながらちらっと二人を見ると、ノルン君とノイン君は固いパンをおもむろにポケットに入れた。
俺は一瞬ポカンとしたが、懐からハンカチを取り出した。魔法で気づかれないように複製したので同じものが二枚。
「はいこれ」
「え……」
「あ……」
二人はそう答えた。それからかあっと顔を赤くする。
「お、お腹そんなにすいてないからだから!!」
「……そう、別に勿体ないとか卑しい思いがあった訳じゃない」
「え、あ、うん。別に皆も同じことしてるから大丈夫。二人は包むものないだろうからと思って俺のをあげようと思ったんだけど、要らなかった?」
「「い、いる!!」」
机の上にハンカチを置くと二人は一枚ずつとってパンを包む。じいっとルチアーノがハンカチを羨ましそうに見ていたが君は持ってるだろ、自分の。俺のハンカチは別に特別なものじゃないから。
そして、皆が食べおわり俺もモソモソと朝食を食べ始めるとアンジェリカさんがこっちに来た。ノイン君とノルン君はマイクとイリーナに連れられて外で遊んでいる。ちらっとルチアーノも見たが彼がぴったりと俺に引っ付いているのを見て誘うのはやめたらしい。一応、ルチアーノも外で遊べることを二人には伝えているので迷ったのだろう。本人が頑固として俺から離れないのを察知してやめたようだが。
ということで、アンジェリカさんは俺かルチアーノのどちらかに用があるということだろう。
「アズール、ちょっといい?」
もぐもぐっと口の中にパンを入れながらこくんと頷くとアンジェリカさんは前の席に座った。
「あの二人はどう?」
「普通に元気だと思いますよ。問題ないと思います」
「本当に?」
「……」
一度咀嚼をしてゴクンと飲み込んだ。じいっとアンジェリカさんが俺を見てくるのではあっとため息をつく。スプーンを置いて俺もアンジェリカさんを見た。
「昨日のノルン君の取り乱しようをみるに今は大丈夫、としか言えません。また昨日みたいに錯乱する可能性は大いにあるし、それはノルン君だけじゃない。貴方も分かるでしょうそれぐらい」
「そりゃそうよね。一応彼らの両親には事情をしたためた手紙を送ったわ。返事はまだだけど」
「へえ、すぐに見つかって良かったですね」
「……手放しに喜べないけどね」
アンジェリカさんがそう呟いた。俺は聞こえないふりをしたがはああっとアンジェリカさんが長くため息をつく。もぐもぐっと無言で朝食を口に突っ込んで早く立ち去ろうとしたがその前にアンジェリカさんが話し出す。
「あの二人、結構有名なお貴族様でね~。家名に傷が~とか、揉み消しにこっちまで迷惑被るようならどうしようと思って……」
「……アンジェリカさん流石に貴族不信すぎでは?」
「そういうもんよ。お貴族様は。民草を食い物にするようなやつばっか。王族なんてもっと嫌い」
「ふうーん?」
まあ、王族だった前世の俺は今では考えられないほどの贅沢をしていたのがよくわかる。アンジェリカさんのような孤児院の院長としては、不幸な子供たちにもっと食べ物や服をあげたいのだろう。とはいえ、孤児院にしては結構裕福な方だと思うがここ。それがどういうわけかわからないし、それが基準なのかわからないけど。三食食べられて、
労働も特になく、何より識字率が高い。それはフェルトさんのおかげだろうけど、そもそも孤児院とフェルトさんの関係はなんだ?というのだ。
軍人であることは確かだし、彼女にとっては教え子のはずだ。他には貴族っぽい。そう、貴族っぽいんだ。確信はないが、軍人だと多分それなりの身分だと思う。だから貴族であろうとは思うが、それならアンジェリカさんがここまで毛嫌いするのが分からない。
だって、教え子なんでしょ?院長先生は、フェルトさんやアルトの。なら嫌う通りが分からない。それともいわゆる例外というやつか?まあ、考えても仕方ないか。
「まあ、様子見てあげて。アズールが助けたんだからアズールが面倒見なさい」
「分かってますよ~」
ごちそうさまでしたっと手を合わせて朝食を食べおわると、アンジェリカさんが頭を撫でた。
「アズール。貴方がすごいのはわかっているけれど、それを過信しちゃダメよ。この世にはどうしようもないことも貴方を陥れようとする悪もいるの。だから……」
「はいはい。わかってますわかってます」
「わかってないわよ、全く」
はあっとため息をついてアンジェリカさんが離れた。
「貴方がまだここの孤児院にいる限りは私が守るわ。それまでにそのどうしようもない危機管理能力のなさをどうにかしないとだめね」
「いや、本当に危なかったらさすがの俺でも逃げますよ」
「はいはい」
アンジェリカさんは席を立って手をヒラヒラさせながらどっかに行った。俺は納得できないが、まあ、気にすることでもないだろう。俺はルチアーノと一緒に食器を洗うために厨房に向かい皿を洗う。ルチアーノの分も一緒に洗いながら今日は何する?っとルチアーノに話しかけた。ルチアーノはんーとねーえーっとねーっと言いながら
「お散歩!」
「そう、ならあの服着てきな。あと俺の部屋から鞄もとってきて」
「うん!」
昼食は、道すがらウサギとか狩ってそれ焼いて食えばいいから要らない。ついでに言われてた安全かどうかの確認もするか。色々あって把握してなかったし。
「探索」
皿を洗い終わった後に一応周りの確認をする。また転移で変なのが来てるかもしれな……。
鏡にここら辺の村人ではないだろう男の集団を捉えた。俺は思わず真顔になってしまいはあああっとため息をつく。昨日の今日でお早いこと。
ルチアーノの散歩に邪魔だな。またここで全滅させてもとかげの尻尾切りだよね。もとを絶たないと。
「ねえ、ジーク。悪魔ネットワークでこの原因どうにか取り除けない?」
「ん?ちょっと待て」
俺がそう言うとジークが誰かと話しているようで「ああ、そうだ。うんうん、友がな……。なるほど」っと会話をしている。従えられる悪魔も多そうだし、ジークに頼んだらどうにかなりそう。
それは彼に任せつつ、俺は男の集団がこっちに来ないようにスタンさせる。びくっと彼らのからだが震えてバタバタと倒れていった。殺してないので大丈夫。やむをえない事情でない限り人殺しは避けているので一応。
ルチアーノのところにいくために来るであろうルートを歩いていると角からイリーナが出てきた。
「あれ、イリーナ。外で遊んでたんじゃないの?」
「あ、アズール……」
「? なんか顔色悪くない?」
「え、えーっと……」
彼女が顔を青くして所在なさげに手をいじったり視線を泳がせる。俺が彼女のその様子に首をかしげると、きらっと彼女の背後で何かが光った。
「いるじゃねーか。中にはいないっていうから焦ったぜ」
「は?誰お前」
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「……」
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「ありがとう、ルチアーノ」
「ん!」
「アズールも」
「あ、いや……うん……」
イリーナがお花を部屋に飾ってくると言って、廊下を歩いていった。もう大丈夫だろうか、っとそろそろと後ろをついていこうとしたら、ん!っとルチアーノが鞄を俺に押し付けてきたので見失ってしまった。まあ、俺に追いかけられたくないかもしれないし、散歩に行くか。
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「うん!」
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「や!」
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「え~。いやー……」
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「ルチアーノ!わがまま言わない!!」
「う、うぅ……うあぁぁぁん!!やだぁあああああああっ!!行くもんんんんんんんんんっ!!!!」
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「す、少しだけなら……」
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「アズールぅ……」
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「そう、夜のお散歩」
「夜のお散歩!いいの?」
「いいですよね?」
俺がそう聞くとアンジェリカさんがうーんと唸った後にこう提案する。
「明日はダメ。でももう少し待ってくれたら皆で外でご飯食べながら星を見ましょう」
「だって、ルチアーノ。それじゃだめ?」
「……」
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調査のためにフェルトさんの知り合いという男たちが近くでキャンプをしているようだ。
まあ、貴族のご子息が拐われたんだもんね。大事件だわ。
その中の何人かはノイン君たちの知り合いだったようで無事で良かった!っと言葉を貰っていたがノイン君たちは大人が苦手になったようで真っ青になって俺の後ろに隠れた。男たちも仕方ないっといったように二人には近づかず、しかし俺のことをじいっと観察するように見てくるので居心地が悪かった。
結構孤児を毛嫌いしている人が多いようだ。不躾に睨んでいたり、こそこそ話したりして感じが悪い。フェルトさんがみつけしだい諌めるがあまり効果がない。早く帰ってくれねえかな、こいつらという心境だ。
「……アズール、一緒に寝よう?」
「いや、今日は昨日の部屋使われてると思うから、ノルン君と二人で寝なよ」
「……やだぁ」
「ええ、あー……」
就寝時間になるとノイン君がそう言ってきたので断るとぐすぐす泣き出した。ルチアーノをちらっと見ると俺の言わんとすることが分かるのかその賭場を聞く前にふるふると首を振った。
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「え……」
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えへへ、嬉しいっとはにかんだノイン君にノルン君が変な顔してどうにか笑顔を保っていた。良かったね。
そのまま2人はおやすみと言って彼らの部屋に戻った。これで、一緒に寝るぅ!って駄々こねられることはなくなった。万歳。俺とルチアーノも部屋に戻って一緒に寝る布団に入る。
そのままその日は眠りについた。
ーーー
たくさんのお気に入りありがとうございます!!亀更新ですが、6歳編終わらせたい気持ちは大いに有ります(笑)
それから宣伝遅くなりましたがBL大賞に参加してますのでそちらもよろしくお願いします!!
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