来世でよろしく

紫鶴

文字の大きさ
上 下
8 / 48
6歳の俺

孤児 6歳 7

しおりを挟む
男の子はカイル、男性はエトというらしい。カイルはどこかの貴族らしくエトは従者であることはわかっているが、具体的にどこの誰なのかはわからない。知りたくもないから良いんだけど。

アンジェリカさんの計らいと、孤児たちの新しい人大好き!遊んでくれる人大好き!な思いもあり、二人はまだこの孤児院に居る。ぶっちゃけ俺はさっさと出ていってほしいが。

あと、最近テレシアが院長であるという暗示にかかっていたため、アンジェリカさんとの記憶が蘇りつつありどんな人だったか思い出してきた。

俺はアンジェリカさんに魔法を使うなといわれつつも、影で魔法を使って掃除などを行っていた。それをアンジェリカさんは別に咎めることはしなかった。だがしかし、彼女はうまく俺を使っていろんな事件を解決していた。

思い出す古い記憶は3才の頃。前世の記憶もある俺は一人で孤児院近くの森に行き薬草や木の実を収穫していた。すると、そんな可愛いくて小さな俺に魔物の群れが襲ってくる。驚いた俺は思わず大技を使って俺を中心に半径5メートルのクレーターを作ってしまった。もちろん襲いかかってきた魔物は残すことなく全滅。後に聞いた話によると、この魔物たち近くの畑を荒らしたり死んだ人間を食っていたらしい。それを俺が根絶やしもしくは恐ろしいものが居ると牽制したことにより、その魔物退治を引き受けていたアンジェリカさんが村近くの人たちにお礼のしなをもらったそうだ。美味しい食べ物が食えたから良いが、アンジェリカさんに良いように使われているのだ。

最近はテレシアが院長だったからそんなことはなかったが(頼まれたことは自分でやっていたらしい)アンジェリカさんに戻ったことによりたぶん、俺に「頼み事」が来るのではないかと思う。ちなみに俺が院長と呼ばないのはアンジェリカさんを院長だと知らなかったからで、今ではアンジェリカさんもその呼び方で慣れてしまっているので今さら変えることはしない。


「アズール」
「え、なんですかアンジェリカさん」
「うふふ、そんなに警戒しなくて良いのよ。ちょっと来てくれる?」


嫌な予感しかしないんだけど。早速例の頼み事だと思いつつもアンジェリカさんの手を掴んだときふっと視界がぶれて浮遊感に襲われた。気がつくと周りは孤児院ではなくどこかの執務室のような場所だった。後ろには扉、前には机と椅子その周りには紙束が置かれていて、来賓用のソファと机もあり言わずともここが誰かの部屋であることがわかる。


「ア、アンジェリカさん……?」
「ん?大丈夫よ、そろそろ帰ってくるから」


いやいやそういうことじゃなくて!

俺がきゅっと眉を寄せるとちょうどよく扉が開いた。入ってきたのは甲冑を来た男で彼は俺とアンジェリカさんを見るとおわっと声をあげて慌てて扉の外を見たあとになかに入ってきた。


「おい、いきなりやってくんなよお前!」
「あら、別に良いじゃないいつも暇でしょ?」
「暇って、この資料の量が見てわかんないわけっ!?」


そう言って彼はぐしゃぐしゃと青色の髪をかき混ぜた。アンジェリカさんはちらっとその束を見て鼻で笑う。


「良いように使われてるわね、隊長殿」
「う、うるさいよ!これでも最近入った新人の子には慕われてるんだからなっ!?」
「あ、そう。アズール、もし何かあったらこの人に通報するのよ」
「え、あ、はい……」
「え、なに、どういうこと?」


ようやく、俺の存在に気づいた彼はえ?っと首をかしげつつ腰を折って俺と同じ目線になる。おお、優しいお兄さんって感じだけどアンジェリカさんの言動から見るに気苦労が絶えなさそう。てか、目の下の隈やべえ。


「えーっと、はじめまして。俺はケイリー。君は?」
「アズールと言います。よろしくお願いします」


そう言って頭を下げるとおおっとケイリーさんは感動したように声をあげる。俺はそのまま来賓のソファに座らせられてお菓子を出された。俺は出されたそれを食べている間に二人は俺が聞こえない距離で話をしている。興味がないので盗み聞きはしない。変なことには巻き込まれてくないんだ。

暫く二人で話をしていたら、こんこんっと扉の叩く音が聞こえた。それから「ティナです。先程の研究報告をしに来ました。お時間ありますか……?」と声がした。可愛らしい名前だが男の声だった。


「あ、ちょっと待ってね。アン、アズール君をつれて帰ってくれる?」
「いいの?ここには魔法のスペシャリストが二人もいるのよ?」
「え、二人……?」
「お、俺まだ6歳だから難しいことわかんない!!!!」


俺は反射的にそう強く言った。アンジェリカさんはにっこりと笑って俺を見ている。


「ねえケイリー。あなた高位悪魔か天使よべる?」
「は?そんなのこの国では老師エンペレード様ぐらいだろ?俺がよべるわけ……」


だらだらっと濁流のように汗が流れる。いや、い、いまの俺がよんだ訳じゃない。よんだわけじゃない!!!彼女がすでに彼らの存在に気づいているなんて予想外だ。考えられることはすでに彼女は彼らの術をレジストしているということだ。つまり、同じ精神支配系の術は効かないということになる。

ただ始めかけたときは効いていたのだろう。徐々にその違和感に気づき今ではテレシアとクラウスがそれらであることに気づいた。とはいえ、彼らは同族のなかでも変わった容姿であるため気づかれることはあまりないのだが……。アンジェリカさんは勘が良い。そして、嘘が苦手な俺を一人にしてこう問い詰める辺りさすがとしか言いようがない。

無言でお菓子を口のなかに入れているとケイリーさんの視線が俺に刺さる。


「……まじで?」
「まじ。私も最近までかかってたもの。下手なことするとこっちの命が危ないわ。なんで私には呪術体制がついてるのかしら。なかったらよかったのに」
「俺、始めてこの職場でよかったって思った」
「言っておくけど他言無用よ」
「わかってる」


そう言ってはあっと息を吐いた後ケイリーさんは俺に頭を下げた。俺は驚いてビクッと体を震わせる。


「嫌かもしれないけど力を貸してください、お願いします」
「あ、いや……俺にできることがあれば……」


俺がそう言うと、ソファが不自然に沈んだ。ぎょっとした顔でケイリーさんとアンジェリカさんが両脇を見ていて俺は恐る恐る隣を見る。そこには足を組んでにこにこと笑顔のテレシアとクラウスがいた。


「ばれてたんだ~。まあ、これからよろしくねー」
「挨拶がわりに私たちも協力いたしますね。私からもよろしくお願いします」
「は、はは……俺死なない?大丈夫だよね……?」
「死ぬときは一緒よ、ケイリー」


そんな物騒なことにはならないよ。大丈夫だから!!
ーーーーーー
ましろさん感想ありがとうございます!とても嬉しいです。
また、たくさんのお気に入り登録ありがとうございます。これからも楽しんでいただけたら嬉しいです(笑)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

処理中です...