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13 やめろ、貢ぐな俺に

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「向かう前に準備をしましょう。場所が場所なので野宿の準備もしないといけませんし」
「じゃあオレ、シキと一緒にシキの持ち物買う~。どうせ何も用意してないだろ~?」

 繻楽がのしっと俺の肩に腕を回す。いやでかい。でかいな繻楽。なんでそんなに育ったんだお前。
 腰ぐらいの身長だった繻楽がいつの間にか俺の頭一つ分大きくなっている。りりしい顔立ちになってさぞモテるだろう。そんな彼がぐっと俺に顔を近づけてそんな事を言う。
 確かに彼の言うとおり、今の俺は何も持っていない。とりあえず金でもあるかと懐を探ってみるが、やはり何もなかった。恐らく腰に差している剣が今の俺の財産である。

「えーっと、俺お金が無いので……」
「お金は私達が出しますので構いません。ですが、シキが何か買う必要あります?」

 何も持ってないことを雪瓔は知らないだろうな。俺も信じたくないよ。今俺は何も持っていないという事を。
 親が子供にものをせびるのはどうかと思うが、何も持っていない事を隠してあとから露見する方が問題だ。だから素直に全財産は腰に差している剣だけであると正直に言おうと口を開く。がしかし、その前に繻楽がこう言った。

「あるよ。暇つぶし道具」
「ああ、そうですね」

 いや、そんなもの一番要らないよ?俺を一体何だと思っているの?

「じゃ、行ってくるね~。優蘭がいるとこ集合で」
「分かりました」
「あそこの茶屋にいる」

 三人は示し合わせたかのように各々行動を始めた。俺は、彼らの息の合った行動力に呆気にとられつつ、繻楽に引きずられる。
 そうして、町中をのんびり散策……したかった。

「あ、これシキに似合いそう。おじちゃーん、これくださーい!」
「!?」
「お腹空いたとき、シキが食うかもな。これも買お~。おばちゃんあるだけ包んで」
「!!??」

 目に映るもの全て繻楽は買い出した。しかも、俺の為って!気持ちは嬉しいが金遣いが荒すぎる!!

「ストップ!! 俺の為に買おうとしてくれるその気持ちだけ貰っとくから要らんもん買うな!!」
「えー? こんなの雪瓔よりましだけど? あいつ、服から道具からぜーんぶシキのために用意して馬に積んでるし」
「積んでるの!?」

 この短時間で俺の為に色々買ってるの!?強引に連れてこられたけど、新人に激甘なのか雪瓔……。良い事なのか悪いことなのか分からないが、そういうのは後学のためにも新人にやらせた方が良いんじゃ……。

「だからオレもシキに貢ぎたい」
「やめて!!」
「え~?」

 繻楽は不満げな表情を浮かべる。まだこの世界のお金の価値がいまいち分からない俺でも湯水のように使うのは間違っていると思う。
 どうにか止めてはいるが、雪瓔も交えて三人で行動した方が良かったのでは?暇つぶし道具とか言ってる時点でおかしいなとは思っていたけど!!

「必要なものだけ買う!!」
「んー。じゃあこれだけ見逃して」
「これってどれ……」

 そう言って繻楽が手にしたのは花札だ。花札。俺ルール分からないんだよな……。

「暇つぶし道具」
「良いけど、花札俺分かんないよ」
「教えてあげる。時間はたっぷりあるんだし」
「そりゃどうも……」

 花札ぐらいだったら良いだろう。そう思って繻楽から一瞬目を離したら複数の装飾品、宝石と共に戻ってきた。目を疑った。
 一体、どこから買ってきた。

「何で買った」
「え? そこにあったから?」
「返してこい!!」
「やだ~」

 そう言って繻楽は俺の手首や首に買ってきた装飾品を嵌める。それから宝石類を俺の懐に詰め込んだ。その行為に大変覚えがある。
 繻楽は確か、ゲーム内でもキラキラした石を俺のベッドや服の中隠したり、アクセサリーを俺につけたりしていた。どこから持ってきたのか分からないが、ゲームだから気にしていなかった。
 今ではいくら掛かったのか値段を聞くのが怖い……。

「耳、穴開けたーい。だめ?」

 最後に、繻楽は断りも無く俺の耳たぶに触れる。お前、俺だから良かったものの、他の人だったら相当驚いているぞ。親しい人でも耳たぶに触るなんて行為あまりないのに……。
 そのことを注意するべきかと思ったが、じっと繻楽が俺を不安げに見つめているのでやめておいた。

「良いけど、今か?」
「やったー!! じゃあ一杯耳飾り買おー」
「やっぱりなし」
「だめー。オレ知らなーい」

 繻楽は、ふんふーんっと上機嫌に鼻歌を歌っている。しまったと俺は自分の失言に猛省しながら彼の手に導かれるまま歩き出した。
 先ほどは繻楽に振り回されていたが、今はゆっくりと周りを見渡せる。色々みたことの無いものばっかり売ってるなぁ。出店は食べ物の店が多く、他には布を売っている店やアクセサリーが並んでいる店などがあった。

「こういうとこ初めて?」
「うん」
「だよね~。知ってた」

 そんなに田舎者丸出しできょろきょろしてた?してたか……。
 だって、まだ実感が湧かないのだ。撮影のセットみたいなこの中国風の世界に。
 本当に異世界に来てしまったんだな、俺。
 そんな事を考えるが、繻楽に言っても仕方ない。だから俺は繻楽の言葉に多少苦笑いを漏らしながら小さく頷いた。
 すると彼はぎゅっと力強く俺の手を握って軽く引いた。

「オレが案内してあげる~!」
「いや、買い出しの途中だろ。また次の機会な」
「次ぃ? 次が本当にあるの?」
「あるよ」

 元の世界に戻る方法も分からないし、そもそも元の世界に未練なんて無い。仮に見つかったとしても俺には要らない手段だ。
 俺は、この子達の方が大事だから。

「もし、俺が突然消えたとしてもそれは俺の意思じゃない」

 だから今度不可抗力で消えたとしても穏便に済ませて欲しい……。監禁反対!!
 俺はそう考えながら繻楽を見た。繻楽は何故か、によによと得意げな笑みを浮かべている。なんだその顔はと反応に困っていると繻楽はご機嫌にこう言った。

「知ってる~。オレのこと大好きだもんね~」
「まあ、否定はしないが……」
「は? ちゃんと言ってよ」
「大好きだよ」

 繻楽にすごまれてびびったが、次にはにこーっと満面の笑みになっていた。
 そういう所は変わらないんだなぁ,この子。一瞬で豹変する気分屋ではあるが、こんなことですぐに機嫌が良くなるなんて、本当に可愛い子だ。
 よしよしっと軽く頭を撫でてから俺も彼に釣られて笑顔になる。

「じゃあ、戻ろうか」
「うん!」

 そうして繻楽としっかりと手をつないだまま、俺は優蘭の元に向かったのだった。
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