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9 二次試験、突破、だと……
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「二次試験はこちらです」
係員の人の指示に従って、他の合格者と一緒に俺も移動する。合格者はぱっと見20人ほどしかいなかった。どれほどの人間がこの試験を受けたのか分からないが、多くはないだろう。
「暫くこちらでお待ちください」
そう言って案内された場所には大きな丸い机と椅子が並べてある。人数分以上の椅子がありそうだ。前の方にはお茶と菓子が並べてある。
ここ、二次試験なんだよな?休憩所みたいだけど……。普段の様子を見るとかそういう奴?
なんだか分からないが、この二次試験で落ちるのが俺の目的。試験会場と言われて通された場所に戸惑っている合格者達をかき分けて俺は真っ先にお茶と菓子の場所に向かった。
「お、美味しそうなお菓子だなあ!! ちょうどお腹空いてたからラッキー!!」
礼儀作法なんて知らない田舎者という事で菓子も多めにとって、お茶もなみなみ注ぐ。そしてど真ん中の机に座った。ちらちらと他の合格者の視線が突き刺さるが気にしない。
俺は彼らとは目的が違うからな。
一口、菓子を口にする。うまい。中に餡がぎっしり詰まってる。雪瓔が好きそうな甘味だ。俺もそれなりに甘味は好きだが、一生食べ続ける事が出来ると言えば答えはNO。
三個は取り過ぎた……。結構甘すぎる……。
口の中の甘さを消し去るため渋いお茶を飲もうと口にする。
「ごふぉ……っ!!」
あまりにも渋すぎるお茶に思わず咳き込んでしまう。げほごほと咳き込んでいるとすっと誰かが水の入った湯飲みを差し出してくれた。俺はそれを受け取ってごくごくと飲み干す。
し、死ぬかと思った……。
「あ、ありがとうございます……」
「……」
俺は顔を上げて恐らく水を差しだしてくれた男をみた。彼は俺の言葉に何も反応せずにどかっと反対側の椅子に座るとペラペラと本を読み始める。
優蘭みたいだなと思いながら、そろりと彼の容姿を観察してみる。艶やかな黒い髪をポニーテールにしている男だ。多分美形……だと思う。
ぱちぱちと俺は瞬きをしてからゴシゴシと目元を擦る。そしてもう一度男をみるが、顔が揺らいで認識できない。そういう道術をかけているのだろう。そんな術をかけて試験に挑む人間なんて試験の関係者だろうか。
周りをチラリと伺うと、同じような人間が数名いることに気がついた。つまりもう試験は始まっているということだろう。落ちることを目標にしているので関わらない方が良いだろう。
あんまり見つめて気付かれていると思われても困る。そう思い、俺はお礼を言ったのに黙ったままの男に気分を害して席を移動したというていで、菓子とお茶を持って別の席に移動する。
幸いなことに席に座っている人間は少ないので席は沢山空いている。俺は誰も座っていない机についてもう一度菓子とお茶を楽しむ。
まさか繻楽の気まぐれで作るようなまずいお茶が出てくるとは思わなくて油断しただけだ。飲めないほどではない。
よくよくみると、そのまずいお茶に手をつけている人間は俺以外にいなかった。そうか。香りとかお茶の色で普通は分かるものだよな。俺は何も考えていなかった。繻楽のお茶ばっかり飲んできたからか?
つい癖で茶菓子を食べ終わるより先にお茶を飲み干してしまう。じっと俺は空になった湯飲みと残っているだろうまずいお茶を見比べて苦笑した。
残すの勿体ないし、飲もうかな。繻楽みたいなお茶だという事もあり、俺は湯飲みを手に持ってまずいお茶に手を伸ばす。かなりの量がありそうだ。往復するのも面倒だし、誰も飲まないだろうから茶壺ごと持って行こう。
そう思い、それを手にして席に戻る。それにしても試験とやらはもう始まっているのだろうか。それならもしかしてお茶の目利き……か?
それにしては試験官様が多いような気も……。
不意に、するりと俺の腰に誰かの手が伸びた。気配がほとんど無いけれど、似たようなことを常日頃されたことがある。
「それ、欲しいの?」
「……へえ」
手癖の悪い可愛い子が俺にいたから。その名も繻楽である。
赤ちゃんの頃にでかい宝石を口にしていたあの衝動は大きくなって徐々に落ち着きを取り戻していた。しかし、落ち着いているだけで完全に無くなったわけではない。
キラキラしたものに目がなく、それを盗み取る技術が目を見張る。本当にスリをしてきたかのように自然に近づき懐に入れるのだ。
だから彼が俺の腰に下げている合格札を盗ろうとしているのに気がついた。
俺の言葉にその男がこてんと首を傾げる。
こ、この人も顔の認識が出来ない……。赤い髪を三つ編みにしている男の試験官だろうというのは分かるのだがそれ以上は分からない。
というより、俺の馬鹿!!何で声かけた!!絶対今の試験だろ。つい繻楽みたいな盗り方するから思わず話しかけちゃったよ!!
だらだらと冷や汗を流しながらこの失態をどう取り戻そうか考えていると、男が隣の椅子を引いて俺の隣に座る。そしてすっと茶壺を指さした。
「ねえ、そのお茶美味しい?」
「不味いです」
「ぶっは! じゃあ何で持ってきたの?」
「誰も飲まないと思ったので」
「変なの~」
第三者にはっきりそういわれ、苦笑してしまう。確かに普通はすすんで不味いお茶なんか飲まないだろう。繻楽に毒されたのかな俺も。
「じゃ、あげるよこれ」
「げほっ!?」
気にせずごくりとお茶を飲んでいると机の上に赤い木札が置かれた。思わず咳き込んでしまう。
ま、まさかこれって――っ!?
「二次試験合格~。三次試験頑張ってね」
「ま……っ!!」
「試験終了致しました。赤札を持っている方が合格になります」
席を立って試験官様にその赤札を返そうとした。一次試験でもらったものと同じサイズなので俺はこの人に気に入られてしまったとすぐに判断した。二次試験で落ちるつもりだったのにまた誰かに気に入られるなんてそんなのありえない!!
しかし、無情にもそこで試験の終わりを告げられた。同じような試験官様だったのだろう。その試験官様の手にも気をとられているといつの間にかあの試験官様がいなくなっていた。俺には新たに増えた赤札一枚が残されている。
な、何故、俺は二次試験を突破してしまったのだろうか……。
俺は頭を抱えてその場に立ち尽くすしか無かった。
係員の人の指示に従って、他の合格者と一緒に俺も移動する。合格者はぱっと見20人ほどしかいなかった。どれほどの人間がこの試験を受けたのか分からないが、多くはないだろう。
「暫くこちらでお待ちください」
そう言って案内された場所には大きな丸い机と椅子が並べてある。人数分以上の椅子がありそうだ。前の方にはお茶と菓子が並べてある。
ここ、二次試験なんだよな?休憩所みたいだけど……。普段の様子を見るとかそういう奴?
なんだか分からないが、この二次試験で落ちるのが俺の目的。試験会場と言われて通された場所に戸惑っている合格者達をかき分けて俺は真っ先にお茶と菓子の場所に向かった。
「お、美味しそうなお菓子だなあ!! ちょうどお腹空いてたからラッキー!!」
礼儀作法なんて知らない田舎者という事で菓子も多めにとって、お茶もなみなみ注ぐ。そしてど真ん中の机に座った。ちらちらと他の合格者の視線が突き刺さるが気にしない。
俺は彼らとは目的が違うからな。
一口、菓子を口にする。うまい。中に餡がぎっしり詰まってる。雪瓔が好きそうな甘味だ。俺もそれなりに甘味は好きだが、一生食べ続ける事が出来ると言えば答えはNO。
三個は取り過ぎた……。結構甘すぎる……。
口の中の甘さを消し去るため渋いお茶を飲もうと口にする。
「ごふぉ……っ!!」
あまりにも渋すぎるお茶に思わず咳き込んでしまう。げほごほと咳き込んでいるとすっと誰かが水の入った湯飲みを差し出してくれた。俺はそれを受け取ってごくごくと飲み干す。
し、死ぬかと思った……。
「あ、ありがとうございます……」
「……」
俺は顔を上げて恐らく水を差しだしてくれた男をみた。彼は俺の言葉に何も反応せずにどかっと反対側の椅子に座るとペラペラと本を読み始める。
優蘭みたいだなと思いながら、そろりと彼の容姿を観察してみる。艶やかな黒い髪をポニーテールにしている男だ。多分美形……だと思う。
ぱちぱちと俺は瞬きをしてからゴシゴシと目元を擦る。そしてもう一度男をみるが、顔が揺らいで認識できない。そういう道術をかけているのだろう。そんな術をかけて試験に挑む人間なんて試験の関係者だろうか。
周りをチラリと伺うと、同じような人間が数名いることに気がついた。つまりもう試験は始まっているということだろう。落ちることを目標にしているので関わらない方が良いだろう。
あんまり見つめて気付かれていると思われても困る。そう思い、俺はお礼を言ったのに黙ったままの男に気分を害して席を移動したというていで、菓子とお茶を持って別の席に移動する。
幸いなことに席に座っている人間は少ないので席は沢山空いている。俺は誰も座っていない机についてもう一度菓子とお茶を楽しむ。
まさか繻楽の気まぐれで作るようなまずいお茶が出てくるとは思わなくて油断しただけだ。飲めないほどではない。
よくよくみると、そのまずいお茶に手をつけている人間は俺以外にいなかった。そうか。香りとかお茶の色で普通は分かるものだよな。俺は何も考えていなかった。繻楽のお茶ばっかり飲んできたからか?
つい癖で茶菓子を食べ終わるより先にお茶を飲み干してしまう。じっと俺は空になった湯飲みと残っているだろうまずいお茶を見比べて苦笑した。
残すの勿体ないし、飲もうかな。繻楽みたいなお茶だという事もあり、俺は湯飲みを手に持ってまずいお茶に手を伸ばす。かなりの量がありそうだ。往復するのも面倒だし、誰も飲まないだろうから茶壺ごと持って行こう。
そう思い、それを手にして席に戻る。それにしても試験とやらはもう始まっているのだろうか。それならもしかしてお茶の目利き……か?
それにしては試験官様が多いような気も……。
不意に、するりと俺の腰に誰かの手が伸びた。気配がほとんど無いけれど、似たようなことを常日頃されたことがある。
「それ、欲しいの?」
「……へえ」
手癖の悪い可愛い子が俺にいたから。その名も繻楽である。
赤ちゃんの頃にでかい宝石を口にしていたあの衝動は大きくなって徐々に落ち着きを取り戻していた。しかし、落ち着いているだけで完全に無くなったわけではない。
キラキラしたものに目がなく、それを盗み取る技術が目を見張る。本当にスリをしてきたかのように自然に近づき懐に入れるのだ。
だから彼が俺の腰に下げている合格札を盗ろうとしているのに気がついた。
俺の言葉にその男がこてんと首を傾げる。
こ、この人も顔の認識が出来ない……。赤い髪を三つ編みにしている男の試験官だろうというのは分かるのだがそれ以上は分からない。
というより、俺の馬鹿!!何で声かけた!!絶対今の試験だろ。つい繻楽みたいな盗り方するから思わず話しかけちゃったよ!!
だらだらと冷や汗を流しながらこの失態をどう取り戻そうか考えていると、男が隣の椅子を引いて俺の隣に座る。そしてすっと茶壺を指さした。
「ねえ、そのお茶美味しい?」
「不味いです」
「ぶっは! じゃあ何で持ってきたの?」
「誰も飲まないと思ったので」
「変なの~」
第三者にはっきりそういわれ、苦笑してしまう。確かに普通はすすんで不味いお茶なんか飲まないだろう。繻楽に毒されたのかな俺も。
「じゃ、あげるよこれ」
「げほっ!?」
気にせずごくりとお茶を飲んでいると机の上に赤い木札が置かれた。思わず咳き込んでしまう。
ま、まさかこれって――っ!?
「二次試験合格~。三次試験頑張ってね」
「ま……っ!!」
「試験終了致しました。赤札を持っている方が合格になります」
席を立って試験官様にその赤札を返そうとした。一次試験でもらったものと同じサイズなので俺はこの人に気に入られてしまったとすぐに判断した。二次試験で落ちるつもりだったのにまた誰かに気に入られるなんてそんなのありえない!!
しかし、無情にもそこで試験の終わりを告げられた。同じような試験官様だったのだろう。その試験官様の手にも気をとられているといつの間にかあの試験官様がいなくなっていた。俺には新たに増えた赤札一枚が残されている。
な、何故、俺は二次試験を突破してしまったのだろうか……。
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