上 下
13 / 27

7 そして、異世界転移したらしい……

しおりを挟む
 この屋敷の庭にはいかにも訓練におあつらえ向けの大きな場所がある。NPCの手に掛かればかかしや木刀を準備するのもお手の物。

 今回は先に雪瓔の道術訓練なので、周りに被害が出ないようその場所全体に防御の術をかける。事前に作っていた防御の呪符をばらまくだけなので簡単だ。



「おり! 準備できました!」

「おお、一杯作ってたんだね」

「はい!」



 この呪符一枚作るのにも道術を使うので、大量に作るにはそれなりに力を使う。当たり前だ。これ一枚で道術を使えない人間も使えるようになる便利アイテムなのだから。金稼ぎにはもってこいのアイテムだ。

 俺はそれを持って準備をしている雪瓔を見ながらふと、今までの疑問を口にする。



「ずっと思ってたんだけど、なんで呪符使って訓練するの? 雪瓔、道術使えるよね?」



 呪符を作る位には道術が使えるのはずだと思うのだが、いつも雪瓔は自ら道術を使わない。雪瓔に限らず、優蘭や繻楽もそうだ。



「……鱗が……」

「鱗? 気にしなくて良いのにそんなの。別に俺とあの子達しか見ないんだし」



 道術を使うと鱗が出てしまうのか。それをずっと気にしてたとは知らなかったな~。

 てっきり水を被らなければ大丈夫だと思っていた。そういう制限があったとは……。



「だから、道術は使いません」

「んー……」



 雪瓔は諦めたかのような表情を浮かべてそう言った。まだ子供なのに、そんな顔をするなんて……。

 俺の力でどうにかならないかな?



「ねえ、一回道術使ってみない?」

「え、どうしてですか?」

「もしかしたら俺が力になれることがあるかもしれないから」

「おり、気にしなくても良いですよ」

「でも気になっちゃう。雪瓔が嫌なら諦めるけど、だめかな?」

「……」



 膝をついて雪瓔と同じ目線になり、手を握りながら優しく話をする。そんな俺に雪瓔は困った表情をする。それから迷ったように視線をさまよわせたあと、静かに目を閉じた。

 風の流れが変わる。俺と雪瓔を中心に風が渦を巻き、竜巻を生みだそうと雪瓔が道術を使ったようだ。それと同時に雪瓔の頬や手の甲に鱗が浮き上がってきた。

 俺はじっと雪瓔の道術が発動する過程を見て、そっと腹部を触った。



「!?」

「止めないで。そのまま」



 今俺は雪瓔の力の流れをみている。道術を使う際には自身の中にある霊力を放出させるのが一般的だ。それを溜める器が腹部当たりにあり、その容器によって使える霊力が決められている。早い話、大きければ大きいほど霊力を溜める事が出来て、強力な動力を使えたり、長く発動できる。

 三人の中では雪瓔が一番大きいので、その基準から言うと道術を扱うのに長けているのだが……。



「これか、これが雪瓔の霊力より先に消費されちゃうから鱗が出ちゃうのかも。ちょっとごめんね」

「……うっ!」



 雪瓔の霊力とは別の何かが常に体中を循環している。そのせいで、器に溜まっている霊力より先に道術を使う力として消費されているようだった。もしかして、今発動させているのも道術に似た別の術なのかな?あんまり違いが分からないけど。

 ひとまずその力を一時的に止めてみた。すると雪瓔は苦しそうに声を上げ、みるみる内に道術の力が弱まってきた。それに伴って鱗も徐々に引いて普通の肌に戻っていく。やっぱりこれのせいで鱗が出ちゃうみたいだな。



「雪瓔、こっちの力で道術を使ってみて」

「う、うぐ……」

「あ、分からないか。どうしよう」

「いえ……。出来ます」

「まじで? 賢いなぁ」



 説明もなしに感覚で覚えろというくそみたいな指導の仕方なのに雪瓔は分かってくれた。うちの子賢いと言わずして何になる。

 そして雪瓔は本当にその感覚だけで道術を発動させた。一気にぶわっと強い風が吹き、雪瓔の軽い体が若干浮く。危ないと俺は雪瓔の手をしっかり握ったまま吹っ飛ばないように腰を掴んだ。

 庭に置いてあるかかしとかは吹っ飛んだけど、あとでNPCが片付けてくれるのでよし!!

 そうして暫く風になびかれていると徐々にそれは収束していって止まった。



「雪瓔!」

「だ、いじょうぶ、です」



 一気に霊力を使ったからか雪瓔がふらりとよろめいた。俺はしっかり彼の体を抱き上げて、縁側に並んでいる優蘭たちの隣に寝かせた。



「今日はおしまい」

「まだ、出来ます……」

「だめだめ。休もうね」



 上着を脱いで雪瓔にかけてあげる。それから頭を撫でた。



「大丈夫。焦らなくてもまた俺と一緒にやれば良いでしょ?」

「……はい」



 そう言うとやはり疲れたのか雪瓔はすぐに眠りについた。静かに寝息を立てる雪瓔を見つめたあと優蘭をみる。優蘭と繻楽はじっと雪瓔に釘付けで信じられないと言ったような表情を浮かべていた。



「さて、優蘭はどうする?」



 俺がそう優蘭に声をかけると彼はばっと顔を上げて期待のこもった目で俺を見ている。やはり、この子達も雪瓔と同じような悩みを持って道術を使えなかったのだろうか。

 今まで気付いてあげられなくて申し訳ない。俺パパなのに……。



「雪瓔と同じ事をやってくれるのか?」

「勿論。繻楽もやる?」

「やる!!」



 そうしてその日は三人で寝込んだ。初めて霊力を使ったようで負担が大きかったみたいだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

処理中です...