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7 そして、異世界転移したらしい……
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この屋敷の庭にはいかにも訓練におあつらえ向けの大きな場所がある。NPCの手に掛かればかかしや木刀を準備するのもお手の物。
今回は先に雪瓔の道術訓練なので、周りに被害が出ないようその場所全体に防御の術をかける。事前に作っていた防御の呪符をばらまくだけなので簡単だ。
「おり! 準備できました!」
「おお、一杯作ってたんだね」
「はい!」
この呪符一枚作るのにも道術を使うので、大量に作るにはそれなりに力を使う。当たり前だ。これ一枚で道術を使えない人間も使えるようになる便利アイテムなのだから。金稼ぎにはもってこいのアイテムだ。
俺はそれを持って準備をしている雪瓔を見ながらふと、今までの疑問を口にする。
「ずっと思ってたんだけど、なんで呪符使って訓練するの? 雪瓔、道術使えるよね?」
呪符を作る位には道術が使えるのはずだと思うのだが、いつも雪瓔は自ら道術を使わない。雪瓔に限らず、優蘭や繻楽もそうだ。
「……鱗が……」
「鱗? 気にしなくて良いのにそんなの。別に俺とあの子達しか見ないんだし」
道術を使うと鱗が出てしまうのか。それをずっと気にしてたとは知らなかったな~。
てっきり水を被らなければ大丈夫だと思っていた。そういう制限があったとは……。
「だから、道術は使いません」
「んー……」
雪瓔は諦めたかのような表情を浮かべてそう言った。まだ子供なのに、そんな顔をするなんて……。
俺の力でどうにかならないかな?
「ねえ、一回道術使ってみない?」
「え、どうしてですか?」
「もしかしたら俺が力になれることがあるかもしれないから」
「おり、気にしなくても良いですよ」
「でも気になっちゃう。雪瓔が嫌なら諦めるけど、だめかな?」
「……」
膝をついて雪瓔と同じ目線になり、手を握りながら優しく話をする。そんな俺に雪瓔は困った表情をする。それから迷ったように視線をさまよわせたあと、静かに目を閉じた。
風の流れが変わる。俺と雪瓔を中心に風が渦を巻き、竜巻を生みだそうと雪瓔が道術を使ったようだ。それと同時に雪瓔の頬や手の甲に鱗が浮き上がってきた。
俺はじっと雪瓔の道術が発動する過程を見て、そっと腹部を触った。
「!?」
「止めないで。そのまま」
今俺は雪瓔の力の流れをみている。道術を使う際には自身の中にある霊力を放出させるのが一般的だ。それを溜める器が腹部当たりにあり、その容器によって使える霊力が決められている。早い話、大きければ大きいほど霊力を溜める事が出来て、強力な動力を使えたり、長く発動できる。
三人の中では雪瓔が一番大きいので、その基準から言うと道術を扱うのに長けているのだが……。
「これか、これが雪瓔の霊力より先に消費されちゃうから鱗が出ちゃうのかも。ちょっとごめんね」
「……うっ!」
雪瓔の霊力とは別の何かが常に体中を循環している。そのせいで、器に溜まっている霊力より先に道術を使う力として消費されているようだった。もしかして、今発動させているのも道術に似た別の術なのかな?あんまり違いが分からないけど。
ひとまずその力を一時的に止めてみた。すると雪瓔は苦しそうに声を上げ、みるみる内に道術の力が弱まってきた。それに伴って鱗も徐々に引いて普通の肌に戻っていく。やっぱりこれのせいで鱗が出ちゃうみたいだな。
「雪瓔、こっちの力で道術を使ってみて」
「う、うぐ……」
「あ、分からないか。どうしよう」
「いえ……。出来ます」
「まじで? 賢いなぁ」
説明もなしに感覚で覚えろというくそみたいな指導の仕方なのに雪瓔は分かってくれた。うちの子賢いと言わずして何になる。
そして雪瓔は本当にその感覚だけで道術を発動させた。一気にぶわっと強い風が吹き、雪瓔の軽い体が若干浮く。危ないと俺は雪瓔の手をしっかり握ったまま吹っ飛ばないように腰を掴んだ。
庭に置いてあるかかしとかは吹っ飛んだけど、あとでNPCが片付けてくれるのでよし!!
そうして暫く風になびかれていると徐々にそれは収束していって止まった。
「雪瓔!」
「だ、いじょうぶ、です」
一気に霊力を使ったからか雪瓔がふらりとよろめいた。俺はしっかり彼の体を抱き上げて、縁側に並んでいる優蘭たちの隣に寝かせた。
「今日はおしまい」
「まだ、出来ます……」
「だめだめ。休もうね」
上着を脱いで雪瓔にかけてあげる。それから頭を撫でた。
「大丈夫。焦らなくてもまた俺と一緒にやれば良いでしょ?」
「……はい」
そう言うとやはり疲れたのか雪瓔はすぐに眠りについた。静かに寝息を立てる雪瓔を見つめたあと優蘭をみる。優蘭と繻楽はじっと雪瓔に釘付けで信じられないと言ったような表情を浮かべていた。
「さて、優蘭はどうする?」
俺がそう優蘭に声をかけると彼はばっと顔を上げて期待のこもった目で俺を見ている。やはり、この子達も雪瓔と同じような悩みを持って道術を使えなかったのだろうか。
今まで気付いてあげられなくて申し訳ない。俺パパなのに……。
「雪瓔と同じ事をやってくれるのか?」
「勿論。繻楽もやる?」
「やる!!」
そうしてその日は三人で寝込んだ。初めて霊力を使ったようで負担が大きかったみたいだ。
今回は先に雪瓔の道術訓練なので、周りに被害が出ないようその場所全体に防御の術をかける。事前に作っていた防御の呪符をばらまくだけなので簡単だ。
「おり! 準備できました!」
「おお、一杯作ってたんだね」
「はい!」
この呪符一枚作るのにも道術を使うので、大量に作るにはそれなりに力を使う。当たり前だ。これ一枚で道術を使えない人間も使えるようになる便利アイテムなのだから。金稼ぎにはもってこいのアイテムだ。
俺はそれを持って準備をしている雪瓔を見ながらふと、今までの疑問を口にする。
「ずっと思ってたんだけど、なんで呪符使って訓練するの? 雪瓔、道術使えるよね?」
呪符を作る位には道術が使えるのはずだと思うのだが、いつも雪瓔は自ら道術を使わない。雪瓔に限らず、優蘭や繻楽もそうだ。
「……鱗が……」
「鱗? 気にしなくて良いのにそんなの。別に俺とあの子達しか見ないんだし」
道術を使うと鱗が出てしまうのか。それをずっと気にしてたとは知らなかったな~。
てっきり水を被らなければ大丈夫だと思っていた。そういう制限があったとは……。
「だから、道術は使いません」
「んー……」
雪瓔は諦めたかのような表情を浮かべてそう言った。まだ子供なのに、そんな顔をするなんて……。
俺の力でどうにかならないかな?
「ねえ、一回道術使ってみない?」
「え、どうしてですか?」
「もしかしたら俺が力になれることがあるかもしれないから」
「おり、気にしなくても良いですよ」
「でも気になっちゃう。雪瓔が嫌なら諦めるけど、だめかな?」
「……」
膝をついて雪瓔と同じ目線になり、手を握りながら優しく話をする。そんな俺に雪瓔は困った表情をする。それから迷ったように視線をさまよわせたあと、静かに目を閉じた。
風の流れが変わる。俺と雪瓔を中心に風が渦を巻き、竜巻を生みだそうと雪瓔が道術を使ったようだ。それと同時に雪瓔の頬や手の甲に鱗が浮き上がってきた。
俺はじっと雪瓔の道術が発動する過程を見て、そっと腹部を触った。
「!?」
「止めないで。そのまま」
今俺は雪瓔の力の流れをみている。道術を使う際には自身の中にある霊力を放出させるのが一般的だ。それを溜める器が腹部当たりにあり、その容器によって使える霊力が決められている。早い話、大きければ大きいほど霊力を溜める事が出来て、強力な動力を使えたり、長く発動できる。
三人の中では雪瓔が一番大きいので、その基準から言うと道術を扱うのに長けているのだが……。
「これか、これが雪瓔の霊力より先に消費されちゃうから鱗が出ちゃうのかも。ちょっとごめんね」
「……うっ!」
雪瓔の霊力とは別の何かが常に体中を循環している。そのせいで、器に溜まっている霊力より先に道術を使う力として消費されているようだった。もしかして、今発動させているのも道術に似た別の術なのかな?あんまり違いが分からないけど。
ひとまずその力を一時的に止めてみた。すると雪瓔は苦しそうに声を上げ、みるみる内に道術の力が弱まってきた。それに伴って鱗も徐々に引いて普通の肌に戻っていく。やっぱりこれのせいで鱗が出ちゃうみたいだな。
「雪瓔、こっちの力で道術を使ってみて」
「う、うぐ……」
「あ、分からないか。どうしよう」
「いえ……。出来ます」
「まじで? 賢いなぁ」
説明もなしに感覚で覚えろというくそみたいな指導の仕方なのに雪瓔は分かってくれた。うちの子賢いと言わずして何になる。
そして雪瓔は本当にその感覚だけで道術を発動させた。一気にぶわっと強い風が吹き、雪瓔の軽い体が若干浮く。危ないと俺は雪瓔の手をしっかり握ったまま吹っ飛ばないように腰を掴んだ。
庭に置いてあるかかしとかは吹っ飛んだけど、あとでNPCが片付けてくれるのでよし!!
そうして暫く風になびかれていると徐々にそれは収束していって止まった。
「雪瓔!」
「だ、いじょうぶ、です」
一気に霊力を使ったからか雪瓔がふらりとよろめいた。俺はしっかり彼の体を抱き上げて、縁側に並んでいる優蘭たちの隣に寝かせた。
「今日はおしまい」
「まだ、出来ます……」
「だめだめ。休もうね」
上着を脱いで雪瓔にかけてあげる。それから頭を撫でた。
「大丈夫。焦らなくてもまた俺と一緒にやれば良いでしょ?」
「……はい」
そう言うとやはり疲れたのか雪瓔はすぐに眠りについた。静かに寝息を立てる雪瓔を見つめたあと優蘭をみる。優蘭と繻楽はじっと雪瓔に釘付けで信じられないと言ったような表情を浮かべていた。
「さて、優蘭はどうする?」
俺がそう優蘭に声をかけると彼はばっと顔を上げて期待のこもった目で俺を見ている。やはり、この子達も雪瓔と同じような悩みを持って道術を使えなかったのだろうか。
今まで気付いてあげられなくて申し訳ない。俺パパなのに……。
「雪瓔と同じ事をやってくれるのか?」
「勿論。繻楽もやる?」
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