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 このゲームを初めて半年は経つ。まさかこんなにハマるとは思わなかったが、今ではこの子達がいない生活の方が考えられない。

 名前を聞かれたときにはかなり驚いたが、断る理由もないので普通に答えた。名字も言ったけどいまいち分かっていないようなので名前だけ覚えて貰うことにして、今では織と呼ばれることが多い。

 まあ、何かお願いしたいときはパパと呼ぶが。俺の扱いがうますぎる。



「あ、ちょっと待って」



 しかし、彼らはあくまでもゲームのキャラクター。現実を生きる俺にとっては存在しないもの。

 だから本来の目的を果たそうと、こりもせずまた彼女を作った。ゲームを始めて以来、九人目の彼女だ。ん?察しの通り、前の彼女たちは真実の愛に目覚め以下略。

 しかし、それ位でめげない!!たった九人!まだ二桁いってないからオッケー!!



「彼女から連絡が……ああ」



 一度VR機器を外して着信音が鳴ったスマホを手に取る。そして察した。

 俺はまた、振られたのだと!!



「何故、俺は浮気されてしまうのだろうか」



 そうして俺はこの現実から目を背けるため、愛おしい我が子に癒やされにいった。

 少し機器を外しただけなのに、景色は変わっているがまあゲームを切っていた訳ではないので何かしら進んでいたのだろう。よくある事なので気にしない。



「でもなーんで俺こんなに女運がないのだろうか……」



 先ほど食べたばっか……だと俺は思っているのだが、時間を見るとおやつ時になっていた。だからおやつを作るために台所に向かう。

 雪瓔の要望通り氷菓子を作ってあげようと庭先の氷室に向かう。俺の道術で氷を量産することが可能なので出来た保存庫だ。実質冷蔵庫。



「桃と梨があるな。それに牛乳も凍らしてかき氷みたいにするか~」



 ささっと食材を手にしたあと、俺は台所に戻る。果物を軽く洗って水気を拭き、果物の皮を剥いて食べやすい大きさに角切りにしていると「おり」っと声をかけられた。

 振り返らなくても声で分かる。繻楽だ。



「お茶飲みたーい!」

「ちょっと待ってね」



 ささっと器に果物達を入れて軽く混ぜながら、鍋で湯を沸かす。繻楽はお茶が好きなようでよく台所に来てはお茶が飲みたいとねだる。子供なのに渋い趣味だ。



「喧嘩は終わり?」

「オレは飽きたからこっちきた」

「そっか」



 殴り殴られた痕で、繻楽の頬が若干腫れている。俺は布巾を濡らして彼の頬にそれを当てながら茶器の準備をした。その隣で繻楽は茶葉の入った茶筒を三個持っていき、茶壺(いわゆる急須)の中にバラバラと適当な量を入れていた。

 お茶好きな繻楽のために豊富に茶葉を置くようにしている。いつの間にかNPCが用意してくれているようなのでとても助かる。氷室の中の食材もそう。未だに俺はどうやって買っているのか分からないが、便利なので気にしていない。

 とはいえ、野菜だけは庭先で育ててそれを食べている。そういうこともあり、いつの間にか補充されているので食べ物に困ることはない。こういう所はゲームの良いところだな。

 そんな数ある茶葉を繻楽は独自ブレンドをして飲むのが好きらしい。ものすごくまずいときもあれば当たりの時もある。繻楽の良いところは、どんな味でも楽しそうに「美味しい!」だの「まずい!」だの言いながら飲み干すところだ。別に残しても良いんだけどね。俺が飲むから。



「ねー!! 昨日のお花は?」

「ん? ああこれか。どうぞ」

「ありがとー!!」



 繻楽が庭先で見つけたお花だ。「お茶に使う!」と言って大事に摘み取って保存していた。高い位置に置いていたのでそれを繻楽に渡すと二つの蓋腕(蓋付きの湯飲み)にその花をいれる。



「オレとおりだけね! あいつらはまずいって言って残すから」

「はは、そうだな」



 優蘭と雪瓔は、すぐにまずいお茶はまずいと言って残すので繻楽は不満らしい。「じゃあ飲むなよ!!」と怒って奪い返すのが一連の流れ。

 お湯が沸いたので茶壺にお湯を注ぎ、あとは繻楽に任せる。蒸らし時間も繻楽のこだわりなのだ。俺はおやつの準備を再開しよう。

 片手間に果物は凍らせたので、今度はアイスクリームを作る。牛乳、砂糖、卵を混ぜ合わせて凍らせる。段階を踏んで混ぜ合わせながら凍らせることによって口当たりが良くなる……はずだ多分。



「おり~~っ!!」

「はいはいどうした?」

「道術の訓練してください!!」

「良いぞ~」



 ちょうどおやつの用意が終わったタイミングで雪瓔が台所に駆け込んできた。その後ろから不満げな顔をして優蘭が現れる。もしかして、繻楽が飽きたあとに俺とどっちが訓練するか争っていたのか?今日は休日だから時間あるんだけどな。

 大きくなって三人の遊びに「訓練」が追加された。中華ファンタジーだからか、自分の身を守るために指南して欲しいと言われたのである。ゲームなのにしっかりしてるなこの子達と俺は感心したものだ。

 一番の問題は、俺が彼らに教えられる程の技量があるかどうかだったが、ゲームだから簡単に解決した。

 この世界の謎のシステム、本によって得られる力と、今までいろんなゲームをやっていた事で簡単に剣術から道術、暗殺術等々の能力を得ることが出来た。お陰で子供に教えるぐらいの技術がある。

 まあ、育成ゲームだから大したものじゃないけど。



「むふん、私が勝ちました!!」

「……油断しただけだ」

「はいはい、顔冷やしてね」



 二人分の布巾も濡らして顔に当てるように言う。派手に殴り合ったようで繻楽よりもひどい。

面白いことに二人の勝率は五分五分だ。俺としては剣術を教えている優蘭が勝つものかと思ったが、道術を教えている雪瓔もなかなか力がある。



「お茶どーぞ!!」

「ありがとう繻楽」

「まっずい茶の匂いがします」

「香りで分からないのか? まずいということが」

「うるさい!! お前らにはないからお湯でも飲んでろ!!」

「喧嘩しない喧嘩しない」



 出来たおやつを三人の前に出すと「いただきまーす!!」と仲良く手を合わせて頬張る。こう言うときは優蘭も黙っておやつを食べるので俺は彼らの食べる様子を見守りながら繻楽ブレンドのお茶を一口。

 うん、まずい。



「わー! まずーい!!」

「そうだね」



 繻楽と俺がそう言い合っていると、ほらなと言わんばかりに優蘭と雪瓔が目を細めている。子供の作ったものなんだからそれ位で良いんだよと親の俺からすればそう思うのだが、子供には分からないんだろうな~。



「じゃあ、俺がお茶を淹れようかね」



 残りのお茶を俺のでかい器に淹れて、氷菓子で冷えた体を温めるために俺が普通にお茶を淹れる。繻楽もそうだが、雪瓔や優蘭もお茶が口に合うようで砂糖をいれなくてもそのまま飲める。大人だ。

 本に書いてあるように忠実にお茶を淹れるとふわりと上品な香りがする。



「いっぱいちょうだい!!」

「お腹たぷたぷになるよ~?」

「これ! これに淹れて!!」

「全部飲み干す気か。優蘭と雪瓔の分が無くなっちゃうよ?」

「俺はそんなに要らない」

「私も少しで良いです~」



 繻楽がずいっと大きな器を持ってきて俺の目の前に置いた。もう食べたのかと顔を上げると雪瓔に残りはあげたらしい。優蘭もだ。だから、雪瓔の前には三つの器が並べられていた。しかし、雪瓔は全く気にすることは無くペロリと平らげている。

 ひとまず、優蘭と雪瓔の分を注いだあと残りを全部繻楽の器に淹れる。ゆっくりお茶の味を噛みしめるかのように飲むのが優蘭と雪瓔で、繻楽は水かのようにごくごく飲んでいる。



「おりのお茶美味しい!」

「ありがとう」



 そんなにごくごく飲むもんじゃないと思うけど、美味しいと言ってくれればそれで嬉しい。



「美味しいですおり」

「読書の共に最適だ」

「二人もありがとう」



 同じく上品にお茶を飲んだ二人にも感想を貰った。俺もちびちび繻楽のお茶を飲みながら、食べ終わった皿を片付ける。



「雪瓔、今日は何したい?」

「防御をしたいです!!」

「良いよ~。今日は時間あるから次は優蘭に剣術教えてあげようか?」

「! ああ」

「繻楽は?」

「オレは薬作りたい!」

「分かった。じゃあ雪瓔と訓練している間に準備しててね」



 俺がそう言うと三人は各々準備を始めるため部屋に戻る。熱心だなあと三人の後ろ姿を見送りながら茶器も片付ける。

 ただ、不思議に思うこともあった。



「基礎も何も教えてないんだけど、戦い方を知ってるようなんだよなぁ。俺が庭で道術とか剣術の能力を確認してたの様子を見て、興味を持った割には」 



 素人だから気のせいかも知れないけど。



「つまりあれだな。うちの子天才って訳だな?」



 最終的にうちの子一番という思考に陥る。ああ、自慢したい!!うちの子自慢したいのに、自慢できる人が誰もいないという悲しみ!!

 これがパパの性という奴か!!
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