上 下
3 / 27

2 ゲーム始めたての頃

しおりを挟む
「おっと、赤ちゃんから育てるのこれ」





 浮気され続け、傷心中の俺が始めたそのゲーム。ゲームも漫画もアニメも見るような人間なので、サクサク進むかと思いきやそうでもなかった。



 ゲームを始めて早々、何の説明も無く俺の目の前には三つの赤ちゃんベッド。しかもすでに名前が決められているとな。





「えーっと、左から優蘭、繻楽、雪瓔……確か古代中国設定だったよな?」





 周りの屋敷の作りや自分の服装を見るに中華風な感じはする。調べたので恐らくそうだろう。この手のジャンルではみない世界設定だ。



 俺はそんなことを考えながらそっと赤ちゃんベッドをのぞき込む。すると、彼はじいっと俺を見つめている。この子は繻楽だ。なんだか敵意があるように見えなくもない……。気のせいだよな?だって赤ちゃんだもん。



 そう思いながら、恐る恐る触ってみようと手を伸ばす。



 しかし――。





「あ!!」

「す、すみませんでした!!」





 べしんっと小さな手で叩かれた。どうやら拒否されたようだ。俺は反射的に謝る。それからもう一度、繻楽を見つめた。繻楽は何やら興奮しているようで「うーうー!!」とバタバタ手を動かしこちらを睨みつけている。



 そっとした方が良いのかな……?



 ひとまず、ばいばいっと手を振って繻楽と別れ、隣の雪瓔を見ることにした。真っ白な髪の赤ちゃんだ。大人しく、じーっと俺を見つめている。そーっと今度は指一本だけ近づけて見る。そしてふにっと彼のほっぺに触ることに成功した。





「お、おお、繻楽と違って雪瓔は大人し……」

「あ」





 雪瓔は俺の指を噛んだ。歯がないから噛んだという表現は正しくないが、俺にはそう感じた。





「お、おあ、おあああああっ!!??」





 慌てて口から引き抜くと、ばっちいと言わんばかりに雪瓔はべえっとよだれを吐き出す。何でそんなことしたんだお前と俺は彼に言いたいが、赤ちゃんがそんな高度な質問に答えられるわけがない。ひとまず、よだれを俺の着ていた服で拭ってあげた。勿論、指は隠しておいた。



 雪瓔にもばいばいと手を振って距離をとり、最後に優蘭をのぞき込む。



 優蘭も、雪瓔と同じで大人しい……ように見える。しかし、侮ってはいけない。もしかしたら俺が指を出した瞬間噛んでくるかも……。



 そう思ってじーっと彼を観察する。目が合っていないのでどこを見ているか分からないが、多分赤ちゃんってそういうもんなんだと思う。



 そうして数分がたった。





「死んでない!?」





 暫く彼を見ていたが、全く微動だにしないので俺は慌てて彼を抱えて心臓の音を聞いた。小さな音だが微かにしている。呼吸もしているようだが、なんだか弱い気もしてきた。



 抱っこをしても反応がない。だらんと手足を投げ出して動かない。



 これは何か、重篤な病を抱えているのでは無かろうか!?





「ど、ど、どうすれば、お医者様!?」





 チュートリアルも無いまま始まったので何が何だか分からない。慌てて優蘭を抱えて外に出ようとしたが、「あぶ」と腕の中で声がした。



 はっとしてそちらを見るととっても面倒そうな表情でぺちぺちと俺の胸を叩いている優蘭がいる。良かった、手足は動くようだ。ならばよし。





「ひとまず様子見?という奴だな」





 ベッドに戻してあげるとくるっと器用に横を向いて優蘭が目を閉じた。おお、凄い。寝返りもできそうじゃ無いか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

兄に魔界から追い出されたら祓魔師に食われた

紫鶴
BL
俺は悪魔!優秀な兄2人に寄生していたニート悪魔さ! この度さすがに本業をサボりすぎた俺に1番目の兄が強制的に人間界に俺を送り込んで人間と契約を結べと無茶振りをかましてきた。 まあ、人間界にいれば召喚されるでしょうとたかをくくっていたら天敵の祓魔師が俺の職場の常連になって俺を監視するようになったよ。しかもその祓魔師、国屈指の最強祓魔師なんだって。悪魔だってバレたら確実に殺される。 なんで、なんでこんなことに。早くおうち帰りたいと嘆いていたらある日、とうとう俺の目の前に召喚陣が現れた!! こんな場所早くおさらばしたい俺は転移先をろくに確認もせずに飛び込んでしまった! そして、目の前には、例の祓魔師が。 おれ、死にました。 魔界にいるお兄様。 俺の蘇りの儀式を早めに行ってください。あと蘇ったら最後、二度と人間界に行かないと固く誓います。 怖い祓魔師にはもうコリゴリです。 ーーーー ざまぁではないです。基本ギャグです(笑) こちら、Twitterでの「#召喚される受けBL」の企画作品です。 楽しく参加させて頂きました!ありがとうございます! ムーンライトノベルズにも載せてますが、多少加筆修正しました。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

中国ドラマの最終回で殺されないために必要な15のこと

神雛ジュン@元かびなん
BL
 どこにでもいる平凡な大学生・黒川葵衣(くろかわあおい)は重度の中国ドラマオファン。そんな葵衣が、三度も飯より愛するファンタジードラマ「金龍聖君(こんりゅうせいくん)」の世界に転生してしまった! しかも転生したのは、ドラマの最終回に主人公に殺される予定の極悪非道皇子。  いやいやいや、俺、殺されたくないし。痛いのイヤだし。  葵衣はどうにか死亡フラグを回避しようと、ことなかれの人生を歩もうとする。  とりあえず主人公に会わなきゃよくない?  が、現実は厳しく、転生したのは子供時代の主人公を誘拐した直後。  どうするの、俺! 絶望まっしぐらじゃん!  悩んだ葵衣は、とにかく最終回で殺されないようにするため、訳アリの主人公を育てることを決める。  目標は自分に殺意が湧かないよう育てて、無事親元に帰すこと!    そんなヒヤヒヤドキドキの溺愛子育てB L。 ==================== *以下は簡単な設定説明ですが、本文にも書いてあります。 ★金龍聖君(こんりゅうせいくん):中国ファンタジー時代劇で、超絶人気のWEBドラマ。日本でも放送し、人気を博している。 <世界>  聖界(せいかい):白龍族が治める国。誠実な者が多い。  邪界(じゃかい):黒龍族が治める国。卑劣な者が多い。 <主要キャラ>  黒川葵衣:平凡な大学生。中国ドラマオタク。    蒼翠(そうすい):邪界の第八皇子。葵衣の転生先。ドラマでは泣く子も黙る悪辣非道キャラ。  無風(むふう):聖界の第二皇子。訳があって平民として暮らしている。  仙人(せんにん):各地を放浪する老人。  炎禍(えんか):邪界皇太子。性格悪い。蒼翠をバカにしている。  

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...