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40、頑張るよ!

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そういえば、君春君って蘆屋って言ってたな苗字。
有名なところだなあって思ってたけど、人の都での悪役って蘆屋だったような……。
でも、名前君春じゃなかったよね?
それを聞こうととんとんっと肩を叩くとなんですか?っと彼は涙を拭きながら顔をあげた。

「きみ、あくやくじゃないよね?」
「ああ、俺じゃなくて兄です」
「!?」
「でも、兄は悪者じゃありませんよ!ちょっと過保護で思い込みが激しいいたって普通の引きこもりです!!」

それは至って普通なのか?てか、引きこもりって言っちゃったよ。
そう思ったが口は紡ぎ、そうかっと頷いた。はいっと君春君は強く返事をした。

「小さい頃から悪役にならないように俺が教育してきましたから!!」

君の功労だったのか~。まあ、身内から犯罪者は出したくないよね。分かる。

「お陰で軽く俺に依存していますが、まあそれは置いておいて!一先ず、公式の攻略のヒントを言いますね!」

おお!!そんなことまで覚えてるの!ありがとう!!

「一つ、基本的に物事はスルーしてください!あんまり突っ込みすぎると巻き込まれます」

こくん。

「二つ、知り合いには愛想よく!挨拶大事!」

こくん、こくん。

「三つ、琥珀は元々悪役なので身の程を弁えるように!」

こくこくこく!!
そんなに覚えているなんて感激だよ!俺の為にありがとう!

「ありがとう」
「いーえ!同じ転生者ですし、お互い頑張りましょう!」

おーっと君春君が拳をあげるので俺も釣られて拳をあげたら、がしゃぱりーんっと何か硝子のようなものが砕けた音がした。え?と首を傾げて音のする方を見ると「やばっ」っと君春君がそう言って俺の後ろに隠れた。どうしたの?

「琥珀!!良かった!なにもされてない?」

うん。君仕事は?
襖蹴破ってぎゅううっと抱きしめてきたのは雪那だ。何君。どうしてここにいるの?何しに帰ってきたの?
そう思ってぐいぐい離れろっと抵抗していると、雪那が「ねえ」と低い声を出した。

「琥珀と二人きりで何話してたの?」
「世間話ですよ?」
「世間話に防音結界を張るの?」
「デリケートな話ですから!」
「でり……?何それ。ねえ琥珀、お兄ちゃんに言えない事なの?」

ええ?なんでそこで俺に振るの?というか、君お兄ちゃんじゃないし。
一先ず、しごとは?とだけ聞いておく。
露骨に話を逸らしたが、ちらっと後ろにいる君春君を見たので後で聞きだしたやろうと思っているのだろう。ごめんね。後で慰めるから。

「今は休憩だよ」
「そう。かえったら?」
「えー、もうちょっと琥珀とお話したいなぁ?」
「おれには……」

ふと、そこで蹴破られた襖があった場所の近くに箱が置いてあるのが見えた。
あの箱、鳩羽が持ってたのに似てるような……?そんな事を思っていると不意にカタン、と動いた気がする。
ひいっ!
思わずぎゅっと目の前にいた雪那に抱き着いた。雪那はえ!?っと歓喜の声をあげた。何喜んでんだよ!
死ぬのはまだ早い!黒と御館様くっつけてないもの!!
ここがエイプリルフール企画の世界だってわかってもそれは諦めない!ゲームの世界だろうが何だろうが、推しカプには幸せになってほしいの!分かるでしょこのエゴ!!ええ、自分勝手な考えですがね!!

「お、推しが推しと抱き合ってるこの空間が尊すぎて死ぬ」
「仕方ないから不問にしてあげる。代わりに午後の業務お願いね?」
「はい、喜んで!」

君春君!良い様に使われてるよ!あと、君の推しこれなんだね!?喜んで出て行ったね!

「琥珀君お話終わった感じ?」
「琥珀!だいじょう……ひっ!」

先ほどの騒ぎに本当に隣の部屋に控えていた霜田君と黒が現れた。ぎゅうぎゅう抱きしめられている俺と雪那を見て、黒は雪那の笑顔に悲鳴を上げた。

「みすみす琥珀をあれと二人きりにしたの君」
「す、すみません!すみません!!」
「謝れば済む話だとでも思ってるの?」
「あ、すみませーん!俺がやりました!黒君は悪くありません!」

黒を責め立てる雪那に声をかけようとしたがその前に霜田君がそう笑顔で言ってきた。たしかに、黒は止めていた。俺は良いって言ったんだけど。
雪那は霜田君を見て顔をしかめた。それから大きく舌打ちをする。

「蘆屋の犬」

雪那がそう言うと一瞬霜田君が固まった。それから朗らかにばしばしと雪那の肩を叩いた。

「やっだなぁ、犬だなんて!ただ単にちょっと親戚なだけですから!寧ろ蘆屋隊長の部下の貴女が犬じゃないですか?」
「俺が犬じゃなくてあの子が犬じゃない?」
「あはは!確かにそうですね~」

雪那が霜田君の手を払いのけ、霜田君は愉快そうに笑っているが目が怖い。
どう考えても彼の地雷を雪那が踏み抜いたようだ。
これ以上刺激するのはよくない。ね?そうだよね?君春君!!
ぐいぐいと雪那と霜田君の距離を取らせて、ばいばいっと霜田君に手を振った。霜田君はその顔のまま俺に手を振り返す。
怖いんだけど。そこまで嫌だったんだ。

「それじゃあ、俺も失礼しますね」
「そう」
「はい。琥珀君、黒君、またね」

そう言って霜田君は帰って行った。
帰って行った霜田君を見送りながらきっと雪那を睨みつける。それからぐにーっと頬を引っ張った。
俺の死亡フラグが今立ちそうになったことをこいつは分かってるのか!分かってないだろうけど!
帰ってきて君春君!寧ろ君んちで保護されたい!

「ご機嫌斜めかな?お菓子食べる?」

それは食べる。
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