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2章、第二王子は魔王ではありません

39、救世の聖女と3誰マン先生

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「誰の役にも立てない、誰からも必要とされない、誰も救えない。そんな『3誰マン』がミディー先生なんだ。フフフ……死にたい……以上。ぐすっ」
「せ、先生。元気を出して」
 
 ミディー先生はネガティヴだ。
 原作では明るく朗らかなお兄さん先生だったのになあ……。
 『3誰マン』なんて初めて聞いたよ。前世でも聞いたことがないよ。

「ウィッチドール伯爵令嬢……ミディー先生が救えなかったイージス殿下を救ってくれてありがとう。本当は先生が救ってあげたかったけど、先生は無力だ……もっと力があれば……以上……」
「先生。こっちを見て。壁に藁人形立てかけて五寸釘打ち込もうとしないで」
「ハッ。教え子に嫉妬するなんて……ミディー先生は……もう、死ぬしか」
「やめて先生。どうしてそうなるの。ちょっと落ち着こう先生」
 
 ミディー先生のハートは繊細だ。
 どうしてこうなっちゃったんだろう。
 
 しかし、しばらく話しているとミディー先生は少しずつ落ち着いてくれた。
 コツは、「自分が悪い」と思わせないこと。それと「自分が頼られていて、役に立っている」と思わせることだ。
 私はコツを掴んだ。

「ミディー先生、日記帳はイージス殿下のイタズラだったんです。私、みんなに噂されていて、誤解を解きたくて見せたんです。ごめんなさい。困ってるんですけど、今後頼らせていただいていいですか? あと、守護大樹の浄化に先生がすごく貢献しているって聞きました。学校の先生のお仕事もあるのに、浄化のお仕事もしてくださって、さすがミディー先生ですね。すごい! はぁはぁ」

 最後の「はぁはぁ」は、息切れだ。早口に力いっぱい言ったので。
 
「マリンベリーくんは……困っていたのか。イージスくんにイタズラされちゃったんだね。そっかぁ。恋愛の噂は貴族令嬢の名誉にかかわるよね。ミディー先生が今度イージスくんを叱っておくよ。男子はすぐ悪ノリするから、また何かあったらミディー先生を頼ってね。守護大樹の浄化はカリスト様が張り切っていてね。ミディー先生はカリスト様に先日、『猫の手も必要な時なので、生きていてくれて助かる』と言ってもらえたよ。以上!」
 
 ああ、嬉しそうな早口。息切れしてない。先生すごい。
 
 ミディー先生は、日記帳と一緒にグミをくれた。
 ちょっと仲良くなれた気がする。

「わあぁっ、ありがとうございますミディー先生。私、グミ好きなんです! 嬉しい……!」
「フフッ、ミディー先生は可愛い教え子のことをお見通しだよ♪」

 ミディー先生はパチンとウィンクをして、そっと言葉を足した。

「あのとき、先生を助けたいと言ってくれたよね。ありがとう。嬉しかったんだ……」
 
 先生が元気になってる。よかった~~!
 
 
   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
 
 
 王立魔法学校がお休みの、五果三十枝、5月30日。
 
 私は守護大樹アルワースの浄化完了の確認式とお祝いパーティに出席した。
 守護大樹は、無事に浄化できたのである。

 場所は、守護大樹アルワースの前。相変わらず巨大な木だ。
 
 浄化完了の確認式は、午前中に行われた。
 国王陛下とパーニス殿下が並んで守護大樹の前に進み、魔女家当主のキルケ様と賢者家当主のカリスト様が「完了しております」と保証するという簡単な儀式だ。
 
 賢者家に協力してもらったのが原作の乙女ゲームよりも遅かったので心配していたけど、間に合ってよかった。
 キルケ様に教えてもらった話によると、実は賢者家当主のカリスト様がパーニス殿下にせっつかれ、とても頑張ってくれたのだとか。

「カリスト、よくやったぞ。褒めてつかわす」
「パーニス殿下。光栄です。以上!」
    
 歴史と大恩ある大樹を燃やさずに済んだので、集まっているみんなの表情は明るい。

 明るい時間帯なのでわかりにくいけど、大樹もほんのりと枝の先端が光を帯びている気がする……。
 
「守護大樹アルワースよ。いつも我が国を見守ってくれるそなたを失わずに済み、よかった。ところで、話したいことがあるのだ」
 
 国王陛下が語り掛けると、守護大樹は枝からふわふわとした光を発した。そして、可愛い子どもの声で返事をした。この守護大樹、話かけると1000回中1回くらいの割合で喋ってくれるのである。
 無反応の999回は、「話すほどじゃない」とか「気分じゃない」とか「余裕がない」という理由らしい。

「わしを呼んだかの。最近ずっと具合が悪くて意識が朦朧としていたのだが、今日は気分がいい」

 以前は喋ってくれなかったが、今日は喋ってくれた。 
 守護大樹が応答してくれたので、「おおっ」とどよめきが生まれている。
 
 ちなみにこの守護大樹、一人称が「わし」。可愛い子どもボイスのおじいちゃんっぽい喋り方である。
  
 国王陛下は表情を安堵に染めつつ、大樹に手をついて頭を垂れた。
 前世で私、そういうポーズが「反省のポーズ」と呼ばれてたのを見たことある。
 
「つい最近、息子イージスが魔王の心を宿していたことがわかった。父親なのに気づくことができず、我が身の至らなさを反省するばかりである……」

「それは大変じゃないか。魔王は今どこに?」

 守護大樹は真剣な口調になった。やはり魔王の話題となるとふざけていられないらしい。

「魔王は息子の体からぬいぐるみへと移したのだが、気づいたら消えていたと報告されている」

 パーニス殿下が説明すると、守護大樹は「見つけたらわしのもとに連れてきてくれ」と言葉を返した。そして、ふわりと枝を揺らして光の粉をきらきらと降らせた。

「わあ!」

 昼前の青空にたくさんの光の粉が舞って、キラキラしている。
 しかも、その光の粉がふわふわしながらこっちに集まってくるような。

 気のせい?
 いや、気のせいじゃない。
 だって、みんなが私を見てるもん。

「聖女マリンベリー」
「へっ?」

 守護大樹が突然、私の名前を呼んだ。しかも「聖女」とな。
 待って。私、全属性魔法使いじゃないよ? それに、性格も……。

「救世の聖女に任じるので、壊れた国を直してほしい」

 あれ?
 なんか私の知らないゲームが始まった気がする……。

「魔女家の令嬢が聖女に選ばれたぞ!」
「さすがボクの娘。守護大樹様は見る眼があるね。浄化してよかった」

 現場は大歓声に包まれた。

「魔女家は『救世の聖女』を全力でサポートするよ! うちの子だからね!」
「賢者家は賢者の家系ぞ。負けるものか。ミディール、あの娘は魔法学校での教え子だろう。我が家を売り込んでこい。以上」

 キルケ様が「我が家が最強! 我が家の時代!」とドヤ顔をすると、カリスト様が張り合うようにミディー先生を押し付けてきた。

「教え子が聖女になるなんて。ミディー先生もびっくりだよ。……でも、『3誰マン』を必要としてくれた君はすごく優しい子だと思っていたから、言われてみれば聖女の呼び名にふさわしいよね。聖女様、これからは賢者家も総力をあげて国土復建のお手伝いをするよ。以上」

 パーニス殿下がこっちを見ている。

 そういえば私、以前キルケ様と一緒に……。

『ご自覚がありませんか、パーニス殿下? 殿下は今、聖女になりました。私には違いがわかりますよ? 先ほどまでと比べて、身に纏う空気がなんだか清らかで、英雄~って感じです!』

『ボクにもわかるよ。なるほど、聖女……というか、聖人かな。頼もしいね』
 
 き、気まずい。

「パ、パーニス殿下っ。びっくりですね。聖女って2人もなれるものなのですね、うふふ」
 
 こうして、私は『救世の聖女』になった。以上……。

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