4 / 16
3、魔法薬をつくりましょう
しおりを挟む魔法薬を作ると決意した後、私は早速お父様におねだりして材料を買い集めた。
「ネコ妖精のひげ、一角馬の涙、眠らぬ夜樹の黄金果実、海底の星草、甘唐辛子のアマカラ花蜜……完璧ですわ~!」
「どれもとても貴重な材料ですね、コーデリア……」
材料を並べて悦に浸る私の隣には、わくわくとした眼で見守るジャスティン様がいる。
見舞いに来た日以降も、頻繁に遊びにきてくださるのだ。
「お嬢様、お坊ちゃま。刃物は危ないですから、私がカットいたしますね」
メイドのメアリが薬材をカットしてくれる。
「よくわからないけど、僕も手伝うよ」
ジャスティン様は意外と乗り気だ。
壁際で侍従たちが心配そうに見守る中、私たちはすり鉢とすりこぎ棒をおままごとの道具みたいに使ってゴリゴリと薬材をすり潰した。
「すり潰したあとは、煮込むのですわ」
「お料理みたいですね」
お鍋にすり潰した薬材を入れてぐつぐつ煮込みながら、休憩タイムにお菓子をいただけば部屋の扉のあたりにコソコソと中の様子を窺うお父様がいる。
「公爵令息が魔法薬作りを……あんなに仲良く……」
お父様は声が大きい。
室内にもバッチリ聞こえている。
「ご実家にバレたら『何をさせてるんだ』と怒られないだろうか? というか、パパのコーデリアちゃんが男の子と仲良くなってしまって……うっ、うっ」
(お父さま……恥ずかしいですわ)
私はもじもじした。
ああ、メイドのメアリが淹れてくれた紅茶の香りがかぐわしい。
嗅いでいるだけで上品な気分になれて、背筋が伸びる心地がする……。
一瞬、私が現実逃避していると、涼やかな声がした。
「婚約者ですから」
……ジャスティン様だ。
背筋を伸ばし、姿勢よくお澄まし顔をしているのが可愛い――格好良い。
可愛くて格好良い。これはずるい……!
「ぐ、ぐぬぬ」
お父様は嬉しそうなような悔しそうなような複雑な感情の入り乱れた顔でハンカチの端を噛んで、立ち去って行った。
爪を噛んだりしないあたり、お上品だ。
お父様は常日頃から、できるだけ上品に振る舞おうと努力なさっている方なのだ。
「……コーデリア、このジュレを召し上がってください。とても美味しいですから」
ジャスティン様はお父様の背中に一礼して見送ってから、赤スグリのジュレをすすめてくれた。
赤スグリのジュレはスプーンで掬うとぷるるんっとして、赤い色が照明に照らされてきらきらして、綺麗。
口あたりはひんやり、つるんっとしていて、甘酸っぱい。
爽やかな甘酸っぱさに幸せを感じていると、とろとろと舌の上で形を崩して、やわらか~い!
――美味しいっ!
私が桜色に染まった頬を押さえて蕩けそうな顔をしていると、ジャスティン様はにっこりした。
「こちらのくるみのローストも美味しいですよコーデリア。蜂蜜シロップに漬けてあるようです」
「バターたっぷりのブリオッシュも、パティシエの得意菓子ですの」
お菓子タイムの後で魔法薬が完成してみれば、見た目はなかなか美しい。
冷やして透明なグラスに注げば、ジュースみたい。
下の方が紫、上にいくほど蒼のグラデーションとなっていて、なんだか美味しそうなのだ。
「僕で人体実験してみるわけですね」
「人体実験だなんて……でもそうかもしれません」
見た目は小説で描写されていた通り。
でも、いきなり本人に飲ませて果たして大丈夫か――私は一瞬迷った。
「あ、あのう。お飲み頂く前に、毒見をわたくしが」
「いただきます」
侍従たちが目を剥いて見守る中、ジャスティン様はニコニコして魔法薬のグラスをぐいっとあおった。止める暇もなく、ごくごくと飲んでぷはっと息をつく様子は、意外と大胆。
そしてなんとなんと、あっという間に顔色がよくなっていく!
「すごい、なんだか元気が出てくる……?」
ジャスティン様は驚いた様子で立ち上がり、軽く腕を振ったりして体調を確かめている。血色が悪かった頬に薔薇色が差して、とても可愛い。
「よかったですわジャスティンさま! 本当は、お体に毒でしたらどうしようかと心配してましたの」
「そうじゃないかと思いました」
ただでさえ病弱なのに、名家の御嫡男なのに、不用心すぎないかしら?
私はこの日、ジャスティン様がとても心配になって思わず「次からは安全が確認できてからお口になさってくださいね」と忠言してしまうのだった。
22
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません
黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。
でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。
知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。
学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。
いったい、何を考えているの?!
仕方ない。現実を見せてあげましょう。
と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。
「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」
突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。
普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。
※わりと見切り発車です。すみません。
※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)
その発言、後悔しないで下さいね?
風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。
一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。
結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。
一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。
「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が!
でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません!
「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」
※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※クズがいますので、ご注意下さい。
※ざまぁは過度なものではありません。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
人の顔色ばかり気にしていた私はもういません
風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。
私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。
彼の姉でなく、私の姉なのにだ。
両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。
そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。
寄り添うデイリ様とお姉様。
幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。
その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。
そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。
※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。
※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。
※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
始まりはよくある婚約破棄のように
メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる