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5、鬼謀のアイオナイト
331、いたいけなフェニックスさんは、そんなことを言わないと思うの
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『大陸報』や『紅国新聞』は、大陸規模や紅国の最近の出来事をわかりやすくまとめた情報誌だ。
ソファに体重を預けて、フィロシュネーはページをめくった。
「ふんふん、どれどれ……まず、大陸南部の『南方同盟』が空国との友好路線を強めていると書いてありますわね。わたくしの認識と同じですわ」
目次にあるのは、空国だと。
『空国で神の声が!?』
『空国預言者が交代したあと、先代預言者ネネイは何を想い、何をしているのか? 突撃インタビュー!』
『ブラックタロン家は果たして許されているのか? 空国の国民にききました!』
……といった記事だ。
ハルシオンが手紙で教えてくれた真実を知っているフィロシュネーとしては、「もう知っていますわ」という内容も多いのだが、面白い。
空国で神様が天啓をくだした声は、王都の民は全員聞いていたらしい。
すごく神聖で、特別な存在感があったのだとか。
(わたくしも聞いてみたかったですわ)
ぱらっとページをめくる。
預言者が交代したあと、先代預言者ネネイは国に残って新預言者の補佐役をしているらしい。
ブラックタロン家の兄弟は兄が呪術伯、弟が預言者と、空王ハルシオンに二人とも重用な役職に就いている。兄である呪術伯フェリシエンは現在空王ハルシオンの勅命で紅国にいるらしい……。
青国の記事はどうかというと。
『モンテローザ公爵令嬢、公式行事に欠席が続く』
『フィロシュネー殿下、紅国へ!』
といった記事がある。
(ダーウッドがモンテローザ公爵令嬢が別人ってことにし続けるのは大変じゃないかしら。同一人物って言っちゃだめなのかしら)
そのうち「あの二人は同時に同じ場所にいたためしがない」と疑われるようになったりしないだろうか。
フィロシュネーが眉を寄せたとき、ジーナが声をあげた。
「アッ、フィロシュネー様。た、たいへんです」
どうしたの、と見てみると、ジーナは紅国に関する記事を指していた。
紅国の情勢が何だと言うのだろう。
フィロシュネーはどきどきした。
なんといっても、紅国は女王派と反女王派による内乱状態だったのだ。それも、反女王派ときたら大陸外からの支援まで受けていた! ……青国が支援をして、事なきを得たのだが。
「ジーナ。女王陛下の病状や、内乱について怖いことが書いてありますの?」
「い、いえ。内乱は女王派の勝利で終わり、女王陛下はご体調も改善傾向とありますが」
震える指先が示す先には。
『シリーズ:婚約者を迎えたノイエスタル神師伯の火遊びを追う ~今回は、女王の寵姫たちとの禁断の関係について!』
という、インパクトのある記事がある!
「シリーズってなんですの?」
フィロシュネーは衝撃を受けた。
「ジーナ? シリーズとは、シリーズとは、この一回だけではなくて火遊びをしまくっていて、それを毎回暴露されて国民がみなさんご存じ、ということではありませんの?」
「なんということでしょう、フィロシュネー様。あのう、バ、バックナンバーを探して参りましょうか」
バックナンバーとは、雑誌の古い号のことだ。
「ジーナ! お、お、おそろしいことをおっしゃるのね。まさかわたくしにこのシリーズを全て読めとおっしゃるの!」
「で、で、ですがフィロシュネー様! き……気になりませんか?」
「気になりますわ」
それはもう、怖いもの見たさのようなノリだった。
ジーナが雑誌を集めてきて、古い順に並べてくれる。
「わたくしね、以前から気になっていましたの。ほら、寵姫様とかよくおっしゃっていたでしょう? それに、妙に自信満々になってしまって。ご令嬢が喜びそうなことばかりするようになって」
考えてみれば、思い当たる違和感はあった。
サイラスは「寵姫様が」とたまに口走っていたし――「そんな関係ではない」とも言っていたけれど、そんなのは婚約者が関係を怪しんだときに使う常套句ではないか。
最近なんて、絶対に石を持っているのに持っていないと嘘を堂々とついている。
その上で、余裕綽綽としていて、妙だ。
「俺は全てをわかっていますよ」というような笑みを浮かべるし。
「俺はおそろしい魔王様になって世界を滅ぼしてしまうかもしれませんよ」なんてちょっと怖いことを冗談めかして言ったりするのだ。
……それがあながち冗談に思えないから心配なのに、サイラス本人は「心配することは何もありません」と超然として浮世離れした雰囲気で笑うのだ。
「女王陛下との関係疑惑。町娘との疑惑。神殿の修道女との疑惑。女性騎士との疑惑。それも他国の――えっ、お待ちになって。この『他国の女性騎士』はミランダね!?」
しかも、『悪行が話題のアルメイダ夫人とのあやしい関係 ~彼が敵対派閥の人妻を庇う理由とは』なんて記事まで。
「か、庇っていますの?」
初耳である。フィロシュネーは動揺した。
「フィロシュネー様! こちらの記事をご覧くださいー! 男性とも疑惑が挙げられています。エドウィン・インロップ伯爵。それに、空王ハルシオン様とまで!」
「な、な、なんですって!」
フィロシュネーとジーナが盛り上がっていると、部屋の窓がコツンコツン、と音を立てる。
「あら、なんでしょう?」
ジーナは警戒した様子で立ち上がり、そーっと窓の様子を窺ってから「神鳥ではありませんかか!」と叫んだ。
「えっ、神鳥様?」
フィロシュネーが目を丸くしているのを背景に、ジーナは窓を開けた。
冷たい外の空気と一緒に室内に入ってきたのは、小さなサイズの赤い鳥――体毛に炎をまとったフェニックスだった。
一瞬、フィロシュネーはそのフェニックスがダーウッドの変身した姿ではないかと思ったのだが。
「レディの新しいおうちは、こちらですかな? 居心地がよさそうで結構、ケッコウ」
「……ナチュラさん!」
フェニックスは、ナチュラだった。
「知人が紅国に滞在しているようなので、わしも久しぶりに紅国を見に来たのです。ああ、庭の木に巣をつくっても構いませんか? 小さいサイズにしますから」
ナチュラはのんびりとした口調で言って、庭に巣をつくってしまった。
ソファに体重を預けて、フィロシュネーはページをめくった。
「ふんふん、どれどれ……まず、大陸南部の『南方同盟』が空国との友好路線を強めていると書いてありますわね。わたくしの認識と同じですわ」
目次にあるのは、空国だと。
『空国で神の声が!?』
『空国預言者が交代したあと、先代預言者ネネイは何を想い、何をしているのか? 突撃インタビュー!』
『ブラックタロン家は果たして許されているのか? 空国の国民にききました!』
……といった記事だ。
ハルシオンが手紙で教えてくれた真実を知っているフィロシュネーとしては、「もう知っていますわ」という内容も多いのだが、面白い。
空国で神様が天啓をくだした声は、王都の民は全員聞いていたらしい。
すごく神聖で、特別な存在感があったのだとか。
(わたくしも聞いてみたかったですわ)
ぱらっとページをめくる。
預言者が交代したあと、先代預言者ネネイは国に残って新預言者の補佐役をしているらしい。
ブラックタロン家の兄弟は兄が呪術伯、弟が預言者と、空王ハルシオンに二人とも重用な役職に就いている。兄である呪術伯フェリシエンは現在空王ハルシオンの勅命で紅国にいるらしい……。
青国の記事はどうかというと。
『モンテローザ公爵令嬢、公式行事に欠席が続く』
『フィロシュネー殿下、紅国へ!』
といった記事がある。
(ダーウッドがモンテローザ公爵令嬢が別人ってことにし続けるのは大変じゃないかしら。同一人物って言っちゃだめなのかしら)
そのうち「あの二人は同時に同じ場所にいたためしがない」と疑われるようになったりしないだろうか。
フィロシュネーが眉を寄せたとき、ジーナが声をあげた。
「アッ、フィロシュネー様。た、たいへんです」
どうしたの、と見てみると、ジーナは紅国に関する記事を指していた。
紅国の情勢が何だと言うのだろう。
フィロシュネーはどきどきした。
なんといっても、紅国は女王派と反女王派による内乱状態だったのだ。それも、反女王派ときたら大陸外からの支援まで受けていた! ……青国が支援をして、事なきを得たのだが。
「ジーナ。女王陛下の病状や、内乱について怖いことが書いてありますの?」
「い、いえ。内乱は女王派の勝利で終わり、女王陛下はご体調も改善傾向とありますが」
震える指先が示す先には。
『シリーズ:婚約者を迎えたノイエスタル神師伯の火遊びを追う ~今回は、女王の寵姫たちとの禁断の関係について!』
という、インパクトのある記事がある!
「シリーズってなんですの?」
フィロシュネーは衝撃を受けた。
「ジーナ? シリーズとは、シリーズとは、この一回だけではなくて火遊びをしまくっていて、それを毎回暴露されて国民がみなさんご存じ、ということではありませんの?」
「なんということでしょう、フィロシュネー様。あのう、バ、バックナンバーを探して参りましょうか」
バックナンバーとは、雑誌の古い号のことだ。
「ジーナ! お、お、おそろしいことをおっしゃるのね。まさかわたくしにこのシリーズを全て読めとおっしゃるの!」
「で、で、ですがフィロシュネー様! き……気になりませんか?」
「気になりますわ」
それはもう、怖いもの見たさのようなノリだった。
ジーナが雑誌を集めてきて、古い順に並べてくれる。
「わたくしね、以前から気になっていましたの。ほら、寵姫様とかよくおっしゃっていたでしょう? それに、妙に自信満々になってしまって。ご令嬢が喜びそうなことばかりするようになって」
考えてみれば、思い当たる違和感はあった。
サイラスは「寵姫様が」とたまに口走っていたし――「そんな関係ではない」とも言っていたけれど、そんなのは婚約者が関係を怪しんだときに使う常套句ではないか。
最近なんて、絶対に石を持っているのに持っていないと嘘を堂々とついている。
その上で、余裕綽綽としていて、妙だ。
「俺は全てをわかっていますよ」というような笑みを浮かべるし。
「俺はおそろしい魔王様になって世界を滅ぼしてしまうかもしれませんよ」なんてちょっと怖いことを冗談めかして言ったりするのだ。
……それがあながち冗談に思えないから心配なのに、サイラス本人は「心配することは何もありません」と超然として浮世離れした雰囲気で笑うのだ。
「女王陛下との関係疑惑。町娘との疑惑。神殿の修道女との疑惑。女性騎士との疑惑。それも他国の――えっ、お待ちになって。この『他国の女性騎士』はミランダね!?」
しかも、『悪行が話題のアルメイダ夫人とのあやしい関係 ~彼が敵対派閥の人妻を庇う理由とは』なんて記事まで。
「か、庇っていますの?」
初耳である。フィロシュネーは動揺した。
「フィロシュネー様! こちらの記事をご覧くださいー! 男性とも疑惑が挙げられています。エドウィン・インロップ伯爵。それに、空王ハルシオン様とまで!」
「な、な、なんですって!」
フィロシュネーとジーナが盛り上がっていると、部屋の窓がコツンコツン、と音を立てる。
「あら、なんでしょう?」
ジーナは警戒した様子で立ち上がり、そーっと窓の様子を窺ってから「神鳥ではありませんかか!」と叫んだ。
「えっ、神鳥様?」
フィロシュネーが目を丸くしているのを背景に、ジーナは窓を開けた。
冷たい外の空気と一緒に室内に入ってきたのは、小さなサイズの赤い鳥――体毛に炎をまとったフェニックスだった。
一瞬、フィロシュネーはそのフェニックスがダーウッドの変身した姿ではないかと思ったのだが。
「レディの新しいおうちは、こちらですかな? 居心地がよさそうで結構、ケッコウ」
「……ナチュラさん!」
フェニックスは、ナチュラだった。
「知人が紅国に滞在しているようなので、わしも久しぶりに紅国を見に来たのです。ああ、庭の木に巣をつくっても構いませんか? 小さいサイズにしますから」
ナチュラはのんびりとした口調で言って、庭に巣をつくってしまった。
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