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幕間のお話6「死の神コルテと人形のお姫さま」

328、何が神だ。くだらない。/ ク・シャール紅国の九柱の神

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 北のク・シャール紅国に戻り、部族会議に顔を出すと、死人に出会ったような顔で出迎えられる。

「コルテ、お前生きていたのか!」
 ……自分は死んだと思われていたらしい。

「心配したのよ。南の土地に隕石でも落ちたような大爆発が確認されて、南の空がずっと黒い瘴気で覆われていて……」

「様子を見に調査隊を派遣させたら、激しい戦いでもあったように大地がボロボロだとか、人形たちが意思を持っているみたいに不気味に動き回っているとか、魔物も湧いたりしている、と……」
 
 ルエトリーやアム・ラァレが「何が起きたの?」と心配してくれる中、ヴィニュエスはブレることなく手袋を脱いだ。
 
「果実は採取できたか?」
 
 ぺしん、と手袋を投げつける声は、ちょっと嬉しそうだ。なぜ。まさか、心配してくれていたわけではないだろうな?

 コルテは果実を人数分、テーブルに置いた。

「南の土地が汚染されたあと、かの地から魔物や瘴気が湧いている。もはや南の土地は人間が生きられる環境ではなく、いずれ北にもその影響が及ぶことだろう」

 ソルスティスは果実を全員に配り、威厳のある声を響かせた。

「ここにいる全員が神となり、ク・シャール紅国を守ろう」

 ――この日、ク・シャール紅国には九人の神が誕生した。

 * * *

 九人の神による、同胞人類を守るための意思決定は、成された。
 
「かの土地の邪悪を、呪いを、瘴気を、魔物たちを、外に出さないように封じよう。北の土地にその影響が及ばぬよう、守ろう」
  
 石の力で、南の土地の周囲に結界が張り巡らされる。

 臭いものに蓋をする――南の土地を浄化することなく、あの土地はもうだめだと見捨てる?
 それだけでなく、呪いや瘴気がその土地にだけわだかまり、外に出ないようにする?

 コルテの胸の中に、もやもやとした黒いわだかまりが渦巻いた。
 
「この方法では、南の土地は外に排出するはずの瘴気や魔物たちも出すことなく内側にため込んでしまいます。ますます状態を悪化させるのでは」
  
 コルテは反対したが、その意見は通らなかった。

 毎度、毎度のことだが、コルテの意見に賛同するのはせいぜいがアム・ラァレとソルスティスぐらいなのだ。
 
 反発する中心メンバーと、そのパターンは決まっている。
 
 「それは不自然だ」と言うナチュラ。ナチュラが反対すると、友人らしきルートも反対する。
 「コルテが何を言っても反対」なヴィニュエス。
 「アム・ラァレが嫌い」なルエトリー。
 そして、ルエトリーが「あなたたち、私の味方よね!?」と自分の味方をするよう圧をかけるのがトールとアエロカエルス……。

(……何が神だ……)
 
「『生存者』は死んだ。南の土地には、もう人間がいないのだろう」
「意思をもつ人形たちだけがうごめいている国など、おぞましい。不自然だ」

 意見を同調させるだけの『神』たちに、コルテはふつふつと怒りを沸かせた。
  
「俺は、オルーサと約束をしました。すみませんが、人形の国に向かいます」
  
(邪魔をしたら、決闘でもなんでもやってやる)

 コルテは静かに闘志を高め、ヴィニュエスの手袋を握った。

 いつも投げられてばかりであったが、今日は投げ返してやる。そんな気概を感じ取ったのだろうか――アム・ラァレがサッと手を伸ばし、コルテの手をおさえた。

 自分のことを『おばちゃん』と呼ぶ彼女の手は働き者の手をしていて、あたたかだ。

「いいわ。神様としてお手伝いができなくても、おばちゃんの部族も、必要があれば支援を――こっそり、してあげる」

 コルテにだけ聞こえるようにささやく声は、優しかった。
 荒ぶりかけた心を鎮めてくれる声だった。

 コルテの手から手袋を取り上げたアム・ラァレは、籠に手袋を仕舞ってから、みんなに言った。
 
「今まで通りでいいじゃない。人形の国については、全体では不干渉。コルテちゃん個人は自由に関わっても大丈夫……と、こういう方針でいきましょう?」

 ソルスティスが頷いてくれる。

 こうして、争いは回避され。
 
 コルテは『ク・シャール紅国の九柱の神』で、かつ『人形の国の英雄』となったのだった。
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