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幕間のお話6「死の神コルテと人形のお姫さま」
326、あなたに俺を教えたい。あなたを知りたい
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足しげく人形の国に通ううち、コルテは人形のお姫さまと親しくなった。
カントループはお姫さまを聖女と呼び、フィロソフィアという名前をつけた。
フィロソフィアは話せば話すほどに人間らしい情緒を成長させていき、ある日、コルテが鼻先に軽く挨拶するようなキスをすると真っ赤になって恥じらった。
「可愛らしいお姫さま。俺はあなたをお慕いしています」
この様子なら、異性との愛や恋についてわかるのではないか。
そう思って想いを打ち明けると、フィロソフィアは両手で顔を覆って恥ずかしがりながら、胸がくすぐったくなるような甘い声で答えてくれた。
「わたくしも、あなたが好き……です」
――なんて愛しいのだろう!
コルテは幸せな気分でフィロソフィアを抱擁し、口付けを繰り返した。
最初は、おずおずと許しを求めるように一瞬だけ微かに触れるキスを。
いやがる気配がないのを確かめてから、角度を変えて、もう一度。
「……ん」
すこしずつ、想いを伝えるように深めていく。
肩をそっと掌で覆い、揺れる白銀の髪を指先ですいて、さらさらとした感触と触れ合う体温の熱さに、情欲を煽られて。
――止まらなくなる。
「……あなたに俺を教えたい。あなたを知りたい」
いやがられないように。嫌われないように。
逸る気持ちをおさえながら、コルテはフィロソフィアに愛を教えた。
* * *
「コルテが人形といちゃいちゃしているらしい」
「変態か」
「人形愛か……」
部族会議に行くと、変態扱いされている。
(この連中はフィロソフィアを知らないから)
しかし、フィロソフィアを見せたいとも思わない。
紅国には、『墨に触れれば黒くなる』という言葉がある。
あんなにまっしろなお姫さまを、このメンバーと関わらせてなるものか。
コルテは独占欲のような使命感のような感情を胸に「ところで分析結果は?」と話題を振った。
アエロカエルスとトールが視線を交わし、発表する。
『我々はこんなこともできるし、あんなこともできてしまう――神のごとく!』
と、公表した分析結果は、会議を沸かせた。
コルテが持ち帰った果実は、この世界の濃厚な魔力をぎゅっと濃縮した魔法果実。
それを食べることで人間は身体の組織を変異させ、故郷世界ではありえなかったような魔法体質になったり、自然の摂理に反して肉体の成長や老化が止まり、理論上は永遠の生を可能とする。
そこに、『無限の魔力を大地から引き出せる』かつ『自分で魔法を行使せずとも、願うだけで叶う』というとんでもない石が加われば。
「我々は神の領域に足を踏み入れることができる」
アエロカエルスが高揚に目をぎらぎらさせながら笑む。鼻息が荒い。興奮している――。
「待ってください! それは危険です」
ナチュラが声をあげて、生命倫理がどうだのという頭の痛くなる話が始まる。
会議が紛糾したのを見計らい、ソルスティスが「よし、そろそろ落ち着こう」と手を叩く。
(この連中はいつもこうだな。そして、喉元をすぎれば熱さをわすれて次の会議では別なことで盛り上がるんだ)
ヴィニュエスがしつこく投げてくる手袋も、毎度のことだ。予想できていたので、今回は手袋を入れる山ぶどうの編み籠まで持ってきてしまった。
ひょいひょいと手袋を編み籠に入れていると「お前、そのために籠を?」と驚かれている。
「実はわしもお前に投げるための手袋を籠に入れて持ち運んでいる。真似するな」
「真似していません」
なにをしてもヴィニュエスの好感度は下がる――それにもすっかり慣れつつ、コルテはソルスティスの『今回のまとめ』を待った。
「果実や石は、倫理観や道徳観念が求められるが、未知の世界で生存しようとする我々にとってこの上ない助けにもなる。幸い、我々は理知的に話し合い、全員で慎重に意思決定ができる……」
そうか?
この集団、理知的か?
全員で慎重に意思決定できているか?
コルテは甚だ疑問であったが、つっこんでも自分にメリットがないので、やめておいた。
「部族長の人数分、この果実を採取できるだろうか。望まない者に強制はしないが、我々は滅びかけたよその世界の人類だ。この世界で同胞人類が生き延びるために、我こそは神になろうと思う者は果実を食べてくれ」
「そして、ルールを決めよう。たとえば、石を使うときは全員で話し合い、是非を問う。私利私欲のためではなく同胞人類が生存するために使う……というように」
――後日、コルテは『果実の採取』という使命を背負い、人形の国へ向かった。
ついでと言ってはいけないが、覚悟を決めたこともある。
……フィロソフィアへのプロポーズだ。
カントループはお姫さまを聖女と呼び、フィロソフィアという名前をつけた。
フィロソフィアは話せば話すほどに人間らしい情緒を成長させていき、ある日、コルテが鼻先に軽く挨拶するようなキスをすると真っ赤になって恥じらった。
「可愛らしいお姫さま。俺はあなたをお慕いしています」
この様子なら、異性との愛や恋についてわかるのではないか。
そう思って想いを打ち明けると、フィロソフィアは両手で顔を覆って恥ずかしがりながら、胸がくすぐったくなるような甘い声で答えてくれた。
「わたくしも、あなたが好き……です」
――なんて愛しいのだろう!
コルテは幸せな気分でフィロソフィアを抱擁し、口付けを繰り返した。
最初は、おずおずと許しを求めるように一瞬だけ微かに触れるキスを。
いやがる気配がないのを確かめてから、角度を変えて、もう一度。
「……ん」
すこしずつ、想いを伝えるように深めていく。
肩をそっと掌で覆い、揺れる白銀の髪を指先ですいて、さらさらとした感触と触れ合う体温の熱さに、情欲を煽られて。
――止まらなくなる。
「……あなたに俺を教えたい。あなたを知りたい」
いやがられないように。嫌われないように。
逸る気持ちをおさえながら、コルテはフィロソフィアに愛を教えた。
* * *
「コルテが人形といちゃいちゃしているらしい」
「変態か」
「人形愛か……」
部族会議に行くと、変態扱いされている。
(この連中はフィロソフィアを知らないから)
しかし、フィロソフィアを見せたいとも思わない。
紅国には、『墨に触れれば黒くなる』という言葉がある。
あんなにまっしろなお姫さまを、このメンバーと関わらせてなるものか。
コルテは独占欲のような使命感のような感情を胸に「ところで分析結果は?」と話題を振った。
アエロカエルスとトールが視線を交わし、発表する。
『我々はこんなこともできるし、あんなこともできてしまう――神のごとく!』
と、公表した分析結果は、会議を沸かせた。
コルテが持ち帰った果実は、この世界の濃厚な魔力をぎゅっと濃縮した魔法果実。
それを食べることで人間は身体の組織を変異させ、故郷世界ではありえなかったような魔法体質になったり、自然の摂理に反して肉体の成長や老化が止まり、理論上は永遠の生を可能とする。
そこに、『無限の魔力を大地から引き出せる』かつ『自分で魔法を行使せずとも、願うだけで叶う』というとんでもない石が加われば。
「我々は神の領域に足を踏み入れることができる」
アエロカエルスが高揚に目をぎらぎらさせながら笑む。鼻息が荒い。興奮している――。
「待ってください! それは危険です」
ナチュラが声をあげて、生命倫理がどうだのという頭の痛くなる話が始まる。
会議が紛糾したのを見計らい、ソルスティスが「よし、そろそろ落ち着こう」と手を叩く。
(この連中はいつもこうだな。そして、喉元をすぎれば熱さをわすれて次の会議では別なことで盛り上がるんだ)
ヴィニュエスがしつこく投げてくる手袋も、毎度のことだ。予想できていたので、今回は手袋を入れる山ぶどうの編み籠まで持ってきてしまった。
ひょいひょいと手袋を編み籠に入れていると「お前、そのために籠を?」と驚かれている。
「実はわしもお前に投げるための手袋を籠に入れて持ち運んでいる。真似するな」
「真似していません」
なにをしてもヴィニュエスの好感度は下がる――それにもすっかり慣れつつ、コルテはソルスティスの『今回のまとめ』を待った。
「果実や石は、倫理観や道徳観念が求められるが、未知の世界で生存しようとする我々にとってこの上ない助けにもなる。幸い、我々は理知的に話し合い、全員で慎重に意思決定ができる……」
そうか?
この集団、理知的か?
全員で慎重に意思決定できているか?
コルテは甚だ疑問であったが、つっこんでも自分にメリットがないので、やめておいた。
「部族長の人数分、この果実を採取できるだろうか。望まない者に強制はしないが、我々は滅びかけたよその世界の人類だ。この世界で同胞人類が生き延びるために、我こそは神になろうと思う者は果実を食べてくれ」
「そして、ルールを決めよう。たとえば、石を使うときは全員で話し合い、是非を問う。私利私欲のためではなく同胞人類が生存するために使う……というように」
――後日、コルテは『果実の採取』という使命を背負い、人形の国へ向かった。
ついでと言ってはいけないが、覚悟を決めたこともある。
……フィロソフィアへのプロポーズだ。
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