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幕間のお話5「商業神ルートとフェリシエン」
309、逃げた『自然派』の、めんどくさくて頭が痛くなる話
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ルートはさすがにびっくりした。
「ナチュラ。石を悪用する者のせいで子孫が苦しめられたり、世界が滅びてもいいだって?」
『正義派』の船人が反論すると、ナチュラは「自然な生成物が自然に放置され、自然に生まれた現地人の悪用により世界が滅びても、それは自然ではないか」などと言うのだ。
(果たしてそうかな~? ああ、ナチュラの話はいつも頭が痛くなるし、言ってることが正しいのか正しくないのかもわからなくなる。もっと「1足す1は2」みたいな簡単な話だったらいいのになあ!)
しかも、みんなから反対されると「ルートならわかるだろう」とこっちを見てくる!
「お前は味方だよな、信じてるぞ」って顔だ。
(いやいやいや、そりゃまあ、味方だが~~……!)
船人にも相性がある。
集団生活をしていると仲の良い者、悪い者ができてくるのは、当然のことだった。
そんな集団生活の中で、ナチュラは「仲の良い友人」だとルートは思っている。
(でもなあ、困るよなあ)
なにせ、ルートは「世界が滅びない方がいい」と思っているのだ。
「世界が滅びても自然だからいいんだい」というナチュラの主張には「そうだね」と言いにくいではないか! 滅びたら嫌なんだもの。
(ナチュラ~~っ、めんどくさいやつ!)
頭がズキズキ痛むじゃないか!
「ふーむ」
ルートは、船人たちが囲むテーブルの上に、彼らの民が生きる現在の世界の地図を広げた。
大陸があって、海があって、国がある。
「たとえば、この水の海を星の海だと思えば。仮に、この中央にあるヴァリアスタ大陸を現在の世界として、東にあるフーラシア大陸を滅んだ僕たちの世界だと思えば」
ルートは自分の指をフーラシア大陸からヴァリアスタ大陸へと移動させた。
「星の海を渡ってこの世界にたどり着いた僕たちは、大陸限定で考えると『大陸外の存在』。だが、広大な世界全体で考えれば『同じ世界の存在』。そう考えると僕たちは別に不自然な存在ではないのでは?」
(だから、僕たちがなにかしても「自然」でいいんじゃないか、ナチュラ~?)
と、考えを語ると、ナチュラがショックを受けたような顔をしている。
「味方が誰もいなくなった!」みたいな顔だ。
そして『正義派』のメンバーたちは。
「そうだそうだーナチュラの考えはおかしいんだ、考えを変えろ!」
と盛り上がっちゃった。
やばい、ナチュラが可哀想!
別に、ナチュラを孤立させたいわけではない。
石だって、ルートは「世の中に存在してもいい」と思っている。「なくなってもいい」とも思っているけど。
(むむ。考えろ、僕。ナチュラは要するに「石を壊すな」と求めているのだから、その結果につながるように擁護してあげるのだ)
ルートはあわてて主張の方向性を変えた。
「……この石のことを、星から人類への贈り物と解釈してはどう?」
ルートは、神秘的な石を見た。
この特別な石は、魔力を豊富に持つ星が自然に生み出したのだ。
「人は生まれながらに公平ではない。しかし、どれほど恵まれない境遇で絶望している者でも、この石を拾ったものは起死回生の権利を得るのだ」
それは危険なことだ。
そう思うのと同時に、それって夢があるよな~、と思う自分がいる。
「世界を憎んでいたら、世界に復讐だってできるんだぜ。面白いではないか? これをなくしたら、まったく救いのないつまらな~い世界しか残らないよ、やだやだ」
ナチュラを見ると、「何を言ってるんだ」という顔をしている。
それはそうだ。ナチュラの主張は、「強い力を持っていても何もするな」なのだから。
けれど。
「つまり、僕はナチュラに賛成。根底にある主義は違うかもしれないが、世界に自然に存在するラッキーアイテムはそのまま残そうっ」
と、大声で言い放てば、とりあえず味方であることは理解してくれたようだった。よかった!
……そのあと、紆余曲折あってナチュラとルートは石を持って逃亡した。
そこまではルート的には問題なかった。
ルートは、『神々の舟』が窮屈で、退屈だったから。
それに、ナチュラのことは良い友人だと思っていた。二人で地上を巡る日々は、楽しかった。
けれど、ナチュラは石を二つに割ってしまった。
「力があるからって気軽に自然世界に介入したら、大変なことになるんだぞ、だからやめろよルート」
「う、うむ。僕は、わかっている」
「ほんとうに? ルートはこの石のことをラッキーアイテムと呼んでいたではないか」
「あー、呼んでしまったなぁ……」
遊びではないのだ――ナチュラの目が、そう訴えていた。
ルートはぜんぜん信用されていなかった。味方してあげたのに!
「これまではみんなで話し合っていたけどこれからは二人しかいないし、どっちかが死んだら一人になる。この石は、ラッキーアイテムと呼ぶには危険だ」
「でもナチュラ、自分で『石を誰かが使って世界が滅びても自然』と言ったよね? 言ってることが違う。まるで『正義派』だ」
悪意はなかった。ただ、矛盾しているなと思っただけだ。
でも、その言葉でナチュラは傷付いた顔をした。
後悔しているような眼を見せた。
だから、ルートは「あっ」と失言を悔いた。
思うに、仲間たちから石を奪って逃げた罪悪感と石を所有していることへの不安が時間とともにナチュラの中で膨らんでいったのだろう。
ナチュラは後悔していて、痛いところを突かれて傷ついたのかもしれない。
「ごめん、ナチュラ……」
「ルート、黙れ。わしは気が変わったんだ」
ナチュラはそう言って、ルートの追求を拒絶するように石を握った。そして、石を二つに分割していくつかの制約を設けたのだ……。
石は二つに分かたれて、気づけばルートは一つになった石を握りしめて、ひとりでいた。
ナチュラは、いなくなっていた。
「ええええ……」
ルートは後悔した。
いなくなった友人に謝ろうと思った。
関係を修復したいと思った。
なので――それからずっと、ルートはひとりでナチュラを探している。
「ナチュラ。石を悪用する者のせいで子孫が苦しめられたり、世界が滅びてもいいだって?」
『正義派』の船人が反論すると、ナチュラは「自然な生成物が自然に放置され、自然に生まれた現地人の悪用により世界が滅びても、それは自然ではないか」などと言うのだ。
(果たしてそうかな~? ああ、ナチュラの話はいつも頭が痛くなるし、言ってることが正しいのか正しくないのかもわからなくなる。もっと「1足す1は2」みたいな簡単な話だったらいいのになあ!)
しかも、みんなから反対されると「ルートならわかるだろう」とこっちを見てくる!
「お前は味方だよな、信じてるぞ」って顔だ。
(いやいやいや、そりゃまあ、味方だが~~……!)
船人にも相性がある。
集団生活をしていると仲の良い者、悪い者ができてくるのは、当然のことだった。
そんな集団生活の中で、ナチュラは「仲の良い友人」だとルートは思っている。
(でもなあ、困るよなあ)
なにせ、ルートは「世界が滅びない方がいい」と思っているのだ。
「世界が滅びても自然だからいいんだい」というナチュラの主張には「そうだね」と言いにくいではないか! 滅びたら嫌なんだもの。
(ナチュラ~~っ、めんどくさいやつ!)
頭がズキズキ痛むじゃないか!
「ふーむ」
ルートは、船人たちが囲むテーブルの上に、彼らの民が生きる現在の世界の地図を広げた。
大陸があって、海があって、国がある。
「たとえば、この水の海を星の海だと思えば。仮に、この中央にあるヴァリアスタ大陸を現在の世界として、東にあるフーラシア大陸を滅んだ僕たちの世界だと思えば」
ルートは自分の指をフーラシア大陸からヴァリアスタ大陸へと移動させた。
「星の海を渡ってこの世界にたどり着いた僕たちは、大陸限定で考えると『大陸外の存在』。だが、広大な世界全体で考えれば『同じ世界の存在』。そう考えると僕たちは別に不自然な存在ではないのでは?」
(だから、僕たちがなにかしても「自然」でいいんじゃないか、ナチュラ~?)
と、考えを語ると、ナチュラがショックを受けたような顔をしている。
「味方が誰もいなくなった!」みたいな顔だ。
そして『正義派』のメンバーたちは。
「そうだそうだーナチュラの考えはおかしいんだ、考えを変えろ!」
と盛り上がっちゃった。
やばい、ナチュラが可哀想!
別に、ナチュラを孤立させたいわけではない。
石だって、ルートは「世の中に存在してもいい」と思っている。「なくなってもいい」とも思っているけど。
(むむ。考えろ、僕。ナチュラは要するに「石を壊すな」と求めているのだから、その結果につながるように擁護してあげるのだ)
ルートはあわてて主張の方向性を変えた。
「……この石のことを、星から人類への贈り物と解釈してはどう?」
ルートは、神秘的な石を見た。
この特別な石は、魔力を豊富に持つ星が自然に生み出したのだ。
「人は生まれながらに公平ではない。しかし、どれほど恵まれない境遇で絶望している者でも、この石を拾ったものは起死回生の権利を得るのだ」
それは危険なことだ。
そう思うのと同時に、それって夢があるよな~、と思う自分がいる。
「世界を憎んでいたら、世界に復讐だってできるんだぜ。面白いではないか? これをなくしたら、まったく救いのないつまらな~い世界しか残らないよ、やだやだ」
ナチュラを見ると、「何を言ってるんだ」という顔をしている。
それはそうだ。ナチュラの主張は、「強い力を持っていても何もするな」なのだから。
けれど。
「つまり、僕はナチュラに賛成。根底にある主義は違うかもしれないが、世界に自然に存在するラッキーアイテムはそのまま残そうっ」
と、大声で言い放てば、とりあえず味方であることは理解してくれたようだった。よかった!
……そのあと、紆余曲折あってナチュラとルートは石を持って逃亡した。
そこまではルート的には問題なかった。
ルートは、『神々の舟』が窮屈で、退屈だったから。
それに、ナチュラのことは良い友人だと思っていた。二人で地上を巡る日々は、楽しかった。
けれど、ナチュラは石を二つに割ってしまった。
「力があるからって気軽に自然世界に介入したら、大変なことになるんだぞ、だからやめろよルート」
「う、うむ。僕は、わかっている」
「ほんとうに? ルートはこの石のことをラッキーアイテムと呼んでいたではないか」
「あー、呼んでしまったなぁ……」
遊びではないのだ――ナチュラの目が、そう訴えていた。
ルートはぜんぜん信用されていなかった。味方してあげたのに!
「これまではみんなで話し合っていたけどこれからは二人しかいないし、どっちかが死んだら一人になる。この石は、ラッキーアイテムと呼ぶには危険だ」
「でもナチュラ、自分で『石を誰かが使って世界が滅びても自然』と言ったよね? 言ってることが違う。まるで『正義派』だ」
悪意はなかった。ただ、矛盾しているなと思っただけだ。
でも、その言葉でナチュラは傷付いた顔をした。
後悔しているような眼を見せた。
だから、ルートは「あっ」と失言を悔いた。
思うに、仲間たちから石を奪って逃げた罪悪感と石を所有していることへの不安が時間とともにナチュラの中で膨らんでいったのだろう。
ナチュラは後悔していて、痛いところを突かれて傷ついたのかもしれない。
「ごめん、ナチュラ……」
「ルート、黙れ。わしは気が変わったんだ」
ナチュラはそう言って、ルートの追求を拒絶するように石を握った。そして、石を二つに分割していくつかの制約を設けたのだ……。
石は二つに分かたれて、気づけばルートは一つになった石を握りしめて、ひとりでいた。
ナチュラは、いなくなっていた。
「ええええ……」
ルートは後悔した。
いなくなった友人に謝ろうと思った。
関係を修復したいと思った。
なので――それからずっと、ルートはひとりでナチュラを探している。
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