295 / 384
4、奪還のベリル
289、月に至る道、上下階段。わたくし、名推理! …わたくしは、間違えることもありますの
しおりを挟む
青国と空国の登山隊が遺跡の中へと入っていく。
フェニックスのナチュラは彼らを見送り、「いつ帰ってくるかな?」とワクワクとした呟きをこぼした。
風がそよりと吹いて、フェニックスの赤い毛を撫でる。
翼にまとった炎がゆらゆらと揺れて、鳥の目はふと、神域の外を気にした。
「数が少ないと思っていたけれど、隊を分けたのですね。どうしてでしょう」
鳥の頭が疑問にかたむく。
神域の外では、呪術や魔法を使っての戦闘が派手に行われているらしい。
* * *
遺跡の中は、外から見ると暗かった。
登山隊あらため遺跡探検隊となった一行は、明かりを燈して穴の中へと順番に入っていった。
けれど一歩足を踏み入れた瞬間、両側の壁に光の花がふわりと咲く。
最初の一歩で左右に二輪。次の一歩でまた二輪。
歩くたびに近くで光の花が咲く。通り過ぎたあとも明るいままの親切設計だ。
「おもてなし精神を感じますねえ」
ハルシオンが楽しそうに言って、目の上で片手を傘のようにかざして道の先に目をこらしている。
道の幅は広くなったり狭くなったりと不安定だ。
「立て札がありますね」
空国の預言者ネネイが手を振り、前方の暗闇を払うように呪術の明かりを飛ばしている。同時に青国の預言者ダーウッドが杖を振り、小さな火の玉を明かりとして飛ばしている。
(あ、あなた、対抗しているわね)
フィロシュネーは自国の預言者の対抗心を察しつつ、道の先へと足を進めた。
立て札には、文字が書いてあった。
「これは古代の言葉ですね」
と、ハルシオンが読もうとする。フィロシュネーにっこりとした。
「わたくし、読めますわ。読みましょう」
「素晴らしいですね、シュネーさん。では、一段落ずつ読むのはいかがです?」
頷き合って、二人は交互に文字を読んだ。
「月に至る道」
「人生は選択の連続だ。なにが正解かは、誰も知らない。正義は人の数だけある。迷っても時間は過ぎていく。選び続ける君は、選んだ結果、道を戻ることもできるときがあるし、できないときもある」
「選び続ける君を誰かが見ているかもしれないし、誰も見ていないかもしれない。選ばれない君を誰かが選ぶかもしれないし、誰からも選ばれないかもしれない」
これはなんでしょう、と騎士や魔法使い、呪術師たちが考察会を始める。
フィロシュネーは時間が気になった。
「歩きながら考えるのでは、だめかしら? 立ち止まっている時間がもったいないと思うの」
月隠の夜は一年に二度。
今夜を逃したら、半年後まで待たなければならない――
(ナチュラさん。おもてなしは嬉しいのですけど、わたくしたちの時間は限られているの……)
フィロシュネーはこっそりと焦燥と不安を抱えつつ、ハルシオンと視線を交わして先に進んだ。
通路を進むと、階段があった。
上にのぼる階段と、下におりる階段だ。
上にのぼる階段は水晶のように透明な素材でできていて、下におりる階段は赤い素材でできていた。
「これは、試練でしょう。正しき道を選べと神鳥様から試されているに違いありません」
遺跡探検隊のメンバーの中からそんな声が湧いて、またしても考察会が始まりかける。
「ふうむ。シュネーさん、どう思われます? 私は……」
「上に行ってみたらいかがでしょうか?」
フィロシュネーは反射の速度で上にのぼる階段を選んだ。
「だって、『月に至る道』と書いてあったのですもの。ナチュラさんは幻影で、上にのぼっていく高い塔を見せましたわ。それって、上にいきなさいってことなのでは?」
「さすが青王陛下!」
「さすが聖女様!」
「ふふん……♪」
(わたくし、名推理!)
と、ドヤ顔になって階段をのぼったフィロシュネーは……階段をのぼりきった瞬間、外にいた。どういう仕組みなのかはわからないが、入り口に戻っていたのだ。
「ふぇっ?」
いっしょに階段をのぼった遺跡探検隊のメンバーたちも、みんなみんな、外にいる。
「あっ?」
「ここは、外!?」
遺跡の入り口の穴からぞろぞろと出てきて驚いている遺跡探検隊を見て、外で待っていたナチュラはゲラゲラと笑った。
「あっはっはっは! は、はやかったですね! 残念、今の選択は、はずれです。しかし、もう一度挑戦できますから安心してください。わしは優しいでしょう?」
どうやら上にのぼる階段は、はずれだったらしい。
「はずれだと」
「青王陛下が間違ったご選択を……」
「聖女様が……」
遺跡探検隊のみんながぼそぼそとささやくのが聞こえて、フィロシュネーは真っ赤になって扇をひろげ、顔を隠した。
「んー、いえいえ。今のは私が間違ったのですよ。そうでしょう? ん?」
ハルシオンは伸びやかな声で周囲に圧力をかけ、どうやらフォローしてくれている。
(ありがとうございます、ハルシオン様。でもそれって無理があると思いますの~~っ!)
フィロシュネーはどう反応するべきか迷った末に「今のは、わたくしが間違いましたの」と正直に言った。
「わ、わたくしは、間違えることもありますの。ですから、皆さまのお知恵が必要なのですわ。た、頼りにしていますわ」
可憐な美貌の女王が頬を赤らめて殊勝に言うと、遺跡探検隊のメンバーたちは「おおっ」と謎の歓声をあげ、やる気を何倍にも向上させたのだった。
フェニックスのナチュラは彼らを見送り、「いつ帰ってくるかな?」とワクワクとした呟きをこぼした。
風がそよりと吹いて、フェニックスの赤い毛を撫でる。
翼にまとった炎がゆらゆらと揺れて、鳥の目はふと、神域の外を気にした。
「数が少ないと思っていたけれど、隊を分けたのですね。どうしてでしょう」
鳥の頭が疑問にかたむく。
神域の外では、呪術や魔法を使っての戦闘が派手に行われているらしい。
* * *
遺跡の中は、外から見ると暗かった。
登山隊あらため遺跡探検隊となった一行は、明かりを燈して穴の中へと順番に入っていった。
けれど一歩足を踏み入れた瞬間、両側の壁に光の花がふわりと咲く。
最初の一歩で左右に二輪。次の一歩でまた二輪。
歩くたびに近くで光の花が咲く。通り過ぎたあとも明るいままの親切設計だ。
「おもてなし精神を感じますねえ」
ハルシオンが楽しそうに言って、目の上で片手を傘のようにかざして道の先に目をこらしている。
道の幅は広くなったり狭くなったりと不安定だ。
「立て札がありますね」
空国の預言者ネネイが手を振り、前方の暗闇を払うように呪術の明かりを飛ばしている。同時に青国の預言者ダーウッドが杖を振り、小さな火の玉を明かりとして飛ばしている。
(あ、あなた、対抗しているわね)
フィロシュネーは自国の預言者の対抗心を察しつつ、道の先へと足を進めた。
立て札には、文字が書いてあった。
「これは古代の言葉ですね」
と、ハルシオンが読もうとする。フィロシュネーにっこりとした。
「わたくし、読めますわ。読みましょう」
「素晴らしいですね、シュネーさん。では、一段落ずつ読むのはいかがです?」
頷き合って、二人は交互に文字を読んだ。
「月に至る道」
「人生は選択の連続だ。なにが正解かは、誰も知らない。正義は人の数だけある。迷っても時間は過ぎていく。選び続ける君は、選んだ結果、道を戻ることもできるときがあるし、できないときもある」
「選び続ける君を誰かが見ているかもしれないし、誰も見ていないかもしれない。選ばれない君を誰かが選ぶかもしれないし、誰からも選ばれないかもしれない」
これはなんでしょう、と騎士や魔法使い、呪術師たちが考察会を始める。
フィロシュネーは時間が気になった。
「歩きながら考えるのでは、だめかしら? 立ち止まっている時間がもったいないと思うの」
月隠の夜は一年に二度。
今夜を逃したら、半年後まで待たなければならない――
(ナチュラさん。おもてなしは嬉しいのですけど、わたくしたちの時間は限られているの……)
フィロシュネーはこっそりと焦燥と不安を抱えつつ、ハルシオンと視線を交わして先に進んだ。
通路を進むと、階段があった。
上にのぼる階段と、下におりる階段だ。
上にのぼる階段は水晶のように透明な素材でできていて、下におりる階段は赤い素材でできていた。
「これは、試練でしょう。正しき道を選べと神鳥様から試されているに違いありません」
遺跡探検隊のメンバーの中からそんな声が湧いて、またしても考察会が始まりかける。
「ふうむ。シュネーさん、どう思われます? 私は……」
「上に行ってみたらいかがでしょうか?」
フィロシュネーは反射の速度で上にのぼる階段を選んだ。
「だって、『月に至る道』と書いてあったのですもの。ナチュラさんは幻影で、上にのぼっていく高い塔を見せましたわ。それって、上にいきなさいってことなのでは?」
「さすが青王陛下!」
「さすが聖女様!」
「ふふん……♪」
(わたくし、名推理!)
と、ドヤ顔になって階段をのぼったフィロシュネーは……階段をのぼりきった瞬間、外にいた。どういう仕組みなのかはわからないが、入り口に戻っていたのだ。
「ふぇっ?」
いっしょに階段をのぼった遺跡探検隊のメンバーたちも、みんなみんな、外にいる。
「あっ?」
「ここは、外!?」
遺跡の入り口の穴からぞろぞろと出てきて驚いている遺跡探検隊を見て、外で待っていたナチュラはゲラゲラと笑った。
「あっはっはっは! は、はやかったですね! 残念、今の選択は、はずれです。しかし、もう一度挑戦できますから安心してください。わしは優しいでしょう?」
どうやら上にのぼる階段は、はずれだったらしい。
「はずれだと」
「青王陛下が間違ったご選択を……」
「聖女様が……」
遺跡探検隊のみんながぼそぼそとささやくのが聞こえて、フィロシュネーは真っ赤になって扇をひろげ、顔を隠した。
「んー、いえいえ。今のは私が間違ったのですよ。そうでしょう? ん?」
ハルシオンは伸びやかな声で周囲に圧力をかけ、どうやらフォローしてくれている。
(ありがとうございます、ハルシオン様。でもそれって無理があると思いますの~~っ!)
フィロシュネーはどう反応するべきか迷った末に「今のは、わたくしが間違いましたの」と正直に言った。
「わ、わたくしは、間違えることもありますの。ですから、皆さまのお知恵が必要なのですわ。た、頼りにしていますわ」
可憐な美貌の女王が頬を赤らめて殊勝に言うと、遺跡探検隊のメンバーたちは「おおっ」と謎の歓声をあげ、やる気を何倍にも向上させたのだった。
0
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる