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4、奪還のベリル

番外編、ハロウィン回3~後日、謎解きを一緒にしましょう

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 二つの月が地上を見守る、ハロウィンの夜。
 王城の敷地内で馬車が停まり、外で護衛が列をつくるのを感じながら、青王フィロシュネーは微笑んだ。
 
「おかえりなさい、ダーウッド。またどこかで死にかけていないかと心配しましたわ……あら、珍しい恰好をなさっているのね。それは、男装?」

 馬車の中では、小鳥が変身を解いて人間の姿へと戻っていた。
 中性的な預言者ダーウッドが身に纏っていたのは、青を基調とした、貴公子のような衣装だった。

「どこぞの無礼な女は私に仮装センスがないと言いましたが、間違いです。フン、よその王族のために私のセンスを発揮する必要性を感じないだけなのですぞ。やる気になれば、これくらい」

「ねえ。なにをおっしゃっているか、わからないわ。ハロウィンのいたずらかしら? お菓子を差し上げないといけませんわね?」

 フィロシュネーはくすくすと笑って馬車の席に置いてあった魔力回復剤の小瓶をダーウッドに渡した。

「あなたが疲れて帰ってくると思ったから、用意しておきましたの。いちご味ですわ」
「おお。ありがとうございます、フィロシュネー様。じいやは、やはり青国の王族がいちばん可愛いと思いますな……」
「また『じいや』なんて言う……」
 
 ダーウッドは魔力回復剤をくぴりと飲み干し、エスコートしてくれる様子で手を差し出した。
 差し出された男装の預言者の手を取り、フィロシュネーが向かう先は、学友や臣下が集まるパーティ会場だ。

 もふもふの狼男スタイルで耳に手をあてているリュート・アインベルグ侯爵公子の隣で、ウィッチ衣装のオリヴィア・ペンブルック男爵令嬢がヴァイオリンの形をしたチョコレートを手にして笑っている。

 シフォン補佐官は首から『良縁、募集中!』という文字が書かれた看板を下げていた。
 リッチモンド・ノーウィッチ外交官は新妻カタリーナのお手製・かぼちゃ型のオレンジチョコを「あーん」してもらっている。
 
「シューエン様から届いたんです」
 セリーナ・メリーファクト準男爵令嬢は、父親に手紙とキャンディボックスを見せている。嬉しそうだ。

「皆さま、いつもありがとう。今宵は無礼講ですの。どうぞ楽しいハロウィンをお過ごしください!」

 フィロシュネーが明るく柔らかに声を響かせれば、あたたかな声が返ってくる。

「怖ーいハロウィンでありますように!」
「ふしぎで楽しい夜に、乾杯!」 

 席に運ばれてくる料理は、ハロウィンムードたっぷりの白いお化け型チョコをトッピングしたスイートポテトクレープに、パンプキン・ミルクドリンク。
 黒猫のドーナツに、瓶入りのカラフルなサワーグミとキャンディ。
 黒いリボンで飾られたオレンジ地のプレゼントボックス――パカッと開けると、中にはホワイトチョコのお化けが四体、詰められていた。
 カップケーキにクッキー、いちごとかぼちゃのプリン、表面が光る魔法塗料で飾られ、赤い甘辛ソースをかけられたサラダ。

(この見た目の料理は、美味しいの?)
 と、おそるおそる口に入れてみると、どれも美味しい!
 
 舌つづみを打っていると、シフォン補佐官が「陛下! 今のところ良縁がきません!」と報告してくる。そして、メッセージカードと黒馬のぬいぐるみを見せてくれた。
 
「こちらは、陛下の婚約者の方からです」
「……サイラスから!」
 
 フィロシュネーは目を輝かせた。

『月が見守る楽しい夜に、この心を届けます。
 どうか今宵は俺の夢を見てください。――サイラス・ノイエスタルより』 

 メッセージカードには胸をきゅんとさせる文字があって、黒馬のぬいぐるみを抱きしめると以前のプレゼントと同様、魔法仕掛けの声の贈り物もあったので、フィロシュネーは幸せ気分になったのだった。

「陛下が嬉しそうでなによりです。続いて、こちら。空国のハルシオン陛下からです」
 
 シフォン補佐官は、もう一通のメッセージカードを渡してくれた。
 カードには、石版が添えられている。フィロシュネーは石版に首をかしげつつ、カードの文字を読んだ。

『こちらは手がかりを見つけたかもしれません。二人の王は生きている可能性が高いものと思われます。急ぐ必要はないので、大丈夫です。
 予定していた通り、後日、シュネーさんが空国にいらしたら、謎解きを一緒にしましょう。
 ハッピーハロウィン――ハルシオンより』

「……ダーウッド。これを見て!」 

 フィロシュネーはカードをダーウッドに見せて、ぎゅっと抱きしめた。
 便利に顔を隠せるフードがないダーウッドは奇跡を見たような目でカードを見て、うるっと目を潤ませたので、フィロシュネーはよしよしと頭を撫でて笑ってあげた。

「ヘンリー・グレイ男爵と再び話す機会をつくり、彼の情報を獲得したのち、空国にまいりましょう」
 
 希望の道筋を共有して、フィロシュネーはパンプキン・ミルクドリンクで乾杯をした。

 喜びを胸に味わうドリンクは格別に美味しくて、フィロシュネーはその日いちばんの笑顔を咲かせたのだった。
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