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4、奪還のベリル
253、騎士道観覧会2~竜騎士は空を翔け、侯爵公子は雄叫びで魔導剣士人形の群れをなぎ倒し
しおりを挟む北側観覧席の青王フィロシュネーは、ステージ中央エリアにいる学友オリヴィア・ペンブルック男爵令嬢を見た。
オリヴィア・ペンブルック男爵令嬢はカンパニュラの花を手にリュート・アインベルグ侯爵公子を応援している。
オリヴィアはリュートと婚約している。政治的な目的だけではなく、想い合っているのだ。
(わたくしは国王という立場上、どちらかだけを応援する態度を見せてはだめね)
フィロシュネーは自重しつつ、騎士道観覧会を見守った。
リュート・アインベルグ侯爵公子には、入手したばかりの魔導具を渡してある。
東側の騎士たちにはミストドラゴンがいて、有利なので、せめて魔導具を活用させて不利を補うと言い、と思って渡したのだ。
だが、見たところリュートは魔導具を使う気配がなかった。
(そうよね。アインベルグ侯爵家は由緒正しき武闘派。正々堂々、鍛え上げた肉体で勝負って感じの気質よね)
フィロシュネーはその気質を好ましく思うと同時に、ちょっぴり心配した。
――正々堂々なんて言ってたら、負けてしまうのでは? ……と。
* * *
ミストドラゴンが次々と飛び立つ。
白い巨体が翼を上下させて風を起こす景色は圧巻で、「竜騎士に負けて欲しい」と言っていた観客も目を奪われている。
「俺たちの勇姿に見惚れるがいい」
観客に傲慢に言い放ち、竜騎士たちがミストドラゴンの背で楽器を奏でる。
彼らは、楽器で自分のドラゴンと意思疎通するのだ。
地上の魔導剣士人形が、上空のドラゴンに剣を向ける。当然、届かない。そんな魔導剣士人形を嘲笑うように上空を一周してから、竜騎士たちは一斉にドラゴンの首を下に向け、急降下した。
風を巻き起こし、サアッと強襲したドラゴンは、凄まじい勢いで魔導剣士人形を蹴散らし、そのまま上空に翔け上がった。
その一度の強襲で、魔導剣士人形が二十体以上、倒された。
「竜騎士の強襲が決まりました! 鮮やかですねー!」
司会進行役が叫び、観客が歓声をあげる。
「おおおおおおっ!」
観客は、ほとんど東側の竜騎士に目を奪われている。
――竜騎士の戦闘は、華麗だった。
* * *
「西側の騎士たちも、実力を発揮して見ごたえのある戦いをしていますのにねえ。頑張っているのに」
北側観覧席のフィロシュネーは、西側の騎士をちょっと憐れに思った。
「どちらの騎士も頑張っていますから、国王である我々は両者に公平に声援を送りましょうね」
隣に座っている空王ハルシオンは、優しい声で言った。
そうですわね、と共感を返したタイミングで、青国の預言者ダーウッドが近寄ってくる。
「いかがなさったの?」
「あちらの二人が小細工をしていますが、放置でよろしいですかな?」
ダーウッドは「あちらの二人」を示した。
ソラベル・モンテローザ公爵とフェリシエン・ブラックタロンだ。
ダーウッドは杖を軽く動かし、二人の密談をフィロシュネーとハルシオンに聞かせた。
『ミストドラゴンを無力化するんだ。カピバラくん。わかっているね? やらないと君の弟くんを好き勝手改造する』
『弟はどうでもいいが無力化はしてやろう』
「まあ、悪巧みしているわ」
「君の弟くんというのは、モンテローザ派の治療院で治療を継続中のうちのルーンフォークではないでしょうか? 勝手に改造されては困るのですが」
フィロシュネーとハルシオンが顔を見合わせた数秒後、観覧席から悲鳴が上がった。
なんと、魔導剣士人形がパカッと口を開け、合唱を始めたのだ。
「魔導剣士人形が歌っています! こんな機能があるとは、空国の呪術の技はすごいぞっ!?」
司会進行役も興奮気味だ。
「あっ、こら。言うことを聞け」
「ぎゃあああああ!」
合唱のせいだろうか。
竜騎士たちのミストドラゴンは、急に騎士と意思疎通できなくなった様子で、無軌道な動きになった。
なるほど、ドラゴンを無力化できている。フェリシエン・ブラックタロンは有能だ。
――しかし。
「お、お待ちになって。リュート・アインベルグ侯爵公子にも効いています……」
フィロシュネーはハッとした。
西側の騎士小隊を見てみると、先頭で指揮を執っていたリュート・アインベルグ侯爵公子が眠そうにしている!
(そういえば、以前、オリヴィアが言ってたわ)
『わたくしの婚約者は、ヴァイオリンを弾くと眠ってしまうのよ』
――リュート・アインベルグ侯爵公子は、音楽が苦手なのだ……!
「こ、これ。さすがに、いかがなものかしら……止めるべきなのでは? ダーウッド、フェリシエンを止められる?」
「ただちに」
ダーウッドは頷き、悪巧み犯のソラベル・モンテローザ公爵とフェリシエン・ブラックタロンに近付いて行った。
「ネネイ、リュート・アインベルグ侯爵公子に婚約者の応援の声を届かせてあげたらどうだろう。やっぱり、好きな令嬢の応援ってやる気が出るよね」
「かしこまりました、ハルシオン様」
隣では、空王ハルシオンが空国の預言者ネネイに呪術を使わせている。
少しして、西側から大声が響いた。
拡声魔導具なしの、リュート・アインベルグ侯爵公子の怒鳴り声だ。野生のドラゴンみたいな、人間ってこんな声が出せるんだ? とびっくりしてしまうような凄まじい大声だった。
「――騎士は、正々堂々を望む者なり!」
ちょうど、そのタイミングで魔導剣士人形が合唱を止める。剣もおろし、動きもカクカクと鈍っていき、やがて止まって――ぱたり、ぱたりと倒れていく。
「魔導剣士人形が、無力化された……?」
観覧席から、ざわっとした声が広がる。
「リュート・アインベルグ侯爵公子の一喝で魔導剣士人形の群れが沈黙したぞ!」
「雄叫びひとつで! すごい……‼」
こうして、西側と東側の騎士たちはほとんど同時に第一関門を突破した。
リュート・アインベルグ侯爵公子には『雄叫びで魔導剣士人形の群れをなぎ倒した!』という武勇伝が生まれたのであった。
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