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2、協奏のキャストライト
107、青空の商会戦線2~商売の世界って、こわぁい
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天気のよい朝。
「これはエルの森で採れるのですって。魔法薬の材料になるのよ。わたくしもつくってみたいですわ」
フィロシュネーは、魔法薬の材料を宣伝をしていた。
ハルシオンとの共同戦線の一環で、青国のメリーファクト商会は紅都で商売を始めたのである。
「それでは魔法薬の鍋を姫殿下に混ぜていただきましょう」
鍋を混ぜると、魔法薬に『姫が混ぜた』という付加価値が付く。そして、売れる。同じ効果のお薬なのに、お隣さんのお店の何倍ものお値段でサクサク売れる。
「うちの隣で堂々と……」
悔しそうにしているお隣さんは、クラーケン商会であった。
クラーケン商会は歴史ある商会だ。古くから紅都を拠点としてきたので、圧倒的な商売基盤を持つ。
「現商会長のアンダーソンさんが就任してからは、あまり良い噂を聞かないようです」
アンダーソン商会長は、数多の新興商会を蹴散らすようにして幅を利かせてきたのだ。ハルシオンは、そう教えてくれた。
そんなクラーケン商会が、他国の商会に喧嘩をふっかけられている。
紅都の民が野次馬根性全開で現物する中、メリーファクト商会の商人たちは声を張り上げた。
「この茶葉は王室御用達の特別な茶葉なんだ。隣の店と同じ? いいや、こっちには王室の威光がある!」
「こちらの商品は、王妹殿下が勝利なさった魔法チェスだよ!」
「ママ、これほしい」
「リタ、メリーファクト商会のラズベリーは人気なのよ。人気のラズベリーのほうが美味しいし、栄養もあるの! クラーケン商会のじゃなくて、メリーファクト商会のを買いましょう」
「ママ、どっちも同じラズベリーに見えるよ」
(あの母娘、見覚えが……)
専用の茶席を用意されて学友たちとお茶を味わいながら、フィロシュネーは思い出した。
あれは都市グランパークスの慰霊祭で助けた女王役の母と娘だ。娘が屈託のない笑顔で手を振ってくれる。どう見てもサクラ役として呼ばれています本当にありがとうございます。
「ママ、メリーファクト商会のラズベリー、お隣の三倍美味しい!」
子供のあどけない声が響き渡る。クラーケン商会は怒りに震えて声を張り上げる。
「う、うちの商品を食べてもいない癖に……皆さん! あちらのラズベリーとこちらのラズベリーは同じ産地の同じラズベリーです!」
ああっ、なのに子供の容赦ない声が――、
「五倍美味しい!」
元々人通りが多かった店の近くにどんどん人が集まってくる。何をやってるんだ、と。
「暗黒郷の商人はハートもドス黒いのか」
「ええぞー、やれやれー」
――面白がられている!
「あのやり方、大丈夫?」
メリーファクト商会の評判下がらない?
心配するフィロシュネーに、セリーナが太鼓判を押した。
「姫様、ご安心ください。私のお父様もメリーファクト商会も、もともとあまり名声が高くありません。戦争に乗じてお金儲けをした死の商人と呼ばれています」
「それ、安心していいのかしら」
フィロシュネーは大いに疑問に思った。
「名声よりも実益です。私、姫様にご恩を感じています。お父様も、王室に敬愛の念を抱いています。我が家がお役に立てるのは光栄です。困ることはありません。メリーファクト商会は、姫様と祖国のために働いたことを末代まで誇ります!」
セリーナの目がキラキラしている。まぶしい!
「王室や姫殿下の権威により、商品に目に見えない付加価値が加わったのですわ! 多少、売る場所や売り文句があからさまですけど、相手は悪い商会なのでしょう? 遠慮することはありませんわ!」
集まった方々も楽しそうではありませんか――そう主張するオリヴィア。
どう見ても集まってる方々は単なる野次馬です、という思いを胸にしまいこみ、フィロシュネーは鳥姿のダーウッドを見た。
ダーウッドは「クラーケン商会はメアリーやフェリシエンと繋がっていましたぞ」と教えてくれたのだ。
そんな現場に黒馬ゴールドシッターに乗ったサイラスがくると、民衆はお祭りモードになって拍手で迎えた。もともと、音楽祭が近くてお祭り気分だったのだ。
「騎士様だ」
「女王の騎士様がいらしたぞ」
サイラスの漆黒の瞳は、じろじろと現場を見た。その瞳が見知った顔を何人か見つける――商品を陳列する氷雪騎士団員に、サクラ役の母娘、学友たちとお茶を楽しむフィロシュネー。
黒い瞳がすがめられる。
「姫のお友達の皆さんは、商会員のフリをして近隣のお店の営業妨害をなさっていますか?」
問いかけはストレートだった。
「やだ……そんなことをする悪い商人さんがいますの? 商売の世界って、こわぁい」
「あれは全部氷雪騎士団では?」
サクッと見抜かれている!
「姫様、誤魔化しましょう」
セリーナがコソコソと耳打ちして教えてくれる。
(わたくしたちは本当に正義なのかしら)
フィロシュネーはだんだん自信がなくなってきた。
「これはエルの森で採れるのですって。魔法薬の材料になるのよ。わたくしもつくってみたいですわ」
フィロシュネーは、魔法薬の材料を宣伝をしていた。
ハルシオンとの共同戦線の一環で、青国のメリーファクト商会は紅都で商売を始めたのである。
「それでは魔法薬の鍋を姫殿下に混ぜていただきましょう」
鍋を混ぜると、魔法薬に『姫が混ぜた』という付加価値が付く。そして、売れる。同じ効果のお薬なのに、お隣さんのお店の何倍ものお値段でサクサク売れる。
「うちの隣で堂々と……」
悔しそうにしているお隣さんは、クラーケン商会であった。
クラーケン商会は歴史ある商会だ。古くから紅都を拠点としてきたので、圧倒的な商売基盤を持つ。
「現商会長のアンダーソンさんが就任してからは、あまり良い噂を聞かないようです」
アンダーソン商会長は、数多の新興商会を蹴散らすようにして幅を利かせてきたのだ。ハルシオンは、そう教えてくれた。
そんなクラーケン商会が、他国の商会に喧嘩をふっかけられている。
紅都の民が野次馬根性全開で現物する中、メリーファクト商会の商人たちは声を張り上げた。
「この茶葉は王室御用達の特別な茶葉なんだ。隣の店と同じ? いいや、こっちには王室の威光がある!」
「こちらの商品は、王妹殿下が勝利なさった魔法チェスだよ!」
「ママ、これほしい」
「リタ、メリーファクト商会のラズベリーは人気なのよ。人気のラズベリーのほうが美味しいし、栄養もあるの! クラーケン商会のじゃなくて、メリーファクト商会のを買いましょう」
「ママ、どっちも同じラズベリーに見えるよ」
(あの母娘、見覚えが……)
専用の茶席を用意されて学友たちとお茶を味わいながら、フィロシュネーは思い出した。
あれは都市グランパークスの慰霊祭で助けた女王役の母と娘だ。娘が屈託のない笑顔で手を振ってくれる。どう見てもサクラ役として呼ばれています本当にありがとうございます。
「ママ、メリーファクト商会のラズベリー、お隣の三倍美味しい!」
子供のあどけない声が響き渡る。クラーケン商会は怒りに震えて声を張り上げる。
「う、うちの商品を食べてもいない癖に……皆さん! あちらのラズベリーとこちらのラズベリーは同じ産地の同じラズベリーです!」
ああっ、なのに子供の容赦ない声が――、
「五倍美味しい!」
元々人通りが多かった店の近くにどんどん人が集まってくる。何をやってるんだ、と。
「暗黒郷の商人はハートもドス黒いのか」
「ええぞー、やれやれー」
――面白がられている!
「あのやり方、大丈夫?」
メリーファクト商会の評判下がらない?
心配するフィロシュネーに、セリーナが太鼓判を押した。
「姫様、ご安心ください。私のお父様もメリーファクト商会も、もともとあまり名声が高くありません。戦争に乗じてお金儲けをした死の商人と呼ばれています」
「それ、安心していいのかしら」
フィロシュネーは大いに疑問に思った。
「名声よりも実益です。私、姫様にご恩を感じています。お父様も、王室に敬愛の念を抱いています。我が家がお役に立てるのは光栄です。困ることはありません。メリーファクト商会は、姫様と祖国のために働いたことを末代まで誇ります!」
セリーナの目がキラキラしている。まぶしい!
「王室や姫殿下の権威により、商品に目に見えない付加価値が加わったのですわ! 多少、売る場所や売り文句があからさまですけど、相手は悪い商会なのでしょう? 遠慮することはありませんわ!」
集まった方々も楽しそうではありませんか――そう主張するオリヴィア。
どう見ても集まってる方々は単なる野次馬です、という思いを胸にしまいこみ、フィロシュネーは鳥姿のダーウッドを見た。
ダーウッドは「クラーケン商会はメアリーやフェリシエンと繋がっていましたぞ」と教えてくれたのだ。
そんな現場に黒馬ゴールドシッターに乗ったサイラスがくると、民衆はお祭りモードになって拍手で迎えた。もともと、音楽祭が近くてお祭り気分だったのだ。
「騎士様だ」
「女王の騎士様がいらしたぞ」
サイラスの漆黒の瞳は、じろじろと現場を見た。その瞳が見知った顔を何人か見つける――商品を陳列する氷雪騎士団員に、サクラ役の母娘、学友たちとお茶を楽しむフィロシュネー。
黒い瞳がすがめられる。
「姫のお友達の皆さんは、商会員のフリをして近隣のお店の営業妨害をなさっていますか?」
問いかけはストレートだった。
「やだ……そんなことをする悪い商人さんがいますの? 商売の世界って、こわぁい」
「あれは全部氷雪騎士団では?」
サクッと見抜かれている!
「姫様、誤魔化しましょう」
セリーナがコソコソと耳打ちして教えてくれる。
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