4 / 4
4、雨上がり、虹、これから
しおりを挟む
雨上がりの青空に、虹がかかっている。
世間を騒がせた事件のあと、私は北方にある獣人の国へとやってきた。
異国の風はすこし乾いていて、お花の匂いがする。優しくて爽やかな、いい匂いだ。
上空では、画家が気ままに筆を遊ばせたような白い雲がゆっくりと風に流されていく。
「わが国へようこそ、聖女様~~っ!」
大きくて立派な建物が並ぶ王都に、花吹雪が舞う。
建物の窓から民が降らせているのだ。
街道には、たくさんの旗を持った民が集まっていた。みんな動物の耳と尻尾が生えていて、可愛い。
「イシャード殿下の婚約者様だーーっ!!」
わあわあと歓迎の声がする。
馬車の中の私はプレッシャーのようなものを感じてどきどきした。
だって、私は。
『美人じゃない方』だったから。
『魔法が得意じゃない方』だったから。
『優秀じゃない方』とずっと言われていたから。
過去と現在のギャップが激しくて、緊張したり不安になったりしてしまう。自分が美人でも優秀でもないという意識があるから、がっかりさせてしまうのではと思ってしまって、怖くなる。
――でも。
到着を知らせるファンファーレが鳴り響く。
華やかで、晴れやかな音だ。
私はそっと呟いた。
「卑屈になっちゃだめ。弱気になったらだめ」
私はエミリオお兄様の妹で、誇り高き王族なのだ。
私は聖女で、この国の王太子殿下の婚約者なのだ。
(堂々としていなければ、私を大切にしてくださる方々の名誉も傷つけてしまうじゃない)
気付いたら、ここはもうお城の前だ。
門をくぐり、馬車がとまって、イシャード殿下が出迎えてくれる。
「アミーラ姫」
待っていた、会いたかった、と嬉しそうに殿下が笑ってくれる。
尻尾がパタパタと揺れていて喜びが伝わってくる。だから、私はすべての緊張から解き放たれて、自然にありのままの笑顔を返すことができた。
「……イシャード殿下!」
重ねた手の温もりが、愛しくて、幸せ。
「お会いしたかった」
「私も」
視線があたたかに絡み合って、甘く声が重なる。
「これから、よろしくお願いしますね」
ここは、美しい北の国。
私を見てくれるのは、特別なあなた。
うつむいて何も言えないでいた私は、もういない。
「姫、愛している。必ず幸せにするので、どうかオレの愛を受け止めてほしい」
煌めく指輪を差し出されて、微笑んで頷いた。
神聖な儀式のように指にはめてくれる。婚約指輪だ。
呪われたお姫様は、もういない。
私はありったけの想いをこめて、真実の言葉を彼に捧げた。
「あなたが好きです。大好きです」
今日から私は、あなたの隣で堂々と胸を張って生きていく。
――HAPPY END!
世間を騒がせた事件のあと、私は北方にある獣人の国へとやってきた。
異国の風はすこし乾いていて、お花の匂いがする。優しくて爽やかな、いい匂いだ。
上空では、画家が気ままに筆を遊ばせたような白い雲がゆっくりと風に流されていく。
「わが国へようこそ、聖女様~~っ!」
大きくて立派な建物が並ぶ王都に、花吹雪が舞う。
建物の窓から民が降らせているのだ。
街道には、たくさんの旗を持った民が集まっていた。みんな動物の耳と尻尾が生えていて、可愛い。
「イシャード殿下の婚約者様だーーっ!!」
わあわあと歓迎の声がする。
馬車の中の私はプレッシャーのようなものを感じてどきどきした。
だって、私は。
『美人じゃない方』だったから。
『魔法が得意じゃない方』だったから。
『優秀じゃない方』とずっと言われていたから。
過去と現在のギャップが激しくて、緊張したり不安になったりしてしまう。自分が美人でも優秀でもないという意識があるから、がっかりさせてしまうのではと思ってしまって、怖くなる。
――でも。
到着を知らせるファンファーレが鳴り響く。
華やかで、晴れやかな音だ。
私はそっと呟いた。
「卑屈になっちゃだめ。弱気になったらだめ」
私はエミリオお兄様の妹で、誇り高き王族なのだ。
私は聖女で、この国の王太子殿下の婚約者なのだ。
(堂々としていなければ、私を大切にしてくださる方々の名誉も傷つけてしまうじゃない)
気付いたら、ここはもうお城の前だ。
門をくぐり、馬車がとまって、イシャード殿下が出迎えてくれる。
「アミーラ姫」
待っていた、会いたかった、と嬉しそうに殿下が笑ってくれる。
尻尾がパタパタと揺れていて喜びが伝わってくる。だから、私はすべての緊張から解き放たれて、自然にありのままの笑顔を返すことができた。
「……イシャード殿下!」
重ねた手の温もりが、愛しくて、幸せ。
「お会いしたかった」
「私も」
視線があたたかに絡み合って、甘く声が重なる。
「これから、よろしくお願いしますね」
ここは、美しい北の国。
私を見てくれるのは、特別なあなた。
うつむいて何も言えないでいた私は、もういない。
「姫、愛している。必ず幸せにするので、どうかオレの愛を受け止めてほしい」
煌めく指輪を差し出されて、微笑んで頷いた。
神聖な儀式のように指にはめてくれる。婚約指輪だ。
呪われたお姫様は、もういない。
私はありったけの想いをこめて、真実の言葉を彼に捧げた。
「あなたが好きです。大好きです」
今日から私は、あなたの隣で堂々と胸を張って生きていく。
――HAPPY END!
2
お気に入りに追加
80
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~
白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」
……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。
しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。
何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。
少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。
つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!!
しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。
これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。
運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。
これは……使える!
だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で……
・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。
・お気に入り登録、ありがとうございます!
・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします!
・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!!
・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!!
・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます!
・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!!
・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。
櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。
才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。
敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。
新たな婚約者候補も…。
ざまぁは少しだけです。
短編
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
なんというテクニック…
人前でシッポをモフる公開プレイ( ꈍᴗꈍ)
殿下感じていらっしゃる⊙.☉
発射寸止め?!
可愛い物語…
R18?(笑)
なんという…( ꈍᴗꈍ)寸止め♡
健全ですよっ(笑)