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二人の天才

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 さて、俺です俺。別に恥ずかしくもなんともないですが帰ってまいりました。だって俺ってば、何か背負ってたわけじゃないですし。ちょっと前にせっかく合流できた喪女さんでしたが、泣く泣く置いてきました。タイミング悪いんだよてめえと言いたい。誰って? それは……

「ははは! まるで我々の到着を予見していたかのようではないか! 流石は神童! とでも言っておこうか!」

 ってまぁ、自分の言葉に悦に入るおナルなアルディモさんですのよ。見てくれはなんと言うか、丁度サイモンが大きくなったらこうなるんだろうなぁっていう風貌ですな。サイモンが青の短髪パーマヘアに灰目の眼鏡キャラなのに対し、アルディモは背が少し高めで髪がセミロング、メガネがモノクルになっただけのキャラだだかぶり青年ですな。

「私はジュリエッタ様……フエルカノン公爵家の姫君の忠告に従って、ここに陣を敷いていたまで。この出会いは単なる偶然に過ぎません。そして貴公は天才と名高いアルディモ殿とお見受け致します。お噂はかねがね……」

「ほう、公女殿下、ねぇ。君の見立てでここに居たわけではなかったのか。それはそうと……はっ! 白々しいセリフは相手を白けさせるだけだぞ、神童! 何せ他ならぬ君の登場で、私は惨めな思いをしてきたのだからね!」

「惨めな思い、ですか?」

「君に分かるかね。それまで甘い言葉で擦り寄ってきていた数多の老若男女達。それがある日突然自分より優れた人間が現れた瞬間、まるで元から居なかったかの様に! 私の下に一人も残らなかった光景を目の当たりにした気持ちが!」

「……それはちやほやされたかった、ということですか? あの学があるわけでも無い、私欲をギラつかせた連中に取り巻かれる日々が……そんなものがお望みだったので?」

 あらやだ、すれてらっしゃる。

「それは今君自身がそう扱われているからこそ疎ましく思っているだけだよ! 無くなったら無くなったで惜しく思うのが人間というものだ! 無くしたことのない君には分からないだろうがね!」

「……残念ながら理解致しかねます。何せ私は早い内から殿下の庇護下にありました故、そういった益にならぬ連中からは遠ざけられましたから」

「 !? ……ふ、ふふ、私が思うより君はずっと恵まれていて、かつ傲慢だったようだ」

「前半の部分に関しては大いに同意いたしますが、その後半の評価は残念です。私は私の前に現れた天才である貴方とこそ、魔法の議論を交わしたいと思っておりましたから」

 アツアツですね。段違い平行棒並みに平行な上にずれて咬み合ってませんが。……段違い平行棒はあのズレが芸術を生むから良いのよ? 喪女さんがいたらわざと言い間違えて盛り上がってみたかった。

「もはや敵国同士である我等の間に言葉は不要! 君も私も互いの能力を知っている! であるならばどれだけそれを超えれるかが勝負の分かれ目と言えるでしょう!」

「なるほど。やはり貴方の国にも転生者がいるのですね……」

「そういう事だねぇ。……いざ尋常に!」

 声を張り上げ、アルディモを中心に光る巨大な魔力の柱が出現する! うおー、派手だなー。

「こちらも迎撃用意! 集積魔法陣!」

 サイモンも声を張り上げ、こちらは半球状の光が部隊を包み、その表面を何やら複雑な文様がくるくると滑っている。……あっちと比べると地味?

「くっ! 流石ですね神童! 殆どロスの無い魔法陣を完成させているとは!」

「貴方こそ部隊全体の魔力をそこまで激しく活性化させる手法を用いてるではありませんか。やはり貴方とは矛ではなく議論を交わしたかった」

 ……ロスが無いんだって。誰だよ地味とか言ったのは。俺ですオレオレ! ツッコミが居ないとやっぱり俺は駄目みたいだ。
 やがて二人の集中がピークを迎えると、溜め込んだ魔力を照射する構えを取り、

「フル・チャージ!」「「「「「おおおおおおお!!」」」」」

 先に魔法を開放したのはアルディモの方だった! その魔法は放たれた、と言うよりは共に飛び出した、という方が表現的に正しかった。というのも、部隊全体に魔法が行き渡り、それぞれの騎兵が魔法と一体になって敵に飛び込んでいくというものだったからだ。

「相手の魔法で威力を落とさず敵を攻撃できる君の魔法は確かに素晴らしい! しかしそれはあくまで先手を取れる速度・精緻な敵軍の位置把握こそが重要! なら攻撃を仕掛ける相手そのものが飛び出てきていたならどうなるだろうか!? きっと君達は我々を見失うっ!」

 ズドドドドドドドドドドンッッ!

 尽きること無くアルディモの作った人魔一体突撃がサイモンの部隊を襲っていく! 強烈な光と衝撃、そして衝突音のみが辺り一帯を支配する! ……正直な話、あれって前が見えてるんだろうか? もうもうと土煙が上がってるんだが? 何時終わるとも知れない猛攻がようやく終わるも、巻き上がった土煙で全く何が起きたか分からない。ずーっと白っていうか茶色の絵面が続き、代わり映えのしない場面に飽き……一体どれ位時間が経ったろうか、土煙も落ち着き始める。ツッコミ、欲しいよね……。

「こうなりましたか」

「……な、何が?」

 起きたんどすえ? ……言葉を補完してみても、締まらなかった。喪女力が足りてないみたい。仕方ないから実況でもしてみる。
 土煙が晴れて現れたのは、ほぼ無傷の兵達とその周りを取り囲むように地に伏している傷だらけの兵達であった。無事なのはサイモンの部隊のようである。

「何が貴方の攻撃を破ったのか、と問われたのなら、私が貴方だったならと考え、更にその対策を取っただけと答えるまでです」

「ぐぅ……っ! 対策、ですか……」

 傷だらけのアルディモは、傷を押さえてよろよろと立ち上がりながらサイモンを睨む。

「貴方の特性は敵と魔法を交えず、減衰させないで攻撃できる事。相手の魔法も阻害しないため、自軍へのダメージも馬鹿になりませんが、であればほぼ魔法部隊で編成すれば良いだけの事。対する私の特性は、先にこちらの魔法をぶつけるので速攻性はありますが、後は無防備になるため部隊にバランスが必要。
 立場を逆にしてみた場合、同じ様な魔法特化型の特性を持ちながらぶつかったならば、先手で相手を減らせるこちらが優位に立ちます。であるならば敵の攻撃を避ける、或いは一時的に撤退する方策はどうか、そう考えました。私の取った対策は相手にした場合最も恐ろしいと感じた想像、自身を魔法と化して発動と同時に高速で敵陣に突撃する魔法に対するものでした。……見事な魔法でした」

「それ、を……君はバリア、で防いだ、のか……」

「ええ、少し違いますけれど……。この魔法はカウンターシールドと名付けました。一定期間に受けた衝撃を、そのまま相手に返す魔法です。発動時には魔法兵以外のユニットの行動が不能になりますので、使い所に慎重にならざるを得ない魔法になりますが。そもそも魔法の対象が、予想の中の貴方の突撃魔法に特化しておりましたので、特攻に見せかけた普段の攻撃だったなら対応できず負けていたでしょう。貴方の登場までは机上の空論でしたが、騎兵姿で現れた貴方を見て確信に変わりました」

「ふふ、ふ、ふふ……そんな事で、たかだか想定の範囲内で作り上げた魔法で、この私の努力が……。しかし良いのですか? 裏事情をペラペラと私に話してしまって」

「心配要らないでしょう。私が説明してもしなくても、貴方はきっと答えにたどり着いていたでしょうから。……大人しく投降して下さい」

「……断る。『全帰還水晶』発動!」

 キィィィィィイイイイインンッッ!

 次の瞬間、アルディモが掲げた水晶がまばゆく光輝いてアルディモの部隊を包みこみ、目が開けられない程の光になった後、彼等の姿は消えてしまったのだった。……ルー○かな? 羽だったらあれだったのに。

「取り逃がしてしまいましたか。元々無理はしないようにと言われていたので仕方ありませんね」

 そう言いつつも、サイモンは相手方の『兵器』の消耗に心の中でガッツポーズを取るのだった。エリさんが見たら、その表情から読み取ったんじゃないかと思うんだが、同意を得られる相手もなし。帰ろ……。


 ………
 ……
 …


 て事なんだけど、勘違い平行棒ってどう思う?

(何が『て事』なのかは分かんないけど、それはあれ? 見事に思考が噛み合わずに並行でいるってこと? 段違いと掛けて尋常じゃないレベルに咬み合わないって意味なの?)

 流石喪女さん! 俺の想像の遥か上を行った!

(え? それ喜んで良いの?)

 じゃ、出かけてくる。

(………………あんたと私が段違い平行棒よね)
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