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お代は命

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「くそう、くそぅ……。はぁ~~~。まあええわぃ。それより何じゃい。先程お主が口にしとった至宝とやらはハイエンシェントドラゴンの鱗のことかの?」

「そうだ。輿入れの際、あれを足せばもう一段……いや、数段良い条件を引き出せる」

 勝手に話を進めていくぺりりんに、お子さ魔王、待ったをかける。

「待て待て待て。その至宝とやらはもう先約がおるからの。勝手に話を進めるでないわ」

「……おいアウレリア」

 それだけで全てを察し、姫をこれでもかって形相で睨みつけるぺりりん。

「何?」

「至宝をあろうことかこのお子様にくれてやる話をしたのか!?」

「お子様!?」

「うん、した。それにぺりりんは誤解している。そこのちんちくりんはれっきとした魔王」

「ぺりりん!? ちんちくりん!?」

「ええい! ぺりりんはやめろと言うに! お前も反応してんじゃない! 肩書詐欺が!」

「肩書詐欺!?」

 いわれなき……とも言い切れない見た目だが、お子様扱いは心に来たらしい。ショックを受けている所に、ぺりりんの愛称にびっくりするも、ついでに放たれたちんちくりん発言に、もう一度ショックを受けるお子さ魔王。最後に最大の誹謗中傷を食らって、今日何度目になるか分からない、がっくりなポーズをとる自称魔王。orzである。復活は厳しそうだ。

「……ちっ! ちなみにどんな取引だ」

「セプタキメラのコアと交換」

「………………はぁ!? それ釣り合……いや、そもそも至宝の方も値が……ああ!? どうなんだ!?」

「多分至宝の方が潜在的価値が圧倒的に高い。以後手に入る保証はない。けどいま必要なのはセプタキメラのコア」

「……まぁそうだろうな。いや、そうだな」

 自分では測りきれないと、至宝と国宝級の珍品の天秤に頭を抱えるぺりりんであった。しかし考えるまでもないと、冷静な姫が答えを口にする。その言葉に、幾分か冷静さを取り戻したぺりりんが納得し、同時に真に求めるべき物を再確認したようだ。

「おい、魔王。……聞いてるのか? おい! 魔王!」

「………………何じゃい。儂は肩書詐欺じゃから、魔王ではないらしいぞ」

「ああ? 面倒臭いなこいつ」

「おまっ……さんざっぱら二人で人のことをこき下ろしておいて、ようも言うてくれたな!?」

 またもやぺりりんより浴びせられた理不尽な言葉に、ばっと飛び起きるお子さ魔王。……元気はあったようだ。

「こき下ろすも何も、俺もこいつもお前の見た目を素直に評しただけだろうが。しかし見る目だけはあるこのクソガキがお前を魔王という。それに俺も噂くらいは知っている。願い叶える魔王がすまう小さな山がある、という噂をな。なら色々総合した結果、お前がその魔王であるのだろう」

「ぐ、に、ぬ!? ……はぁ、そうかそうか。じゃがのー、先に言うておくがのー、儂は人間なんぞ嫌いじゃしー? 儂の平穏をぶち壊しに来る輩共の願いなんぞを叶えたいなどと、ただの一度たりとも思ったことはないんじゃがのー? 物は試しと、お主がコケにした儂に何か願ってみるつもりなのかのぉ? 馬鹿にしておいてー?」

 しかしぺりりんは正論しか吐かない! ぐうの音も出ず、いじける魔王! 話なんか聞いてもらえると思うなよ? とばかりにぺりりんに嫌味を飛ばす! が、ぺりりんは華麗にスルーした!

「セプタキメラのコアは手に入れられそうか?」

「儂が嫌味言うとんじゃから少しくらいは葛藤せんかい!? っつか、お主もかい!? 一体何なんじゃ? セプタキメラのコアに何があるっちゅーんじゃ?」

 手も足も全身使って地団駄を踏み、ぷんすこ怒り飛ばすお子さ魔王。が、すぐに動きは止まり、興味が別のこと、二人がセプタキメラのコアを欲する理由にと移っていた。

「我が国の王の命との交換条件に指定されている」

「は? ……相手は何者じゃ? アホなのか? それとも一国を傾ける程の財を投じる価値のある王なのか?」

 国王の命ともなれば、かけがいのないものであることは当然であろう。しかし、その命が守られた所で国が傾けば、民を犠牲にした王だとのそしりを受けてもおかしくない。

「相手の正体は分からん。相手の素性も、力も、背景も、何一つとして、な。ギルドに調査を依頼したものの、芳しい成果は得られていない。しかも相手にはこちらの行動が手に取るように分かるらしく、逐一「無駄だったな」だの、「そんな暇があればコアを探せ」だの手紙を残すんだ。
 それと、うちの王はセプタキメラのコアなんぞより価値がある。仮に国民の財を接収して救ったとしても、その倍の財を国民に返してみせるだろうし、そもそも嫌だなどと言う国民もいまいよ。皆、あの方のおかげで今日まで生き延びてこられているのだから。」

「ぺりりん……」

「ぺりりんは止めろと言っている。……あの方が亡くなれば、国は崩壊し、周辺諸国に切り売りされる未来が待つのみだ」

 どうやら国民からの信頼厚き王であるようだ。お子さ魔王としては、王のお陰で国民が生き延びられたという部分に引っかからなくもないが、分かる部分から認識の擦り寄せを図るのであった。

「ふむ。ということは、ある程度は目算があっての脅迫であるのじゃな。ただ、買えるだけの資金のあてがあることと、実際に物があるかどうかは別問題じゃ、ということに気づかぬ阿呆ではあるのぉ。ま、なんじゃ。姫がうわさ話を頼りに飛び出さざるを得ぬような大事になっとるっちゅーことは、お主の所の魔術師程度では何も掴めなかったか」

「ああ、そうだ」

 お子さ魔王の問いに、ぺりりんは答えのみを端的に返す。本当は細かい説明も込みで聞きたかった魔王としては、その対応が残念でならない。

「……のう、姫さんや。こいつ、なんちゅーかドライじゃな」

「昔は可愛かった」

「ほぉ……このすぅぱぁドライなぺりりんがのぉ」

 姫の言葉にナチュラルに乗っかる自称魔王。しかし相手の地雷を踏み抜いたことに気付いていない!

「ちょ、この、てめえ! 数日先に生まれた位でお姉さんぶるの止めろよ!? お前の方こそ中身はずっとかわらずガキのまんまじゃねえか! っつか、そこの見た目詐欺! 何てめえまでぺりりん呼ばわりしてんだ!」

「見た目詐欺!?」

 ぺりりんの攻撃! 痛恨の一撃! さっきと似たような言葉なのに、又も効果は抜群だ!? 仰け反った姿勢のまま白目をむいて煤ける魔王! 哀れなり!

「なんと言おうと先に生まれたのは事実。そして姉に向かってクソガキ呼ばわりはないと思う」

「やかましい! 姉じゃねえ! っつうか俺はずっと、国王様が助からない前提で駆けずり回ってたんだぞ!? あの王のいない国は戦火に巻き込まれることは必至! だから残される国民達の被害が一番少なくなるように! お前のことだって少しでも良い条件をもぎ取れるように! こっちは寝る間も惜しんで駆けずり回ってんだぞ! だのに当のお前は何だ!? 居るかどうかも分からぬ『願い叶える魔王』なんぞに望みを託し、それどころか、この国難を少しでも助けてくれるかも知れない至宝まで持ち出しやがって!」

「肩書はともかく見た目て……」とぶつぶつつぶやきながら煤ける魔王をほっぽらかしで、互いに一歩も引かない二人。しかし、ここで「居るかどうかも」と言われて反応した自称魔王が復活を果たす!

「そうじゃろうとものぉ! 居るかどうかも分からぬ相手ではあったわのぉ! まぁ!? どういうわけか、ここにおるわけじゃが!?」

「……ああ、そうだったな。だからもう一度聞く。魔王、セプタキメラのコアは手に入りそうか?」

 まるで自分の口撃で、魔王に大きなダメージを与えたことなど無かったかのように話を進めるぺりりんに、お子さ魔王目を見開いて口をぱっかり開ける、あんぐりと。

「お、お主は普段その言いぐさで、相手に悪いと思ったことはちょこーっともないのかの?」

「お前がぺりりん呼ばわりに混じるからだろうが。それにわきまえるべき場は心得ている」

「待って? その理屈じゃと儂……」

 お子さ魔王、今日一番の悲しそうな顔をする。尚、泣きっ面はノーカウントとする。

「はぁ~~~っ、もうええわい。そんでコアのことじゃがな? 物が物じゃから、流石にすぐ手に入るなどとは言えぬわい。その引き渡しに期限はあるのかの?」

「……1ヶ月。いや、何とか2ヶ月もたせる」

「もたせた所でどっちにしろ短いのぉ。ま、何とかしてみせるわい」

「! 本当か!?」「おお、さすが魔王……」

 自称魔王の何とかしてみせる発言に気色ばむ二人であったが、続く魔王の言葉に一瞬固まるのであった。

「じゃがその前に……一度その人質の王とやらに会ってみようかのぉ?」


 ………
 ……
 …


「ふむ。なるほど。あれと、これと、ほぉほぉ」

「何か分かったか?」

 セプタキメラのコアを用意できるとのたまう魔王の実力なら、本人を見せれば魔法を解いてみせるのではないか、とそんな単純なことを失念していた二人は魔王の申し出に飛びついた。そうして今、お子さ魔王の眼の前には、土気色した肌のエゼルタニアの王が横たわっている。その様子を熱心に観察していた自称魔王は、何度も頷きながら王の様子を確認していた。

「結論から言うと、この王の状況は、既に死んでおると言える」

「なっ!?」「……嘘」

「ま、これはそういう魔法じゃからな。……残念じゃったのぉ。セプタキメラのコアなんぞ見つけた所で無駄じゃったわい」

「「………………」」

 まさかの判定に、お子さ魔王を頼った二人の顔が青褪める。しかしそれに待ったをかけるものがいた。

「ちょっと待て! さっきから聞いていれば何なのだこの子供は!? 姫様はまだ生きておられる父君を見捨てるおつもりか!?」

「誰じゃい?」

「宮廷魔術師長のザムガン殿です」

 ぺりりんはそう丁寧にお子さ魔王に説明するのだった。相手の地位か爵位かが上なのだろう。現在王の寝所には、王その人とその侍医に助手、姫、ぺりりん、お子さ魔王、そして宮廷魔術師長と騎士団長、さらに侍女が2人の計10人が居る。流石に姫が伴っているとはいえ、部外者であるお子さ魔王が王の部屋に入るのに、監視の目がないわけがない。更に寝所の扉は開け放たれており、誰でも中の様子を伺えるようにしてあった。お子さ魔王の指示で! ちなみにぺりりんが伴っていた騎士隊長は現場に忘れ去られているよ! かわいそうに!

「ほーん。原因も分からずじまいの役立たず共の筆頭じゃったか」

「何だと!?」

 見た目はでっぷりとした中年の、てっぺんハゲな脂ぎった中年である魔術師長。それが真っ赤になって怒り狂う様子に、少しばかり腰の引けたお子さ魔王。部屋の外からも怒りの声が上がっているのを耳にした自称魔王は挙動不審となり、思わず正直な感想を口にしてしまう。

「ひっ!? ……な、なんか間違った事、言ったかの? だってこ奴らの誰も、原因分からんかったんじゃろ?」

「ぐぬっ!?」

 姫がこっくり頷き、それを見た魔術師長が真っ赤なままうつむいて静かになると、部屋の外のざわめきも静まり始める。その様子に幾分かホッとした魔王は、己が見立てを述べ始めるのだった。

「この王にかけられた魔術は、古の呪法『恣意的な死』又の名を『他意なる死』と呼ばれるものじゃ」
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