異世界生活物語

花屋の息子

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116炭焼き

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  今日の梃子衆はモーガン達に一人ずつ付けて手伝わせる。俺はと言えばクン炭器の作り直し中。親方たちには集落中から籾殻集めを頼んだ。
 毎日排出されるが廃棄されるのは週にいっぺんなので、捨てたばかりでなければ一軒で20~30リットル。重さにすると2キロ程度はどこの家庭にもストックがある物だが、それを家一軒に使うとなれば100軒~150軒は回らないと集める事ができないので、結構メンドクサイ。
 ちなみに廃棄された籾殻を使わないのは単純に仕えないからだ。
 親方たちは一軒一軒回って「エドの使いです籾殻下さい」と回ってもらうのだが、仕事的には梃子衆がやるレベルの事なので勿体無い使い方だが、仕事を覚えてもらうためには仕方が無いよね。
 さて俺のクン炭器は燃えてしまっているのでそのままは使えなかったため作り直しだ。丸太の切り株から作るクン炭器はタジン鍋の蓋のような形で、火と言うか熱が漏れるように等間隔の穴を開けてある。頭頂部には太い枝をくり抜いた煙突をセットして取り外しが出来るようにしてある。
 この仕組みで炭化最終段階の混和時に熱暴走をさせにくくする効果があるのだ。

「でもこれ一基だとキツイかな?」

 今作っている飯場はモーガン達の家に比べたら2倍以上あって、土壁も使わない事から板クン炭板という構造である以上、前回に比べて使うクン炭量ははるかに多い事になる。

「もう一基作れば効率は上がるけど、かき混ぜるのも失敗すると灰になっちまうしな。外壁張りも風雨対策でやりたかったけど、クン炭焼きの回数熟させこなさせて熟練度上げる方が今後のためには良いか」

 失敗から学ばせるにはリスクが大きいため失敗はさせたくない。苦労した物が凡ミスで崩れ落ちれば心が折れてしまいかねないからな。
 それに失敗まで行かなくとも揮発系の有機物が残ると煙臭い臭いが残るし、焼き過ぎれば灰にならなくても体積が小さくなってしまうので、臭わず小さくなり過ぎないギリギリを見極めて、素早く火を消せるようにならなくては免許皆伝とは言えないのだ。

「一台目持って来たぞ」
「お疲れ様です。これが壁の中に入れたクン炭を作る物なんですけど、このそばに置いていって下さい」
「ほ~。しかしエド君にしては説明が雑じゃないかい?」
「詳しい説明は全員揃ったところでやりますから、今説明の話が始まると長くなってしまうので、この程度で、後は昼食をとりながらお話しますし、使い方の話は実際に使いながらの方がいいと思いますから」




「それではクン炭を焼いていきたいと思います。ちなみに籾殻をそのまま使わないのは腐ったりという事が起きる可能性があるからと、水を吸いにくいからの二つです」
「そのへんてこなのは何だい?」

 リーガ君がクン炭器・・クン炭焼き器を指してそういった。ヘンテコ。確かにヘンテコと言われてみればヘンテコにしか見えてこないのが、この道具の特徴と思える格好なので一切の反論は無い。

「そうですね。大事な事なのに説明を飛ばすところでした。これはクン炭を焼くための道具・・・(使い捨て)です。本当は”金”で作って長く使いたい所ですが、無い物は仕方が無いので切り株で代用しました」
「穴だらけだけど良いんか?」
「はい。この中で火を燃やし、この穴から熱が漏れるように開けてある物なので、これで正解です。煙突の穴の開いているところまでは籾殻をかぶせて焼くのですが、この煙突は取れるようにというか後から付けることができるようにしてあるので、一端切り株のところまで掛けて中で燃やしてから煙突を取り付けて、もう一度揉みガラをかぶせます」
「なんだか面倒な事をするんだな」
「煙突から火を入れようとすると途中で消えてしまうんですよ。なのでこういった形を取っています」

 煙突の中に引火物を落下させると、風の影響か内部の空気の問題か火が消えてしまうので、”ずくやみ”は出来ないのだ。
 これも抜け道はあって、ある程度の焚き火に上下一体型のクン炭器をセットしてしまえば、それでも良いのだが俺は分けて焼いていたのだから、皆にもことらのやり方を学んでもらいたいと思っている。
 けして「あ、そうだ」と後で気が付いて、でも今更やり方を変えるのはちょっととなっていた訳ではない。無いはずだ。きっと
 魔法の火なら消える事も無いのだろうけど、金属製なら話は別だが一体型では余分な木屑を大量発生させてしまうので、エコと考えてもらいたい・・・地球の森林伐採よりハイペースで森林が復活してくる世界にエコもへったくれも無いだろうけどな。

「それでは火を着けます。中は燃える物なら何でも良いですけど、僕は選った(すぐった)ワラクズでやっています」
「何か意味があるのか?」
「クン炭の中に残りにくいとかその程度で特別は無いですけど、同じ物から出来ているって言うところからなんか良いかなってこれにしているだけです」


 フランスではテロワール理論。同じ土、同じ空気、同じ水から生まれた物は相性が良いなどとして使われる言葉だが、それと大本は「兄弟いがみ合わずに仲良くやろうよ兄さん」と言う曹植の詩を勝手な解釈してくっ付けた俺流の哲学なのだが、そこから同じ目的にわざわざ違う物を持ってきて事を成すよりも、適材適所に使い切った方が良いと始めた事なのだ。
 こちらの世界では関係ないが、科学物質燃やして作るのが嫌だと始めた事でもあったりするのだが、どうせならと後付けのエピソードを付けたような気がしなくも無い。
 ワラで炊いたご飯なんかは、まきで炊いた物よりも数段美味い何って言われるから、あながち間違ってはいないはずだ
 ワラクズに着いた火は力強く燃え下へと引火してく。すかさず煙突を被せて「最初は煙突が埋まらない所まで掛けて下さい」と籾殻を追加する指示を出した。
 ワラが燃えている最中は透明に少し白が注した煙だが、乾燥しているとは言っても中に含まれている水分は結構な量になるので、籾殻が燃え始めるとツーンとした臭いと目にしみる濃い白煙が昇るはず、たまに失敗でワラだけが燃えてしまいもみ殻に引火しない事も有ったりするのだが、そうすると熱くなったもみ殻と煙突を撤去してやり直さなければならないので、火入れの事もしっかりと教えておくとしよう。
 そうしている内にベージュ一歩手前くらい濃い白煙が煙突から昇り始めた。
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