異世界生活物語

花屋の息子

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96契約締結

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「ご迷惑をおかけしたようで・・・」
「構わん。ワシがどうこうする事もないのだからな。大怪我や死人が出たのであれば罰するが、そうでなければ誰が作った物であれ民が豊かになるのは良い事であろう」

 軟膏の模造品を作った者が罰せられる事も無く、むしろ推奨に近い状態と言うのも・・・問題な気がするが。行政府としても取り締まる気もないし売れなくてやめるんだから良いじゃないか?と言うスタンスでしかない。
 それだけ売れているならば売主が模造品など売る暇も与えず売りまくれば、そもそも被害につながらんだろう?と言った方が近いかも知れない。

「してそのロウソクとやらは、いくらで売るつもりだ?」
「受け皿を別としてですが、こちらにお持ちした物は10本単位で500ピリンほど、団長の所に持って行った物は同数で150ピリンほどでしょうか」
「無欲よのう。これが一本50ピリン足らずとは」
「それでも軟膏一個分よりも高いですから」
「その方が良いのであれば何も言わぬが、脂さえ何とかすれば今後も手に入るのか?薪も軟膏に使っても構わんワシの方で融通してやろう、どうじゃ?」
「こちらに納める分としては問題ありません。ですがあまり量が増えると作り手の手間の問題と、鍋が足りなくなるなどの問題が出るかと・・・」
「受け皿が出来次第、館の分10日に一度500を持ってこれるか?」

 そのくらいであれば鍋5回分くらいだよな、何とかなるだろう。それでも手間だし下処理にパートのオバちゃんでも頼もうかな~

「それでしたら何とかなるかと・・・」
「鍋は金属かねの事があるから出せん。魔物の行動期に入ったのやもしれんと聞く。万一の事もあるゆえ備えを怠る訳にもいかんので金属が不足しておる。その点お前が作った軟膏には随分と助けられている訳だが」
「それほど魔物が増えているのですかな?」
「いや。まだ確実に行動期とは言い切れんが長い事魔物を相手にした者の感というやつでな、増えたなどという事ではないのだ。しかし大概この感は当たるゆえ溢れ出す事も考えておかなければならんのだ。魔物はいつ溢れるとも解からんゆえに夜中暗い所でもたついては指揮に遅れが出るところであった。このろうそくとやらには助けられそうじゃな」

 なにやら尤もらしい理屈を付けて貰ったロウソクだが、キナ臭い話しも聞いてしまった事だし、売れてルンルンという気分には成れそうも無い。そう都合良く行かないとは分かっていても、資源として適量だけ出てきてくれるだけで良いんだけどと思ってしまう。
 魔物ホイホイでも無いもんかね
 段々と難しい話にシフトするように溢れ出しの話し合いになっていったが、領主さんが途中で気付き謁見終了の運びとなった。

「受け皿が出来たときからで構わん。10日ごと持ってくるようにいたせ」
「はい。お気遣いありがとうございます。急ぎ仕上げてお持ちいたします」
「久しく顔を見せなんだクラインも引っ張り出せた。今日は愉快であったぞ」

 領主さんの言葉で席を立ち退出する俺たちに、レオパルドさんが「エド君期待しているよ」などと声をかけてくれるので一礼で返した。
 帰りも執事さんが玄関まで送ってくれた。
 ロウソクの受注は経営安定に寄与してくれるだろうが、期待していた鍋の金属化は魔物対策のためと言う事で流れてしまった。戦時中に鍋釜ひいては鐘楼の鐘を供出したのと似た様な事にでもなるのかな?
 しかし魔物の溢れ出しとはどのような物なのだろう。異世界転生モノにあるようなスタンピードのような事案なのだろうか?それともいつもよりエンカウント率急上昇といったモノだろうか。何年も前にあったと言う物では被害が出たと言うから、何かしらの用心には越した事が無いのだろうけど。

「じいちゃんは溢れ出しの時どうだったの?」
「先の話のようなモノはワシにも判らん。ワシが戦ったのはその時に比べればまだマシだったみたいでな、話の時には親父が・・・曾爺さんが北の軍に居たんだが、北は悲惨だったと言っておったな」
「今回は大丈夫かな?」
「こればかりはな。魔物にしか判らん・・・いや、魔物ですら判っておるかどうか。死に物狂いで押し寄せてくるからな」

 対人じゃないから放置すれば魔物に殺される。経験値がある訳でもないし魔物だから素材も取れない。黙って蹂躙されたくないから戦うだけ、失う物しかない大損仕事じゃないか!

「お前にとっては悪い話でしかないな。溢れ出した魔物は全て痩せて飢えていたようでな、餌を求めておるようにも見えた気がするわい」
「脂が付いていないんだね。でもそれなら脂が少なくなったら溢れ出すかもって事でしょ」
「そうではない。溢れ出す少し前でも普段と変わらんのだ」

 最悪だ。予兆が無ければ備える事もできないし、いくら倒そうが軟膏の材料にする事も出来ない。蟻のように少しでも素材に出来なければ、本当にゴミの山が出来ていくだけではないか。こんな不景気な話があるか!
 当然そんな危険な時であれば肉の供給も止まるだろうから、そちらからも脂は手に入らない訳で、この町全部の脂を軍需品としても足りるかどうか。
 は~、一分でも一秒でも溢れ出しが遅れてくれる事を切に祈るばかりだ。
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