異世界生活物語

花屋の息子

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51手当て開始

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 聞いた事の無いスケールボアなる魔獣?魔物?の襲撃で、傷ついた兵士達が運ばれていたのは、南門そばの開けた場所であった。
 死人が出なかった事が幸いしているのか、野戦病院ほどの鬼気迫るものは無い状態で、トリアージで言ったら緑とか黄色に分類されそうな怪我を負った者達だった、小さな怪我の内に戦線離脱させて、死者を出さない戦法なのか、それとも大怪我を負った者達は別の場所にいるのか、俺の心情からしたら生死の境みたい人間を見るのは、心が耐えられそうに無いので助かる話だ。

「ニパーチ。こんな所にガキ連れて来るなんて、何考えてんだ。ヤツが来るかも知れねんだぞ」

 怪我人に肩を貸しながら重い足取りで、こちらに下がってくる男が、デカイ声を張り上げてきた。

「ホルトマン!こちらはエドワード君、クライン殿のお孫さんだ口を慎め。エドワード君も申し訳ないね戦いで気が立っているんだ」
「大丈夫です。それよりも早く傷の手当てを、これは回復魔法より時間がかりますから」

 声を張り上げたおっちゃんに軽く礼をして作業を始める。
 じいちゃんが少し離れた場所に居たせいか、ただのガキ扱いにされてしまったのは、仕方の無いことかも知れないが、ニパーチと呼ばれたおっちゃんも、いつ戦闘に撒き込まれるか分からない場所に来た俺の事を、考えてくれての事だろうと思うし。
 医療的な考え方からしたら逆だが、軽傷者から見ていく事にした、それなりの怪我ををした人は、かなりの時間をかけなければ回復しないのだし、自力でも動ける程度の人であれば、戦闘終了までに回復を終えて再度前線に戻る事もできるかも知れないからだ。

「ニパーチさん、さっきの箱を貸して下さい」

 そういってクリームを受け取ると、指先ですくい取り患部に塗りつけていく、軽傷と言ってもやはりアカギレ程度とは比べるレベルで無いほど傷は深く何箇所も付いている、流石にパックリと開いた傷口には、塗ったクリームがしみたのか少し顔が引きつる。我慢してくれてるんだろうな。

「これでこのまま押さえて置いて下さい。ニパーチさん。このくらいの傷でしたら指先に付くくらい塗ってもらえば十分です。僕はこっちからニパーチさんはそちらをお願いします」

 左右2列で分かれて次々に傷の手当を行い、本当の軽傷者は5分程度で見終わった、20人くらい診ての5分なら早いと言えるんじゃないかな。
 次に控えている人たち、言葉の意味は違うが”中傷者”、トリアージレベルイエローの人たち、骨は見えないけどと言った怪我を負っている人たちだ。
 肉が裂けて血が滴り落ちている。ボアって言っていたからイノシシの仲間なんだろうが、それの牙でえぐられたと考えるなら順当な裂傷だろう。

「我慢して下さいね」

 先ほどより多めのクリームで傷口を埋めていく。その光景だけ見れば車のパテ盛り・・・人を車に見立てるのはデリカシーが無かったか、眉間にしわを寄せながらグとウの中間音が洩れるが、痛みには耐えてくれそうだ。

「傷が深いので傷口が塞がるまで、動かないようにして下さい」

 包帯とかあれば便利なんだけど、その辺は将来姉ちゃんに考えてもらうとしよう。これ以上はオーバーワーク過ぎる。

イエローレベルの人達は門から離れた場所にある現場事務所といったような場所で、警邏交代の連絡と確認をやっていた時に、スケールボアが森から飛び出し突撃を食らったようで、対処が遅れてこのような怪我を負ってしまったらしい。
 遠足は帰るまでがなんて言うけど、最後まで気を抜いちゃいけないね。
 助かる事に、ここに居るイエローさん以上の怪我を負った人はいないようなので、後は討伐が終わるまでに軽傷を負って戦線から下げられた人だけが送られてくるようだ。
 話だけ聞けば不意をつかれない限りは、大きな怪我をすることは無いようだが、スケールと付くだけあって、イノシシはウロコのような毛が鎧代わりに本体を守っているものらしい。
 そのせいで武器の通りがすこぶる悪く、一般兵だけでは討伐時に軽傷者が相当な人数出てしまうとの事だった。

「ニパーチさんひどい怪我の人はこれで終わりましたから、後からの人を手当てしましょう」
「しかしエドワード君は凄いな。その歳でしっかりしているどころかこんな薬を作ってしまうし、手当てまで出来るなんて」

 ですよね~。前世の自分だって4~5歳の頃はこんな事出来ませんでしたから、今と同じ事をしている子供なんかいたら気持ち悪がられちゃいますし。
 やってたのは、せいぜい草むらで遊んでる時に怪我したら、ヨモギをもみ込むくらいでしたよ。

「クリームは作ろうとした訳じゃないんですよ。別のモノ作ってたらたまたま。エヘヘ」
「そうなのかい?それでも凄いな、回復魔法だと誰でも使えるけど、何人もを短時間で治す事は出来ないし、一日に何回も掛ける事も出来ないから、このクリームがあればこれからは怪我を恐れる事もなくなるだろう」
「そこまで頼って良い物では無いんです。今見た人たちみたいに大きな怪我は回復魔法の方が良いと思います。このクリームだと治るまでに時間も掛かりますし、小さな怪我用に使って貰えれば良いかなって」

 少し残念な顔をされたが、そこまで万能な薬じゃないんで勘弁して下さい。
 それからも軽傷患者は30分ほどは運ばれ続けてきた。その最後のオジサンがスケールボアの討伐を宣言して、この野戦病院は雄叫びに包まれる事になる。

「良かったですね」

 そのオジサンの手当てをしながらそう声を掛けた。皮の鎧には小さな牙で付いたのだろう切り?跡がいくつも刻まれている事から、かなり接近戦をしてきた事が伺える。

「今回のはまだ若かったからな。あれで大物とかが出てきたら死んでたのが何人もいたかも知れねえ。ここんところ弱ぇのしか出てこなくて、ウチの古参以外は少したるんでたから、良い薬になったかも知れんがな。ところでボウズ。グラハムんところのだよな?」
「はい、いつも父がお世話になってます」
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