異世界生活物語

花屋の息子

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29お土産も確保した

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 結局は地道に上げるしかない、と曾祖母の話を納得するしかなかった訳だが、魔力不足の解決案としたら、まあまあのモノが手に入ったと言ったところだろうか。
 あくまで親たちが標準な世界にあって、四歳児から十数年後の大人になるまで、人の二十、三十倍の魔力を身に着ければ、間違いなく相当な魔力保有者になれるだろう。今は我慢の時とあきらめるしかないが、今に見ていろよ転移魔法! いつか使いこなしてくれるわ。
 そんな決意が顔に出ていたのだろう、まさかのツッコミを入れられてしまった。

「人は無理でもぉ~、小さい物くらいはあなたでも飛ばせると思うわよ~」

 そう言いながらいつの間にか手に持っていた。拳より大きめの石をかき消した。その次に聞こえたのがヒューと風を切り、何かが落下する音と茂みの後ろからバサッと何かが倒れる音であった。

「なっ、ええっ、は?」
「当たったわねぇ~」

 何が起きたかは理解が出来なかった。音のした茂みに恐る恐る近いて初めて何が起きたのかが解った。そこに倒れていたのは鉄の爪でも付けたかのような長く鋭い爪を持った。それでいて体格の悪い小型の狼であった。クローウルフというのが本当の名だ。前足の爪で獲物をボコボコに痛めつけて動けなくなった所を狩る。
 その為か牙は犬よりも退化して人の犬歯程度の物が並ぶ程度。噛んで引きちぎる狼と、歯で抑えて前足で引ききちぎるクローズウルフとでは、牙と爪が真逆の役割を果たしているのだろう。そのクローズウルフが赤い泡を吹き茂みの中で息絶えていた。
 そばには先ほど曾祖母の掌から消えた石が、赤く染まりながら転がっている。移動魔法をそのまま物理攻撃に応用した格好の使い方に感心してしまった。

「殺気出しながらこっちを伺っていたから~、あなたを食べようとしていたのよねぇ~」

 魔素吸収の間。意識は完全にそっちに持っていかれていたから、そんな状態で襲われたら食べられるまで何が起ったのかわからなかったかもしれない。曾祖母の護衛が無かったらと思うとゾッとする。

「エリザさん魔素吸収も出来たし帰りませんか?」

 やる事はやった。魔素吸収もストック分の回収も十分だし、ことさら今になっては命も危ない。現状やる事が無ければ、ここに留まるなど危険な行為でしかないのだ。

「そうねぇ~収魔石の忘れ物は大丈夫~?」
「はい。ちゃんと拾ってきましたけど、この狼どうしますか?」
「持って帰ればウチの人が解体すると思うから~、付いた血だけ拭いてくれる~」

  たいした量は出ている訳でも無いが、それでもね。草を毟って一応綺麗にしたクローズウルフをお土産に、この地を離れるのだった。
 転移魔法とは便利な物だ。森の風景が一瞬にして部屋に画面チェンジしたかのように切り替わって移動が完了するのだ。何キロという距離でも物ともしないのだろう。よくあるゲームの移動呪文が遅くて仕方が無いほどに、タイムラグ無しで移動が完了する。

「おかえりエドワード。お義母さんエドワ-ドをありがとう御座いました」
「面白い子だったわぁ~、魔力の上げ方も教えておいたからぁ~、たまにあなたも付き合ってあげなさいねぇ~」

 そうなんだよな。いくら森みたいな危険は少ないって言っても、東の草原だって安全地帯って訳じゃない。
 森に比べたら中大型の魔物が出ないだけで、小型の魔物なんかは草に隠れて襲ってくる事もあるのだ。小型は大人なら退ける事も容易いので問題ないが、四歳児が対峙するには荷が重過ぎるくらいの力は持っている。
 まかり間違っても魔素吸収なんてやってるあの極度の集中時に襲われたら、間違いなく死ねる。そうならない為には護衛してくれる人間を連れて行かなければならないのだ。
 それよりも問題なのは、俺がそこに辿り着くために草を掻き分けて貰わないと、たどり着けない事かもしれないが。(泣) 四歳にしては小さくは無いと思うんだけど、雑草がね。あまりにも大きいのがこの世界ですから。

「エリザさん、魔石の魔素ってどのくらいで無くなるの?」
「その量なら20日くらいで抜けるはずよ~、魔風穴ほど濃度にはならないから~、あくまで魔風穴にいけない時のための補助だと思ったら良いわぁ~」
「さっき見せて貰った、あの大きな石ならどのくらいなの?」
「あれでも変らないわよ~、溜められる量は多いけど出る量は変らないのよ~」

 いっぱい入れても溶け残るから意味は無いって習った水溶液の実験みたいだな。
 毎日行ける訳でも無いから助かる事は助かるんだけど、効率が落ちる分だけ俺の瞬間移動の夢が遠くなる。はぁ~。

「お義母さん。そろそろお暇します。この子も疲れたでしょうから、帰りの方が時間がかかると思いますし」

 俺にとっては楽しかった時間。楽しい時間は過ぎるのが早いと言うが本当だ。昼食を取って魔風穴に行って、たぶんこのまま帰っても暗くなるくらいに着ければ早い方だろう。

「帰りは転移魔法で送ってあげるから~、ゆっくりしていきなさ~い」
 
 またあの距離を歩くと思うときが重くなるが、それを曾祖母の提案が打ち消してくれた。何度も言うがあくまで四歳なのだ。絶対的な体力は体に比例してしまう。それが体力を使う必要がなくなったのだから魔法様様である。
 曾祖母との魔法対談に花が咲き、周囲が苦笑するのもお構い無しに延々と魔法対談を行った。
 途中からは曾祖母と俺の話しに興味をなくしたのだろう。祖母と曽祖父一家はたまに訪ねてきた親戚よろしく、ウチの家族の近況を報告したりなどしていた。
 気付きもしなかったが辺りが夕焼けに染まり、俺のお腹がぐうとなったタイミングで祖母から「そろそろ帰るよ」と声を掛けられた。
 そういえば曾祖母とばかり話していて、他の人とはろくな話もしていなかったのは流石に申し訳なく思ったが、後の祭りだ。

「また来りゃ良い、わしもまだまだ死にはせんわ」
「また来ます」
「元気でね」
「はい、ありがとう御座いました」

 別れを惜しみながら挨拶を交わすと曾祖母に祖母と共に触れた。何とも便利な魔法だ。そこにあったのはいつもと変らないウチの玄関だった。

「それじゃまたね~、無理しない様に頑張りなさぁ~い」
「エリザさん。いろいろ本当にありがとう。頑張ります」
「お義母さんもお元気で、また子供たちを連れて遊びに伺います」

 曾祖母は手を振りながらフッと消えた。一日に何度も転移出来るとはどれほどの魔力があるのだろうか、と思うとあらためて尊敬できる。
 短く感じても長かった一日を終えて、玄関の扉を開くと夕食の香りが漂ってきた。もうすでにお腹はペコペコだ。食あたりが怖いので手だけはしっかり洗って食卓に急いだ。
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