詩 夢

夢

僕はその子を見ていた

その子は空のなかに浮いていた

ふわり

その子の頭の上も足の下も

見渡すかぎりなにもなかった

雲はなかった

あれは海だったのかもしれない

その子は沈んでいたのかもしれない

白い髪がなびいた

ゆらり

口元が動いた

こぽり

歌を歌っている

僕の知らない歌

澄んだ声はその世界の端まで響いた

その子の言葉には色があった

透明な空気

または水の中に

その子の言葉が色をつけていった

広い広い世界を

その子は彩っていった

それからどれくらい経ったか

ようやく世界の全てがぼんやりと染まった頃

僕は僕に色がないことに気がついた

その子は僕に気がつかなかった

色のない僕は

ただその子を見ていることしかできなかった

その子は手のひらをさしだした

すると色のついた世界が形をもった

その子が触れると色は重さをもった

あるものは固まって動かなくなり

あるものは滑らかな涙のようになった

僕はもう僕に形がないこともわかっていた

世界の全てに形を与えるとその子は眠った

それは長い眠りだった

その間世界は静かだった

動くものは何もなかった

僕はただ見ていた

その子とその子が作った世界を

僕は考えた

その子は何かと

そして僕は何かと

僕は確かに見ていたが

僕には見るための体はない

僕は確かに聞いていたが

僕には聞くための体もない

長い沈黙は僕に答えを与えた

僕は世界そのものだった

僕の体とは

彼女が色をつけ形を作った

まさにその全てだった

僕には色があり形がある

それに気がついたとき

世界は

否

僕は動きだした

彼女が作った僕

そのすべてが

僕のなかの一つは爆発して四散し

その四散したものは

そう時間も経たないうちにまた集まり

ひとつの塊となった

彼女が与えた色はそれぞれ

熱く燃えるもの

冷たく凍るもの

さまざまな違いをもった

本当にときたま

その子や僕のような

考えるものも生まれた

それらはちっぽけでありながら

驚くほど短い時間で

僕らの支配する

世界の真理にも近づこうとしていた

それらとは別のところにいる僕らの存在は

それらに認められることはないだろう





その子はまだ眠っている

その子がもう一度目覚めたとき

きっと僕の色と形はなくなるだろう

そうしてまたその子は世界を作り直すのだ

僕は思い出した

長いときの中で

連綿と繰り返されてきた創造と破壊を