~短編集~恋する唇

秋野 林檎 

文字の大きさ
上 下
12 / 12

年上の女の唇(前編)

しおりを挟む
握った手が…震えていた。

「…なぁ、もしかして…初めて?」

「…違うわ。」

【違うわ。】と言ってる声も震えてるじゃん。

あぁ…マジで変なのを捕まえちゃったよ。見た目がモロ好みだったから、声を掛けたんだけど、参ったなぁ。どうやって、逃げるかなぁ。

でも、おしいなぁ。手足が長くて、出るとこは出て、締まるところはギュッとしまってて。
その長い黒髪も…すこし垂れた眼も…アヒル口も…そして…年上の女。

スゲェ好みなんだけど…。
でもダメだ。バージンはダメだ。

そんな女と寝ちゃったら、気分的にその人の人生まで背負ったような気分になりそうだもんなぁ。
気楽にセックスして、楽しんで(じゃぁまた、どこかで)という関係が楽でいいのに…

あんなに真剣な顔で、ブルブル震えちゃって…
さぁ、どうぞやっちゃってください。と言われても…なぁ。


「し、し下着だって!勝負下着だし、大丈夫!」

「えっ?…」

なんにも言ぇねぇ…。

唖然とした俺に、その女は俯き頭を横に振り
「…ごめんなさい。」

「へぇ?」
何で、あんたが謝る?

「私みたいなおばさんじゃ、やっぱりその気になれないのは当然よね。」

「いやいや、めちゃ好みだったから、声をかけたんだけど…でも、初めてなんだろう。俺…始めての女性はどうも…」

「やっぱり…ダメ?」

「い…や…ダメというんじゃないんだよ。ただあんたを抱けば、あんたの…人生まで背負ったような気分になりそうで…」


そう、潤んだ眼で見ないでくれよ。好みの女性からそんな眼で見られたら、そ、そりゃ、俺は男ですから…
気持ちも体もその気充分!になっちゃうじゃんか。参ったな。

「そのバックや、服を見ると…良いところのお嬢さんなんだろう?自分で言うのも、虚しいけどさ、三流大学のおまけに留年決定の俺なんかに抱かれたら、もったいないよ。あんたみたいなタイプは、結婚を前提に付き合う真面目な男に、心も体も捧げて結婚するのが一番だと思う。」

「…」

「えっ?なに?」

「…そうなる予定だった。」

「予定?!」

「そう、叔母の紹介で知り合った方と、お付き合いしていたの。お見合いみたいな形だったけど、私は…好きだった。一年、お付き合いしていた。もうそろそろと言う話になり、結納が二週間前に終わったの。」

「まったくなにやってんだよ。あんた…。これは裏切りだろう?!」

いやいや、自分がナンパした相手に説教する俺が…【なにやってんだよ。】だ。

女はクスリと笑うと
「見た目は…軽そうな男の子みたいだったけど…あの人より…ずっとあなたのほうが誠実なんだ。」

茶髪のマッシュヘアー、耳にはピアスが二つ…これは普通だと思っていたんだけど、この人にとっては軽そうな…それも男の子かよ。はぁ~ガキ扱いだ。

あれっ…?

俺のほうが誠実?って言ったよね。それって…裏切られた?!


「…うん、いまあなたが思った通り。見事裏切られました。なんと二股どころが三股でした。」

「み、三股って…マジで?」

「うん、…その…マジで…です。」
俺に合わせようと無理して使った言葉に、彼女は照れたように笑い

「そのひとりが妊娠。それも六ヶ月。どうするつもりだったのか…いい加減な人だった。おまけにね、『どうして、私を裏切ったの』と聞いた私に、『一年付き合って、キス止まりで…寂しかった。君が早く自分のものになればこんな事はしなかった』と。」

「いや…だからといって、三股はないな。」

そう言いながら…俺は女を見た。
おそらく20代後半、俺より5つぐらい上。長い黒髪も…すこし垂れた眼も…アヒル口も…

やっぱり好みだ。

いい女だよな。

こんな女が将来、手に入るんだぜ。それも真っ白で。
俺なら我慢するな。まぁ…その男は辛抱が足りなかったということか…


「…で、ヤケになって、誰かにバージンをやろうと思った。そんな時に俺が誘ったと言うわけか。」

女は俯き、かすかに頷いた。

俺は溜め息をつき…
声をかけて付いてきたから、少しは俺を気に入ったのかと思っていたが…まぁ仕方ないか…
年下でチャラチャラしてる男を、こんなタイプの女が気に入るわけないか。

これでも女には不自由していなかったから、ナンパなんてしたことなかったんだけど…つい好みの…いや理想の女を目にして、体が勝手に女に近づき、口が勝手に声をかけていた。

…認めたくねぇけど…ひとめ惚れで、すぐに撃沈という状況か。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...