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心配そうにマリーとラファエルを見ていたケントに

隣から…
「ケント、これはイケます。」と言う声が聞こえた。

ケントは、にこにこと笑いながら、ウォッカベースの『ビッグアップル』をグビグビと飲む……祖母に頭を抱えながら

「おあばあさま、ほどほどですよ。いいですか!ほどほど!」

「もちろん、わかっていますよ。」
と言って、やっぱりグビグビとグラスを空ける祖母に

聞いちゃいない…と呟き、あぁ…ばあさまは、ほんとに聞いちゃいない…と二度口にして、ケントは、2時間ほど前の出来事を思い出し大きく溜め息をついた。

****

「マリーは?」

「花祭りに出かけたわよ。」

「そうか…行ったんだ。」

「ケント?浮かない顔ね。まさか…マリーが恋をして、離れて行くのが寂しいとか?」

 「そんなわけないですよ。おばあさまは何にも知らないからお気楽でいられるけど…俺は…」

と言いよどんだケントに、祖母アデラはクスッと笑い
「マリーの相手の方が、本物の王子さまだから?」

 「お、おばあさま!どうして!それを!」

 「まぁ…私だって、新聞の社交欄を見るわ。それにあれだけの色男、見間違える事はないわ。」

 「じゃぁ!わかるでしょう!俺の心配が!」

 「そうね…私だってまったく心配してないわけではないわ。でも…どんな恋も先は見えないものよ。だからと言って、恋が始まる前から石橋を叩いて、叩きすぎてヒビが入って、せっかくの巡り会えたかもしれない、運命の人と繋ぐ橋を壊すのはどうかと思うわ。橋は渡ってみないとわからないし、渡って見ないと、そこから見える景色の素晴らしさはわからないわ。」

「だけど!橋を渡ったら、そこは断崖絶壁かもしれない!」

「ケント…おまえ…」

「王子なんだよ。マリーは…まったく利がない子爵家のそれも貧乏で…」そう言って、鼻を啜ると

「マリーは王子が好きなんです…。そして王子も…でも、正妃にはなれるはずはない。良くて寵妃だ。それでも!……それでもおばあさまは、マリーにあの王子を勧めるんですか!」

アデラは、ポロポロと涙を零すケントの肩を叩くと
「マリーは…寵妃には向かないわね。でも、ここで橋を渡って、景色を見てから考えても良いと思うの。諦めるとしても、景色を見ずに諦めたら…あれほどの人を、そう簡単には忘れられないわ。一生、あの王子様を引きずって生きていくことになるわ。同じ傷つくなら…橋を渡って、景色を見て考えたほうが…後悔しないと思うんだけど…」

ばあさまの言っていることは、王子様と恋をしてから、ふたりの未来を考えればいいと言っているが、俺にはそうは思えない。


まだ…そう、まだ、ふたりは思いを告げあっていない。それなら、マリーが橋を渡る前に、その前に…ラファエル王子からマリーの元から去って行って欲しい。そうすれば、マリーは王子の気持ちを知らずに、さよならができる。今なら、まだ間に合う。

片思いだと思って終わるほうが…絶対傷は浅いはずだ。

夢を見させてと言っていたマリー。
夢はいつか覚めなきゃいけない。辛いけど、眠ったままではいられないんだ。
俺は…その目覚めを、少しでも健やかにしてあげたい。

*****

思い耽っていたケントの目の前に、突然差し出されたグラス。
それは、こんもりとなめらかな泡と、美しく澄んだ琥珀色が二層になったビールで、差し出す人に目をやると、泣きそうな顔の祖母アデラだった、でもアデラは無理矢理、笑みを作り

「ケントが何を考えているのか、わからないけど…恋は、周りが騒いで止めようとしても…惹かれあう男女は、もう誰にも止められないわ。」

アデラの言葉を聞きながら、ケントは差し出されたビールを一気に飲んだ。口の中に濃色麦芽のほのかな甘さ、厚みのある味わいが広がり…ほんとうに美味いビールだった。でも、なぜだか、美味いと言葉は出てこなくて、顔が歪み…やはり祖母アデラと同じように泣きそうな顔で…アデラを見た。
アデラは、なにも言わずに、うんうんと頷いていたが…

突然…!

アデラはケントの腕を握り、「マリー!!」と悲鳴のような声をあげ叫んだ!
ケントは、慌ててマリーとラファエルに視線を向けると、顔を隠した数人の男達が、マリーとラファエルに向かって、切りかかろうとしていた。

 「マリー!!!」

ケントは叫んで、マリーとラファエルのところへと走っていった。


 
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