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この6日間、俺が見てきた彼女は、蓮っ葉な女にはどうしても見えなかった、だが、付き合っているという複数の男の話は、突然出た嘘には思えない程、淀みなく出てくる。
その疑問に、彼女が付き合っていると言っている、男のひとりからなら…真実がわかるのでは…。

なにか……ある。彼女にはなにか…



ケントは、ラファエル王子の恐いほどの気配とキラキラ感に腰が引け、さっきまで力がみなぎってい たはずなのに…だんだんと空気が抜けた風船のように、萎んでいくような気がした…が…ぐっと腹に力を入れて、震える体を押さえながら


マリーは泣いていたんだぞ。せっかくのチャンスなんだ。ここはガツンと言わねば!と握りこぶしを作ると、本人は、ガツンと言ったつもりだったが、実際はかなり声は震えて

「い、妹から手を…お引…きしていただきたい!」
 (ほんと、このキラキラ感は、目にも、心臓にも良くない。)

「妹…?悪いがそれより先に聞きたい。アデラのことだ。」

 「ア、アデラ?」
(アデラって、うちのばあさまだぞ?!確かに昔は、ロレーヌ国の宝石と言われた美貌だったが…60は軽く超えてるぞ!まさか…王子は…ばあさまとも!!そ、そんな!!!)

そんな、ケントの心の言葉に、もちろん気がつかない、ラファエルは

「教えて欲しい。彼女が付き合っている男、アドニス、ライナス、避暑地で知り合ったフィリップ…いや…一番知りたいのは、医者のクラークだ。」

ケントの頭の中には…フィリップはピンと来なかったが、花屋のアドニスと居酒屋のライナスの顔が浮かんだ。

(何を聞きたいんだろう…王子様は?)

意味がわからないケントのキョトンとした顔に

「知らないか?医者のクラーク…彼自身が、まるで鋭利なメスのようにクールらしい。銀縁の眼鏡をかけ、真ん中ブリッジを中指一本で上げる仕草が…すごくセクシーだと彼女が言っていた。そしてふざけた事に彼女を見つめて、夜の診察予約をするか…なんてクサイことを言うらしい。」

 「医者…クラーク…鋭利なメスのようにクール…銀縁の眼鏡をかけ、真ん中ブリッジを中指一本で上げる仕草がセクシー…夜の診察予約……?」
 (それって…【愛しているから壊したい】のクラーク?ク、ク、クラーク!)

 「い、い、いい加減してくれ!俺は!違うからなぁ!!クラークなんか、し、知らないから!」と言ったケントだったが、ハッとして自分の口を押さえた。

 「クラークを知っているのか!」

思わず【愛しているから壊したい】の話を振られ、ちょっと焦って、叫んでしまった。お…落ち着け…俺。どういうことだろう。王子が…この女たらしの王子が、ばあさまや、まさか…BLまで手を伸ばしているとは思えない。

 「ラファエル王子…その話は?」

 「彼女から、アデラからだ。」

 「アデラ…?この宿で俺と一緒にいた?」

ラファエルは眉を顰め
「おまえ、なにをふざけている。それ以外に誰がいるんだ!」

さすがに、いつも呆けている俺でもわかった。アデラは…ばあさまではなくてマリー。
王子に近づくために、遊びなれている女をマリーは演じている。でも付き合ったこともないマリーには、本の世界での恋愛しか知らないから、いろんな恋愛小説の一編を引用したんだ。

俺は、焦った顔の王子を見た、まさか…?
そして泣いていたマリーを思い出し…嘘だろう? このふたりって…いや、嘘だろう!

握り締めていた手を広げ、また強く握り締めると

「ラファエル王子、しばらく時間を頂戴したい。必ず、すべてをお話に上がります。どうぞそれまでは、マ…アデラには黙っていてください。今、彼女をあなた様が追い詰めると…壊れてしまうでしょう。どうぞ、私を信じて待っていただきたい。」


ケントの眼の、そして言葉の強さに、ラファエルは驚いた。


怯えて彼女の後ろに隠れるようにいた男だったのが、今は…彼女を守ろうと必死だ。この男はアデラを…
 「アデラを…愛しているのか…?」

 「…はい。」

 「そうか…。」

そう言って、眼を瞑ったラファエルを見つめながら、 ケントは、心のうちで言っていた。


ふたりに未来があるとは思えない。王子と貧乏子爵の妹、 いいところでマリーは…寵妃だ。
口ではいろいろ言っているが、マリーが恋愛に夢を持っているのは、俺にだってわかっている。恋愛小説に、自分を重ねるようなマリーに…

寵妃という形でこの王子と結ばれても、マリーに耐えられるはずはない。

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