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瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川のわれても末に あはむとぞ思ふ( 崇徳院 )…巡り合う運命
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翔兄の後を追ったが、足を痛めたせいで、どんどん離されて行く。どこに行くつもりなんだろうか。
(バイバイ……花音)…と私の部屋を見上げた時の翔兄の口はそう動いてた。
もう、一生会えないというようなバイバイなんて…私は絶対許さない!
翔兄は繁華街を抜け、駅へと足を運んでいるようだった、私は人を避け、車を避けて追ったが、見失いそうになる度に、不安で心が張り裂けそうだった。歩道を歩く大勢の人の足の間をすり抜け、時にはその足に蹴られ、何度も車道に飛び出しそうになりながら、ようやく駅前で、横断歩道を渡る翔兄に追いつけたと思ったのに…。
横断歩道に前足がかかった時だ…目の前をバイクが走りぬけ、私は転げるようにバイクを避け、ハッとして信号を見た。
あぁ…っ!!信号が赤に変わったんだ…。
目の前を車が通る、そして…翔兄が…どんどん離れて行く。
私は…声を張り上げた!
「にゃぁ~ん(翔兄!)」
「にゃぁ~ん、にゃぁ~(どこに行くの!)」
「にゃぁ~ん、にゃぁ~ん、にゃぁ~(翔兄!!行かないで!)」
泣き叫ぶ私を囲むように人の輪ができ、みんな驚いたように、口々に何か言っていた。横断歩道を渡り終えた翔兄が、騒がしい後ろが気になったのだろうか…振り返った。
「にゃぁ~んにゃぁ~(翔兄!私に気ついて!)」
「にゃぁ~ん(気がついて!)」
声の限り叫んだが、でも翔兄には届かない。
前足の爪の間から、血が流れてきた。痛いよ…。
でも血が出ている前足より…胸が、胸が痛いよ。
道路を挟んだ駅の向かい側で、駅に入って行く翔兄を見つめる事しかできないなんて!
翔兄…。翔兄…。
たまらず、私はもう一度…叫んだ!
「にゃぁ~ん(翔兄!)」
血が滲む前足を誰かがそっと触れ、「可哀想に」と言って抱き上げてくれた見知らぬ人のその腕に、私はしがみつくと、声の限り泣いた。そして泣きながら…願った。平蔵…助けて、お願い…と。
意識が遠のいていく…。
翔兄が笑っている顔が見えた。
お兄ちゃんとふざけあう翔兄。
照れくさそうに微笑む翔兄。
そして頬に涙が伝わっているのに、無理して微笑もうとしている翔兄。
その顔が、歪み崩れていく。
******
「翔兄!!」
自分の叫び声で、飛び起きると、ベットから何個かぬいぐるみが落ちていった。
あぁ…家だ。
翔兄を追いかけていったのは…夢じゃないよね。私は少しふらつく体で、近くにあった服を着て階段を下りながら、お母さんに、おばあちゃんに叫んだ。
「さっき、さっき翔兄が来てたよね!!」
リビングに飛び込むように入った私を、8つの目が驚いたように、私を見つめた。リビングにはお母さんとおばあちゃん、そしてお兄ちゃんと理香さんがいたのだったが、気にする時間さえもったいないくて私は…また叫んだ。
「翔兄が来ていたよね!」
私の尋常じゃない叫びに、おばあちゃんは驚いて言葉が出ず、ただ頷いた。
私は今度はお兄ちゃんに向かって
「翔兄、変なの。…駅に行ってた。…どこに行くのかわからない。」
不思議な事を言って、泣き出した私を理香さんが抱きしめてきた。
「…ごめんなさい。私や母のせいで、真一さんを引き止めたからだわ。翔太の側に真一さんがいたら…。一番い辛いのは、翔太なのに…ひとりにさせた私たち親子のせいだわ。」
そう言って、涙を零した。
「そんな、理香さんだって…辛かったはずだもん。誰も悪くなんてないよ。」
理香さんは泣きながら…
「私は、なんとなく気づいていたの、翔太を遠縁だ、従兄弟みたいのものだと紹介された時に、あまりにも父に似ている翔太に…血の近さを感じたわ。そう、違和感を感じていたの。やはり…血が呼ぶのか、一緒にいて楽で、何でも話せて。正直初めは…恋?、と思うくらいに…」
理香さんの言葉に…顔が青くなっていくのを感じた、そんな私を見て、理香さんは首を横に振った。
「でも、翔太から親友なんだと、真一さんを紹介されたとき、違うと感じたわ。真一さんを見た瞬間、すべての音や物が消えて、この人しか見えなかった…。」
私は、お兄ちゃんに目を向けた…信じられない。
そんな私の視線に気がついたのか…お兄ちゃんの目がうるさいと言っているようだったが、立ち上がると、お兄ちゃんは、理香さんの肩に手を置いて
「理香、悪いが…詳しい話は後で…、花音、翔太は駅に行ったんだなぁ。」
「…うん、駅で見失ったの。」
私の話に不自然さを感じているお母さんとおばあちゃんは呆然としていたが、お兄ちゃんは何も感じていないようだった、ひとこと「わかった。」と、そう言ってヘルメットを私に投げ
「花音、翔太を追いかけるぞ!」
「お、お兄ちゃん!うん」
お兄ちゃんの後ろを走って追いかけた、お兄ちゃんは、玄関前に止めてあったヤ※ハ VMAX (RP22J)総排気量が1700ccという大型バイクにまたがると、玄関を飛び出てきた私に言った。
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川のわれても末に あはむとぞ思ふ( 崇徳院 )。この歌のように、必ずおまえと翔太は、巡り合う運命だと俺は思っている。」
お兄ちゃんらしい、励まし方だった。私は、お兄ちゃんの背中に頭をつけ頷いた。
*訳
【愛しいあの人と今は分かれても、いつかはきっと再会できると信じています。】
(バイバイ……花音)…と私の部屋を見上げた時の翔兄の口はそう動いてた。
もう、一生会えないというようなバイバイなんて…私は絶対許さない!
翔兄は繁華街を抜け、駅へと足を運んでいるようだった、私は人を避け、車を避けて追ったが、見失いそうになる度に、不安で心が張り裂けそうだった。歩道を歩く大勢の人の足の間をすり抜け、時にはその足に蹴られ、何度も車道に飛び出しそうになりながら、ようやく駅前で、横断歩道を渡る翔兄に追いつけたと思ったのに…。
横断歩道に前足がかかった時だ…目の前をバイクが走りぬけ、私は転げるようにバイクを避け、ハッとして信号を見た。
あぁ…っ!!信号が赤に変わったんだ…。
目の前を車が通る、そして…翔兄が…どんどん離れて行く。
私は…声を張り上げた!
「にゃぁ~ん(翔兄!)」
「にゃぁ~ん、にゃぁ~(どこに行くの!)」
「にゃぁ~ん、にゃぁ~ん、にゃぁ~(翔兄!!行かないで!)」
泣き叫ぶ私を囲むように人の輪ができ、みんな驚いたように、口々に何か言っていた。横断歩道を渡り終えた翔兄が、騒がしい後ろが気になったのだろうか…振り返った。
「にゃぁ~んにゃぁ~(翔兄!私に気ついて!)」
「にゃぁ~ん(気がついて!)」
声の限り叫んだが、でも翔兄には届かない。
前足の爪の間から、血が流れてきた。痛いよ…。
でも血が出ている前足より…胸が、胸が痛いよ。
道路を挟んだ駅の向かい側で、駅に入って行く翔兄を見つめる事しかできないなんて!
翔兄…。翔兄…。
たまらず、私はもう一度…叫んだ!
「にゃぁ~ん(翔兄!)」
血が滲む前足を誰かがそっと触れ、「可哀想に」と言って抱き上げてくれた見知らぬ人のその腕に、私はしがみつくと、声の限り泣いた。そして泣きながら…願った。平蔵…助けて、お願い…と。
意識が遠のいていく…。
翔兄が笑っている顔が見えた。
お兄ちゃんとふざけあう翔兄。
照れくさそうに微笑む翔兄。
そして頬に涙が伝わっているのに、無理して微笑もうとしている翔兄。
その顔が、歪み崩れていく。
******
「翔兄!!」
自分の叫び声で、飛び起きると、ベットから何個かぬいぐるみが落ちていった。
あぁ…家だ。
翔兄を追いかけていったのは…夢じゃないよね。私は少しふらつく体で、近くにあった服を着て階段を下りながら、お母さんに、おばあちゃんに叫んだ。
「さっき、さっき翔兄が来てたよね!!」
リビングに飛び込むように入った私を、8つの目が驚いたように、私を見つめた。リビングにはお母さんとおばあちゃん、そしてお兄ちゃんと理香さんがいたのだったが、気にする時間さえもったいないくて私は…また叫んだ。
「翔兄が来ていたよね!」
私の尋常じゃない叫びに、おばあちゃんは驚いて言葉が出ず、ただ頷いた。
私は今度はお兄ちゃんに向かって
「翔兄、変なの。…駅に行ってた。…どこに行くのかわからない。」
不思議な事を言って、泣き出した私を理香さんが抱きしめてきた。
「…ごめんなさい。私や母のせいで、真一さんを引き止めたからだわ。翔太の側に真一さんがいたら…。一番い辛いのは、翔太なのに…ひとりにさせた私たち親子のせいだわ。」
そう言って、涙を零した。
「そんな、理香さんだって…辛かったはずだもん。誰も悪くなんてないよ。」
理香さんは泣きながら…
「私は、なんとなく気づいていたの、翔太を遠縁だ、従兄弟みたいのものだと紹介された時に、あまりにも父に似ている翔太に…血の近さを感じたわ。そう、違和感を感じていたの。やはり…血が呼ぶのか、一緒にいて楽で、何でも話せて。正直初めは…恋?、と思うくらいに…」
理香さんの言葉に…顔が青くなっていくのを感じた、そんな私を見て、理香さんは首を横に振った。
「でも、翔太から親友なんだと、真一さんを紹介されたとき、違うと感じたわ。真一さんを見た瞬間、すべての音や物が消えて、この人しか見えなかった…。」
私は、お兄ちゃんに目を向けた…信じられない。
そんな私の視線に気がついたのか…お兄ちゃんの目がうるさいと言っているようだったが、立ち上がると、お兄ちゃんは、理香さんの肩に手を置いて
「理香、悪いが…詳しい話は後で…、花音、翔太は駅に行ったんだなぁ。」
「…うん、駅で見失ったの。」
私の話に不自然さを感じているお母さんとおばあちゃんは呆然としていたが、お兄ちゃんは何も感じていないようだった、ひとこと「わかった。」と、そう言ってヘルメットを私に投げ
「花音、翔太を追いかけるぞ!」
「お、お兄ちゃん!うん」
お兄ちゃんの後ろを走って追いかけた、お兄ちゃんは、玄関前に止めてあったヤ※ハ VMAX (RP22J)総排気量が1700ccという大型バイクにまたがると、玄関を飛び出てきた私に言った。
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川のわれても末に あはむとぞ思ふ( 崇徳院 )。この歌のように、必ずおまえと翔太は、巡り合う運命だと俺は思っている。」
お兄ちゃんらしい、励まし方だった。私は、お兄ちゃんの背中に頭をつけ頷いた。
*訳
【愛しいあの人と今は分かれても、いつかはきっと再会できると信じています。】
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