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OVER THE RAINBOW
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俺は、ただ…立っていた。
それしか、記憶に残っていない。
でも挨拶をしたらしい、火葬場にも行ったらしい。
目の前のことが、まるで車から見る景色のように、流れていくのを、ただ俺は見ていた。
「翔太。」この人の声だけが、皮肉なことに俺を現実に戻してくれる。
「…なんですか?」
そう言って、俺は周りを見回した。
ここはどこだろう?あぁ、どうやらまだ火葬場にいるらしい。
「私は…「松宮さん!」」俺は、あの人の言葉を遮った。この人の話は聞きたくない、俺だけじゃない、理香も、そして理香の母親までもを傷つけるこの人の言葉なんか、聞きたくなかった。
「俺は…」罵声を浴びせるつもりだったが、言葉は出てこなくて、唇だけがわずかに震える。
その時…俺の肩を叩く人が、それも明るい声で…
「翔太君。取り敢えず、家に来ない?」
そう、声かけてきたのは、花音のおばあちゃんだった。
「松宮さん、今はなにを話しをしても、翔太君には伝わらないわ。翔太君、家においで、花音に会ってやって」
「花音…に。」
「そう、花音にだよ。あの子も熱がなかったら、きっとここに来て、翔太君とおじいさんを見送っていたと思うわ。きっと心配してる。会いにきて。」
「柴崎さん…。」
「松宮さん、大丈夫。私に翔太君を任せて。」
俺は、ぼんやりふたりを見た。どうして?ふたりは知り合いなのか…?
俺の顔を見た花音のおばあちゃんは、俺の言いたいことがわかったのか「あとでね。」と笑うと、俺の背中を押し、「行こうか。翔太君」と言った。
あの人が…頭を下げるのが目の端に入ってきたが、俺は目を伏せ、その姿を遮断した。
車の中、花音のおばあちゃんは、俺の髪がぐしゃぐしゃになるくらい…頭を撫でて、鼻を啜りながら
「よく、がんばったね。いい葬儀だったよ。」と言って、車のキーを回した。
エンジンが掛かり、車内が微かに揺れ、花音のおばあちゃんが好きなんだろうか、
スピーカーから女性の囁くような声が…。
そしてピアノの音色が…。
♪"OVER THE RAINBOW”を奏でた。
Somewhere over the rainbow
Way up high
There's a land that I heard of
Once in a lullaby
Somewhere over the rainbow
Skies are blue
And the dreams that you dare to dream
Really do come true
Someday I'll wish upon a star
And wake up where the clouds are far behind me
Where troubles melt like lemon drops
Away above the chimney tops
That's where you'll find me
Somewhere over the rainbow
Bluebirds fly over the rainbow
Why then oh why can't I ?
If happy little bluebirds fly
Beyond the rainbow
Why oh why can't I ?
虹の彼方に
虹の彼方の
ずっと高いどこかに
昔 子守歌で聞いた国がある
虹の彼方の
青い空の下
あなたが夢見ることが真実になる
いつか 見上げる星に願い
雲を遙か足もとに目覚める
悩み事がレモンドロップスのように溶ける場所
あなたは見つけるわ
高い煙突の遙か上にいる私を
虹の彼方のどこかで
青い鳥が飛んでいる
青い鳥が虹を越えられるなら
私にも行けるはず
もしも幸せの青い小鳥たちが
虹の向こうに飛んでいけるなら
私も行けるはず
この声がだろうか、それともこの歌詞のせいなのだろうか、車内に流れる、♪OVER THE RAINBOWは、俺の視界をだんだんと歪ませ、そして微かに揺れさせた…。
*****
今頃、翔兄は火葬場かなぁ。私は短い手足を動かし、取り敢えず自分の体の近くにと思い、自宅に向かっていた。
翔兄のおじいちゃんが入院していた病院よりは、この斎場のほうが自宅に近いけど、ふぅ~この手足だもん、どのくらい掛かるんだろうか。でも頑張らないと、翔兄の側にいなくちゃ、翔兄が…翔兄が…壊れそうだ。あの顔は…悲しみで壊れそうなんだもん。
車だと15分ぐらいの道のりが、猫の私には、未開の地を大冒険をしている感じだった。
途中で小学生の男の子に捕まって、逃げるのに時間を取られたり、大きな犬に追いかけられたりして、泥だらけで、小さな体はもうくたくただった。
ピンクの肉球が、赤くなって痛くて、泣くもんかと頑張っていたが…
「にゃぁ~(痛いよ)」
と声が思わずでてしまい、悔しくて、そしてちょっぴり辛くて、少し足取りが遅くなった時だ。
横を通ったアボガド色の軽自動車が、信号で止まった。
このナンバーって…おばあちゃんの車だ!!
痛い足を、短い足を必死に動かして、車に近づいた。助手席に…誰か乗っている。
翔兄?
車は、青信号に変わったと同時に動き、翔兄なのかはっきりと確認できなかったが…きっと翔兄だ!
そう思ったら、また足は動き出し、私は走った。
心の中で、なんども翔兄と呼びながら…。
それしか、記憶に残っていない。
でも挨拶をしたらしい、火葬場にも行ったらしい。
目の前のことが、まるで車から見る景色のように、流れていくのを、ただ俺は見ていた。
「翔太。」この人の声だけが、皮肉なことに俺を現実に戻してくれる。
「…なんですか?」
そう言って、俺は周りを見回した。
ここはどこだろう?あぁ、どうやらまだ火葬場にいるらしい。
「私は…「松宮さん!」」俺は、あの人の言葉を遮った。この人の話は聞きたくない、俺だけじゃない、理香も、そして理香の母親までもを傷つけるこの人の言葉なんか、聞きたくなかった。
「俺は…」罵声を浴びせるつもりだったが、言葉は出てこなくて、唇だけがわずかに震える。
その時…俺の肩を叩く人が、それも明るい声で…
「翔太君。取り敢えず、家に来ない?」
そう、声かけてきたのは、花音のおばあちゃんだった。
「松宮さん、今はなにを話しをしても、翔太君には伝わらないわ。翔太君、家においで、花音に会ってやって」
「花音…に。」
「そう、花音にだよ。あの子も熱がなかったら、きっとここに来て、翔太君とおじいさんを見送っていたと思うわ。きっと心配してる。会いにきて。」
「柴崎さん…。」
「松宮さん、大丈夫。私に翔太君を任せて。」
俺は、ぼんやりふたりを見た。どうして?ふたりは知り合いなのか…?
俺の顔を見た花音のおばあちゃんは、俺の言いたいことがわかったのか「あとでね。」と笑うと、俺の背中を押し、「行こうか。翔太君」と言った。
あの人が…頭を下げるのが目の端に入ってきたが、俺は目を伏せ、その姿を遮断した。
車の中、花音のおばあちゃんは、俺の髪がぐしゃぐしゃになるくらい…頭を撫でて、鼻を啜りながら
「よく、がんばったね。いい葬儀だったよ。」と言って、車のキーを回した。
エンジンが掛かり、車内が微かに揺れ、花音のおばあちゃんが好きなんだろうか、
スピーカーから女性の囁くような声が…。
そしてピアノの音色が…。
♪"OVER THE RAINBOW”を奏でた。
Somewhere over the rainbow
Way up high
There's a land that I heard of
Once in a lullaby
Somewhere over the rainbow
Skies are blue
And the dreams that you dare to dream
Really do come true
Someday I'll wish upon a star
And wake up where the clouds are far behind me
Where troubles melt like lemon drops
Away above the chimney tops
That's where you'll find me
Somewhere over the rainbow
Bluebirds fly over the rainbow
Why then oh why can't I ?
If happy little bluebirds fly
Beyond the rainbow
Why oh why can't I ?
虹の彼方に
虹の彼方の
ずっと高いどこかに
昔 子守歌で聞いた国がある
虹の彼方の
青い空の下
あなたが夢見ることが真実になる
いつか 見上げる星に願い
雲を遙か足もとに目覚める
悩み事がレモンドロップスのように溶ける場所
あなたは見つけるわ
高い煙突の遙か上にいる私を
虹の彼方のどこかで
青い鳥が飛んでいる
青い鳥が虹を越えられるなら
私にも行けるはず
もしも幸せの青い小鳥たちが
虹の向こうに飛んでいけるなら
私も行けるはず
この声がだろうか、それともこの歌詞のせいなのだろうか、車内に流れる、♪OVER THE RAINBOWは、俺の視界をだんだんと歪ませ、そして微かに揺れさせた…。
*****
今頃、翔兄は火葬場かなぁ。私は短い手足を動かし、取り敢えず自分の体の近くにと思い、自宅に向かっていた。
翔兄のおじいちゃんが入院していた病院よりは、この斎場のほうが自宅に近いけど、ふぅ~この手足だもん、どのくらい掛かるんだろうか。でも頑張らないと、翔兄の側にいなくちゃ、翔兄が…翔兄が…壊れそうだ。あの顔は…悲しみで壊れそうなんだもん。
車だと15分ぐらいの道のりが、猫の私には、未開の地を大冒険をしている感じだった。
途中で小学生の男の子に捕まって、逃げるのに時間を取られたり、大きな犬に追いかけられたりして、泥だらけで、小さな体はもうくたくただった。
ピンクの肉球が、赤くなって痛くて、泣くもんかと頑張っていたが…
「にゃぁ~(痛いよ)」
と声が思わずでてしまい、悔しくて、そしてちょっぴり辛くて、少し足取りが遅くなった時だ。
横を通ったアボガド色の軽自動車が、信号で止まった。
このナンバーって…おばあちゃんの車だ!!
痛い足を、短い足を必死に動かして、車に近づいた。助手席に…誰か乗っている。
翔兄?
車は、青信号に変わったと同時に動き、翔兄なのかはっきりと確認できなかったが…きっと翔兄だ!
そう思ったら、また足は動き出し、私は走った。
心の中で、なんども翔兄と呼びながら…。
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