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最終話

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アークフリードが連れてこられた場所は、【銀の匙】だった。

「ここは、銀の匙じゃないか…」そう言って、アークフリードは、店のカウンターに座りぐるりと見渡すと…いつの間にか出されていたウォッカに気がついた。

「なぁ、アークフリード、あの時も…こうやってふたりで、ウォッカを飲んでいたよなぁ」
と言って、隣でライドがウォッカを口にしていた。


そうだ…。
俺は義母のパメラから勧められていた縁談を…フランシスの為、いや金の為に、断りきれずに悩んでいた。
そうその時だ…。あの居酒屋の扉が大きな音を立てて、小柄な女性がつんのめるように飛び込んできたんだ。

大きなリボンでひとくくりした、真っ赤な髪はどこかに引っ掛けたのだろうか…。
ところどころ大きなリボンから外れて、陶器のような白い顔に掛かっていた。

普通、髪の乱れた女性というのは、少しだらしなく見えるものだが…

緑色の大きな瞳が、しっかりと俺を見る姿には、清らで勇ましくさえ見え、 髪の乱れが、彼女の姿をいささかも落とすことはなかった。


そして、彼女は言ったんだ。


『わ、私ならアークフリード様をお助けすることが出来ます!だ、だから、私と結婚してください!!!』


あの時のことが…はっきりと脳裏に浮かんだ。


そして…アルバムを捲るように、見えてきた。



一枚目は…

海の中のような、青い月の光が輝く中だ…
彼女と一緒に、ゆっくりとベットの海の中に沈んでいった。

白いシーツに広がる赤い髪は、シーツの海で波打ち
俺の唇で、何度も食まれた淡い色の蕾が、 赤く染まり…白い肌の上で震えていた。白と赤のコントラストは…月の光の中、それは幻想的だった。



二枚目は…



夜が明け…、暗かった部屋に光が差し込む中
まだ、弱い日差しが、白い肌に焦がれるかのように纏わりついていた。
彼女は裸の体を隠すこともなく、窓に待たれ、ぼんやりと外を見ているように思われた。そして俺は、横になったまま、そんな彼女を見ていた…。



そして、三枚目は…

「エリザベス…」と言って、腰につけていた袋から《王華》が入ったペンダントを出し、エリザベスの首かけた。

エリザベスは頷き、そして小さな声で呪文を唱えると目映いほどの光が、エリザベスの体を包みやがて、赤い色の髪は紫の髪に 緑の瞳は紫の瞳に変わった…エリザベスがいた。







ガタン!!





居酒屋の扉が大きな音を立てて、小柄な女性がつんのめるように飛び込んできた。大きなリボンでひとくくりした、紫色の髪はどこかに引っ掛けたのだろうか…

ところどころ大きなリボンから外れて、陶器のような白い顔に掛かっていた。
紫色の大きな瞳が、しっかりとアークフリード達を見る姿は、あの時と同じだ。

その姿は清らで勇ましく 髪の乱れが彼女の姿をいささかも落とすことはなかった。そして彼女は言った。

「わ、私ならアークを必ず幸せにするわ。だ、だから、私と結婚してください!!!」

アークフリードの青い瞳に…赤い髪で緑の瞳の女性と紫の髪で紫の瞳の女性が…重なった。

ーそうか…そうだよなぁ…それしか考えられない。
こんなに愛しい人は…彼女だけだ、彼女しかいない。





アークフーリードは、飛び込んで来たエリザベスに「君から、二度もプロポーズされたなぁ。」と言って、大きな声で笑うと、カウンターから立ち上がった。

「思い出したの…」とエリザベスは先程の、勢いはなく…震える声でいや泣き声に近かった。

「あぁ…髪を振り乱してプロポーズしてくる女性は、そう何人もいないからなぁ。」

アークフーリードは、また…可笑しさを我慢できないかったように、笑い出した。


「アーク!」



アークフリードは真っ赤になって、「だって、だって…」を繰り返すエリザベスの腰に手を回し、笑いながら【銀の匙】の外へと連れ出した。







先ほどのあの雨が嘘だったかのように空には星が瞬いている。



アークフリードは、エリザベスを自分の胸の中に囲い
「半月とはいえ、君を忘れていたことを許してくれ。気が遠くなる中、俺は何もできずに君を守れなった自分が不甲斐無くて…情けなくて、その事実から、そして君から逃げていたんだと思う。こんな俺でもいいのか…?」


アークフリードの語尾は震えていた、だが反対に腕は放すものかと強くエリザベスの体を抱きしめていた。

エリザベスはアークフリードの背に白く小さな手に回し
「幼い頃から、ずっとずっと、好きだったの、大好きだったの…。アーク、あなたじゃなきゃダメなの。私はあなたじゃなきゃダメなの。」



アークフリードは、抱きしめる手を緩め、エリザベスを少し離し微笑むと

「プロポーズは…俺から言わせてくれ。赤い髪と緑の瞳の君も、紫の髪と瞳の君も、俺は愛してる。結婚してくれるかい?」

「はい…。」と言ったエリザベスに、次の言葉はもう涙で言えなくて、アークフーリードの逞しい胸に顔を埋めた。






ドンドンと店の中から、扉を叩く音が聞こえ、店の中からライドの声が…

「おーい!!アークフリード!それほど、寒くないといっても、冷え込んでく真夜中に、妊婦を長い時間出しとくなよ!」と聞こえてきた。


 数秒の沈黙の後… 。


「本当か?!!!」「大丈夫なのか?!」「 もう休んだほうがいい!」

と慌てるアークフリードの声と、エリザベスの笑う声が、店の中にまで聞こえてきた。

ライドは隣に座った、コンウォール男爵に
「あんなのが、義理の息子でいいですか?!」と頬を膨らませ言うと、コンウォールは嬉しそうに「はい。」と言って、笑みを深くした。





そして店の外のふたりは…。

エリザベスはいつまでもオロオロしているアークフリードに笑いながら、そして嬉しくてほんの少し涙ぐみながら、アークフリードの首に手を回し、その耳元に…
「 あなたと私の子供はきっと…わかってる。ママの私がパパの腕から離れたくないことを…。」と囁き微笑んだ。

オロオロとしていたアークフリードは、緑色の瞳を潤ませたエリザベスに、そしてその言葉に、青い瞳を大きく見開いたが、やがてその青い瞳は、愛しそうにエリザベスを映しだした。



アークフリードは両手をエリザベスの頬にあて、エリザベスの目尻に残った涙を親指で拭い微笑みながら…顔を近づけ、エリザベスの唇の上で、熱い吐息と愛の言葉を乗せた



「愛してる。」…と。


緑の瞳はまた涙を零し、ゆっくりと瞼を下ろし…「私も…」と言った途端…熱い唇は重なった。







ドンドンと店の中から、また扉を叩く音とライドの声が…
「おーい!!アークフリード!いいかげんしろよ!」



ライドの怒鳴り声にふたりは顔を見合わせ笑った。その笑い声が聞こえたのだろう。ライドは、むっとしたような声で隣に座った、コンウォール男爵に
「ほんとに!!あんなのが、義理の息子でいいですか!結婚を反対してやってください!!」

と頬を膨らませ言ったその言葉に、とうとうコンウォールは、我慢できず大笑いした。








…………………………………………………………………………………………………………………………………………




これで本編終了です。
番外編が20話ぐらいあるのですが、なかなかうまくできなくて、とりあえず2/29   12時に4話を更新しますので、よろしければ見てやってください。

残りはまたゆっくり更新していきます。




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