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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

3日目⑦

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剣を抜いたが、なかなか動かない私に、周りはきっと息を飲んでいたのだろう。

張り詰めた空気が漂う中、私は口を開いた。
「今も…ですが、幼い頃の私は同世代の子供よりも、一回り体が小さかったんです。そのせいで従兄弟やその仲間に苛められ、いつも泣いていました。」

この場に合わないことを突然言い出した私に、ナダルは舌打ちをし
「おまえの昔話なんざ、どうでもいい!殺るのか?殺らないのか?どっちなんだ!」

と叫んだが、私はその問いかけに微笑むと、また舌打ちをして、私を睨んだナダルだったが、もう口を挟もうとはしなかった。

剣を握りなおした私は、刃の先端に目をやり
「剣を握ったのはその頃でした。4歳の誕生日に剣を父から貰ったんです、おかしな子供でした。この鋼の輝きに惹かれ、その日以来、片時も剣を離すことはしなかったんです。」

「あの日もそうでした。いつものように両手で剣を抱いて、庭でひとりで遊んでいると、屋敷に忍び込んできた従兄弟やその仲間から、『おまえみたいな弱っちいチビに、剣なんてもったいない。俺に寄越せ。』と言われ、泣きながら逃げていました。足を引っかけられ転んだとき、剣が鞘から出たんです。

剣を取られたくなかった私は、思わず剣を従兄弟達に向けた、その時でした。

父が…私と従兄弟達の間に、飛び込んできたんです。助かったと思いました…ところが父は私を殴ったんです。」


チラッと視線をお父様とミランダ姫にやると、ミランダ姫の冷たい視線にお父様が項垂れていた。

クスリと笑い
「従兄弟達に苛められている自分が、なぜ父に殴られるのかわからなくて、私は父に言ったんです。

『父上も悪い奴らには、剣を抜くんでしょう!あいつらも同じ悪い奴らなんだ!剣で脅したっていいじゃない!』

そう言ったら、また殴られました、今度は…体が吹っ飛ぶほどでしたが、あの時は痛いというより、なぜ殴られるのかわからなくて、茫然と父を見ていたと思います。
そんな私の側に父は近づき、私が手にしていた剣を…その刃を握ったんです。

血が…ポタポタと地面に落ちるのを見て、パニックになった私に
『見ろ!しっかり見ろ!剣とは、こういうものなのだ。わかるか、剣は人を傷つける、いやその命さえもいとも簡単に奪うことができるのだ。』

『やめて!…もうわかったから!ごめんなさい…。』

泣いて叫ぶ私に…父は
『人を殺めれば…殺めた人の家族の幸せも、人生も奪うのだ。それは…おまえが言う悪いやつらにも、家族や愛する人がいるということだ。そのすべての幸せも夢を、おまえが持つ剣は奪ってしまう。

剣ですべては片付ける事は出来ない。
その者を殺めても、すべて片付くことはないのだ…。

だから、剣の修行は、心の修行も一緒にやらねばならない。剣と同じように高めた心なら、剣よりも強い武器となる。いいか…安易に剣を抜くな。もし抜かねばならい時は…覚悟を持って抜け。自分も命をかけるつもりで抜け。』

そう言って父は…泣いたんです。

父はあの時、己の運命を恨んだ青年が子供の目の前で、その子の母親を殺した出来事を…思い出したんでしょう。剣一筋で、主君に仕えていた父が…剣だけでは解決できなかったことを、間近で見て悩んでいた頃だったんだと思います。」

ナダルの目が大きく見開いた。


そう…あれは、私が2歳の頃の出来事。
ルシアン殿下のご生母スミラ様が、ルシアン殿下を庇った亡くなられた出来事。

ナダルと同じように、王家と言う血が呼んだ悲劇。そして大人の思惑で泣いた子供の話。

「その青年の…本来の目的はその幼い子供の命を奪う事でした。」

「じゃぁ!母親が…死んだということは…」

「…はい。子供を庇って亡くなったんです。自分の腕の中に子供を抱え込み、背中を切られて…。
子供は母親を殺めた青年を慕っていました。慕っていたから、その傷はより深く、その子を傷つけました。」

「その…子供はどうなったんだ。」

ナダルの声に、ルシアン殿下の肩が震えたのが目に入った。

「あの出来事以来、誰にも自分の後ろにまわる事、許さなかったそうです。それは…誰も信じられないという事だったのでしょう。」



同じように幼い頃に、殺戮を見た子供達。

片方は大切な人に庇われ、生き残ったことを悔やみ、人を信じることができなくなった。

もう片方は大切な人を助けることができなくて、その時動けなかった自分を責め、あの時できなかったことを、今やろうと思っている。


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