上 下
132 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

3日目 ⑥

しおりを挟む
「あ、あの…」

私の声に、ミランダ姫は淡々とした声で
「この町の生き残りの三人は、先々代ローラン王の子供と言う話だったわよね。赤い瞳のロイは…そうかもしれないけど…。でもナダルは違う。それは…どういうことなのかしら…。どうやら、まだ裏があるみたいね。」

ナダルを見ていらしたミランダ姫は、私へと視線を移すと
「それより…なんで叔父様とぎこちないの?喧嘩でもした?叔父様も、ロザリーも恋愛偏差値が低いから、もう~心配。」

茫然とする私に、上目遣いで私に向かってにっこり笑らわれると
「まぁ、どうせロザリーは相変わらず騎士道まっしぐらのカッチカッチで、オマケに…」

今度はナダルとアストンに目をやり
「相変わらず…無自覚のたらしで叔父様をヤキモキさせてるんでしょう。」

「えっ?相変わらず?無自覚の…たらし?!」

「叔父様の気持ちもわかるんだけど…でもねぇ~今は、こちらが先よね。まぁ、ふたりには後で、じっくりと恋の指南をしてあげるから…でもあんまり拗らせないでよ。」

そう言って、ニヤリと笑われると、突然大きな声で



「じぃちゃん!お腹空いた!!」


……じぃちゃん…?!

王家の姫が、どこで覚えられたのか、さすが…日頃のご趣味の成果なのだろうか。
私なんかの芝居は、足元にも及ばないな。

緊張していた私の口元に、笑みが浮かんだ。

それは…
ミランダ姫が、部屋の空気に押しつぶされそうな私の為に、空気を変えようとされていることに、私の心が感じたからだ。


その空気をお父様も感じたのだろう、まるで合図でもしたかのように、お父様は慌てて、ミランダ姫の下に走りよると、本当の孫のように抱き上げ
「そうか、なにか食べような。…ミ・ミ。」

だか、ミランダ姫をミミと、軽々しく呼べないお父様のガチガチの演技は、怪しげな恰好と相重なって、また笑ってしまった。
そんな私を、ナダルが戸惑うような視線で見ているのを感じる。

ここで、声をあげて笑うのは、マズかったかな。

腕が立つ者が欲しい、でも今ひとつ、私は信用できない…と思っているのだろうか?

ナダルの肩をアストンが腕を回し外へと連れ出そうとしたが、その腕を振り払い

「本当なんだな。その話は本当なんだな!」
ナダルは私にそう言った。

「信じたくなければ、信じなくてもいいです。私は手を引くだけのこと。」

「…なら、もう一度チャンスをやる。この男を殺れ。」

ナダルはそう言って、フレデリックという男を指差した。

「ヒィ~!なんでだよ。俺は!俺は王家の犬がいると教えに来たんだぜ!礼は言われても、殺されるなんて…そりゃないだろう?!」

薄い笑みを浮かべたナダルは
「剣の腕は半人前のくせに、女だけは一人前のおまえにはヘドが出ていた。それでも、人が足りないので、我慢してやっていたんだぜ。なのに、おまえはとうとうジャスミンにまで、手を出そうとしやがって!そんなおまえに…礼?礼を言えというのか?」

青ざめたフレデリックに、クスクスと笑うと
「礼…か…。そうだな。やっぱり礼は言わないとな。役に立たなかったおまえが、ようやく俺の役に立つんだ。ありがとな。じゃあ、ルチアーノに切られて死んでくれ。」

「…おい…おい!ナダル!」

フレデリックの必死な声が、もうナダルには、聞こえていないのか、ナダルは私に向かってまた言った。

「殺れよ。仲間になりたいのなら殺せ。」


父親に裏切られ、国に裏切られたナダルには、人を信用し、また信用される事は、幸せでもあり、恐怖でもあるのだろうか?
それは裏切られた時の、あの悲しみと恐怖が体に染み込んでいるからか…。



部屋にいるみんなが、私を見ている。


アストンの目がこの場を凌ぐ為には、男を切れと…言っているのを感じる。
あの男は、どういう理由でこちら側にいるのかわからないが、相変わらずだ。

お父様の目も、 ミランダ姫の目も私が男を切っても、切らなくても、私の決断を支持されるおつもりだ。


そして…仮面の下の赤い瞳は…。


丸腰の男を殺せば、私が一生苦しむから…やめろと言っていらっしゃる。 
 

仰るとおり、恐らく私は苦しむだろう。

剣を抜くのならば、命をかけて、主君の描く国を守る為、民を守る為に、誇り高く戦いたい。


そんな気持ちを持っていなければ、ただの人殺しだ。

ならば…私は…


みんなが見つめる中、私は剣を抜いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

処理中です...