王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

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にっこり笑ったつもりなんだけど。

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「キャロルさん!」

「だ、大丈夫です。」

「…よかった…。」

馬車は横倒しになり、散乱した荷物の中に埋もれるように私とキャロルさんはいた、だが荷物と言ってもクッションなどの、柔らかいものばかりだったので、突然投げ出された体には、かえって散乱した荷物の状況は良かったようだ。

そして何より、立ち上がれるほどの高さと、この広さだ。確かに横倒しになった馬車の足元は不安定だが…この広い空間は有難い。

さすが…ステージコーチと呼ばれる、大型の馬車。

キャロルさんと私だけしか乗らないのに、このステージコーチに乗るように言われたときには、唖然としてしまったが、この馬車のおかげで助かったようなものだ。

だが…馬車が横倒しになれば、必然と出入り口は…上になる。
それが、L-540 x W-200 x H-340(cm)の10人乗りの馬車だ。
この馬車の横幅を考えると、出入口は今や、200cmの高さの天井となっている。

唯一、そこが問題だけど…そんなことを思いつつ、天井を見上げる私の耳に

「…どうなってしまうの?」
と、不安そうなキャロルさんの声が聞こえた。


いつもの格好なら、この位の高さぐらいなんてことはないのだけれど…

溜め息をつきつつ、ドレスを軽く持ち上げ
「重いんだよね。ドレスって…でもさすがに下着姿で外に出る勇気は…う~ん、でもそんな事言ってられないか。」

呟くように言ったつもりだったが、キャロルさんにはしっかり聞こえたのだろう。

「ぁ、上がれるんですか?この高さを?」

あぁ…ドキドキする。
なんて言ったらいいんだろう。
(いや、騎士なんで、これぐらい朝飯前ですよ!あははは。)

…なんて言えないし…。

「えっ…と、はい。でもドレスなので厳しいですが。」

私の返答に、キャロルさんは驚いたように私を見た。

は、外した!
取り合えず笑って見せながら、

「ち、ち、父が体育会系ですから、おまけに体が弱いから、鍛えるつもりだったのかなぁ?」

はぁ…療養するような娘がいくら体育会系の父親でも…こんなことやらせないよね。



ガタ…


思っていたより、早いお着き?
キャロルさん、ごめんなさい!

先に言っておきます。
このドタバタで忘れください!


私はそっと、キャロルさんを自分の後ろに隠したと同時に


ガタガタ…ガタン!


大きな音と共に、天井となった扉から、薄笑いを浮かべた男が覗きこんできた。
背中でキャロルさんの小さな悲鳴が聞こえ、その声が男にも聞こえたのだろう。

大きな声で笑い出すと

「…どっちだ?どっちがルシアン王子の女だ?」と嘲る様に言った。

いいタイミングで現れた敵に、ほんの少し、ほんとに、ほんの少し…感謝をしたいなぁなんて思ったけれど、今ので、ムカッとした。

ルシアン王子のオンナ…言い方を考えてよ。
なんか気分が悪い…ムカムカ!

どうせ女を盾にして、ルシアン殿下に手出しできないようにするつもりなんだ…ムカムカムカッ!


俺、悪役ですって顔で、そのセリフは似合っているけど…残念!
短剣を振り回す、その手の小ささが…。
覗き込むその顔の小ささが…。

体の大きさを想像させる。

惜しい、実に惜しい。声と顔の作りだけなら、一丁前の悪役なんだけどね。

小さいというのは、今ひとつ迫力にかけるのよね。
大柄の方が如何にもって感じなんだけどなぁ。
.
.

小さい…か、小さい…。
.
.
あっ!あぁっ!使えるかも!


私の顔に笑みが浮かんだ。
だが、どうやらその兵士には…。

「なんだ!そのバカにした笑いは!」

「…飛んで火にいる夏の虫。」

「はぁ?なんだよ!」

男の切れた声に、私はにっこり笑うと、飛び上がりその男の首にしがみつき
「その服!貰い受ける!」

そう叫び、中へと引きずり込み、頭から落ちてきた男の手をヒールの踵で踏みつけ、短剣を取り、驚いたように私を見上げた兵士の喉元に足を置き
「さぁ!そのズボン脱いでもらいましょうか?」

「…えっ?」

喉元に置いた足に少し力を入れ

「脱げ…って言ってるの!」

寝転んだ姿で、慌てて脱ぎ出した兵士に
「うんうん、ズボンの大きさはこれくらいなら…じゃぁ、上もいこうか!さぁ、さっさと脱ぐ!」

にっこり笑ったつもりだったけど、その男にも…そしてキャロルさんにも…ニヤリと見えたらしい。
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