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王子様は叫んだ。

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『私の体がアデリーナ様にとっては剣なのです。悪魔との契約を切り離す事ができる剣なんです。』


それは何を意味している言葉なのかは、すぐにわかった。

唇は微かに動くが、それを止める言葉が見つからない。
早く、あいつを止める言葉を言わなくては…


だが…

レイピアを地面に置く彼女の姿に、俺の心臓が大きく音をたて、微かに動いていた唇さえ、その動きを止めた。

やはり…自分の体であの短剣を受け止めて、アデリーナを捕まえるつもりなんだ。
右手が使えない彼女には、左手でアデリーナを捕まえねばならないから、だから…剣は邪魔なんだ。

くそっ!自分は剣だと言っているが…それでは盾ではないか!


盾…?

ぁ…

あ…ぁ…

『私は殿下の剣でもありますが…盾であることも、それは騎士の務め、そのようなご心配は御無用でございます。』

 頑固な声が聞こえた。

「ぁ……」



一瞬なにかが見えた気がしたが、だが「ルシアン王子。」と、アストンが俺を呼ぶ声に引き戻された。

「あいつが死ぬ気なのは、気がついてんだろう。このままでいいのか!あいつはあんたしか見てないが、このまま黙ってあいつが死ぬくらいなら、泣こうが喚こうが俺のものにするぜ。あいつを止めれるのは…あんただけだ。あの時のように、俺とあいつのキスを見たいならべつだが…いやなら、早く思い出してやれ!!」




キス…。

そう口にした途端…。アストンが女性に覆いかぶさりキスをしているのが見えた。

アストンが笑いながら、
『そんなに腕を振り上げたら、せっかく胸元を直したのに…また肌蹴るぜ。いいのか…俺と良い事をした名残を殿下にお見せして』

そうだ、女性の胸元は乱れ…キスを受けていた。

だが女性は頭を横に振り
『信じてください…お願いです。殿下!」


その声の持ち主を信じていた。信じていたから、だから…だから…ミランダを助けるために、罠だと分かっている場所に連れて行きたくなかった。

その女性は騎士であることを誇りに思っていることを、小さく細い手が、その華奢な体が、俺に教えてくれたが、

だが…

連れて行きたくはなかった。
当身を入れて、気を失わせても連れて行きたくなかった。




気を失っている女性の金色の髪に触れている…俺が見える。

『すまない。当身を入れて気を失わせて。置いていった事を恨むだろうな。だが、おまえが俺を守りたいように、俺もおまえを守りたいんだ。』

泣いて赤くなった鼻、まだ涙があるその目元に唇で触れ、愛おしさで胸が張り裂けそうで、堪らなくて…自然と言っていた。


『愛している。』


俺はその女性の唇に、そっと唇で触れ、その女性の名を呼んだんだ。



『〇〇〇ー』…と


だがどうしても…名前が思い出せない。
眼の前で命を捨てようとするひとを、惚れているひと止めるために、名前を呼ばねば…「好きだ。」と本当の気持ちを叫んでも、彼女の心には届かない。寧ろ偽った言葉だと思うだろう。

思い出せ。惚れている彼女の名前を!






「どうなさいました?私が怖いのですか?」

 
突然、シリルの、いや彼女の声が聞こえた。
アデリーナを挑発するその声に、俺は息を呑んだ。


…やめろ。



「いえ、べつに…ただ800年たっても、片思いとはお可哀想だと思っただけです。」

…やめてくれ! 


「ロイの魂は何百年たっても、あなたに靡かないとは…ほんとうにお可哀想。」

 
…あ…ぁ…やめろ。


その瞬間、アデリーナが短剣を振り上げて、彼女に向かっていった。


…やめろ!やめろ!!!

俺の体は彼女の元へと飛び出し、俺の心が、俺の唇が叫んだ。




「ロザリー!やめろ!」



あ、ぁ…あ…あぁぁ!!!


ロザリー…!ロザリー!!!ロザリー……。


ロザリーは、暴れるアデリーナをしっかり左手で抱きしめると、アデリーナの体が光だし、金色の粒状になって行くのが見えた。金色の粒はやがて、アデリーナの人としての形を崩し、キラキラと光りながら、ロザリーを包み、そして俺を包み…空へと上がっていった。


「ロザリー!動くな!今誰か呼ぶ!だから、動くな!アストン!!人を呼べ!早く呼んで来い!」

ロザリーに走りより、そう叫ぶとロザリーは笑いながら…
「…アストンは…敵…ですよ。」

「かまうもんか!」

俺は、ロザリーを抱きしめ
「盾になる事は許さんと言ったじゃないか…。主君の言うことが聞けなかったのか…。」

「女として…ルシアン王子の……側にいられないのなら、せめて…騎士として…ルシアン王子が…愛するこの国を……守りたかったんです。」

「バカやろう…俺が一番愛しているのは、この国じゃない。ロザリー、おまえだ。だから!だから俺は、おまえに守られるより、守りたかったんだ!!」


ロザリーは涙を一粒零し、なにか言うと微笑んで、左手を俺へと伸ばした。

だが、その手は俺に触れることなく……落ちていった。


「ロザリー!!おまえは俺の騎士だろう!勝手に離れるのは許さん!」

腹部から流れる血を、俺は必死に抑えたが…血は溢れでて、ロザリーの白い騎士服を染めてゆく。


怖かった。

幼い頃、同じように、母の体から溢れる血を抑え泣いた記憶が蘇る。

大切な人を守りたくて、磨いた剣の腕はなんのやくにも絶たなかった。

俺は…また失うのか…。

愛する人を…また眼の前で…。


「ロザリー!逝くな。……俺をひとりにするな。」



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