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恋とは…。
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言った言葉に偽りはない。
だが、眼の前で困惑した青い瞳が、何か言いたげに揺れているのを見てしまうと、思わず苦笑してしまった。
…だろうな。いくら主君とはいえ、男の俺にそんな事を言われたら困惑もするな。
そういう俺自身も困惑しているのだから…。
だが、嫌だったんだ。本当に嫌だったんだ。
アストンに触れられるシリルを、俺は見たくなかったんだ。
それはどういう意味なのか、俺は心が感じたものがなんなのかわかるから、俺は…困惑している。
*****
それは…
その言葉は…
あの赤い瞳のどこかで、私がロザリーではないかと感じてとって下さっているから…あんな事を言われたんだと、そう思いたい。
『足掻いて見たい。惚れた女が俺を守る為に、命をかけてこの場に来てくれたのだから、俺もこの恋に足掻いてみたい。』
そう言って下さったあの場面を…
ドキドキと鳴る心音を…
そして…ルシアン王子の真っ赤な顔を…
また思い出す。
私は俯き、微笑んだ。
ルシアン王子の中には私がいる。ううん、ロザリーがいる。
良い…それだけで良い。
…でも
私はそっと、その方へと視線を移し唇を噛んだ。
でも、私の幸せは、この方の悲しみとなる。
私の眼の端で、その方は溢れ出てくる哀しみを抑えきれず…泣いている姿が見えた。
「…どうして…どうしてよ。」
泣きながら、呟くように言っていた言葉は叫び声になって
「どうして!!どうして私じゃないの?ロイ!!」
アデリーナ様が思わず言ったその名前に、ルシアン王子が
「…ロイというのか?…前世の俺は…」
「そうよ。ロイ!!思い出して!私たちの恋を…。あなたを愛していた私を思い出してよ。」
「俺は…」
そう言って、ルシアン王子はアデリーナ様を見つめると言われた。
「俺はブラチフォード国の第二王子、ルシアン・ウィルフレッド・メイフィールドだ。ロイではない。」
「でも…」
「俺にとっての人生は今だけだ。今がすべてなのだ。」
「じゃぁ…今…愛して。現世で…私を愛してよ。」
その声に、ルシアン王子は顔を歪め
「なぜ、そう前世に拘る?いや…なぜロイに拘る?現世で俺に愛されたいのなら、ロイと言う男になぜ拘る必要がるんだ。」
「いや…だって…」
「お前は…俺を愛しているのではない。そして…ロイも愛しているとは俺には思えない。」
「…愛しているもの…愛しているから…」
「愛しているから、それ以外はどうでもいい。愛しているから、この恋を邪魔するものはすべて消す。それは…愛なのだろうか?それは…子供が玩具が欲しいと駄々を捏ねているのと変わらない。」
「だってしょうがないじゃない、神が私とロイを引き離そうとするから!邪魔をするから!やるしかなかったのよ!」
「…アデリーナ…。」
「ロイ…思い出して?私達が幸せだったあの頃を…ね。」
その微笑は…ルシアン王子の部屋に飾ってあったスミラ様の絵姿と同じに見えた。ルシアン王子にもそう見えたのだろう。俯かれ眼を伏せられたが、唇を強く噛んでアデリーナ様へと視線をやり
「アデリーナ…今の俺を見ろ。俺は…俺はロイではない。お前が愛した男ではない。」
「姿は変わっても…魂は同じなんだから…だからあなたはロイよ。なにを言っているの?」
憎むべき人なのに、その姿は悲しかった。
この方にとって、恋とは…なんだったのだろう。
孤独な方なのかもしれない。
初めて知った恋が実らず、溢れた思いをどう始末していいのかわからないから、追いかけたのだろう。悪魔と取引をして、長い命を得ても…でも答えは見つからなかったのだ。
だから…
「ロイ…ロイ」
ルシアン王子の中にいて欲しいと願うその人の名を、甘えるような声で呼ぶアデリーナ様に…私は思った。
きっと、ルシアン王子の存在そのものが…アデリーナ様には恋というものの姿なのかもしれない…と。
恋とは…なんなのだろう。
ルシアン王子も、私も言葉を無くしていた中、大きな溜め息が聞こえてきた。
「もういい加減にしろよ!気分が悪いぜ。」
うざったそうにそう言ったアストンはアデリーナ様に
「なにが、私達は恋人だ。修道女さんよ。知っているぜ俺は…。あんたは、記憶を失ったロイに惚れたが、なかなか自分に靡いてくれない。だから、嘘の記憶を植えつけたらしいな。」
「アストン!!」
アストンはクスクスと笑うと
「恋人だった私を思い出して、神よりあなたを選んだ私は…もうどこにも行ける場所がないの。なんて言ったらしいじゃん。神に仕えていたくせに、とんだ女だな。修道女を辞めたから、ここを放り出されると言われりゃ、お優しいロイ君はあんたを好きになろうとするだろうな。」
「私は…だって…私は…」
「気づいていたんだろう。ロイには心の中に別の女がいることを…思い出そうとしていたことを…それをあんたは、思い出させないようにしたんだろう。」
「それのどこがいけないのよ?!好きな男は…思い出せない女をずっと心の中で捜し、心も体も抱きしめられる女が側にいるのに…振り向かない。それなら、どんな事をしてでも、振り向かせるしかなかった。何がいけないと言うのよ。好きな人に自分を選んで欲しいと思うのは、誰もが考える事だわ。ローラン王だって…アストン、あんただってそうでしょう!」
大きく伸びをしながら、アストンはつまらなそうに
「ローラン王は…ちょっと違うと思うな。前世の恋が現世で結ばれなかったら、どうなるのか…とあんたを面白がって見ている。そして俺は、陰でこそこそ策を練るあんたのようなマネはしねぇ。堂々と恋敵の前で…」
アストンはルシアン王子に眼をやり
「愛していると言ってやるさ。」
そう言って、私を見た。
だが、眼の前で困惑した青い瞳が、何か言いたげに揺れているのを見てしまうと、思わず苦笑してしまった。
…だろうな。いくら主君とはいえ、男の俺にそんな事を言われたら困惑もするな。
そういう俺自身も困惑しているのだから…。
だが、嫌だったんだ。本当に嫌だったんだ。
アストンに触れられるシリルを、俺は見たくなかったんだ。
それはどういう意味なのか、俺は心が感じたものがなんなのかわかるから、俺は…困惑している。
*****
それは…
その言葉は…
あの赤い瞳のどこかで、私がロザリーではないかと感じてとって下さっているから…あんな事を言われたんだと、そう思いたい。
『足掻いて見たい。惚れた女が俺を守る為に、命をかけてこの場に来てくれたのだから、俺もこの恋に足掻いてみたい。』
そう言って下さったあの場面を…
ドキドキと鳴る心音を…
そして…ルシアン王子の真っ赤な顔を…
また思い出す。
私は俯き、微笑んだ。
ルシアン王子の中には私がいる。ううん、ロザリーがいる。
良い…それだけで良い。
…でも
私はそっと、その方へと視線を移し唇を噛んだ。
でも、私の幸せは、この方の悲しみとなる。
私の眼の端で、その方は溢れ出てくる哀しみを抑えきれず…泣いている姿が見えた。
「…どうして…どうしてよ。」
泣きながら、呟くように言っていた言葉は叫び声になって
「どうして!!どうして私じゃないの?ロイ!!」
アデリーナ様が思わず言ったその名前に、ルシアン王子が
「…ロイというのか?…前世の俺は…」
「そうよ。ロイ!!思い出して!私たちの恋を…。あなたを愛していた私を思い出してよ。」
「俺は…」
そう言って、ルシアン王子はアデリーナ様を見つめると言われた。
「俺はブラチフォード国の第二王子、ルシアン・ウィルフレッド・メイフィールドだ。ロイではない。」
「でも…」
「俺にとっての人生は今だけだ。今がすべてなのだ。」
「じゃぁ…今…愛して。現世で…私を愛してよ。」
その声に、ルシアン王子は顔を歪め
「なぜ、そう前世に拘る?いや…なぜロイに拘る?現世で俺に愛されたいのなら、ロイと言う男になぜ拘る必要がるんだ。」
「いや…だって…」
「お前は…俺を愛しているのではない。そして…ロイも愛しているとは俺には思えない。」
「…愛しているもの…愛しているから…」
「愛しているから、それ以外はどうでもいい。愛しているから、この恋を邪魔するものはすべて消す。それは…愛なのだろうか?それは…子供が玩具が欲しいと駄々を捏ねているのと変わらない。」
「だってしょうがないじゃない、神が私とロイを引き離そうとするから!邪魔をするから!やるしかなかったのよ!」
「…アデリーナ…。」
「ロイ…思い出して?私達が幸せだったあの頃を…ね。」
その微笑は…ルシアン王子の部屋に飾ってあったスミラ様の絵姿と同じに見えた。ルシアン王子にもそう見えたのだろう。俯かれ眼を伏せられたが、唇を強く噛んでアデリーナ様へと視線をやり
「アデリーナ…今の俺を見ろ。俺は…俺はロイではない。お前が愛した男ではない。」
「姿は変わっても…魂は同じなんだから…だからあなたはロイよ。なにを言っているの?」
憎むべき人なのに、その姿は悲しかった。
この方にとって、恋とは…なんだったのだろう。
孤独な方なのかもしれない。
初めて知った恋が実らず、溢れた思いをどう始末していいのかわからないから、追いかけたのだろう。悪魔と取引をして、長い命を得ても…でも答えは見つからなかったのだ。
だから…
「ロイ…ロイ」
ルシアン王子の中にいて欲しいと願うその人の名を、甘えるような声で呼ぶアデリーナ様に…私は思った。
きっと、ルシアン王子の存在そのものが…アデリーナ様には恋というものの姿なのかもしれない…と。
恋とは…なんなのだろう。
ルシアン王子も、私も言葉を無くしていた中、大きな溜め息が聞こえてきた。
「もういい加減にしろよ!気分が悪いぜ。」
うざったそうにそう言ったアストンはアデリーナ様に
「なにが、私達は恋人だ。修道女さんよ。知っているぜ俺は…。あんたは、記憶を失ったロイに惚れたが、なかなか自分に靡いてくれない。だから、嘘の記憶を植えつけたらしいな。」
「アストン!!」
アストンはクスクスと笑うと
「恋人だった私を思い出して、神よりあなたを選んだ私は…もうどこにも行ける場所がないの。なんて言ったらしいじゃん。神に仕えていたくせに、とんだ女だな。修道女を辞めたから、ここを放り出されると言われりゃ、お優しいロイ君はあんたを好きになろうとするだろうな。」
「私は…だって…私は…」
「気づいていたんだろう。ロイには心の中に別の女がいることを…思い出そうとしていたことを…それをあんたは、思い出させないようにしたんだろう。」
「それのどこがいけないのよ?!好きな男は…思い出せない女をずっと心の中で捜し、心も体も抱きしめられる女が側にいるのに…振り向かない。それなら、どんな事をしてでも、振り向かせるしかなかった。何がいけないと言うのよ。好きな人に自分を選んで欲しいと思うのは、誰もが考える事だわ。ローラン王だって…アストン、あんただってそうでしょう!」
大きく伸びをしながら、アストンはつまらなそうに
「ローラン王は…ちょっと違うと思うな。前世の恋が現世で結ばれなかったら、どうなるのか…とあんたを面白がって見ている。そして俺は、陰でこそこそ策を練るあんたのようなマネはしねぇ。堂々と恋敵の前で…」
アストンはルシアン王子に眼をやり
「愛していると言ってやるさ。」
そう言って、私を見た。
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