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王子様が感じたものは…。

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眼の前に跪く、少年のような騎士は、鋭い眼で
「ご報告があります。」と言った。

視線の強さに、俺は押されたように頷くと、シリルは
「申し訳ありません。殿下とふたりでお話ししたいのですが。」
 
その言葉に、アデリーナの空気が変わった。

アデリーナ…?


視線をシリルから、アデリーナにやった。
俺はこの女性が気になっている。それは…母とそっくりなその容姿だけではない、うまく言えないが…もっと深いところで、離れられないものを感じている。
それがなんなのかはわからない。初めて会ったのに、どうしてそう思うのだろうか?

だが今のは…、アデリーナから感じたものは…、先程のアデリーナから感じたものとは違う。

いったいなんだったのだ?
一瞬だったが、この心地良い空気に…混じったものは…?

ぼんやりする頭を軽く横に振り、跪く騎士を見た。



心地良い空気か…
その空気はこの少年だ。

この少年がこの部屋に入った来た時、感じたものは…おそらくミランダがよく言っている。綺麗な色というものだろう。

俺には、ミランダのような力はないが…清らかな色を持つ者の空気とはこういう物なのかも知れない…ミランダがこの者を知れば、きっと夢中になるだろうな。


あぁ…ほんの数十分前に、ひどい頭痛と嘔吐感に…ようやく現実に戻って来たと思ったが、あれはまだ意識がはっきりとしていなかったのだろうな。

今、この者の持つ空気を感じて、ようやく俺の頭は動き出したような気がする。


「わかった。アデリーナ嬢、席を外してくれ。」

「で、でも…私は殿下のお体が心配です!」

「アデリーナ嬢、席を外してくれ。」

俺の言葉に、アデリーナは頷いたが…彼女から感じる空気がまた変わった事に、俺は眉を顰めた。

これは…いったい…?

俺の視線に気が付いたのか、慌てて俯いたアデリーナは…小さな声で
「わかりました。」と言って、部屋を出て行った。


その背中を見つめ…
彼女から感じたものはなんだったんだと…俺はアデリーナが出てゆくまで、眼が離せなかった。





ひどい頭痛と嘔吐感に、意識が戻ったのは、ほんの30分程前だった。
眼を開くことはできなかったが、痛む頭の押さえて、浮かんだのは…彼女に会いたい。と思う気持ちだった。

だが…彼女?…彼女って誰だ?…その女性がわからないことに愕然としたが、唇だけがその女性を知っているかのように、何度も何度も…唇がその女性の名前を呼んでいる。

だが、呼んでいるはずの俺には聞こえず…苦しくて【助けてくれ】と…手を伸ばした、その瞬間だった。誰かが俺の手に触れ……俺は眼を開いた。


『殿下』
そう言って、微笑んだ女性を見て、息が止まりそうだった。

なぜ…母上が…まだ…俺は眠っているのか?

『…は…はうえ…?』

唖然とした俺に…その女性は困ったように、首を傾げると
『やはり、絵姿を見て頂けていなかったのですね。』

そう言って、俺の頬に触れ
『ローラン国のアデリーナでございます。』

『…ローラン国……アデリーナ。』

『はい。』


彼女が…俺の…婚約者。
その事に不思議と違和感を感じなかった。

ぼんやりした頭だったが、この女性は…知っている。母に似ているからではない。もっと…そう、魂が知っていると…俺に言っているような…。

アデリーナは優しい微笑を浮かべると、
『お会いしたかった。』と言って、俺に凭れてきた。

柔らかく甘い香りに誘われるように、そっと手を伸ばすと…頭が痛み、また嘔吐感に襲われ、慌てて、彼女へと伸ばした手で口を押さえ
『…風にあたりたい。』と言って、ベットから起き上がり窓を開けた。

ようやく…吹き込む心地良い風に、息を吐いたら、アデリーナが涙を溜めて、俺の前に立つと
『私がお気に召さないのですか?』

どういったら良いのかわからなかった。ぼんやりとする頭で
『…そういうわけではない。』

そう言った俺に…アデリーナは笑みを見せたが…だんだんと切ない顔で
『婚約者になった時は夢のようでした。覚えておいでではないでしょうが、昔、私たちは…』
その次の言葉が出てこないのか、ただ俺の顔を見つめ、ポロポロと涙を零すと…

俺の腕の中に飛び込み
『お願いです。私を…愛してください。』

『…アデリーナ。』

『私たちは結ばれる運命だったんです。もう…誰にも邪魔はさせない。だから…私を…』

そう言って、俺の首に両手を回し、唇を請うように…俺を見た。

『お願い。』

そう言って、近づく唇に…俺は動けずにいた。
その時だ。白いカーテンが舞い上がり、カーテンの隙間から…キラリと光るものが見え、そちらに誘われるように、視線が動いた事で、アデリーナの唇は…俺の唇ではなく頬に触れた。



「ルシアン殿下、急ぎお知らせしたい事があり、無礼を承知でお邪魔いたしました。」



その声に…。その凛とした声に…。
カーテンの隙間から、キラリと光ったあの金色の髪に…。

俺は囚われたように、ぼんやりと見つめていた。



まるであの瞬間の俺は、この金色の髪と青い瞳の少年に…一目ぼれしたような感じだったな。

少年に一目ぼれか…おいおい…


バカなことを考え、クスリと笑った俺だったが、跪く少年は俺の笑った声にも動ぜず、ただ俺の言葉を待っているようだった。


その態度が、シリルの父親のウィンスレット侯爵の生真面目さと重なり、今度はクスリどころか、大きな声で笑い出しそうになってしまい、必死でその笑いを押し殺しながら
「その報告を聞こう。」

笑うのを堪えた為、震える声でそう言うと、シリルはようやく口元を少し緩めた。

だが…すぐに厳しい顔で
「殿下は、なにがあって倒れられたのですか?それを覚えておいでですか?!」

「…覚えて…?」

シリルのその言葉に…俺は小さな叫び声を上げた。

そうだ…なぜ俺は…意識がなかったのだ?
その前にいったい俺はどこで、なにをしていたのだ?



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