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王子様は迷う。《3》
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俺の後ろを付いてくるロザリーをそっと見た。
情けない顔が可笑しくて
「…なんだ?その顔は…。まるで売られて行くみたいだな。」
俺の問いに、情けない顔に無理矢理笑みを浮かべた、ロザリー…
まさか…当たったのか?
売られて行く気分だったのか?
もう、笑いは押さえきらなかった。
「俺の腕を止血する為に、左袖を引きちぎった猛女とは思えないな。」
大きな声で笑う俺に、微妙な表情を浮かべたロザリーのその顔色は、だんだんと青ざめてゆき、唇を舐めると
「も、も…猛女だと思っていらしたのですか?」
ミランダがよく俺に
『叔父様は、女心がわかっていない。』と一人前の女性の様な口振りで、説教をするのを、笑って聞いていたが…本当だったんだ。
……最悪だ。
「すまない。レディに…」
「いえ、いいんです。昔から言われていたので。」
「昔から?」
「…はい、剣の稽古の時に、お父様から…淑女なぞ、目指すな!目指すなら、猛女となって、俺を打ち負かせ!と」
「あはは…俺も昔、そんな熱い事を言われたな。【猛者となって、男の生き様をこの老いぼれに見せてくださいませ。】とな。」
困ったような笑みを浮かべたロザリー。
侯爵の熱意は、どうやら彼女には今ひとつなのだろう。
今にも溜息が出そうなロザリーに、気づかれないようにクスッと笑い
「お前とシリル…そして俺は、そうか…兄弟弟子なんだな。」
キョトンとした顔で俺を見るその顔を、俺はじっと見つめた。
彼女が…侯爵から受け継いだ、その剣の腕と知識があったから、俺をこんな短期間で、元気にしてくれたんだ。
「あの時…」
「はい?」
「朦朧とする中、やっと部屋に戻ったら…踊るお前がいた。青いドレスの裾を翻しながら踊る姿を見て…天使かと思った。」
楽しそうに、口元に微笑みを浮かべて踊る姿は、慈愛に満ちて…本当に、この世に存在する女性とは思えなかった。
「えっ?」
「でもまだ、死ぬわけにいかないから…。まだ、天使を迎えるのには、やるべき事があるから…焦った。それでお前に対して、いや…天からのお迎えに、反発するようなキツイ物言いになってしまい…本当に悪かった。命を助けてくれたのに、酷い言い方で…御礼も言えなかった。ずっと心に引っかかっていたんだ。」
「ルシアン殿下…。」
「ロザリー、あの時はありがとう。」
やっと言えた御礼の言葉に、俺はホッとして笑みを浮かべた、だが…俺の言葉に、ロザリーは何度も頭を横に振り、唇が震えるように動いた。
《ごめんなさい。》…と
えっ?今のは…どういう意味だ?
だが、そう問えなかった。ロザリーのあの青い瞳から…涙が…次々と零れ落ちてきたからだ。
なぜ、謝る?
なぜ、涙を零す?
ロザリーの青い瞳から、涙がどんどん溢れてきて、止まらない。
袖口で何度も拭っていたが、それでも間に合わないほどの涙だった。
ロザリーは俺からまるで隠れるかのように
その瞳を…
その顔を…
両手で覆うとした。
もう、逃げるな。
あの時、薄れてゆく意識の中で叫んだ思いが、甦ったかのように、手がロザリーへと伸びていった。
真っ赤になった鼻
真っ赤になった頬
そして、青い瞳を囲むように真っ赤になった眼元
ロザリーの頬に触れ…涙を拭うと、青い瞳の中に、赤い瞳の俺が写った。彼女の中に…俺がいる。
「…ロザリー…」
もっと…もっと、彼女の側に行きたい。
唇が触れ合うほど、近づいた時…
『私は、もう長くはないのだろう。 人の心を見る力は、日々弱くなっていっている。いずれこの力を失う時が、私の死ぬ時だろうな。ルシアン…お前にしか頼めない。お前の透き通るような青い心の色で、ミランダを、この国を守ってくれまいか。何かが、この国を覆って来ている。それは…私やミランダの力をもっても、暴く事のできない心を持つ者が出てきた。』
父の声が…
『ならばどうだ。もし…武力が必要な場合は力を貸そう。おいおい、なんだその恐い顔は…ブラチフォード国を侵略しようなどと、考えてはおらぬ。ただお前が欲しいのだ。わが国へ来い。ローラン国に、ちょうど年頃の伯爵の令嬢がおる、その者と婚姻をして、わが国を支える者になってくれ。なぁ…お前をブラチフォード国王へと、押す者達を諦めさせるには、これは良い案だと思うが…』
伯父である…ローラン国王の声が…
……聞こえた。
ぁ…今…俺は…何をしようとした。
ミランダや父王にも見る事が出来ない、ブラチフォード国に、はびこる何かを一掃するために、どうしてもローラン国の力が欲しい。だから、俺は…俺のすべてをローラン国に差し出すことで、ローラン国の助力を仰ぐ約束を取り付けたのに…。
なのに、俺はその事を忘れて…
ロザリーにキスをしたいと思った。
たまらなく彼女に触れたいと思った。
何をやってる。
触れれば…俺はもう戻れない…ただの男になってしまう。
王子としての義務を捨ててしまうかもしれない。
じっと見つめ、一歩足を後ろへと引いた。
ロザリーが青い瞳を大きく見開き、唇が震えながら言葉を紡いだ。
「な、泣きすぎて、け、化粧がぁぁあの崩れて…おかしいですか?!」
……ロザリーは…
俺との間に一瞬流れた風をなかったことにしようとしている。
「く、黒いんですね!」
ロザリーが慌てて、両手で顔を隠すと
「…眼の周りを擦ちゃったから…」
…何もなかった。
何もなかったことに、彼女がしようとしている。
彼女のほうが、大人だ。
俺は黙って、俯く彼女を見つめ、心の中で…
(ロザリー、俺は…君に惹かれている。でも…ここまでだ。)
そっと俯く彼女の頭へと手を伸ばし
「……ロザリー。」
そう言って、彼女の頭に手を置いた。
ロザリーの細い肩が、小刻みに震えているのを見て…
俺はまたロザリーの頭を撫でながら、迷う心に眼を瞑り
「…俺は必ず、この国を守る。」
俺の言葉に、ロザリーの頭が上下に動いた。
情けない顔が可笑しくて
「…なんだ?その顔は…。まるで売られて行くみたいだな。」
俺の問いに、情けない顔に無理矢理笑みを浮かべた、ロザリー…
まさか…当たったのか?
売られて行く気分だったのか?
もう、笑いは押さえきらなかった。
「俺の腕を止血する為に、左袖を引きちぎった猛女とは思えないな。」
大きな声で笑う俺に、微妙な表情を浮かべたロザリーのその顔色は、だんだんと青ざめてゆき、唇を舐めると
「も、も…猛女だと思っていらしたのですか?」
ミランダがよく俺に
『叔父様は、女心がわかっていない。』と一人前の女性の様な口振りで、説教をするのを、笑って聞いていたが…本当だったんだ。
……最悪だ。
「すまない。レディに…」
「いえ、いいんです。昔から言われていたので。」
「昔から?」
「…はい、剣の稽古の時に、お父様から…淑女なぞ、目指すな!目指すなら、猛女となって、俺を打ち負かせ!と」
「あはは…俺も昔、そんな熱い事を言われたな。【猛者となって、男の生き様をこの老いぼれに見せてくださいませ。】とな。」
困ったような笑みを浮かべたロザリー。
侯爵の熱意は、どうやら彼女には今ひとつなのだろう。
今にも溜息が出そうなロザリーに、気づかれないようにクスッと笑い
「お前とシリル…そして俺は、そうか…兄弟弟子なんだな。」
キョトンとした顔で俺を見るその顔を、俺はじっと見つめた。
彼女が…侯爵から受け継いだ、その剣の腕と知識があったから、俺をこんな短期間で、元気にしてくれたんだ。
「あの時…」
「はい?」
「朦朧とする中、やっと部屋に戻ったら…踊るお前がいた。青いドレスの裾を翻しながら踊る姿を見て…天使かと思った。」
楽しそうに、口元に微笑みを浮かべて踊る姿は、慈愛に満ちて…本当に、この世に存在する女性とは思えなかった。
「えっ?」
「でもまだ、死ぬわけにいかないから…。まだ、天使を迎えるのには、やるべき事があるから…焦った。それでお前に対して、いや…天からのお迎えに、反発するようなキツイ物言いになってしまい…本当に悪かった。命を助けてくれたのに、酷い言い方で…御礼も言えなかった。ずっと心に引っかかっていたんだ。」
「ルシアン殿下…。」
「ロザリー、あの時はありがとう。」
やっと言えた御礼の言葉に、俺はホッとして笑みを浮かべた、だが…俺の言葉に、ロザリーは何度も頭を横に振り、唇が震えるように動いた。
《ごめんなさい。》…と
えっ?今のは…どういう意味だ?
だが、そう問えなかった。ロザリーのあの青い瞳から…涙が…次々と零れ落ちてきたからだ。
なぜ、謝る?
なぜ、涙を零す?
ロザリーの青い瞳から、涙がどんどん溢れてきて、止まらない。
袖口で何度も拭っていたが、それでも間に合わないほどの涙だった。
ロザリーは俺からまるで隠れるかのように
その瞳を…
その顔を…
両手で覆うとした。
もう、逃げるな。
あの時、薄れてゆく意識の中で叫んだ思いが、甦ったかのように、手がロザリーへと伸びていった。
真っ赤になった鼻
真っ赤になった頬
そして、青い瞳を囲むように真っ赤になった眼元
ロザリーの頬に触れ…涙を拭うと、青い瞳の中に、赤い瞳の俺が写った。彼女の中に…俺がいる。
「…ロザリー…」
もっと…もっと、彼女の側に行きたい。
唇が触れ合うほど、近づいた時…
『私は、もう長くはないのだろう。 人の心を見る力は、日々弱くなっていっている。いずれこの力を失う時が、私の死ぬ時だろうな。ルシアン…お前にしか頼めない。お前の透き通るような青い心の色で、ミランダを、この国を守ってくれまいか。何かが、この国を覆って来ている。それは…私やミランダの力をもっても、暴く事のできない心を持つ者が出てきた。』
父の声が…
『ならばどうだ。もし…武力が必要な場合は力を貸そう。おいおい、なんだその恐い顔は…ブラチフォード国を侵略しようなどと、考えてはおらぬ。ただお前が欲しいのだ。わが国へ来い。ローラン国に、ちょうど年頃の伯爵の令嬢がおる、その者と婚姻をして、わが国を支える者になってくれ。なぁ…お前をブラチフォード国王へと、押す者達を諦めさせるには、これは良い案だと思うが…』
伯父である…ローラン国王の声が…
……聞こえた。
ぁ…今…俺は…何をしようとした。
ミランダや父王にも見る事が出来ない、ブラチフォード国に、はびこる何かを一掃するために、どうしてもローラン国の力が欲しい。だから、俺は…俺のすべてをローラン国に差し出すことで、ローラン国の助力を仰ぐ約束を取り付けたのに…。
なのに、俺はその事を忘れて…
ロザリーにキスをしたいと思った。
たまらなく彼女に触れたいと思った。
何をやってる。
触れれば…俺はもう戻れない…ただの男になってしまう。
王子としての義務を捨ててしまうかもしれない。
じっと見つめ、一歩足を後ろへと引いた。
ロザリーが青い瞳を大きく見開き、唇が震えながら言葉を紡いだ。
「な、泣きすぎて、け、化粧がぁぁあの崩れて…おかしいですか?!」
……ロザリーは…
俺との間に一瞬流れた風をなかったことにしようとしている。
「く、黒いんですね!」
ロザリーが慌てて、両手で顔を隠すと
「…眼の周りを擦ちゃったから…」
…何もなかった。
何もなかったことに、彼女がしようとしている。
彼女のほうが、大人だ。
俺は黙って、俯く彼女を見つめ、心の中で…
(ロザリー、俺は…君に惹かれている。でも…ここまでだ。)
そっと俯く彼女の頭へと手を伸ばし
「……ロザリー。」
そう言って、彼女の頭に手を置いた。
ロザリーの細い肩が、小刻みに震えているのを見て…
俺はまたロザリーの頭を撫でながら、迷う心に眼を瞑り
「…俺は必ず、この国を守る。」
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