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「脱げ!」「脱ぎません~!!」

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騎士として、誓いをたてたその覚悟に一転の曇りもない。

その誓いに偽りはない……けれど


今、私は胸のリボンを手にして、固まってしまっている。

「な、な、なんてことないわ。そうなんてことないわ。」

未婚で年頃の女性が、男性の部屋でただ着替えるだけよ。あはは…
それにその男性は眠っていらっしゃるのよ…でも……。あはは…

パッと脱げばいいのよ。そうパッと……ノロノロとしているからいけないのよ。


カタカタ…


窓を揺らす風音に、私は慌てて振り返り、また手は止まってしまった。
はぁ~と溜め息をついて…ルシアン王子が眠るこのベットと、長椅子しかないこの部屋を見渡し

「ないよね。着替える場所って…まさかこの部屋を出るわけには行かないし」

甘かった、当然いろいろ事情を知っているお父様が、着替えを持ってきてくださると思っていた。着替えの為に、一時お父様と護衛を変わり、私は隣の部屋で着替えるつもりが…

着替えを持ってきてくださったのは…お母様だった。



コンコン・・

「どうかしら?着替えた?」

「いえ、まだです。あの…お父様は?」

「女官長と後宮の人事を扱っていらっしゃる伯爵に、お話があるそうよ。」

あぁ…私が後宮に入り込む話だ。長くなりそうだわ。

どうしよう。まさかお母様にルシアン王子の護衛を頼めないし…かといって、いつこちらに来られるかわからないお父様を、待っているわけには行かない。

なにより、お母様をルシアン王子の部屋の前に立たせておくのは…危険だもの。

箱の中の服を見つめ…
しっかりしなくちゃ、今私はウィンスレット侯爵家の嫡男、シリル・クライヴ・ウィンスレット。ましてやルシアン王子の護衛。ロザリーじゃないんだから!

ええぃ!!とばかりにリボンを解き、胡桃ボタンを震えながらだったけど、一個、また一個と外して行き、スリップ姿になった時だった。

気配を感じ、振り返ると…ルシアン王子と眼が合った。

ど、どうしたらいいの?

「ぁ、怪しい者では…」
いや、充分…怪しいですよね…私。

「えっと…ちょっと…ここで着替えを…」
何言ってんの、私!!それじゃぁ、ますます怪しいじゃん。

ゴックン・・

大きな音をたてて、唾を飲み込んだ私を見ているが、ルシアン王子は、ぼんやりして反応がない。
もしかして…まだ意識がはっきりしていないのかもしれない。
た、助かった。と…とりあえず着替えよう。ズボンを穿いて…胸に…

胸に…さらしを…巻くんだけど…

…ない。

着替えが入っている箱を、ガサガサとすべて出したが……ない。

………ない。

そんな~!どうするの~?!

私の右手は慌てて、扉を叩いた。

コン!コン!・・

「お、お母様、ないです。いつも胸に巻いている晒が…」

「えっ?……ま、巻かないとやっぱり…マズい?」

自分の胸を見た。
大丈夫…かなぁ…大丈夫かもしれない。でも…でも…なんだか涙と鼻水が出てきた。
鼻を啜る音に扉の向こうから、必死な声が聞こえてきた。

「ロ、ロザリー?ご、ごめんなさい。私ったら、なんとひどい事を…。朝!朝一番に持ってくるから!絶対一番に!」

「グスン、グスン…もう…ルシアン王子が…目覚めそうなんです。お母様、どうしよう…」

「そ、そうだわ。このコ、コートを…」

「コート?」

「ロザリー、扉を開けて!」

私は自分が今、下着姿だった事を忘れて、扉を開けた。

お母様は眼を見開き私を見たが、慌ててコートを私に押し付けると扉を閉め
「まだ、殿下はお眼覚めではないんでしょう。朝一番に持ってきますから、その間だけ着ていれば…どうにかなるわ。」

「…わかりました。どうにかこれでしのぎます。でも!でも!朝一番ですよ!絶対ですよ!!」

「大丈夫よ、ロザリー!すぐに戻れば、朝一番に来れます。この母に任せなさい。」

バタバタと走るお母様の足音に…祈るように額を扉につけ…大きく息を吸って、シャツを羽織ると、暗い部屋の中で、手探りで小さなボタンを留めていった。

そして…コートを羽織り
「大丈夫」と口にし、今度は扉に手を置いて

「朝一番で届きますように」と祈ったら……

それは低く胸に染みる声が聞こえてきた。
「なにが…朝一番なのだ。」…と

それが一瞬、神様の声に聞こえ、私は思わず、縋る気持ちを声に出した。

「さら…し…」

ハッ?…なに?今のなに?
今、何か聞こえて…なんか答えちゃったよね…私。

キョロキョロと辺りを見まわすと、ベットの背にもたれたルシアン王子が、手のひらを上に向け人差し指だけクイクイと曲げ、私を呼ぶ仕草に…汗が一気に出た。


行くしかないよね。
さりげなく、コートの前を合わせ、歩き始めると…ちょうど月の光が部屋に差し込み、暗かった部屋がわずかだったが明るくなった、でも私は明るい月の光の中で、ルシアン王子と眼をあわす事が出来なくて、ルシアン王子の前で下を向くと

訝しげに、ルシアン王子は私にこう言われた。
「お前は、明日来る騎士のひとりか…?」

「は、はい。」

「コートの下から見えるのは…騎士団のズボンだが…だがそのコートはなんだ。」

「も、申し訳ありません。ちょっと風邪気味で…」

ルシアン王子の声が、ずっ~んと低く冷えた声になった。
「風邪?だと…そんな言い訳をよく考えたものだ。舞踏会で知り合った女のところにでも行っていたのだろう?!」

「はぁ?」
妙な問いに、顔を上げた私に…

ルシアン王子は…
「まだ…子供のような顔と、華奢きゃしゃな体つきなのに…もう女遊びか?」

「へぇ?」

キョトンとした私の顔に、気分を害されたのか、ふらつく体でベットから立ち上がろうとされた。

まだ、無理してはいけないのに…

「殿下!起き上がってはなりません!」

と慌ててルシアン王子に近寄ったら、ルシアン王子は私の胸倉を掴み、赤い眼を細めて

「任務は明日からだから、女と遊ぶのはかまわん、だが…俺の前にそんな格好で出てくるのは許さん!脱げ!」

「そんな格好?」

「お前が身に着けているそのコートは、女性のものだろう!」

慌てて、視線を落とすと…

私は…フリフリの真っ赤なコートを身に纏っていた。
あぁ、そうだった、今日は仮面舞踏会で、顔がわからないからと言って、中には仮装して来る方もいるが…母はそのタイプだったんだ。

でもなんで…フリフリ?
なんで…真っ赤なの?

「脱げ!騎士として、恥ずかしくないのか!」

騎士じゃなくても…恥しいです!でも…脱げば…胸が…胸の○首が見えて、今以上に恥しいんです。


だから…

「…い、いやです!」

「なんだと!脱げ!」

「ぬ、脱ぎません~!!!!」

片方の眉が上がり、赤い瞳が一層鋭くなったけど…無理なんです。

騎士として、誓いをたてたその覚悟に一転の曇りもない。もうピッカピッカ!!
その誓いは嘘じゃないもん。ほんとだもん。

でも、でも…それとこれは別!!

「絶対!絶対!脱ぎません!!」


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