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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目 ロザリー➁
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「でも、その前に…」そう言って、ミランダ姫はルシアン殿下の手をとり
「叔父様は傷の手当をしてちょうだい。ロザリーは、さっきからこの手を見るたびに泣きそうなんだもの。」
「…ぁ…ミランダ様。」
「…すまない。そんな事にも気が付かず、ロザリーが戻って来てくれたことで…浮かれていた。」
「いえ、私は…私は…」
でもそれ以上の言葉が見つからない。
「ロザリー、叔父様のケガの手当をしている間に、あなたも着替えていらっしゃい。」
着替える?
ハッとして、自分の姿を見た。
白いウェディングドレスがところどころ破れ、そして模様のように点々と赤いものが…。
…これは…血だ。
「ロザリー?」
「…ぁ、はい。着替えてきます。」
私はおふたりにお辞儀をし、歩き出した。
歩く度に揺れる裾に、広がった赤い血が見える。
この血は…ウェディングドレスに付いた血は…ルシアン殿下の血だ。
きっとあの左腕の傷からの血。
角度からいって倒れたルシアン殿下に…斬りかかったんだ。
そして両手の傷。
あれは私の剣を止められた傷だ。
傷の具合から、血が飛んだ角度や場所から、その様子が頭の中で浮かんでしまう。
ゆっくりと歩き出した足は、城の中に入った途端走り出した。
このまま、どこかに逃げてしまいたいと思う心が、走らせているのだろうか。
どこをどう走ったのか…気が付いたら、自分の部屋の前だった。扉に手をかけると、あんなに走っていた足は、ねじが切れたおもちゃのように、扉の前で動かなくなり、体はずるずるとその場に沈んでいった。
「…覚えていない。でも間違いなく私がルシアン殿下を襲った。」
膝を抱え座り込むと、堪えていた涙が零れた。
『ローラン国では、好きな方の持ち物に、その方の名前と自分の名前を刺繍すると、ふたりはどんな困難に当たっても、その愛と絆は切れることがないと言われているそうなんですよ。』
キャロルさんのその言葉に浮かれて、必死に刺繍をしたのは、一週間前だというのに…。
なのに、ルシアン殿下との未来を願い、ひと針ひと針縫った私の手は、ルシアン殿下を殺そうとした。
「…覚えていない…覚えていない!」
そう叫ばないと怖かった。
でも両手を見つめると、剣を握った感覚がまだ残っていることを感じる。
剣は頭で考えてやるものではない。
ほんの一瞬が勝敗をきめるのだから、考えている暇などない。だから体で覚えろと教えられた。
だから見える。見えてしまう。
「全然覚えていないのに…。どんなふうに私が…ルシアン殿下を襲ったのか、全部見えてしまう!」
体は…覚えている。
それが辛い。
たいせつな人達を守るために、握った剣だった。
どんな状況になっても、どんなに強い相手でも、守るべき人達がいるから勝てる自信があった。
でも、まさか…
ルシアン殿下の命を狙う者が自分だったなんて
「こんなことって…。」
大好きな剣だった。この剣でルシアン殿下を守るつもりだった。
「幼い頃に信じていた兵士に裏切られてから、誰にも背中を預けることをされなかったルシアン殿下が、私に背中を預けると言って下さったのに…。どういう理由であれ、私は裏切ったんだ。」
私は初めて、剣を学んだ事を後悔した。
「叔父様は傷の手当をしてちょうだい。ロザリーは、さっきからこの手を見るたびに泣きそうなんだもの。」
「…ぁ…ミランダ様。」
「…すまない。そんな事にも気が付かず、ロザリーが戻って来てくれたことで…浮かれていた。」
「いえ、私は…私は…」
でもそれ以上の言葉が見つからない。
「ロザリー、叔父様のケガの手当をしている間に、あなたも着替えていらっしゃい。」
着替える?
ハッとして、自分の姿を見た。
白いウェディングドレスがところどころ破れ、そして模様のように点々と赤いものが…。
…これは…血だ。
「ロザリー?」
「…ぁ、はい。着替えてきます。」
私はおふたりにお辞儀をし、歩き出した。
歩く度に揺れる裾に、広がった赤い血が見える。
この血は…ウェディングドレスに付いた血は…ルシアン殿下の血だ。
きっとあの左腕の傷からの血。
角度からいって倒れたルシアン殿下に…斬りかかったんだ。
そして両手の傷。
あれは私の剣を止められた傷だ。
傷の具合から、血が飛んだ角度や場所から、その様子が頭の中で浮かんでしまう。
ゆっくりと歩き出した足は、城の中に入った途端走り出した。
このまま、どこかに逃げてしまいたいと思う心が、走らせているのだろうか。
どこをどう走ったのか…気が付いたら、自分の部屋の前だった。扉に手をかけると、あんなに走っていた足は、ねじが切れたおもちゃのように、扉の前で動かなくなり、体はずるずるとその場に沈んでいった。
「…覚えていない。でも間違いなく私がルシアン殿下を襲った。」
膝を抱え座り込むと、堪えていた涙が零れた。
『ローラン国では、好きな方の持ち物に、その方の名前と自分の名前を刺繍すると、ふたりはどんな困難に当たっても、その愛と絆は切れることがないと言われているそうなんですよ。』
キャロルさんのその言葉に浮かれて、必死に刺繍をしたのは、一週間前だというのに…。
なのに、ルシアン殿下との未来を願い、ひと針ひと針縫った私の手は、ルシアン殿下を殺そうとした。
「…覚えていない…覚えていない!」
そう叫ばないと怖かった。
でも両手を見つめると、剣を握った感覚がまだ残っていることを感じる。
剣は頭で考えてやるものではない。
ほんの一瞬が勝敗をきめるのだから、考えている暇などない。だから体で覚えろと教えられた。
だから見える。見えてしまう。
「全然覚えていないのに…。どんなふうに私が…ルシアン殿下を襲ったのか、全部見えてしまう!」
体は…覚えている。
それが辛い。
たいせつな人達を守るために、握った剣だった。
どんな状況になっても、どんなに強い相手でも、守るべき人達がいるから勝てる自信があった。
でも、まさか…
ルシアン殿下の命を狙う者が自分だったなんて
「こんなことって…。」
大好きな剣だった。この剣でルシアン殿下を守るつもりだった。
「幼い頃に信じていた兵士に裏切られてから、誰にも背中を預けることをされなかったルシアン殿下が、私に背中を預けると言って下さったのに…。どういう理由であれ、私は裏切ったんだ。」
私は初めて、剣を学んだ事を後悔した。
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