王子様と過ごした90日間。

結婚までの7日間 Ｌｕｃｉａｎ ＆ Ｒｏｓａｌｉｅ

7日目㊴

「ロザリー！！」

ルシアンは倒れて行くロザリーに手を伸ばし、その体を抱きしめるとヒューゴに恐ろしいほどの視線を向け
「ヒューゴ！！！…ロザリーの暗示は解けたのか！ロザリーは元に戻るのか？！」

ヒューゴは驚いたようにロザリーを見ていたが、唇を舐め「陛下…。」と言ってルシアンを見た、だがフッと鼻で笑うと、小馬鹿にしたような口調で
「なんだ。あんたも知らないんだ。王家の人間だから知っていると思ったぜ。あぁ～どうして最後の最後で暗示は実行されなかったのか教えてもらおうと思ったのにな。残念。」

「…どういう意味だ。」

「暗示をかけた俺でさえ、安全に解く自信がなかったんだぜ。それだけ複雑に暗示をかけたんだ。それがまさか素人が自ら暗示を解くなんて…だからこの後どうなるかなんてわかるわけないだろう。」

「そんなこと…嘘だ！貴様、このなる事も計算済みだったんだろう？！！」

「まさか！複雑な暗示を素人が自ら解くなんて、そんな有り得ない事を計画するほど勝負師じゃない。だが、面白くなったな。」

ヒューゴはじっとルシアンの腕の中のロザリーを見つめ
「あんたが惚れた女は、このまま眠り続けるお姫様になるのか…あるいは…」
　
そう言うとニヤリと笑い

「目覚めたら、別の人格になってるかもな。例えは…血に飢えた殺人鬼に。」

「貴様！！。」

「俺を殺したいか？いいぜ、やれよ。だが暗示をかけた俺がいなくなると、ますます女が元に戻る可能性は低くなるだろうな。まぁ、思うような形ではなかったが、俺の勝ちだな。」

ルシアンは顔を歪め、ヒューゴの他にこの暗示を知っているミランダに助けをもとめるように叫んだ。
「ミランダ！ロザリーを…」

たが、ミランダの姿を見て言葉が止まった。
茫然と立ち尽くすアストンの横でいつも気丈なミランダが、今は年相応の少女のように大きな声で泣いていたからだった。

ルシアンはこの状況を抗うように何度も頭を横に振ると、ロザリーをきつく抱きしめ、首筋に顔をうずめ、

「…頼む。助けてくれ…」

誰ともなしに助けを求め、ロザリーを抱き締める手に力を込めた。




その時だった。
ルシアン達がこの状況をどうしたらいいのかわからない中、バウマン公爵の声が庭園に響いた。

「ヒューゴ！早くルシアンを殺せ！」

そう叫びながら、茫然と立ち尽くしていたアストンに斬りかかった、アストンはハッとしてその剣を避けたが、そのおかげでミランダとの間にバウマンを入れてしまった。
バウマンはニヤリと笑うと、泣いているミランダの頬を叩き、その衝撃で倒れたミランダの体を持ち上げ、笑いながら

「ルシアン動くなよ。動けばミランダ姫を殺す。」

「ミランダ！！」

ルシアンは唇を血が出るほど噛むと大きく息を吐き
「…わかった。おまえの言う通りにするから…ミランダを離せ。」

「ならばまず、ウィンスレット侯爵に動くなと行ってくれ。そしてロザリーをその場に置いて一歩前に出ろ。」

それを聞いたウィンスレット侯爵は
「ルシアン殿下！」

「侯爵…頼む。」

ウィンスレット侯爵が項垂れ剣を落とすと、アストンに
「おまえが…そうだな、ズボンのベルトでウィンスレット侯爵を縛れ！」

「バウマン！」

アストンが声を荒げると、バウマンはニヤリと笑い
「おいおい、私は公爵だぞ…いやローラン王になる男だぞ。おまえごときに呼び捨てにされるのは不愉快だ。だいたいミランダ姫の側から離れたのはおまえの失態だろう？それを棚に上げ、逆切れか？いいのか？これ以上失態を重ねて、ミランダ姫を死なせてもいいのか？」

顔色を変え崩れるように座り込んだアストンに、ルシアンは震える声を押さえながら
「アストン、おまえのせいではない、ヒューゴを、バウマンを甘く見ていた俺のせいだ。すまない。」

震える声から、痛いほど今のルシアンの気持ちがアストンの心に流れてきた。

「くそっ…。」

アストンはそう吐き捨てると、ゆっくりと立ち上がり、ウィンスレット侯爵に「ごめんな。」と呟くように言いながら、その腕を後ろ手にベルトで縛ると、バウマンは「うんうん、上々」と言いながら、（おまえは？）と問いかけるように、今度はルシアンを見た。

ルシアンは小さく頷き、抱き締めていたロザリーの頬にそっと触れると、祭壇の前にロザリーの体を横たえ
「ロザリーすまない。祭壇の上におまえを横たえたかったが…左腕が思ったように上がらなくて…地面に…すまない。」

何度も何度も、愛おしそうにロザリーの頬に触れるルシアンに、バウマンは呆れたように
「たかが女ひとりに、そんなに執着するから、王座を追われるだぞ。いやそれどころか命までもだ。権力さえ持っていれば女は選り取り見取りなのに…まったくバカな男だ。」

高笑いのバウマンをチラリと見たヒューゴは、
「女は選り取り見取りか…。さすがあの先々代の血を引く公爵らしい。」

そう言って視線をルシアンの背中に移すとポツリと
「あんたも同じ血を引いているのにえらい違いだな。」

ルシアンはヒューゴの声に答えることもなく、もう一度ロザリーに目をやると立ち上がり、バウマンの言う通りに一歩前に出て

「おまえの言う通りにした。ミランダを離せ！」

「あぁ～ルシアンおまえが死ねばな。」

バウマンはニンマリ笑うと、ヒューゴに向かって命令した。
「ヒューゴ、ルシアンを殺れ！」