188 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㉕
しおりを挟む
扉を開け、中庭に出ると音楽が流れてきた。
その厳かの曲の合間に、人の声が混じって聞こえてくる。それはあと数メートル行けば…バウマン公爵達がいるということ。
「ロザリー」
「はい。」
ルシアン殿下は、私の名前を呼んで、ただ微笑まれた。
たが、私の顔はまだ微笑みが作れない。
そんな私の手を取られたルシアン殿下は、そっと、私の手をご自分の胸にあてられ
「行こうか。」
私はフウッ~と大きく息を吐いた。
もう、戻れないのなら、このわからない不安に怯えていても仕方ないのかもしれない。
でも、もしもの時は…。
その覚悟があるなら、緊張も不安もない。
もう一度、大きくて息を吐き、微笑みを浮かべた。
「はい。」
花で飾られた門には、薄いブルーのドレスを着た女性達が、両手にいっぱいの花びらを抱えている。
そしてその先には、バウマン公爵がいた。
バウマン公爵は、ルシアンとロザリーを見ると、ゆっくりと周りを見渡し
「そうは簡単には行かぬか…。」とニヤリと笑った。
本来なら戴冠式後、各国の王家を招待した結婚式を行うが通例。
それが、結婚式に参列できない者にも…と、ミランダ姫が熱望したという。
王になる前に、ルシアンには死んでもらいたかった私には、都合の良い話と乗ったのだが。
やはり……
そう簡単にはルシアンを殺すことができそうもない警備だ。
さてさて…。
バウマン公爵は、隣にいるヒューゴに目をやった。
白っぽい髪に、グレーの瞳を持ったこの男は、その色合いから受ける印象通り、神経質な男だ。だが飢え死にしそうなところを助けたことで、私に恩義を感じているのだろう。
どんなに困難な事でも、この男は無理とは絶対言わない。
それはヒューゴのアイデンティティが、どんな事があっても、諦めない事なのだろう。
裏を返せば、今まで、諦めることがヒューゴの半生を作ったということだ。
母親はブラチフォードの王太后と王妃の、執拗な嫌がらせにブラチフォード国王を諦め。
ヒューゴの兄とてそうだ。
その身に受け継いだ力をブラチフォード王家に示せば、まだあの力をもったミランダが生まれていない頃だ、例え身分が低い出身でも、世継ぎになられたものを…。
身分の低さから最初から諦め、挙句の果てには、ブラチフォード国王を恨んで、その最愛の子ルシアンと、その母スミラ様を殺そうとした。
ヒューゴはその事をどこ思っているかはわからぬが、今回ルシアンの暗殺に力が入っているのは、やはり影響があるのか…。
まぁ、ヒューゴには悪いが、あの当時ローラン国でも、ブラチフォードの王太后と王妃の異常さは聴こえていた。まだスミラ様と知り合う前のブラチフォード王の心を慰めていたのは、間違いなくヒューゴの母親だったろう。だから『助けて』と一言、ブラチフォード王に言えばよかったのだ。必ず助けてくれただろうに…。
そうすれば、ヒューゴの兄は今頃ブラチフォード国王だったろうに。
でも…
そう言ってヒューゴに目をやった。
この男は生まれなかったがなぁ。
そういえば、ヒューゴの父親は聞いたことがなかった。母親は城を出てから、一時は商人の妻になったらしいが、その男が父親ではないと言っていた。
ヒューゴという男は不思議な男だ。
暗示という物を、どこで覚え身につけたのかも、そしてブラチフォード国を出て、私と出会うまでの間、何をしていたのかも知らぬ。
だいたい餓死寸前のヒューゴを助けようなどと、何故私は思ったのだろう。
改めてヒューゴに関する事で、自分がこんなにも知らない事に、バウマン公爵は慌ててヒューゴを見た。
その視線に気がついたのだろう。ヒューゴがバウマン公爵を見て
「どうなさいましたか?」
「…い、いや…」
バウマン公爵は一瞬、目の前のヒューゴが恐ろしいと思った。それは、ひとつの考えが頭の中に浮かんだからだった。
暗示…。
まさか…ヒューゴという男は、私に暗示をかけていたのではないだろうか。
もしそうなら…。
芽生えた不信感に、バウマン公爵は唇をかんでいた。
その厳かの曲の合間に、人の声が混じって聞こえてくる。それはあと数メートル行けば…バウマン公爵達がいるということ。
「ロザリー」
「はい。」
ルシアン殿下は、私の名前を呼んで、ただ微笑まれた。
たが、私の顔はまだ微笑みが作れない。
そんな私の手を取られたルシアン殿下は、そっと、私の手をご自分の胸にあてられ
「行こうか。」
私はフウッ~と大きく息を吐いた。
もう、戻れないのなら、このわからない不安に怯えていても仕方ないのかもしれない。
でも、もしもの時は…。
その覚悟があるなら、緊張も不安もない。
もう一度、大きくて息を吐き、微笑みを浮かべた。
「はい。」
花で飾られた門には、薄いブルーのドレスを着た女性達が、両手にいっぱいの花びらを抱えている。
そしてその先には、バウマン公爵がいた。
バウマン公爵は、ルシアンとロザリーを見ると、ゆっくりと周りを見渡し
「そうは簡単には行かぬか…。」とニヤリと笑った。
本来なら戴冠式後、各国の王家を招待した結婚式を行うが通例。
それが、結婚式に参列できない者にも…と、ミランダ姫が熱望したという。
王になる前に、ルシアンには死んでもらいたかった私には、都合の良い話と乗ったのだが。
やはり……
そう簡単にはルシアンを殺すことができそうもない警備だ。
さてさて…。
バウマン公爵は、隣にいるヒューゴに目をやった。
白っぽい髪に、グレーの瞳を持ったこの男は、その色合いから受ける印象通り、神経質な男だ。だが飢え死にしそうなところを助けたことで、私に恩義を感じているのだろう。
どんなに困難な事でも、この男は無理とは絶対言わない。
それはヒューゴのアイデンティティが、どんな事があっても、諦めない事なのだろう。
裏を返せば、今まで、諦めることがヒューゴの半生を作ったということだ。
母親はブラチフォードの王太后と王妃の、執拗な嫌がらせにブラチフォード国王を諦め。
ヒューゴの兄とてそうだ。
その身に受け継いだ力をブラチフォード王家に示せば、まだあの力をもったミランダが生まれていない頃だ、例え身分が低い出身でも、世継ぎになられたものを…。
身分の低さから最初から諦め、挙句の果てには、ブラチフォード国王を恨んで、その最愛の子ルシアンと、その母スミラ様を殺そうとした。
ヒューゴはその事をどこ思っているかはわからぬが、今回ルシアンの暗殺に力が入っているのは、やはり影響があるのか…。
まぁ、ヒューゴには悪いが、あの当時ローラン国でも、ブラチフォードの王太后と王妃の異常さは聴こえていた。まだスミラ様と知り合う前のブラチフォード王の心を慰めていたのは、間違いなくヒューゴの母親だったろう。だから『助けて』と一言、ブラチフォード王に言えばよかったのだ。必ず助けてくれただろうに…。
そうすれば、ヒューゴの兄は今頃ブラチフォード国王だったろうに。
でも…
そう言ってヒューゴに目をやった。
この男は生まれなかったがなぁ。
そういえば、ヒューゴの父親は聞いたことがなかった。母親は城を出てから、一時は商人の妻になったらしいが、その男が父親ではないと言っていた。
ヒューゴという男は不思議な男だ。
暗示という物を、どこで覚え身につけたのかも、そしてブラチフォード国を出て、私と出会うまでの間、何をしていたのかも知らぬ。
だいたい餓死寸前のヒューゴを助けようなどと、何故私は思ったのだろう。
改めてヒューゴに関する事で、自分がこんなにも知らない事に、バウマン公爵は慌ててヒューゴを見た。
その視線に気がついたのだろう。ヒューゴがバウマン公爵を見て
「どうなさいましたか?」
「…い、いや…」
バウマン公爵は一瞬、目の前のヒューゴが恐ろしいと思った。それは、ひとつの考えが頭の中に浮かんだからだった。
暗示…。
まさか…ヒューゴという男は、私に暗示をかけていたのではないだろうか。
もしそうなら…。
芽生えた不信感に、バウマン公爵は唇をかんでいた。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる