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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㉕
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扉を開け、中庭に出ると音楽が流れてきた。
その厳かの曲の合間に、人の声が混じって聞こえてくる。それはあと数メートル行けば…バウマン公爵達がいるということ。
「ロザリー」
「はい。」
ルシアン殿下は、私の名前を呼んで、ただ微笑まれた。
たが、私の顔はまだ微笑みが作れない。
そんな私の手を取られたルシアン殿下は、そっと、私の手をご自分の胸にあてられ
「行こうか。」
私はフウッ~と大きく息を吐いた。
もう、戻れないのなら、このわからない不安に怯えていても仕方ないのかもしれない。
でも、もしもの時は…。
その覚悟があるなら、緊張も不安もない。
もう一度、大きくて息を吐き、微笑みを浮かべた。
「はい。」
花で飾られた門には、薄いブルーのドレスを着た女性達が、両手にいっぱいの花びらを抱えている。
そしてその先には、バウマン公爵がいた。
バウマン公爵は、ルシアンとロザリーを見ると、ゆっくりと周りを見渡し
「そうは簡単には行かぬか…。」とニヤリと笑った。
本来なら戴冠式後、各国の王家を招待した結婚式を行うが通例。
それが、結婚式に参列できない者にも…と、ミランダ姫が熱望したという。
王になる前に、ルシアンには死んでもらいたかった私には、都合の良い話と乗ったのだが。
やはり……
そう簡単にはルシアンを殺すことができそうもない警備だ。
さてさて…。
バウマン公爵は、隣にいるヒューゴに目をやった。
白っぽい髪に、グレーの瞳を持ったこの男は、その色合いから受ける印象通り、神経質な男だ。だが飢え死にしそうなところを助けたことで、私に恩義を感じているのだろう。
どんなに困難な事でも、この男は無理とは絶対言わない。
それはヒューゴのアイデンティティが、どんな事があっても、諦めない事なのだろう。
裏を返せば、今まで、諦めることがヒューゴの半生を作ったということだ。
母親はブラチフォードの王太后と王妃の、執拗な嫌がらせにブラチフォード国王を諦め。
ヒューゴの兄とてそうだ。
その身に受け継いだ力をブラチフォード王家に示せば、まだあの力をもったミランダが生まれていない頃だ、例え身分が低い出身でも、世継ぎになられたものを…。
身分の低さから最初から諦め、挙句の果てには、ブラチフォード国王を恨んで、その最愛の子ルシアンと、その母スミラ様を殺そうとした。
ヒューゴはその事をどこ思っているかはわからぬが、今回ルシアンの暗殺に力が入っているのは、やはり影響があるのか…。
まぁ、ヒューゴには悪いが、あの当時ローラン国でも、ブラチフォードの王太后と王妃の異常さは聴こえていた。まだスミラ様と知り合う前のブラチフォード王の心を慰めていたのは、間違いなくヒューゴの母親だったろう。だから『助けて』と一言、ブラチフォード王に言えばよかったのだ。必ず助けてくれただろうに…。
そうすれば、ヒューゴの兄は今頃ブラチフォード国王だったろうに。
でも…
そう言ってヒューゴに目をやった。
この男は生まれなかったがなぁ。
そういえば、ヒューゴの父親は聞いたことがなかった。母親は城を出てから、一時は商人の妻になったらしいが、その男が父親ではないと言っていた。
ヒューゴという男は不思議な男だ。
暗示という物を、どこで覚え身につけたのかも、そしてブラチフォード国を出て、私と出会うまでの間、何をしていたのかも知らぬ。
だいたい餓死寸前のヒューゴを助けようなどと、何故私は思ったのだろう。
改めてヒューゴに関する事で、自分がこんなにも知らない事に、バウマン公爵は慌ててヒューゴを見た。
その視線に気がついたのだろう。ヒューゴがバウマン公爵を見て
「どうなさいましたか?」
「…い、いや…」
バウマン公爵は一瞬、目の前のヒューゴが恐ろしいと思った。それは、ひとつの考えが頭の中に浮かんだからだった。
暗示…。
まさか…ヒューゴという男は、私に暗示をかけていたのではないだろうか。
もしそうなら…。
芽生えた不信感に、バウマン公爵は唇をかんでいた。
その厳かの曲の合間に、人の声が混じって聞こえてくる。それはあと数メートル行けば…バウマン公爵達がいるということ。
「ロザリー」
「はい。」
ルシアン殿下は、私の名前を呼んで、ただ微笑まれた。
たが、私の顔はまだ微笑みが作れない。
そんな私の手を取られたルシアン殿下は、そっと、私の手をご自分の胸にあてられ
「行こうか。」
私はフウッ~と大きく息を吐いた。
もう、戻れないのなら、このわからない不安に怯えていても仕方ないのかもしれない。
でも、もしもの時は…。
その覚悟があるなら、緊張も不安もない。
もう一度、大きくて息を吐き、微笑みを浮かべた。
「はい。」
花で飾られた門には、薄いブルーのドレスを着た女性達が、両手にいっぱいの花びらを抱えている。
そしてその先には、バウマン公爵がいた。
バウマン公爵は、ルシアンとロザリーを見ると、ゆっくりと周りを見渡し
「そうは簡単には行かぬか…。」とニヤリと笑った。
本来なら戴冠式後、各国の王家を招待した結婚式を行うが通例。
それが、結婚式に参列できない者にも…と、ミランダ姫が熱望したという。
王になる前に、ルシアンには死んでもらいたかった私には、都合の良い話と乗ったのだが。
やはり……
そう簡単にはルシアンを殺すことができそうもない警備だ。
さてさて…。
バウマン公爵は、隣にいるヒューゴに目をやった。
白っぽい髪に、グレーの瞳を持ったこの男は、その色合いから受ける印象通り、神経質な男だ。だが飢え死にしそうなところを助けたことで、私に恩義を感じているのだろう。
どんなに困難な事でも、この男は無理とは絶対言わない。
それはヒューゴのアイデンティティが、どんな事があっても、諦めない事なのだろう。
裏を返せば、今まで、諦めることがヒューゴの半生を作ったということだ。
母親はブラチフォードの王太后と王妃の、執拗な嫌がらせにブラチフォード国王を諦め。
ヒューゴの兄とてそうだ。
その身に受け継いだ力をブラチフォード王家に示せば、まだあの力をもったミランダが生まれていない頃だ、例え身分が低い出身でも、世継ぎになられたものを…。
身分の低さから最初から諦め、挙句の果てには、ブラチフォード国王を恨んで、その最愛の子ルシアンと、その母スミラ様を殺そうとした。
ヒューゴはその事をどこ思っているかはわからぬが、今回ルシアンの暗殺に力が入っているのは、やはり影響があるのか…。
まぁ、ヒューゴには悪いが、あの当時ローラン国でも、ブラチフォードの王太后と王妃の異常さは聴こえていた。まだスミラ様と知り合う前のブラチフォード王の心を慰めていたのは、間違いなくヒューゴの母親だったろう。だから『助けて』と一言、ブラチフォード王に言えばよかったのだ。必ず助けてくれただろうに…。
そうすれば、ヒューゴの兄は今頃ブラチフォード国王だったろうに。
でも…
そう言ってヒューゴに目をやった。
この男は生まれなかったがなぁ。
そういえば、ヒューゴの父親は聞いたことがなかった。母親は城を出てから、一時は商人の妻になったらしいが、その男が父親ではないと言っていた。
ヒューゴという男は不思議な男だ。
暗示という物を、どこで覚え身につけたのかも、そしてブラチフォード国を出て、私と出会うまでの間、何をしていたのかも知らぬ。
だいたい餓死寸前のヒューゴを助けようなどと、何故私は思ったのだろう。
改めてヒューゴに関する事で、自分がこんなにも知らない事に、バウマン公爵は慌ててヒューゴを見た。
その視線に気がついたのだろう。ヒューゴがバウマン公爵を見て
「どうなさいましたか?」
「…い、いや…」
バウマン公爵は一瞬、目の前のヒューゴが恐ろしいと思った。それは、ひとつの考えが頭の中に浮かんだからだった。
暗示…。
まさか…ヒューゴという男は、私に暗示をかけていたのではないだろうか。
もしそうなら…。
芽生えた不信感に、バウマン公爵は唇をかんでいた。
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