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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㉑
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ミランダにあんなことを言わせるような事態になってしまったのは…俺のせいだ。
バウマン公爵の先手を取っていたのに、押され気味になってしまったのは、俺の詰めが甘まかったせいだ。
「くそっ!」
扉を開け部屋に入ると、溢れてくる激情に耐え切れず、俺は拳で壁を叩いた。
その音を聞いたのだろうか、奥の部屋から渋い顔で出てきたアストンが
「ロザリーの暗示は、やっぱり解けそうもないのか?」
イラつくような気持ちを抑え、小さく息を吐き
「…ゼロではないとミランダは言うが…かなり危険だ。」
「そうか…。」
「ルシアン殿下…。」
ウィンスレット侯爵の俺を呼ぶ声が震えている。
俺だけじゃない。父親であるウィンスレット侯爵も辛いのに…。
「…すまない。侯爵も…辛いのに…俺は…」
侯爵は頭を横に振り微笑むと、アストンが舌打ちをして
「侯爵、無理すんなよ。泣けよ。」
侯爵はやっぱり微笑み
「王家に仕える身の私には個はない。」
「バカ言ってんじゃねぇよ。涙もろい癖に何…言ってんだ。」
そう言って、アストンはプイと横を向いた、その目が潤んでいるのに侯爵も気付いたのだろう。
アストンの肩に手を置くと
「私が涙を零さないのは、諦めたわけじゃない。ロザリーはおまえやルシアン殿下と言う強い味方を呼び、悪魔に魅了された者も払ってしまうという強運の持ち主。だから今度も奇跡は起きると信じている。」
奇跡
その言葉ひとつで、希望を持つのは安易だとわかっている。でも、なぜだがウィンスレット侯爵の言葉がすっと心に入ってきた。
「…そうだな。ロザリーならきっと奇跡を起こす。」
ウィンスレット侯爵が俺の言葉に頷き
アストンはソッポを向いたまま
「なに安直なこと言ってんだよ…バカ。」
ロザリー、おまえなら奇跡を起こすと思う俺は、やはり詰めが甘い男だろうな。
でもそれは…諦めたということじゃない。
俺はポケットから、白い手袋を出すとしっかりと握り、
「おまえの言う通りだ。神頼みで戦うつもりもない。ましてや白旗をあげるような気持で、剣を抜く気はない。」
アストンがクスリと笑い
「白い手袋を出して、白旗は上げないってなんだよ。えっ?…おい、なんかミミズのような…はっ?刺繍?」
そう言って、ゲェッ…と妙な声を出すと
「それってまさか…あれか?」
アストンはそう言って、俺が握りしめていた白い手袋に目をやり
「【どんな困難に当たっても、ふたりの絆は切れることがない。】というやつか?じゃぁ…それって、ミミズのようなものは…ロザリーが刺繍したのか?」
アストンの声に、ウィンスレット侯爵が
「も、申し訳あません!剣一筋にやらせておりましたので!」
苦笑しながら、アストンは
「でも、心がこもってりゃ…下手でも…」と言って、眉を顰め
「おいおい、Lucian(ルシアン)のnの次に…oが入って…Luciano(ルチアーノ)になってんじゃんか。」
「も、申し訳ありません!!」
ウィンスレット侯爵の叫ぶような声に、アストンが笑い、それにつられて俺も笑った。
久しぶりに笑ったら、胸の中の不安や恐怖が少し和らいだ気がする。
何一つ、状況は変わらないが、気持ちがもうダメだと、どこかで弱音を吐いていたのに、ロザリーの心がこもった刺繍は、俺達にまた勇気を奮い立たせてくれた。
ロザリー…やっぱり、おまえは奇跡を起こす。
白い手袋を握りしめ
「さて、騎士の諸君。用意はいいか?」
「御意!」
力強いウィンスレット侯爵。
「一人当たり、50人ぐらいやればいいんだろう。この三人なら楽勝だ。」
ニヤリと笑ったアストン。
俺は頷き、口元に笑みを浮かべた。
バウマン公爵の先手を取っていたのに、押され気味になってしまったのは、俺の詰めが甘まかったせいだ。
「くそっ!」
扉を開け部屋に入ると、溢れてくる激情に耐え切れず、俺は拳で壁を叩いた。
その音を聞いたのだろうか、奥の部屋から渋い顔で出てきたアストンが
「ロザリーの暗示は、やっぱり解けそうもないのか?」
イラつくような気持ちを抑え、小さく息を吐き
「…ゼロではないとミランダは言うが…かなり危険だ。」
「そうか…。」
「ルシアン殿下…。」
ウィンスレット侯爵の俺を呼ぶ声が震えている。
俺だけじゃない。父親であるウィンスレット侯爵も辛いのに…。
「…すまない。侯爵も…辛いのに…俺は…」
侯爵は頭を横に振り微笑むと、アストンが舌打ちをして
「侯爵、無理すんなよ。泣けよ。」
侯爵はやっぱり微笑み
「王家に仕える身の私には個はない。」
「バカ言ってんじゃねぇよ。涙もろい癖に何…言ってんだ。」
そう言って、アストンはプイと横を向いた、その目が潤んでいるのに侯爵も気付いたのだろう。
アストンの肩に手を置くと
「私が涙を零さないのは、諦めたわけじゃない。ロザリーはおまえやルシアン殿下と言う強い味方を呼び、悪魔に魅了された者も払ってしまうという強運の持ち主。だから今度も奇跡は起きると信じている。」
奇跡
その言葉ひとつで、希望を持つのは安易だとわかっている。でも、なぜだがウィンスレット侯爵の言葉がすっと心に入ってきた。
「…そうだな。ロザリーならきっと奇跡を起こす。」
ウィンスレット侯爵が俺の言葉に頷き
アストンはソッポを向いたまま
「なに安直なこと言ってんだよ…バカ。」
ロザリー、おまえなら奇跡を起こすと思う俺は、やはり詰めが甘い男だろうな。
でもそれは…諦めたということじゃない。
俺はポケットから、白い手袋を出すとしっかりと握り、
「おまえの言う通りだ。神頼みで戦うつもりもない。ましてや白旗をあげるような気持で、剣を抜く気はない。」
アストンがクスリと笑い
「白い手袋を出して、白旗は上げないってなんだよ。えっ?…おい、なんかミミズのような…はっ?刺繍?」
そう言って、ゲェッ…と妙な声を出すと
「それってまさか…あれか?」
アストンはそう言って、俺が握りしめていた白い手袋に目をやり
「【どんな困難に当たっても、ふたりの絆は切れることがない。】というやつか?じゃぁ…それって、ミミズのようなものは…ロザリーが刺繍したのか?」
アストンの声に、ウィンスレット侯爵が
「も、申し訳あません!剣一筋にやらせておりましたので!」
苦笑しながら、アストンは
「でも、心がこもってりゃ…下手でも…」と言って、眉を顰め
「おいおい、Lucian(ルシアン)のnの次に…oが入って…Luciano(ルチアーノ)になってんじゃんか。」
「も、申し訳ありません!!」
ウィンスレット侯爵の叫ぶような声に、アストンが笑い、それにつられて俺も笑った。
久しぶりに笑ったら、胸の中の不安や恐怖が少し和らいだ気がする。
何一つ、状況は変わらないが、気持ちがもうダメだと、どこかで弱音を吐いていたのに、ロザリーの心がこもった刺繍は、俺達にまた勇気を奮い立たせてくれた。
ロザリー…やっぱり、おまえは奇跡を起こす。
白い手袋を握りしめ
「さて、騎士の諸君。用意はいいか?」
「御意!」
力強いウィンスレット侯爵。
「一人当たり、50人ぐらいやればいいんだろう。この三人なら楽勝だ。」
ニヤリと笑ったアストン。
俺は頷き、口元に笑みを浮かべた。
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