184 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㉑
しおりを挟む
ミランダにあんなことを言わせるような事態になってしまったのは…俺のせいだ。
バウマン公爵の先手を取っていたのに、押され気味になってしまったのは、俺の詰めが甘まかったせいだ。
「くそっ!」
扉を開け部屋に入ると、溢れてくる激情に耐え切れず、俺は拳で壁を叩いた。
その音を聞いたのだろうか、奥の部屋から渋い顔で出てきたアストンが
「ロザリーの暗示は、やっぱり解けそうもないのか?」
イラつくような気持ちを抑え、小さく息を吐き
「…ゼロではないとミランダは言うが…かなり危険だ。」
「そうか…。」
「ルシアン殿下…。」
ウィンスレット侯爵の俺を呼ぶ声が震えている。
俺だけじゃない。父親であるウィンスレット侯爵も辛いのに…。
「…すまない。侯爵も…辛いのに…俺は…」
侯爵は頭を横に振り微笑むと、アストンが舌打ちをして
「侯爵、無理すんなよ。泣けよ。」
侯爵はやっぱり微笑み
「王家に仕える身の私には個はない。」
「バカ言ってんじゃねぇよ。涙もろい癖に何…言ってんだ。」
そう言って、アストンはプイと横を向いた、その目が潤んでいるのに侯爵も気付いたのだろう。
アストンの肩に手を置くと
「私が涙を零さないのは、諦めたわけじゃない。ロザリーはおまえやルシアン殿下と言う強い味方を呼び、悪魔に魅了された者も払ってしまうという強運の持ち主。だから今度も奇跡は起きると信じている。」
奇跡
その言葉ひとつで、希望を持つのは安易だとわかっている。でも、なぜだがウィンスレット侯爵の言葉がすっと心に入ってきた。
「…そうだな。ロザリーならきっと奇跡を起こす。」
ウィンスレット侯爵が俺の言葉に頷き
アストンはソッポを向いたまま
「なに安直なこと言ってんだよ…バカ。」
ロザリー、おまえなら奇跡を起こすと思う俺は、やはり詰めが甘い男だろうな。
でもそれは…諦めたということじゃない。
俺はポケットから、白い手袋を出すとしっかりと握り、
「おまえの言う通りだ。神頼みで戦うつもりもない。ましてや白旗をあげるような気持で、剣を抜く気はない。」
アストンがクスリと笑い
「白い手袋を出して、白旗は上げないってなんだよ。えっ?…おい、なんかミミズのような…はっ?刺繍?」
そう言って、ゲェッ…と妙な声を出すと
「それってまさか…あれか?」
アストンはそう言って、俺が握りしめていた白い手袋に目をやり
「【どんな困難に当たっても、ふたりの絆は切れることがない。】というやつか?じゃぁ…それって、ミミズのようなものは…ロザリーが刺繍したのか?」
アストンの声に、ウィンスレット侯爵が
「も、申し訳あません!剣一筋にやらせておりましたので!」
苦笑しながら、アストンは
「でも、心がこもってりゃ…下手でも…」と言って、眉を顰め
「おいおい、Lucian(ルシアン)のnの次に…oが入って…Luciano(ルチアーノ)になってんじゃんか。」
「も、申し訳ありません!!」
ウィンスレット侯爵の叫ぶような声に、アストンが笑い、それにつられて俺も笑った。
久しぶりに笑ったら、胸の中の不安や恐怖が少し和らいだ気がする。
何一つ、状況は変わらないが、気持ちがもうダメだと、どこかで弱音を吐いていたのに、ロザリーの心がこもった刺繍は、俺達にまた勇気を奮い立たせてくれた。
ロザリー…やっぱり、おまえは奇跡を起こす。
白い手袋を握りしめ
「さて、騎士の諸君。用意はいいか?」
「御意!」
力強いウィンスレット侯爵。
「一人当たり、50人ぐらいやればいいんだろう。この三人なら楽勝だ。」
ニヤリと笑ったアストン。
俺は頷き、口元に笑みを浮かべた。
バウマン公爵の先手を取っていたのに、押され気味になってしまったのは、俺の詰めが甘まかったせいだ。
「くそっ!」
扉を開け部屋に入ると、溢れてくる激情に耐え切れず、俺は拳で壁を叩いた。
その音を聞いたのだろうか、奥の部屋から渋い顔で出てきたアストンが
「ロザリーの暗示は、やっぱり解けそうもないのか?」
イラつくような気持ちを抑え、小さく息を吐き
「…ゼロではないとミランダは言うが…かなり危険だ。」
「そうか…。」
「ルシアン殿下…。」
ウィンスレット侯爵の俺を呼ぶ声が震えている。
俺だけじゃない。父親であるウィンスレット侯爵も辛いのに…。
「…すまない。侯爵も…辛いのに…俺は…」
侯爵は頭を横に振り微笑むと、アストンが舌打ちをして
「侯爵、無理すんなよ。泣けよ。」
侯爵はやっぱり微笑み
「王家に仕える身の私には個はない。」
「バカ言ってんじゃねぇよ。涙もろい癖に何…言ってんだ。」
そう言って、アストンはプイと横を向いた、その目が潤んでいるのに侯爵も気付いたのだろう。
アストンの肩に手を置くと
「私が涙を零さないのは、諦めたわけじゃない。ロザリーはおまえやルシアン殿下と言う強い味方を呼び、悪魔に魅了された者も払ってしまうという強運の持ち主。だから今度も奇跡は起きると信じている。」
奇跡
その言葉ひとつで、希望を持つのは安易だとわかっている。でも、なぜだがウィンスレット侯爵の言葉がすっと心に入ってきた。
「…そうだな。ロザリーならきっと奇跡を起こす。」
ウィンスレット侯爵が俺の言葉に頷き
アストンはソッポを向いたまま
「なに安直なこと言ってんだよ…バカ。」
ロザリー、おまえなら奇跡を起こすと思う俺は、やはり詰めが甘い男だろうな。
でもそれは…諦めたということじゃない。
俺はポケットから、白い手袋を出すとしっかりと握り、
「おまえの言う通りだ。神頼みで戦うつもりもない。ましてや白旗をあげるような気持で、剣を抜く気はない。」
アストンがクスリと笑い
「白い手袋を出して、白旗は上げないってなんだよ。えっ?…おい、なんかミミズのような…はっ?刺繍?」
そう言って、ゲェッ…と妙な声を出すと
「それってまさか…あれか?」
アストンはそう言って、俺が握りしめていた白い手袋に目をやり
「【どんな困難に当たっても、ふたりの絆は切れることがない。】というやつか?じゃぁ…それって、ミミズのようなものは…ロザリーが刺繍したのか?」
アストンの声に、ウィンスレット侯爵が
「も、申し訳あません!剣一筋にやらせておりましたので!」
苦笑しながら、アストンは
「でも、心がこもってりゃ…下手でも…」と言って、眉を顰め
「おいおい、Lucian(ルシアン)のnの次に…oが入って…Luciano(ルチアーノ)になってんじゃんか。」
「も、申し訳ありません!!」
ウィンスレット侯爵の叫ぶような声に、アストンが笑い、それにつられて俺も笑った。
久しぶりに笑ったら、胸の中の不安や恐怖が少し和らいだ気がする。
何一つ、状況は変わらないが、気持ちがもうダメだと、どこかで弱音を吐いていたのに、ロザリーの心がこもった刺繍は、俺達にまた勇気を奮い立たせてくれた。
ロザリー…やっぱり、おまえは奇跡を起こす。
白い手袋を握りしめ
「さて、騎士の諸君。用意はいいか?」
「御意!」
力強いウィンスレット侯爵。
「一人当たり、50人ぐらいやればいいんだろう。この三人なら楽勝だ。」
ニヤリと笑ったアストン。
俺は頷き、口元に笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説
死にかけ令嬢は二度と戻らない
水空 葵
恋愛
使用人未満の扱いに、日々の暴力。
食事すら満足に口に出来ない毎日を送っていた伯爵令嬢のエリシアは、ついに腕も動かせないほどに衰弱していた。
味方になっていた侍女は全員クビになり、すぐに助けてくれる人はいない状況。
それでもエリシアは諦めなくて、ついに助けを知らせる声が響いた。
けれど、虐めの発覚を恐れた義母によって川に捨てられ、意識を失ってしまうエリシア。
次に目を覚ました時、そこはふかふかのベッドの上で……。
一度は死にかけた令嬢が、家族との縁を切って幸せになるお話。
※他サイト様でも連載しています
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
別人メイクですれ違い~食堂の白井さんとこじらせ御曹司~
富士とまと
恋愛
名古屋の食文化を知らない食堂の白井さん。
ある日、ご意見箱へ寄せられるご意見へのの返信係を命じられました。
謎多きご意見への返信は難しくもあり楽しくもあり。
学生相談室のいけ好かないイケメンににらまれたり、学生と間違えられて合コンに参加したりと、返信係になってからいろいろとありまして。
(最後まで予約投稿してありますのでよろしくなのです)
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
継母ができました。弟もできました。弟は父の子ではなくクズ国王の子らしいですが気にしないでください( ´_ゝ`)
てん
恋愛
タイトル詐欺になってしまっています。
転生・悪役令嬢・ざまぁ・婚約破棄すべてなしです。
起承転結すらありません。
普通ならシリアスになってしまうところですが、本作主人公エレン・テオドアールにかかればシリアスさんは長居できません。
☆顔文字が苦手な方には読みにくいと思います。
☆スマホで書いていて、作者が長文が読めないので変な改行があります。すみません。
☆若干無理やりの描写があります。
☆誤字脱字誤用などお見苦しい点もあると思いますがすみません。
☆投稿再開しましたが隔日亀更新です。生暖かい目で見守ってください。
楽しくなった日常で〈私はのんびり出来たらそれでいい!〉
ミューシャル
ファンタジー
退屈な日常が一変、車に轢かれたと思ったらゲームの世界に。
生産や、料理、戦い、いろいろ楽しいことをのんびりしたい女の子の話。
………の予定。
見切り発車故にどこに向かっているのかよく分からなくなります。
気まぐれ更新。(忘れてる訳じゃないんです)
気が向いた時に書きます。
語彙不足です。
たまに訳わかんないこと言い出すかもです。
こんなんでも許せる人向けです。
R15は保険です。
語彙力崩壊中です
お手柔らかにお願いします。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる