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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

6日目⑨ 前日の夜…ロザリー

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「なぜ、出てこなかったんだ?そんなところで膝を抱えて、まるで隠れるように…」

リドリー伯爵とお父様が部屋を出られた後、ルシアン殿下がベランダの片隅で、膝を抱えてぼんやり夜空を見ていた私にそう言われた

隠れていたわけではなかった。入れなかったのだ。
男の方の命をかけた熱い思いに溢れている中に、女である私は入っては行けなかったのだ。


ゆっくりと立ち上がり、ルシアン殿下に歩み寄って、ドレスをほんの少し持ち上げ
「この格好では、あの空気の中には入れません。」

「ロザリー?」

「部屋の中の空気は、男の方の熱い思いで一杯でしたから、女である私は遠慮すべきだと思いました。」

ルシアン殿下は、小さく「そうか」と呟くように言われると口元を緩められ
「確かにウィンスレット侯爵は…そうだったな。」

「はい、久々に武神のお父様に会った気がしました。」

そう言って、今度は私が口元を緩めると、ルシアン殿下は眉をあげ

「意味深な笑いだな。」

「はい、先ほどジャスミンさんが言ったことを思い出して…」

そこまで、言って私はクスクスと笑いだしてしまった。

ルシアン殿下は不思議そうに私を見て
「ジャスミンがどうしたのだ?侯爵に安全な場所に連れ出してもらっていたのだが…なにかあったのか?」

「素敵だと…。」

「えっ?」

私は両手で自身の体を抱きしめ、先ほどのジャスミンを真似るように
「ウィンスレット侯爵ってカッコイイですよね、渋くて…大人って感じで素敵です。」

その様子を見て、「なるほどな。」と言って、クスリと笑ったルシアン殿下に

「でも…ですね。」

「でも?」

「私と…お父様がそっくりだと…そこは少し複雑なんです。」

「ウィンスレット侯爵に似て、カッコイイということだろう。いいじゃないか?」

「…うっ…う~ん、複雑です、カッコイイって、男性への賛辞ですから…う…う~ん」」

唸るような私の声にルシアン殿下は私の両頬に手をあて、クスクスと笑いながら

「おまえを言葉で表すとしたら…」

赤い瞳で私のすべてを見透すかのように覗き込まれ

「ジャスミンの言う通り、やはりカッコイイと思う。でも、それだけじゃない。優しくて、そしてとても…綺麗だ。」

だんだんと顔が赤くなって行くのがわかった。


な、なに?このピンクな空気は…


ルシアン殿下に触れられた頬がだんだんと赤くなって行く。

そんな私にクスリと笑うと
「アストンといい、ミランダといい、おまえに惹かれる者は多い事はわかっているが、だがこれ以上、おまえに惹かれる者が出てくるのは…例え女性であっても気に入らんな。」

「あ…ぁ…何を、突然言われるのですか?!」

ルシアン殿下は私の頬にキスをすると
「おまえのカッコイイ姿を人に見せる事は許そう。だが…その美しいドレス姿は誰にも見せたくないな。」

「か、揶揄わないでください~!」

「揶揄ってなどはいないさ。」

そう言って、ルシアン殿下は私をじっと見つめられた。

突然、空気が…変わった気がした。
それはほんの少しの恐れと緊張を孕んだ空気。

ルシアン殿下は微笑まれると
「明日はまた騎士に戻るのだろう?だから言っておきたかった、おまえのドレス姿は綺麗だと…言っておきたかったんだ。」

「…。」


ルシアン殿下の言葉に、私は顔を歪ませた。

その言葉の中に、死を覚悟していると聞こえたからだ。

わかっている。戦とは…どんなに準備をしていても、なにがあるのかわからない。
例え凄腕の騎士でも、力の弱い者が撃った銃弾が命を奪うかもしれないのが戦。


だからどんなに有利に運んでいても、戦うという事は死と隣り合わせなのだ。

でも…私は言う。
力強い言葉を私はいつだって、この方の為に使う。
「私は必ず、あなたの背中を守ります。あなたを死なせない。」

「…そうだったな。すまない。」

ルシアン殿下は微笑むと
「だが…」

私を見つめ、言われた。

「力をくれ。ロザリー。」

揺れ動く赤い瞳は、不安とそして悲しみ。

そっと目を瞑ると、唇が重なった。

触れるだけのキスを一つ落とし、ルシアン殿下は

「必ず…おまえが男の姿になって、戦わなければならない世を変える。」


戦のない世をルシアン殿下なら、きっと作ってくださると信じている。

でも…その前に…

立ちふさがる者と戦わなければならないとは…因果なものだ。

きっと、ルシアン殿下のお心を揺るがすのはその事なのかもしれない。


でも今宵は…

赤い瞳の中に見えた不安と悲しみを一時でいいから、忘れて欲しい…笑って欲しい。

だから…私はにっこり笑いながら

「そんな世になったら、今度こそ刺繍を一から、キャロルさんにならいます!」

私の宣言にその意図を感じてくださったルシアン殿下は、クスリと笑って
「…だな。ルシアンとちゃんと刺繍をしてくれよ。おまえの夫の名を間違えるな。」

「はい、旦那様。」

ルシアン殿下は何を言わず、ただ私の名を呼んでキスをされた。
深くなるキスに、私は両腕をルシアン殿下の体に回し、この温もりを必ず守ると誓っていた。


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